民医連新聞

2006年2月6日

医療倫理のはなし実践編 自己決定できず身寄りない人の終末期成年後見制度は使えるか?―千葉健生病院

 意識障害があり、意思表示ができず身寄りもない入院患者さんの終末期は誰がどのように決めるのか? 千葉健生病院の柴野信子看護師長は、同院で経験した二事例を、昨年の全日本民医連学術・運動交流集会で発表しました。

家族、親族、法定代理人の意見を

 Aさん(五〇代)は脳梗塞を発症、気管切開し、経鼻栄養チューブなどをつけ、寝たきりで、自己決定や意思表示はできませんでした。離婚し子どもとも別れ独居生活で、兄弟が面倒を見ていました。

 Aさんの治療方針について、兄弟とカンファレンスを持つと、「積極的な治療は望まない」という意見でした。しかしスタッフは、Aさんの年齢が若く、治療によっては延命の可能性もあるため、倫理委員会に出しました。

 委員会では、弁護士から、「兄弟だけでAさんの治療方針は決められない。子ども、あるいは法定代理人(※1)がいるなら、その意見を聴く必要がある」と、助言がありました。

 (※1)法定代理人…法律により、財産を管理し、法律行為をする権限が与えられた人。民法が定める未成年者に対する親権者や未成年後見人、精神上の障害などで意思能力を欠く人に対する成年後見人。

 (※2)成年後見制度…認知症、知的・精神障害などで判断力が十分でない人を保護するため の制度。すでに判断力が低下している人のための法定後見制度には、判断能力の程度により「後見」「保佐」「補助」に分かれ、援助する内容も異なる。申し立 ては家庭裁判所に行い、本人、家族、親族のほか、身寄りのない人では、市町村長もできる。後見人等が代理できる法律行為には範囲がある。他に本人が判断能 力のあるうちに後見人を選ぶ任意後見制度がある。

 Aさんの法定代理人はおらず、兄弟の協力で、どうにかAさんの子どもと連絡が取れましたが、「あまり関わりたくない」という返事でした。

 誤嚥性肺炎を繰り返すAさんの胃ろう造設を兄弟にすすめましたが、同意がないままAさんは、病状が悪化し、亡くなりました。

終末期の治療の判断後見人には決められない

 Bさん(六〇代)は、大腸癌が脳に転移し、化学療法後に二回のけいれん発作を起こし、意識がなくなりました。独身で、両親、兄弟ともすでに亡く、身寄りがなく、知人が連絡先でした。

 知人と話をすると、「Bさんの終末期の治療方針まで責任は負えない」とのことでした。そこで、倫理委員会にはかりました。

 委員会では、判断能力の不十分な人を保護、支援する成年後見制度(※2)が活用できないか検討しました。しかし、この制度は、手続きに時間がかかるうえ、後見人が被後見人の終末期医療まで判断できないと考えられました。Bさんは意識が回復せず、亡くなりました。

*    *

 意識がないなどで、自己決定できない人の治療方針については家族、親族、法定代理人がいる場合は、その意見を聴 く必要があります。特に身寄りのない人は本人が治療に対する意思表示ができない旨や周囲の人の意見などを確認し、記録に残すことが大事です。この事例のよ うに患者さんの終末期医療の対応で悩んだときは、倫理委員会で集団的に討議することの大切さを実感しました。

病 床 数 106床
委員会設置 2002年6月
委員構成 委員長(病院長)、委員(内部…看護師、事務各2人、薬剤師、放射線、SW、各1人、外部…宗教家2人、弁護士、友の会会員各1人)
検討事項 当院の倫理規定ほか、終末期医療のガイドライン、診療情報提供規定など
開  催 月1回

(民医連新聞 第1373号 2006年2月6日)

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