いつでも元気

2015年2月28日

特集1 上がる国民健康保険料 「都道府県単位化」でさらなる痛み押しつけも

 昨年末の総選挙で多数を占め、暴走を強める安倍政権。医療・介護の改悪も目白押しです。今年の通常国会では、保険料のさらなる上昇につながると懸念される、国民健康保険の都道府県単位化がねらわれています。

 国保料の所得に対する割合は、年々上昇を続けています(下のグラフ)。
 「札幌市の場合、国保加入世帯の平均所得は一〇〇万円を下回っているのに、国保料の負担はその二割を超えている」と語るのは、中小業者が加入する北海道商工団体連合会(北商連)の池田法仁事務局長です。
 さらに売掛金や預金の差し押さえなど、過酷な国保料のとりたてが、国保加入者を苦しめています。
 北海道石狩市で左官業を営む男性は、不況で収入が減り、二〇〇七年からの二年間の国保料を滞納せざるをえませんでした。市に相談して、分納などの努力をしてきましたが、当年分を納めるのがやっとという状況が続き、二〇一三年、預金口座に振り込まれた売り上げ四一万円を市に差し押さえられてしまいました。
 北商連には「振り込まれたとたんに年金が全額差し押さえられた」(滝川市・北見市)、「生命保険を解約して、国保料に充当させられた」(函館市)などの深刻な事例が多数よせられています。

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自治体職員も疲弊

シャッターが閉まる商店(1月19日、札幌市西区)

シャッターが閉まる商店(1月19日、札幌市西区)

 「営業やくらしに必要なお金まで差し押さえる例があいついでいます。自治体がやるべきことではない」と北商連の和田香織事務局次長は憤ります。本来、生活や営業の継続に必要な財産の差し押さえは違法です。
 池田さんも「住民が困ったときに相談できる拠り所になるのが、自治体職員の役割のはず。ところが、逆に住民のいのちを脅かす存在になっていると思われる事例があまりにも多い」と言います。
 「実は、自治体の職員も国保料が高すぎることは十分にわかっている」と話すのは、神奈川県職員労働組合総連合の神田敏史執行委員長です。
 「国保課の窓口は、自治体の職員がもっとも行きたがらない部署の一つになっています。配属されても、みんな異動希望を出すため、経験が蓄積されず、新規採用の職員が担当になることも多い。国保料の算定方式や減免のしくみなど、制度を理解するだけでもたいへんなうえ、住民の苦境と職務遂行のはざまで、職員は疲弊しているのが実情です」

約2割の世帯が国保料滞納

 なぜ払えないほどに国保料が上がっているのか。立教大学コミュニティ福祉学部の芝田英昭教授は、「現行の制度のもとでは、国保料は“必要な医療費を加入者に割り振る”しくみになっている」と指摘します。
 「国保加入者は、世帯ごとの『平等割』、世帯の人数分払わされる『均等割』、固定資産に対する『資産割』などというものまで課せられて、収入がゼロでも保険料はゼロにはならない。『加入者が払えるかどうか』という観点から保険料が設定されていないのです」
 二〇一二年度の「国民健康保険実態調査」(厚労省)によると、国保加入者の実に四三・四%が無職です。「所得なし」は二八・八%で、「所得二〇〇万円以下」との合計では七八・六%にも達します。雇用環境の悪化で、非正規雇用の労働者が勤務先の会社の被用者保険(会社などにつとめるサラリーマン向けの健康保険)から締め出されて国保に流れ込んでいる実態もあります。
 国保は被用者保険などのような事業主負担がないため、公費負担が重要ですが、国は国保の総収入に占める国庫支出金の割合を一九八四年の四九・八%から、現在は約二五%にまで減らしています。
 「もっとも所得の低い層が、もっとも過酷な保険料負担に苦しんでいる。滞納世帯割合は約二割にも達しています。払えない人がいる分、それがさらに国保料の上昇につながるという悪循環に陥っています。国保料の算定方式を抜本的にあらため、国の公的支出もきちんとおこなって、みんなが払える保険料と安心して医療にかかれるあたりまえの制度にすべきです」と芝田さんは強調します。

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都道府県単位化のねらい

 ところが安倍政権は、医療費に対する公的支出を都道府県単位で管理し、抑制しようとねらっています。
 昨年成立した医療・介護総合法で、医療機関は入院ベッドの機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)を選び、都道府県に報告しなければならなくなりました。都道府県はその報告をもとに「地域医療構想」を策定。「過剰」とみなされた入院ベッドは「回復期」や「慢性期」などに転換させて医療費抑制をはかります。従わない医療機関は、医療機関名の公表や行政から補助金がもらえなくなるなど、ペナルティーが科せられます。
 さらに国は、都道府県ごとに医療費の公的支出目標を設定させ、達成できない場合は診療報酬を引き下げることまでねらっています。都道府県が医療費抑制を競わざるをえないしくみを導入しようとしているのです。
 国民健康保険も、その運営主体(保険者)を現在の市町村から都道府県に移管して国が管理しやすくする「都道府県単位化」がねらわれています。
 自治体によっては、一般会計から国保にお金を繰り入れているところも少なくありませんが、これも縮小・廃止が懸念されており、国保料の上昇につながる可能性があります。自治体ごとに運動の力で実現してきた国保料の減免などが水泡に帰すことになりかねません。

国保はいのちを守る社会保障制度

保険原理の強調は間違い

 国は「都道府県単位化して国保財政の基盤を大きくすれば、効率化して赤字を減らせる」と言います。しかし、この説明には根拠がありません。
 芝田さんは、「今でも、規模の大きい自治体は赤字が多い。こまめに地域をまわって、加入者の実態を把握して対応できないこともあり、国保料の収納率が低くなる傾向があるからです(下図)。基盤を大規模化すれば赤字を減らせるというのは、ごまかしにすぎません」と指摘します。
 「大規模化で住民の顔が見えなくなり、強権的な徴収が増えるでしょう。今まで通り徴収は市町村が請け負うのだとしても、責任の主体から単なる徴収係になってしまうわけですから、機械的な対応が増えることが予想されます」と芝田さん。
 一九五八年の国民健康保険法の改正で、戦前は「相扶共済」(助け合い)の精神を強調していた第一条は、「社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」とあらためられました。
 「“国保は助け合い”“負担しない人に給付はない”などと保険原理を強調する傾向が強まっていますが、これは明らかな間違いです。生存権を守る社会保障制度として発展した現在の国保制度は、人権原理こそもっとも大切にされるべきものです」と芝田さん。

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粘り強い運動こそ

 芝田さんは「国が無理やり医療費の公的支出を抑制しようとしても、医療を受けたいという国民のねがいや要求がなくなるわけではありません。地域住民の切実な要求をとらえていっしょに運動していくことが、今まで以上に求められます」と語ります。前出の神田さんも「本当はこんなに高い国保料はやめてほしいというのが自治体職員の本音。職員と住民が対立するのではなく、いっしょに学んで考えながら、国を動かすような運動ができたら」と前を向きます。
 旭川市では、二〇一一年から四年連続で国保料の引き下げを実現。市のモデルケース(年間所得二〇〇万円、三人世帯)では、四年間で合計七万六〇〇〇円の減額です。
 「国保料の大幅引き下げを求める請願署名運動の成果です。切実な要求をもとにした粘り強い運動があれば、国・自治体も耳を傾けざるをえない。国保料の滞納に悩む会員に、北商連の仲間が同行することで、自治体の対応もずいぶん改善させてきました」と池田さん。「四月にはいっせい地方選挙もある。力をあわせて、地域から声をあげていきましょう」。

文・武田力記者/写真・酒井 猛

いつでも元気 2015.03 No.281

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