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2015年3月17日

戦争反対 いのち守る現場から 歯科医師 岡田弥生さん 「なぜ反対しなかったの」突きつけられる問い

 今通常国会で、集団的自衛権行使容認の閣議決定を具体化する「安保法制」の成立を狙う安倍政権。医療・福祉分野からも、暴走する政治に反対の声があがっています。今回は歯科医で「草の根歯科研究会」主宰の岡田弥生さんです。(新井健治記者)

 安倍政権は戦後最悪の内閣です。平和憲法は七〇年前の不戦の誓いを、権力者に守らせるために制定されました。日本はこのまま、戦争をしない国でいくと思っていたのに、まさか自分が生きている間にこんな時代が来るとは…。
 一昨年一二月に秘密保護法が制定された時、「あと何年、生きなければいけないのか」と感じました。平和な日本を取り戻すまで、活動を止められません。
 東京・杉並区で戦争に反対する「NO WAR 杉並」というグループを立ち上げ、昨年一〇月には中野区の人たちといっしょに安倍政権退陣を求めるデモを行いました。「アベNO THANK YOU!」の呼びかけ人もしています。
 ここ数年、歴史を勉強しています。ワイマール憲法という民主的な憲法があったドイツで、なぜ、ナチス政権が誕生したのか? ずっと不思議に感じてきたことが、少しずつ分かってきました。ヒトラーは公共事業と軍需産業で、疲弊していたドイツ経済を一時的に回復させました。経済政策の成功が、国民の気持ちをつかんだ背景にあります。
 戦前の日本でも、近衛文麿内閣が経済政策で国民の支持を得て、結果的に戦争へ突入しました。アベノミクスで、昨年の総選挙に圧勝した自民党と似ています。本当に危険です。
 なぜ、自民党を支持する国民がいるのでしょう。ほとんどの人はアベノミクスの恩恵は受けません。むしろ、格差と貧困の拡大で生活は苦しくなる一方。「自民党に入れておけば、なんとなく良くなるのではないか」という“幻想”に過ぎません。

「歯は人権」

 私は杉並区の保健所に二五年間勤め、歯科健診で一〇万人以上の子どもの歯を診ました。初期の虫歯はきちんと磨けば進行しないことが分かり、「オッパイむし歯は花まるむし歯」を合言葉に、母乳育児を励ましてきました。“削って詰めて抜いて、最後は入れ歯”という歯科医療の“常識”に挑戦しています。
 人体の中で口腔内ほど、手入れをした結果が目に見える器官はありません。歯を大切にすることは自分を大切にすること。口元を誇りに思い、自信を持って食事をすることは基本的人権の一つだと思います。
 人権と成熟した市民社会をキーワードに、一〇年前から「草の根歯科研究会」を始めました。歯科衛生士や患者、地域の人たちと「勉強会」「歯科患者塾」「歯医者さん探検隊」の三本柱で活動しています。今年一月には、学習院大学の青井未帆教授を講師に解釈改憲について学びました。
 小さな集団が巨大な権力に立ち向かって何ができるのか、悩むこともありますが、こんな時代だからこそ、自立した市民を育てる、ともに育ちあうことを細々とでも続けるしかないと思います。

痛みに共感できるか

 安倍政権は戦争する国づくり以外にも、原発再稼働や米軍基地建設など危ない政策をすすめています。共通するのは「経済優先、人命軽視」。医療を成長戦略の一環と位置付け、市場化も狙っている。その危険性に多くの医療者が気づいていないことが歯がゆい。
 日本という国では、「たとえおかしいと思っても、“良い子”は政治に近づいてはいけません」と言われて育つ傾向があります。そんな社会の中でも、医療、介護関係者は必然的に患者、利用者の痛みを感じる立場にいます。人の痛みにどこまで共感できるのか。人権の基本はそこにあります。
 ドイツの牧師マルティン・ニーメラーが、ナチスの危険性を後世に残そうと「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき…」と有名な言葉を残しました(別項)。危険な政権だと感じていても、「自分に直接関係ないから」と見て見ぬふりをしていたらどうなるのか。歴史が証明しています。
 子どものころ、今は亡き両親に「どうして戦争に反対しなかったの?」と聞いたことがあります。それと同じ問いが今、私たちに突きつけられています。


おかだ・やよい 1979年、東京医科歯科大学卒。大学病院の口腔外科、障害者歯科を経て杉並区保健所勤務。現在は訪問歯科専門クリニックを開業。診療所や助産院などで歯科健診も行う。著書に『むし歯ってみがけばとまるんだヨ』(梨の木舎)など


 ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった/私は共産主義者ではなかったから/社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった/私は社会民主主義ではなかったから/彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった/私は労働組合員ではなかったから/そして、彼らが私を攻撃したとき/私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

マルティン・ニーメラー

(民医連新聞 第1592号 2015年3月16日)

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