MIN-IRENトピックス

2015年3月25日

第41期第2回評議員会方針

~戦後70年、被爆70年、平和と人権掲げ、地域からさらなる国民的共同前進の年に~

2015年2月22日全日本民医連第41期第2回評議員会

はじめに

I.情勢の特徴と私たちの運動
(1)沖縄県知事選挙と総選挙の結果に確信持ちさらに共同を広げよう
(2)ますます悪化する国民のいのち、健康、生活
(3)医療介護総合法による徹底した社会保障改悪、削減
(4)東日本大震災、原発事故から4年、被災者が希望を持てる復興を
(5)平和憲法を守り抜き、安倍政治ノーの国民的大運動を

II.1年間のとりくみの特徴
(1)第41期3つのスローガンにもとづくとりくみ
(2)各分野のまとめと課題
 (1)平和と人権、受療権を守るとりくみ
 (2)民医連らしい医療活動の探究、内外への発信と共同の広がり
 (3)介護・福祉分野のたたかいと新しい展開
 (4)医師養成集会の到達と新たな挑戦
 (5)「保険でよい歯科医療」の運動と職員養成
 (6)民医連運動を担う職員の確保と養成
 (7)厳しい経営実態と消費税問題
 (8)共同組織活動交流集会の成功と強化月間
 (9)災害支援活動、福島支援・連帯、国際活動等

III.次期総会を展望した今後の重点課題
(1)2015年を地域からたたかう国民的共同の年に
 (1)社会保障の解体と営利・市場化に反対し、いのちを守る大運動を
 (2)憲法と平和を守りぬき、核兵器廃絶の展望を切り開く年に
 (3)原発再稼働を許さず、被災者、原発労働者の救援を
(2)第3回評議員会に向け重点課題の飛躍を
 (1)新専門医制度への運動と民医連の研修充実、医学対強化
 (2)無差別平等の地域包括ケアの探究と実践
 (3)中長期経営計画を確立し、経営改善を実現しよう
 (4)民医連運動を担う職員の養成、全日本民医連の組織強化

おわりに

はじめに

 第四一回総会から一年が経過しました。総会方針が示したように、まさに「激変・激突」の情勢でした。年末に行われた解散・総選挙では、与党が三分の二の 議席を得たとはいえ、自民党は議席を減らし、沖縄では、自民党の選挙区候補は全敗しました。安倍政権の暴走と正面から対決した日本共産党が、八議席から二 一議席へと躍進、参議院に続き衆議院でも議案提案権を獲得、戦争する国づくりストップ、いのちと人権の輝く日本をめざす国民的反撃の大きな足場が築かれま した。
 「いのち」「憲法」「綱領」の目で時代を見つめ、架け橋を合言葉に奮闘してきた民医連と共同組織の仲間の役割がさらに発揮されなければならない時代です。
 健康権、生存権実現へ向けたHPHの実践、無料低額診療事業など民医連が率先してとりくむ事業に内外から共感の声が広がり、期待が寄せられています。
 私たちは三六〇万の共同組織の仲間とともに、四二回総会へ向け、民医連の存在意義を発揮し、無差別平等の地域包括ケア実現へ向けたとりくみをすすめなければなりません。
 二〇一五年は戦後七〇年、被爆七〇年、節目の年です。全日本民医連理事会は、戦争する国づくり、医療・社会保障の市場化を許さず、四一回総会方針の全面 的な実践をすすめ、二〇一五年を地域からさらなる国民的共同を広げてゆく年とする事を呼びかけます。
 第二回評議員会は、第一に、第一回評議員会後の情勢、とりわけ総選挙後の情勢認識を一致させ、総会から一年間のとりくみを振り返り教訓を共有すること、 第二に、次期四二回総会を展望し第三回評議員会までの重点課題を明確にすること、第三に四一期二年度予算を承認すること、を目的に開催します。

I.情勢の特徴と私たちの運動

(1)沖縄県知事選挙、総選挙の結果に確信持ちさらに共同を広げよう

 二〇一四年一一月一六日、沖縄県知事選挙で建白書の実現、新基地建設反対の翁長雄志県知事が「オール沖縄」の力で誕生しました。直後の総選挙では、沖縄 全選挙区に基地反対の国会議員が誕生し、一月の名護市長選挙、九月の地方選挙に続き、二〇一四年は四たび選挙で県民の総意を示すことになりました。いのち と人権に立った道理ある運動は必ず、発展し勝利することを証明した歴史的瞬間でもありました。
 一二月の総選挙で自公政権は、三分の二の議席を獲得、多くのマスコミが「自公圧勝」と報道しました。しかし、自民党は改選前より議席を減らしました。ま た改憲をめざした次世代の党は一九議席から二議席に激減、維新の党も議席を減らしました。戦後最低の投票率の結果、全有権者比で自民党に投票した有権者は 一七%にすぎません。政権交代を余儀なくされた二〇〇九年総選挙と比べても得票を一一〇万も減少させています。自民党が二九一議席を獲得したのは、民意を 反映しない小選挙区制度の弊害であり、決して安倍政権の政策が国民の支持を得た結果ではありません。小選挙区制をただちに廃止し、国民の意思を正確に反映 する比例代表を中心とした選挙制度にすべきです。
 安倍内閣が、民意に背き戦争する国づくり、企業が世界で一番活動しやすい国づくりを強引にすすめていくなら、国民との矛盾は拡大し、平和と人権を守る共同は広がります。
 こうした情勢だからこそ、共同組織とともに全国で地域に深く根を張り、憲法の実現をめざす綱領の立場で奮闘する民医連への期待はますます高まっていま す。統一地方選挙は、暴走する安倍内閣に民意を突きつけ、憲法を生かし、安心して住み続けられるまちづくりを実現するチャンスです。架け橋としての役割を 強めましょう。

グラフ

(2)ますます悪化する国民のいのち、健康、生活

 安倍政権の新自由主義的「構造改革」とアベノミクスのもと、格差と貧困が際限なく広がっています。非正規雇用は、増加し続け二〇〇〇万人を突破、年収二 〇〇万円未満の働く貧困層(ワーキングプア)は、八年連続で一〇〇〇万人に達しています。貧困率は、データ公表後、過去最高の一六・一%、子どもの貧困は 一六・三%とOECD平均を上回っています。勤労世帯の実質賃金は一七カ月連続で低下、「暮らしは楽になったか」の問いに「いいえ」四八・五%、「はい」 四・四%(日銀アンケート一四年一〇月)と答えています。内閣府の調査でも二〇一三年分で家計の所得のうちどれだけ貯蓄に回したかを示す家庭貯蓄率が戦後 初めてマイナスに転じました。国民は貯蓄を取り崩して暮らしています。こうした中、大企業は史上空前の利益を上げ、内部留保は二八五兆円に達しています。 これがアベノミクスのもたらした現実です。富める者にもっと大きな富を、国民には生活の悪化だけです。大企業が史上最高の利益をあげても、日本経済は立ち 直っていません。日本経済の六割近くを占める家計消費が落ち込んでいることが、日本経済の低迷、後退をもたらす最大の原因になっています。
 四月から強行された消費税の引き上げは、いのちと暮らし、日本経済を危機に追い込んでいます。社会保障の解体と一体にすすめられている消費税一〇%への引き上げは、きっぱり中止するしかありません。
 政府は、「消費税増税分は、すべて社会保障の充実と安定化のために使われています」と宣伝してきました。しかし、八%に引き上げた増税分五兆円のうち社 会保障の拡充に使われたのはわずか五〇〇〇億円に過ぎません。所得税収、法人税収でまかなってきた社会保障財源を消費税収に置き換えただけです。さらに一 体改革により、年金の〇・七%削減(三五〇〇億円減)、七〇~七四歳の患者負担の二倍化(完全実施で四〇〇〇億円の負担増)など充実にあてた金額を大幅に 上回る規模で負担を押しつけています。消費税一〇%引き上げの際も増税分一四兆円のうち充実には二・八兆円のみ、一方で社会保障解体による負担増は最低で も三・五兆円が見込まれています。
 内部留保の活用、応能負担にもとづく財源の再構築をはかるという私たちの「提言」の財源論こそ、人権としての社会保障実現の道筋です。

グラフ

(3)医療介護総合法による徹底した社会保障改悪、削減

 二〇一五年度政府予算案は、集団的自衛権の行使容認を踏まえて防衛予算を三年連続増の過去最高額とする一方、生活保護費削減、介護報酬のマイナス改定な ど自然増すら認めない社会保障費の削減、「暮らし抑え、防衛重視」となっています。一方で営利企業の医療事業への参入に道を開く非営利ホールディングカン パニーなどの準備をすすめています。この制度は、成長戦略や規制緩和の流れの中で提案され、医療事業に株式会社の資金を投入する仕組みを作ろうとするもの です。民医連はこうした医療の営利化・市場化をすすめる制度には明確に反対します。
 安倍内閣は一月一三日、医療制度「改革」骨子を決めました。七五歳以上の後期高齢者医療の保険料「特例軽減」を二〇一七年度から廃止し、八六五万人の低 所得者に二~一〇倍の負担増を強いる内容です。現在一食二六〇円の入院給食費の自己負担を一六、一八年度に一〇〇円ずつ引き上げて四六〇円とし、紹介状の ない大病院受診者に五〇〇〇~一万円の定額負担を導入して、大病院の受診や入院を控えさせようとしています。また、市町村が運営する国民健康保険の財政運 営を、都道府県に一八年度から移管し、いっそうの保険料値上げと強権的徴収を強めます。国の財政支援は、国保に対する市町村の繰り入れに及ばない内容で、 財源も健保や共済に肩代わりさせるものです。一方、保険のきかない医療を併用する混合診療である「患者申し出療養」を導入しようとしています。国民皆保険 を掘り崩し、安全性が疑わしい治療が横行する危険性を抱えています。これらについて一月末からの通常国会に法案を提出しようとしています。
 また、病床機能報告制度とレセプトデータとあわせて、七対一病床の削減や、一人当たりの医療費や一〇万人当たりの病床数などについて地域の実情を無視し た地域差の解消などを推しすすめようとしています。都道府県は、現在厚労省が検討している「二〇二五年の医療需要を見据えた標準的な計算式」によって、 「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の四病床区分ごとの「必要量」を算出します。「協議の場」で、削減、転換の指示に従わなければ、ペナル ティーが課されます。厚労省は二〇二五年には二〇二万床必要とされる病床を一五九万床へ、入院患者二〇%、外来患者五%を削減するとし、「標準的な計算 式」もそれが前提となります。地域の実情を反映せず、国が上からいくらでも思い通りの病床数にできるよう、都道府県に病床削減をさせる仕組みです。大改悪 を許さない運動が求められます。
 介護分野では、限りない保険給付の縮小と事業所の選別・二極化を推進する方向が打ち出されています。
 四月から従来にない規模の給付削減と負担増(=四つの切り捨て)を盛り込んだ「改正」介護保険法が実施に移されることになります。このうち、予防給付の 見直し(要支援者の訪問介護・通所介護を市町村が実施する「総合事業」に移行)と特養入所の限定化(原則要介護三以上に)は今年四月から、一定以上所得者 の利用料二割化と補足給付(低所得施設入所者に対する居住費等の負担軽減制度)の縮小は、八月から施行されます。軽度者、低所得者をはじめ、利用者・家族 に新たな困難を押し付けるものです。
 予防給付の受け皿となる「総合事業」には、認定を受けさせないしくみ(水際作戦)や、専門職によるサービスから「住民主体の支援」にできるだけ移行させ るしくみ(強制退学)が組み込まれているほか、全体の費用を七五歳以上高齢者数の伸び率以下に抑えるように設計されています。「総合事業」導入のねらい は、予防給付の削減とボランティア(=互助)へのすり替えにあります。二〇一六年度末までに全市町村で開始することになりますが、具体的な開始時期やサー ビス、自己負担などの内容は市町村の裁量に委ねられています。
 二〇一五年度介護報酬改定は、二・二七%の大幅な引き下げとなりました。過去最大だった二〇〇六年改定(▲二・四%)に匹敵するマイナス改定です。処遇 改善や認知症・中重度ケアに対応する加算分(計+二・二一%)をふくみ、これらを除いた介護報酬全体は実質四・四八%もの大幅な引き下げとなります。医 療・介護総合法や「改正」介護保険法の内容を具体化する改定であり、すでに「適正化」と称して特養ホームや通所介護をはじめ基本報酬の大幅な引き下げ案が 示されています。処遇改善について加算が拡充されていますが、介護報酬全体が下がり事業所の収益が減少することになれば、介護サービスの質の低下は避けら れません。小規模事業など事業そのものの継続が困難になり、地域の介護基盤の縮小・解体につながる重大な事態が生じることにもなります。民医連や介護保険 施設三団体をはじめ、全国の介護事業所が引き下げ中止を強く求めてきた中での強行であり、断じて許すことはできません。共同して中止・撤回と引き上げを求 めていきます。
 介護職員の確保については、厚労省は、中高年層、主婦をふくめた「介護人材」の裾野の拡大や技能実習制度の見直しによる外国人介護士の導入などを検討し ています。効率的で「安上がり」な体制づくりを許さない運動を強めていかなければなりません。
 社会福祉法人が「多額の利益を貯め込んでいる」という攻撃が続いています。一部法人の実態をことさら強調することで、施設改修費など将来の必要資金まで 問題視したり、介護報酬引き下げの理由とすることを許すことはできません。
 生活保護をめぐっては、二〇一三年八月から段階的に生活扶助基準が引き下げられています。最大で一〇%、月二万円以上引き下げられる世帯もあります。そ の上、一月九日の社保審生保基準部会で住宅扶助基準と冬季加算を削減する方向で報告書がまとめられました。いっそうの生活困難を強いるものであり許されま せん。全国で生活保護史上最大の二万人が、「新人間裁判」として生活扶助削減に対して不服審査請求に立ち上がりました。
 大阪市の橋下市長は、今年の二月から、生活保護費の一部を三井住友のVISAプリペイドカードで支給するモデル事業を実施、二〇一六年には本格導入を目 論んでいます。市が利用者の買い物、使用店舗、利用額などを把握し、内容を指導するためです。金銭給付の原則(生活保護法三一条一項)に違反し、自己決定 権、基本的人権を侵す違法な行為です。大阪市だけの問題にせず全国で実施を許さない運動をすすめます。
 医療介護総合法に盛り込まれた「特定行為に関わる看護師の研修制度」が二〇一五年一〇月から実施されます。二〇一四年一二月には三八項目の特定行為が確 認され、二〇一五年四月には研修施設の申請受付が開始されます。超高齢社会に向けた医療提供体制の構築にあたって、抜本的に医師や看護師の増員をはかるの ではなく、職種の役割分担を変えることで安上がりに対応しようとしているものです。
 特定行為の研修施設で研修を受けた看護師は「手順書による医師の包括的指示」により特定行為ができるとされていますが、「具体的な指示」があれば研修施 設でなく院内の研修を受けた看護師でもこれらの行為は実施可能としています。「診療の補助」の名のもとに、なし崩し的に医行為を看護師に実施させることに つながり、看護の本来の専門性の観点、安全性の観点からとても容認できるものではありません。
 訪問看護では、地域の複数の開業医等から指示を受けることが多く、特定行為を「やらざるを得ない」状況が広がることが懸念されます。民医連として制度開 始にあたっての基本的な方針を準備中です。この問題を看護師集団だけの課題とせず、各事業所は多職種(特に医師)で、医療安全委員会や医療倫理委員会など でも議論し、三八項目の特定行為についてどのような問題が発生するか具体的な検証を行いましょう。

表

(4)東日本大震災、原発事故から4年、被災者が希望を持てる復興を

 東日本大震災、福島原発事故から三月一一日で、四年が経過しようとしています。被災地は、創造的復興の名のもとに人間の復興を無視した現実が横たわって います。災害公営住宅二万九〇〇〇戸の目標に対し一割しか完成していません。今なお、一〇万人が応急仮設住宅で生活する異常な事態です。
 「わが国始まって以来最大の公害、環境問題」(大飯原発差し止め判決)である福島第一原発事故被害は、収束のめどのないまま推移しています。人が住めな い強制避難区域の面積は一〇〇〇平方キロメートル、東京都の約半分の広さのままです。過酷な避難生活も続いています。一二万七五〇〇人がいつ終わるのかわ からない避難生活を送っています。二〇一四年四月の県の調査では家族の七割が心身の不調を訴えています。震災関連死は、直接死を上まわり、一八一七人(一 二月一七日現在)に達し、自殺者五七人、仮設での孤独死も三四人といのちが奪われ続けています。第一原発が立つ双葉町、大熊町の住民の六割を超える町民が 「現時点では戻らないと決めている」(二〇一四年六月 復興庁アンケート)と答えています。
 大飯原発差し止め判決は、「たとえ本件原発の停止で多額の貿易赤字が出るとしても、国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を 下ろして生活していることが、国富であり、これを取り戻せなくなることが国富の喪失」と指摘しました。
 原発ゼロの社会の実現は多数の国民の願いであり、世界の流れです。福島原発事故後、原発廃止を決めたドイツは再生可能な自然エネルギー比率を二八%まで 高めていますが、当事国である日本は一〇%にすぎません。再稼働にあたり、審査対象に住民の避難計画が入っておらず、火山噴火の影響についての専門家の意 見をきかないなど、言語道断です。
 この一年半近く、日本では原発は一切稼働しておらず、そのことで国民の生活になんら支障はありませんでした。
 福島の復興のため、安全な事故収束は切り離せません。その安全を直接担っているのが原発労働者であり、除染労働者です。多重下請け、偽装請負など無権利 な状態にあります。報道によると被ばく問題でも事故収束に当たった一部の作業員のうち一九七三人が甲状腺に一〇〇ミリシーベルト以上の被ばく、九カ月間の 緊急作業にあたった約二万人のうち白血病の労災認定基準五ミリシーベルト以上の被ばくは現在、一万八〇〇〇人に達しています。一方で原発稼働以来原発被ば く労働者の労災認定はわずか一一人です。原発労働者の健康管理に万全を尽くすよう国に求めていきます。
 二巡目に入った福島県県民健康調査で、新たな甲状腺がんが見つかっています。被災当時一八歳以下だった子どもたちは、その後大学進学や就職などで県外に 転出する機会も増える中、継続的な検査、健康管理ができにくくなっており、国と東電、県の責任を明確にし、健康管理を強めていくことも重要な課題です。
 健康不安や将来不安の中で生活せざるを得ない福島県民をはじめ被災者への生活支援、損害賠償、健康管理は極めて不十分です。国と東電の責任を明確にした施策を求めます。
 昨年は、中越大地震から一〇年、今年は阪神淡路大震災から二〇年です。近年、地球規模での大規模自然災害で多くの被災者が出ていますが、被災者への支援 は不十分です。制度を拡充し、被災者が希望を持てる転換の年にしていくことが求められます。

(5)平和憲法を守り抜き、安倍政治ノーの国民的大運動を

 今、私たちは「戦争しない国」の歴史を守り抜くうえで戦後最大の岐路にたっています。安倍首相は、「憲法改正は自民党にとって悲願、国会で三分の二以上 の多数を得られるよう努力するとともに、国民的な理解が深まるよう努力する」と改憲を明言。二〇一六年七月の参議院選挙後に国民投票をめざす方向性を明ら かにしました。自らの野望実現のためには、九条、二五条の解釈改憲では限界があり、自民党改憲草案の内容での明文改憲が必要と考えているからです。
 これまで、日本版NSC設置、武器輸出三原則廃止と防衛装備移転三原則への転換、集団的自衛権行使容認など、急速に戦争する国づくりをすすめています。
 過激武装組織ISによる日本人人質殺害事件が発生しました。いかなる理由であれ、許されない蛮行です。安倍首相は今回の事件を利用し、自衛隊が米軍など によるISへの空爆などの支援が憲法上可能と述べ、「邦人救出」を名目に自衛隊の海外派兵のいっそうの拡大や、いつでも、どこにでも、どんなケースにでも 自衛隊派兵を可能とする恒久法の制定を狙っています。テロ集団による蛮行を機に、戦争する国づくりを推進することは認められません。
 一二月一〇日には、国民の大きな反対にもかかわらず、秘密保護法の施行が強行され、すでに四〇万以上の情報が秘密指定されました。漏えいすると国の安全 保障に著しい影響を与えると各行政機関の長が判断した情報を一方的に特定秘密とし、漏えいした側を最高一〇年の懲役とするなど、運動の弾圧、報道の自由、 国民の知る権利を奪い、国民を戦争に動員するものに他なりません。廃止を求め運動を強めます。国民の日常会話やメールまで監視し、処罰する共謀罪の新設も 通常国会でめざしています。
 朝日新聞報道を利用した「慰安婦」問題がなかったかのような論調が振りまかれ、被爆の悲惨さ、実相を伝える漫画「はだしのゲン」の公的施設での閲らん制 限、九条の会の行事に公的な施設を貸さないなどの事例も各地で生まれています。私たちはこうした自由と民主主義に逆行するような動きを軽視することなく運 動をすすめることが必要です。
 安倍内閣は、集団的自衛権行使容認の閣議決定の内容をすべて盛り込んだ法案を通常国会に一挙に提出しようとしています。自衛隊をいつでも速やかに戦闘地 域へ派兵できる恒久法の制定、日本への武力攻撃がなくても地球上のどこであっても自衛の措置として集団的自衛権の行使ができるなど、アメリカと一体に戦争 する国そのものに日本を作り変えるものです。世界とアジアからも大きな批判と危惧の声が高まっています。
 私たちは、国のかたちを決めてきた日本国憲法の意義と実績を改めて学び、焦眉の課題と結びつけて論じ、憲法をいのちと暮らしにいかす歴史的な運動をすす めなければなりません。九条の会をはじめ個人、団体と共同を広げ、憲法を守り抜いていきましょう。総選挙後の新しい条件の中で国民の声を一顧だにしない安 倍内閣に対し、退陣を求める国民的なたたかいと、共同の行動を強力にすすめていきましょう。

II.1年間のとりくみの特徴

(1)第41期3つのスローガンにもとづくとりくみ

 第四一回総会はスローガンで今日の時代の特徴を「新しい時代」と表現し、六〇年の前進の教訓をふまえ民医連らしさにこだわりながら、「激突の情勢のもと での新しい福祉国家を展望する国内外の運動の架け橋」「まちづくりとあるべき地域包括ケアの実現めざす事業所と共同組織の中長期展望」「健康権実現・生存 権保障を担う医師養成・職員育成」を呼びかけました。三つのスローガンは、時代認識、運動と事業の方向を示し、全国、各地で運動と事業を推進してきまし た。
 いのち、憲法、綱領の立場から時代をみつめ、いのちの平等を守るため、沖縄、福島の県知事選挙、憲法、医療・介護、社会保障を守るたたかいに全力をあげ るとともに、医師養成集会、看護介護活動研究交流集会、共同組織活動交流集会、介護福祉責任者会議、経営委員長・幹部会議など、全国規模で、誰もが安心し て住み続けられるまちづくりと無差別平等の地域包括ケアの実現めざしたとりくみ、医療活動、事業所のポジショニング、医師養成などの方針を提起し、奮闘し てきました。

(2)各分野のまとめと課題

(1)平和と人権、受療権を守るとりくみ

 この半年間、「戦争する国」づくりに暴走する安倍政権と、平和な日本を守ろうとする国民との矛盾がいっそう広がりました。沖縄県知事選では、全日本民医 連はこれまで三二次に及ぶ辺野古支援・連帯行動で培った「辺野古の海に基地はいらない」との決意を力に、「普天間基地の即時無条件撤去、辺野古への新基地 建設をストップさせる全国から沖縄への支援連帯行動」を提起して全国支援にとりくみ、「建白書」の立場に立つ翁長知事誕生に大きな貢献をしました。この勝 利から「一票で変えられる」ことが確信となり、続く総選挙でも民医連としての方針を提起し、「民医連新聞」号外の「選挙に行こう」ビラを発行、社保ビラや 介護ビラなどとともに、情勢や投票する意義などの学習に活用されました。各県連や法人・事業所でも、独自にポスター、ニュースで投票を呼びかけるなど創意 工夫をこらしたとりくみが展開されました。引き続き職員の政治参加を促すとりくみが重要です。
 集団的自衛権行使容認の閣議決定に対するデモや集会、全国展開するオスプレイ配備ノーの運動が引き続き各地でとりくまれています。「集団的自衛権行使容認反対」署名を開始しました。
 二〇一四年原水爆禁止世界大会には約一五〇〇人、民医連交流集会には三七八人が参加し、二〇一五年NPT再検討会議、被爆七〇年にむけて、「核兵器全面 禁止のアピール」署名推進の決意を固め合いました。一一月末で五七万五〇〇〇筆です。三〇〇万筆達成に向けた理事会アピールを発信、各地で前進が始まって います。
写真  社会保障解体とのたたかいでは、四・二四ヒューマンチェーンの成功をふまえ、新しい共同がいっそう広がっており、医療・介護総合推進法の具体化阻止、国保 の都道府県単位化反対、混合診療拡大反対などを掲げた「いのちまもる・憲法いかす一〇・二三国民集会」も大きく成功させました。
 九月に開催した社保委員長会議では、強行採決された医療・介護総合法の実施の具体化をゆるさない地域からの運動をすすめるために、学習用の社保ビラ作 成、中央社保協と統一した署名、各種実態調査や訪問活動の中で地域の実情をよくつかむこと、共同組織とともに自治体キャラバンや懇談、要請行動などにとり くむことを提起しました。北海道では一万八〇〇〇件の地域訪問がとりくまれ、腕が腫れているのにお金がないという理由で受診していなかった方に、無料低額 診療を紹介したところ、骨折が発見された事例など、いのちと健康が脅かされている地域の実態が多数報告されています。これらは一部の地域の出来事では決し てありません。
 引き続き、地域、職員の中で、医療・介護総合推進法が具体化されることによってどのようなことが起きるか、実態調査、学習が大切です。
 また都道府県や市町村との懇談の中では、自治体側も「消費税先送りで予算配分が不透明」など困惑しており、住民の生活実態や医療・介護を受けにくくなっ ている現状など地域の実態を伝えていかなければ、国に言われるままの医療構想や介護保険計画になりかねません。
 受療権を守るとりくみとして、各地で無料低額診療事業や、子どもの医療費助成、窓口負担無料化などに積極的にとりくんできました。無料低額診療では、自 治体に対する保険薬局への助成の申し入れもすすんでいます。北海道苫小牧市では一月から助成期間が三カ月から六カ月に拡大されました。

(2)民医連らしい医療活動の探究、内外への発信と共同の広がり

 今期は、「貧困と格差」「超高齢社会」に立ち向かう活動にすべての県連、法人、事業所、職場、共同組織が、「子どもの貧困対策」など具体的なテーマを掲 げて挑戦することを呼びかけています。世界と日本で起きている極端な貧困と格差拡大が、いのちと健康とともにその国の経済や民主主義の脅威になっていま す。
 全日本民医連は、二年間かけた調査・研究をもとにブックレット『放置されてきた若年2型糖尿病』(二〇一四年一〇月)を発行しました。その調査・研究の 結果や提言を、多くの学会で発表し、マスメディアでも取り上げられ、社会的に注目されています。
 また、精神科医療委員会は、大学やNPOと共同して「名古屋路上生活者精神保健調査」を実施しました。一一五人(平均年齢五四歳)の方の調査を行い、三 割強の知的障害と五割弱の精神疾患、歯科治療九割など身体診察及び精神診察の必要な方が三〇人以上になっています(詳細は分析中)。
 小児医療委員会は、大学と共同研究して国内では初となる新生児の社会的背景の調査を開始し、貧困と出産や新生児の健康に及ぼす影響を明らかにしています (貧困層は、一〇代の出産割合が四倍、育児困難が五倍、中絶が二・五倍、妊娠喫煙二・七倍など)。続いてこの二月には、「子育て世代調査」にも着手。「子 どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立していますが、医療現場から調査・研究を行い、政策改善の力にしていくことが求められています。
 また、一〇月~一一月に実施した「二〇一四年水俣病大検診」には、全国から一二〇人の医師をはじめ四四七人の職員が参加し、四四七人(平均年齢六六・五 歳)の方が受診しました。その結果、受診者の九七%に水俣病の症状が認められるなど、埋もれた水俣病被害者の救済への道筋を切り開く大きな成果を上げまし た。本来、このような検診は、地域住民が公害被害に苦しみ続けている状況の中で国や関係自治体がとりくむべき課題です。国、関係自治体には、不知火海沿岸 地域における環境・健康調査を改めて要求していきます。
 今期は、このような健康と暮らしを守る医療・介護専門組織の全国ネットワークの強みを発揮した調査・研究活動とともに、「健康の社会的決定要因 (SDH)セミナー」を社会疫学研究者と連携して開催しました。セミナーには、研究者・行政・マスメディアからの参加も多く、民医連の無料低額診療や HPHの実践、糖尿病調査・研究が注目されました。セミナーでは、「目の前の患者・利用者のために」、「地域のために」、「社会全体のために」何ができる かをSDHやソーシャルキャピタル(社会関係資本)の概念・視点をもとに学習・討論が行われました。SDHの視点を日常診療の実践や政策改善・提言に生か すためにも糖尿病ブックレットなどの学習会を推進していくことが重要です。
 二〇一三年度厚生労働省「医療の質の評価・公表等推進事業」に係る民医連への評価結果は、「QI事業を医療の見える化と位置づけ、医療の質にかかわる指 標を急性期から慢性期について網羅的に策定している」「非常に優れたとりくみで、本事業に関するノウハウを、他の団体に伝える機会を設け、積極的に広げて ほしい」などです(今年度は、「卒業」の評価を得て応募辞退)。二〇一四年は八五病院がエントリーし、新たに七指標を加えて三三指標の測定と分析を行って います。測定四年目を迎え、QIデータの活用、測定率の改善と工夫、QI指標の体系化等を行いステップアップしていきます。
 医療安全・医療事故対応については、全日本民医連や各法人顧問弁護士と共同して対応しています。この二年間でいくつかの重要な教訓・事例を第六回病院管 理者・顧問弁護士交流会で共有しています。医療関連死の第三者機関による検証が二〇一五年一〇月から始まります。医師法二一条の解釈の問題も含め、医療現 場への不当な警察介入をなくし、医療者・患者双方にとって有意義な制度にすることが重要です。民医連は、医療団体等との連携を強め、その提言を行うなど積 極的な役割を果たしていきます。介護分野での安全性の向上へ向けたとりくみを強めていきます。
 第二回国際HPHネットワークセミナーin Japanは、「世界と日本のヘルスプロモーションを学び健康なまちづくりを~住民が主人公のヘルスプロ モーションを広げよう」をメーンテーマに国際HPHネットワークCEOのハンヌ・ターネセン氏や韓国HPHネットワークのアン・ジュヒ氏を招き、国際 HPHネットワークとの共催で実施しました。HPHを架け橋に、日本病院会会長と全国自治体病院協議会会長などの挨拶が行われるとともに日本プライマリ・ ケア連合学会、日本ヘルスプロモーション学会、保団連など医療団体・学会の賛同や参加が広がりました。特に、日本病院会理事会がセミナーに賛同するととも にネットワーク結成へ向けての協力も表明され、ターネセン氏との会談も行われました。今回のセミナーの成功を機に民医連内外へHPHの参加や活動を大きく 広げ、日本発の住民主体のヘルスプロモーションを内外に発信していきましょう。
 今期も拡大自主研究会代表者会議を開催しました。特に、地域に必要な医療・技術や役割から医師養成を位置づけていくことなど、民医連の医療活動と医師養成を一体的に前進させることが改めて求められています。
 三年に一回の全日本民医連二〇一四年医療活動調査を実施し、一二月末現在、過半数の集約です。全事業所から提出しましょう。
 二〇一四年一〇月、最高裁は泉南アスベスト訴訟で国の責任を確定させる画期的判決を出しました。各地の訴訟の支援を強めるとともに、日常診療や検診活動を通じて被害者の早期救済をめざしましょう。

(3)介護・福祉分野のたたかいと新しい展開

 「無差別平等の地域包括ケア」実現に向けて、制度改悪の中止・改善を求める介護ウエーブ、在宅の拠点づくり、新たな事業への挑戦、医療との連携強化、助け合い活動、地域ネットワークづくり、自治体への対応、職員の確保・養成などに旺盛にとりくんできました。
 医療・介護総合法の成立を阻止するたたかいを推進し、改悪反対署名一五万筆を提出しました。介護ウエーブ推進ニュースは今期一六号発行され、国会議員要 請行動には九回延べ七六八人の職員が参加しました。三つの調査を実施、認知症の人と家族の会との連携、幅広い参加による組織づくり、地域社保協とも連携し て自治体との交渉にとりくんできました。現在、制度の抜本改善・処遇改善を求める請願署名は二〇万筆を目標にとりくんでいます。
 この一年間で、定期巡回随時対応型訪問介護看護、複合型サービス、サービス付き高齢者向け住宅など、地域包括ケアに対応した新たな事業が各地でスタート しています。地域包括ケア構想や中長期計画づくりも開始されています。京都では県連としてプロジェクトを設置し、地域包括ケア政策をとりまとめています。 共通して指摘されている課題は「医療と介護の連携」です。医療機関との連携会議など連携の強化をはかるしくみづくりのほか、医師の協力も得た多職種参加型 の学習講座の開催など、介護職と医療職の相互理解を深めるとりくみなどがすすめられています。
 「改正」介護保険法により生みだされる新たな困難層への万全の対策と、診療報酬改定や病床再編などの影響で増加している在宅重度者への対応強化が必要で す。「総合事業」に対しては、介護の質を落とさないこと、「給付」から「互助」へのすり替えの手段にさせないなど、運動と結合したとりくみが必要です。社 会保障の削減、営利・市場化を許さない視点を明確にした対応が必要です。共同組織とも連携しながら、助け合い・居場所づくりなど日々の生活への支援の強化 をはかります。
 在宅医療・介護連携事業、認知症施策、生活支援、介護予防など市町村の事業(地域支援事業)としてすすめられていく課題です。県連、法人としてこれらに積極的に提案・参画していくことが重要です。
 生活支援サービスの拡充では、「生活支援コーディネーター」の配置や「協議体」の設置などが具体化されていきます。市町村の意向や方針をふまえ、共同組織の役割や活動を広げるとりくみとして検討します。
 介護予防では、従来の一次・二次予防事業が「一般介護予防事業」として一本化されました。HPHの実践として、引き続き介護予防・健康づくりのとりくみを地域に広げていきましょう。
 各市町村で地域ケア会議の実施が義務化されます。多職種の協働による個別ケースへの支援や地域の課題を明らかにするなど、市町村に対し、本来の機能・役 割を果たす機関として運営するよう求めます。ケアマネジャーを中心に医師をはじめとする多職種の積極的な関わりが必要です。
 相次ぐ介護報酬の引き下げ、利用者の減少により厳しい経営状況が続いています。次期報酬改定に対して、従来の延長線にとどまらないとりくみが必要であ り、個別事業の見直しや医療との連携など法人の総合力の発揮が求められます。利用者の生活を守り、地域の要求にいっそう応える契機にしていくとともに、改 定の問題点を検証し、再改定を求める運動をすすめます。改定に対応した法的整備を強化します。営利業者の参入が相次いでいる中、事業所の特徴を発揮し、 「地域に選ばれる事業所」をめざします。
 介護職員の確保が年々厳しくなっており、募集しても応募がない事態が常態化しています。制度改定に対応した他事業者の相次ぐ参入や養成校の定員割れなど が厳しさに拍車をかけています。各法人では、養成校への働きかけの強化、介護学生対策の本格的な推進、初任者研修の開始など、職員確保に向けた様々な手立 てがとられています。中長期計画の中で、今後の事業展開に見合った人事政策をもち、確保に向けた系統的なとりくみが必要です。引き続き介護職の組織化・職 能としての活動を重視し、全日本民医連として第二回介護職の組織づくり交流集会を開催します。民医連のケアマネジャーの役割について現場での議論を重視し すすめます。

(4)医師養成集会の到達と新たな挑戦

 一五年卒「医師臨床研修マッチング」結果は、五年ぶりに一六〇人を超え一六三人の到達となりました。各県連・臨床研修病院が初期研修の充実にむけて努力 を重ね、民医連の医療と研修の魅力を医学生に伝えるとりくみを強めてきた成果と言えます。それぞれの地協・県連のとりくみを分析し、目標達成へ向けて経験 を学びあい一六年卒対策に生かすことが重要です。
 この間の特徴は、卒年対策での地協内連携が前進したことです。九沖地協では、週単位で情報を共有し、重点対象者に対して複数県連が協力して面談に入り、 民医連着地を目指してきました。近畿地協では、各県連会長を先頭にフルマッチにむけた意思統一を行い、地協「卒年対策委員会」を設置して連携強化を行って きました。高校生や中低学年からの育てる医学対の実践や、日常的な奨学生活動の積み重ねと、それを担う医局・医学対担当者集団づくりをいっそう重視する必 要があります。
 中四地協で、各県連会長や法人専務、病院長など八〇人が一堂に会して、「地協の医師の確保と養成を前進させる決起集会」を開催し意思統一したことは重要なとりくみです。
 一〇月に開催した「医師養成集会」は、四五県連、医師一二二人、事務等一六四人、共同組織一人が参加し、今後の民医連の医師養成を展望する重要な集会と なりました。二日間を通して三つの論点((1)激変の情勢の特徴をつかみ、医師養成をすすめるための基本的立場を確認すること(2)求められる医療・介護 の在り方を模索し、医師養成をすすめる上で民医連として発展させるべき視点を明らかにすること(3)新専門医制度下で、民医連での「総合診療医」「領域別 専門医」養成をすすめる方法論を具体化すること)に沿って熱心に討論が行われましたが、引き続き各県連・事業所での実践的な討議を行っていくことが重要で す。集会の討論の中では、新専門医制度が新自由主義的な「医療提供体制改革」とリンクしてすすめられることで地域医療に甚大な悪影響をもたらす危険性を指 摘し、日本の医療のあり方を問う重大な岐路に立っているという時代認識を明らかにしました。そして、SDHの視点を重視し、地域のヘルスプロモーション活 動に参加することの大切さと、そうしたとりくみを通じて、「総合性」を身に付けられる医師研修が求められていることを確認しました。
 集会のまとめとして、(1)初期研修のさらなる充実(2)オール民医連での後期研修への挑戦(3)時代にふさわしい医学対のバージョンアップが行動提起されました。
 今期、医師部の下に発足した「新専門医プロジェクト」を中心に、新専門医制度下で民医連の医師養成をどのようにすすめるのか、その具体策の検討が開始されました。
 この間、分野別医師懇談を実施し、全国の状況を共有するとともに、地協医師委員会を軸に地協内での分野別対応の協議が開始されています。
 各県連レベルでみると、後期研修委員会の確立や担当事務の配置、他施設との連携の構築など、すすめるべき課題へのとりくみに差があり、地協内での相互点検も含めて対応を急ぐことが必要です。

(5)「保険でよい歯科医療」の運動と職員養成

 各地の保険医協会が行った「学校歯科健診調査」では、治療が必要と診断された子どものうち約半数が受診していないことが判明しました。また「口腔崩壊と見られる子に出会ったことがある」と回答を寄せた養護教諭は半数近くになっています。
 「保険でよい歯科医療」全国連絡会が、昨年秋に行った市民アンケートでは(七一四九人回答)、四月の消費税引き上げ後、歯科受診を控えようと思った人は 一三・二%、歯科治療をせずに「そのまま放置しているところがある」人は二九・〇%、その理由として、時間がない五九・三%、治療が苦手三一・一%、費用 が心配二六・五%、保険のきかない歯科医療を増やすことについては反対の方が九二・五%の回答がありました。
 「保険でよい歯科医療の自治体賛同決議」は、一一道県議会、五九四市区町村議会(三四・一%)となりました。埼玉県新座市で、医療生協の支部組合員が中 心に、陳情を行い、県内初の決議が上がりました。一〇月には「歯科技工を考える懇談会」が開かれ、技工士の労働条件など厳しい現状と、国の医療政策や診療 報酬上の課題、海外技工問題が明らかになりました。
 一一月二九~三〇日「拡大歯科所長・事務長会議」を開催しました。全国どこでも同じ医療が受けられるための「民医連らしい歯科医療のチェックリスト」 と、二〇二五年に向けて無差別平等の地域包括ケアを位置づけた「歯科の中長期計画策定マニュアル」を提案し、全国で実践が始まっています。
 民医連歯科の二〇一四年度上半期の経営結果は、比較できる一一〇事業所の七割が黒字(収益比三・六%)、上半期の収益では最高の水準になりました。延べ 患者数を維持し(一〇〇・七%)、保険収益を中心に事業収益を伸ばした(一〇二・二%)からです。
 保険で良い歯科医療の運動の一環として統一地方選挙で政党・候補者への公開質問書の提出、来年度の診療報酬改定へ向け、二〇一六年度予算編成前の六月の 国会行動などを行います。請願署名は二〇万筆をめざします。職員育成では、地協ごとの臨床研修施設の確保、青年歯科医師会議、六月の京都での中堅歯科医師 会議、歯科技工士交流会、新任事務長研修会を行います。

(6)民医連運動を担う職員の確保と養成

 四〇期に確認した教育活動指針(二〇一二年版)をもとに、「職場づくり」を意識した学習会や実践の交流が各地で旺盛にすすめられています。困難を抱えた 患者・利用者に向き合う日常の医療・介護の実践、無料低額診療事業、辺野古支援連帯行動や沖縄知事選支援の活動などを通じ民医連綱領を体感し、民医連の活 動に確信を持つ職員が増えています。
 民医連新聞を活用し、朝会や職場会議で読み合わせ・討議を続けることによって職場の雰囲気や意識が変わってきた、職場の目標管理を検討し、職場内でグ ループをつくって全職員が目標達成に向かって主体的にとりくむようになった、事務職でもプリセプター制度をつくって同世代で育ちあうとりくみをはじめた、 など報告されています。日常活動と民医連の方針、綱領がむすびつく職場づくりをすすめることを引き続き追求していきます。
 二〇一四年度トップ管理者研修会に三三県連から医師一二人を含む五一人が参加しました。講義・討論を通して情勢認識を深め、民医連の到達と今後の展望、 トップ幹部の役割を学び、トップ幹部としての構えと団結を固める研修会となりました。
 事務の養成においては、幹部養成が急がれるとともに、集団全体としての底上げが求められます。民医連の事務としての魅力を浮き彫りにするとりくみが必要 です。今期、手記「私と民医連」を集め民医連事務の魅力を再確認すること、事務育成に関わる全国集会などを実施します。
 採用数の減少、事務業務の多様化・細分化によって少人数の職場が増えるなど、事務の集団化が困難になっているなか、法人全体、県連全体を視野においた事 務の集団化と同時に多職種と関わりを意識した集団化が求められます。事務部会を立ち上げて自主的な交流をすすめているところもあります。各県連・法人で事 務職員育成のとりくみをさらに強めることが求められています。
 二〇一五年卒看護師内定数は一一月末一〇八〇人、四年連続一〇〇〇人を超える見込みです。引き続き各県連の目標達成、ゼロ県連の克服をめざします。看護 学生の貧困、メンタル不全などが深刻になっており、確保と若手看護師養成を一体のものとしてとりくみます。
 看護トップの世代交代をみすえ、看護管理者講座を三年計画で二〇一三年度から再開し今年度五一人が受講しました。沖縄、福島とフィールドワークを講座に 取り入れ、現実と切り結んで自分を徹底して見つめ直すことができた講座となりました。
 第一二回看護介護活動研究交流集会(一〇月・青森)には九一七人が参加し、豊かな看護・介護実践を学び交流しました。診療所や訪問看護、介護系からの応 募が多く、介護職の発表が回を重ねる毎に充実しています。また認定看護師の報告は興味深く、看護内容の向上のために活動内容をもっと広めていくことが必要 です。民医連の実践を、学会などを通じて外部に発信していきましょう。
 薬剤部門は四〇期に作成した「薬剤師政策」の実践を活動の柱にすえ、地協の役割を高め課題を統一的にすすめています。二〇一四年春の薬剤師国家試験合格 率は六割となり民医連内定者の合格率も同様でした。各地の事業所では、この影響もあり薬剤師不足が顕在化、地協内の県連支援、福島の全国支援が行われまし た。
 薬学奨学生は過去最高の二七八人(四月末時点)となり引き続き育てる薬学生対策を強化発展させます。第二回新卒薬剤師初年度研修(二〇一四年五月)を開催しました。

(7)厳しい経営実態と消費税問題

 民医連の経営を巡る状況は深刻さを増しています。二〇一三年度経営実態調査にみられる経営の悪化に加え、二〇一四年度上半期モニター三〇法人調査では、 診療報酬マイナス改定、消費税増税、急性期病床の急速な削減政策によって、さらに大きな影響を受けて経営悪化が拡大しています。福祉医療機構が実施した診 療報酬改定影響調査でも、二〇一四年上半期、「患者数の減少や消費税増税の影響を受け利益は減少」と言われ医療界全体で深刻な事態が進行しています。
 二〇一四年度第三四半期のモニター三〇法人の経営成績は、五〇〇〇万円を超える赤字、前期から八・七億円の減益で、七割の法人が悪化しています。控除対 象外消費税は、前年の約一・五倍の額になっています。五一病院の経常利益は▲二〇・八億円(▲一・六%)で引き続き厳しい状況です。病院の六割強が赤字で す。多くの病院で、在院日数の短縮と新入院の増加不足で病床稼働率が低下しています。公的病院など大規模病院と比べ、民医連の病院は収益の伸びが低く、費 用が収益の伸びを大きく上回り、高コスト構造になっています。診療所や介護分野でも利益率が低下しています。診療所は患者数の減少が顕著で、収益を大幅に 減少させています。
 全日本民医連は昨年三月末と一〇月一日時点の病床編成の動向を調査しました。回答のあった一二六病院の総病床数は二万一六七一床から二万一六二四床と四 七床減少しました。病床種別では、七対一入院基本料を算定する病床が七九五八床から一割に該当する八一六床が減少して、七一四二床となりました。新設され た地域包括ケア病棟(床)は合計で四三病院で一、〇四九床(三月末の亜急性期病床は四一二床)となりました。また、回復期リハビリ病棟が三三四九床から五 三床増加し、一〇対一病床は、三三五六床から三三八四床と若干増加しています。七対一入院基本料を算定した病院のうち七病院が一〇対一入院基本料に種別を 変更した他、一部病床を地域包括ケア病床などに変更するなどの対応が行われています。
 「民医連の特定協力借入金の法的整備方針」は二年間の討議を経て、昨年一二月、理事会として決定しました。民医連の特定協力借入金制度は、民医連法人が 職員と共同組織との共同をすすめる中で民医連らしい連帯の制度として創造され、医療機関債とは大きく異なる独自のものとして発展してきました。民医連法人 が事業所建設や設備投資をすすめる上で、資金的にもきわめて重要な役割を担うとともに、なによりも、民医連事業所が共同組織の人々によって支えられ、地域 の財産として存在しているという意味で重要な役割を果たしています。一方で、大衆債依存体質から脱却し、揺るぎない経営体質を確立することは重要です。ま た、医療機関債を巡る情勢等を踏まえ、原則として八項目の「遵守すべき事項」を確認し、整備をすすめることとしました。
 昨年一〇月に「消費税問題に対する全日本民医連の見解」を発表しました。民医連は、「逆進性の非常に強い消費税は社会保障財源に最もふさわしくなく、廃 止を視野に入れて縮小すべき税制である」とした基本的立場を明確にし、消費税増税における喫緊の課題として、(1)さらなる増税はきっぱりと中止すべきで あること、(2)社会保険診療等は非課税を実質化すべきであること、(3)社会保険診療等に係る控除対象外消費税は解消されるべきであることを内外にア ピールしました。
 特例民法法人一五法人のうち一三法人が公益認定(財団・社団)法人への移行を完了しました。八月には「財務要件(収支相償基準)」「法人会計のあり方」 について矛盾点の指摘と対策を提言し、内閣府との七回目の交渉を実施しました。社会医療法人は、新たに四法人が認定を受け一四法人(二〇一四年一〇月一日 現在)となりました。

(8)共同組織活動交流集会の成功と強化月間

 第四一回総会運動方針は、大きな飛躍が求められる課題の一つに、共同組織の活動をあげ、共同組織活動の今日的発展方向を探求し、新しい担い手づくりや職 員参加ができる画期を作り出すこと、地域から共同を広げ、安心して住み続けられるまちづくりをすすめるためには、共同組織の量・質ともの発展が不可欠と呼 びかけました。
 健康の自己責任論による自助・自立をベースとした国の地域包括ケア構想に対抗し、民医連がめざす無差別平等の地域包括ケアの実現は、安心して住み続けら れるまちづくりの大きなテーマです。九月に開いた第一二回共同組織活動交流集会in近畿(兵庫)は、過去最高の三〇〇〇人以上の参加があり、三八〇の演題 発表がなされました。認知症サポーター養成、配食サービス、送迎サービス、たまり場作り、被災者支援、買い物お助け隊、ホームレス支援などの「支え合い」 活動、ころばん体操、青空健康チェックなど「地域まるごと健康づくり(ヘルスプロモーション)」、がん検診無料化や子どもの医療費無料化実現などの「自治 体への要求運動」、各地の共同組織のとりくみが、健康権の実現、無差別平等の地域包括ケアをめざす運動になくてはならいものとして輝きを放ち、確信が広が りました。
 長崎県や石川県では、全県を視野においたダイナミックな展開、NPO法人の立ち上げなどがとりくまれており、民医連のない地域にも運動が広がっています。
 この集会の成功は共同組織拡大強化月間へと引き継がれ、共同組織四万三四五五人増、『いつでも元気』一〇一二部増、現在の会員数は、三六一万人を超え、『いつでも元気』は五万六七九〇部となりました。
 今、私たちは、共同組織と一体になって、無差別平等の地域包括ケア実現の先頭に立つこと、地域で健康権を守るため個人、団体、行政も視野に入れ連携と共 同を広げていくことを通じ、さらに新しい担い手づくりや職員参加ができる画期を作り出すこと、共同組織の量・質ともの発展が得られます。すべての県連、事 業所で集会の成果を学び、共同組織の中長期展望をつくりだしていきましょう。

(9)災害支援活動、福島支援・連帯、国際活動等

 昨年八月末に起こった広島土砂災害に対して翌日から全国の救援支援活動を開始し三六県連か ら延べ一六三二人、義援金八九〇万円が寄せられました。この災害は、規制緩和と利潤第一、安全軽視による人災です。広島共立病院は旧病院を避難所として市 に提供し、多くの被災者の命を守ってきました。広島民医連は、地域の中で被災者に寄り添い多くの切実な要求を集め、復旧が住民本位となるよう奮闘してきま した。
 福島民医連への医師支援、看護師支援、薬剤師支援にとりくんできました。医師支援については二〇一五年度も継続していくことを決定しました。
 五年ぶりに県連事務局長研修会を開催しました。福島被災地の視察、県連機能と事務局長の役割などを学習し、地協を超えた全国的な事務局長の交流をはかり ました。世代交代がすすみ二〇県連以上が新しい事務局長となっている中、定期開催を望む声も多く、県連事務局長の養成について、次期総会方針の中で検討を すすめます。
 フランス保健センターからの招聘により藤末衛会長が訪仏。また中国チチハル遺棄毒ガス被害者健診への支援行動。韓国「健康権実現のための保健医療団体連 合」から半年間、医師、事務の日本滞在への援助。セウォル号事件の遺族、支援団体の訪日に伴い懇談しました。NGOとして国連経済社会理事会 (ECOSOC)との協議資格取得に向け審査がすすんでいます。

III.次期総会を展望した今後の重点課題

 二〇一五年は戦後七〇年、被爆七〇年の節目の年です。日本による侵略戦争と植民地支配は、 日本人三一〇万人、アジアの人びと二〇〇〇万人のいのちを奪いました。そして一九四五年、三月に、アメリカ軍沖縄上陸、県民の四人に一人が殺された凄惨な 沖縄戦、八月六日、九日に、アメリカにより広島、長崎に原爆投下。この年の八月、日本はポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦が終結しました。日本国民は この戦争による加害と自らの痛苦の経験から、二度と戦争をしない国として再出発することを世界に誓い、すべての国民の生存権保障を明記した日本国憲法を制 定しました。
 原爆は一瞬にして多くの命を奪い、放射線による被害は、今も長く被爆者を苦しめています。いかなる理由をつけても、人道上、決して許されるものではあり ません。世界の運動により広島・長崎以降の核兵器使用を許していませんが、いまだこの地球上には一万六〇〇〇発もの核弾頭が存在し、人類の生存を脅威にさ らしています。民医連は、七〇年の節目を迎えるにあたり、戦争をしない国の歴史を守り、被爆国の医療・介護従事者として核兵器廃絶の先頭に立つ決意を新た にします。そして、非戦の誓いを無きものにしようとする勢力に対峙して、解釈改憲も、明文改憲も許さず、日本国憲法を学び、いのちと暮らしに生かすことを すべての活動の基本に据えていきます。
 第四一回総会は、四一期の民医連運動の基軸について、「社会保障理念変質と後退、戦争する国づくりをめざす政権の暴走にストップをかけ、新しい福祉国家 を展望した幅広い共同の運動と自らの事業を確実に前進させる二年間としなければなりません」と提起しました。国民生活、患者、地域の現状と切実な要求は、 民医連の医療・介護活動の発展をはじめ、三つのスローガンにもとづく方針を豊かに創造的に各地で実践する民医連への期待をこれまで以上に高めます。四一回 総会方針の全面的な実践が、運動と事業を前進させる前提です。第三回評議員会にむけた重点課題を提起します。

(1)2015年を地域からたたかう国民的共同の年に

(1)社会保障の解体と営利・市場化に反対し、いのちを守る大運動を

1)医療介護総合法の具体化に反対し、地域と現場からたたかいを

 医療介護総合法、プログラム法の成立に伴い、急速に社会保障の解体へ向けた法案が国会に出されます。全職員、共同組織で旺盛な学習活動を強め、総選挙後の新しい条件を活かし、権利としての社会保障を守るため、通常国会で具体化を許さない運動を強めましょう。

(医療保険制度改革をめぐる運動)

 安倍政権がすすめる社会保障解体は、医療提供体制を縮小し、市場化・営利化をすすめ、受療権を侵害し、国民皆保険制度を揺るがすような史上最大の大改悪です。通常国会で大運動を起こし、騒然とする状況を作り出しましょう。
 大幅な病床削減と一体に医療費削減をねらう国保の都道府県単位化について、まだ問題点が知られていません。これまで一点共闘や「架け橋」でつながった 様々な団体や個人、地域の病院や開業医などに呼びかけて大小さまざまな懇談会を開催し、その中で改悪の中身を大いに伝えて、ともに地域に必要な病床を守る 運動を巻き起こしましょう。
 混合診療拡大、市場化、TPP参加反対の運動を医師会など医療関係団体、市民団体と共同して、全国でとりくみを強めます。国家戦略特区の検討、具体化状況を該当する都府県で把握し、運動を強めましょう。
 これらの運動を社保担当者任せにせず、自治体に政策提言できるよう政策力量をつけましょう。

(受療権を守り、事例から改善を迫る職場からの社保運動)

 貧困が拡大する中、国民健康保険料、介護保険料の大幅な引き上げ、窓口負担金増は受診をためらう事態を多く生み出しています。共同組織とともに地域の実 情をつかみ、事例を積み上げ、制度改善を迫りましょう。一職場一事例、気になる患者訪問などを通じ事例を集め、現場から運動を起こしましょう。
 二〇一四年国保等経済的事由による手遅れ死亡事例調査を全県から集約し、全県で記者会見を行い、世論を喚起しましょう。
 これらを通じて統一地方選挙での要求としてまとめ運動の力としていきましょう。

(幅広い共同で介護を守るたたかいを)

 介護ウエーブを医療・介護総合法に風穴を開け、介護改善を実現する運動として位置づけ、とりくみを強め広げましょう。各地で「認知症の人と家族の会」と の連携が広がっています。「介護をよくする会」など、幅広い個人・団体による組織を立ち上げたところもあります。共同組織と協力し、「安心・安全の介護」 を求める新たな共同の輪を広げましょう。

(国に対して制度改善・介護報酬の再改定を求める)

 「改正」介護保険法に盛り込まれた「四つの切り捨て」による利用者・家族の困難が現実のものとなります。具体的な事例に基づいて制度の問題点を明らかに し、国に対して改善を求めます。介護報酬改定実施後の検証を行い、引き上げ・改善の再改定を要求します。地域の事業所を巻きこんだとりくみが必要です。

(自治体に対するとりくみ)

 自治体に対して、「住民の福祉の増進」(地方自治法)という責務にふさわしく、一連の制度改悪から利用者・高齢者を守る「防波堤」としての役割を発揮す ることを求めます。第六期介護保険事業(支援)計画が四月からスタートします。計画を分析し、地域に必要とされる基盤整備や二〇二五年に向けた地域包括ケ アの方針やとりくみに対して具体的に提案していくことが必要です。「総合事業」については、現行のサービス水準を引き下げないよう要請します。介護保険 料・利用料の軽減制度など自治体の独自施策の実施・拡充を求めます。地域社保協、地元議員とも連携しながらとりくみましょう。

(統一地方選を医療、介護改善の大きなチャンスに)

 四月の統一地方選は、私たちのより身近な地域要求を実現し、医療・介護の改善をすすめる絶好のチャンスです。また、安倍政権の暴走を地域からストップさ せる機会です。民医連として全力をあげ、とりくみをすすめていきましょう。市長選挙に勝利した那覇市では、早々に無料低額診療事業該当の患者の保険薬局の 窓口負担金への助成制度実現へ向けた懇談が始まりました。政治を変えることで医療、介護の制度は良くなります。「提言」を土台に、民医連としての要求・政 策を作成し発表します。自治体へ向けた要請、地方選挙での学習と運動に活用していきましよう。
 地域の医療・介護、社会保障を守る運動として、「安全・安心の医療・介護を」署名を持って大いに地域に打って出ましょう。

2)民医連の「提言」を力に、地域での対話と共同を

 安倍政権がすすめる地方創生は、道州制に向けたさらなる地域の切りすてです。いま必要なのは、グローバル企業が活動しやすくするための道州制や市町村の 集約化、合併ではありません。高齢化がすすみ、災害が頻発する国土において、誰もが住み続けられるような、小規模自治体や地域自治組織をベースにした重層 的な地方自治制度であり、何よりも憲法や地方自治法の理念に基づき、住民の福祉の向上を第一にした地方自治体を作り出すことです。必要なのは地方創生でな く、地域再生です。
 全日本民医連の提言が提起したのは、安心して住み続けられるまちづくりと人権としての医療、介護の実現であり、地域再生の重要なテーマです。この間、愛 知、山梨、群馬でシンポジウム、懇談が開催され成功しています。県連、事業所のある地域で提言を使ったシンポジウム、個人、団体との懇談を開催しましょ う。また、無差別平等の地域包括ケアづくりを地域の医療機関、介護施設と連携してすすめる上でも活用しましょう。

3)すべての事業所で無料低額診療事業への挑戦を

 一一月二三日付の朝日新聞一面トップで「無料低額診療広がる」「無保険者駆け込む病院」と大阪、北海道などの民医連事業所と保険薬局の薬代の補助を実現 した共同組織の活動が紹介され、大きな反響が寄せられました。職員にとっても医療にかかれない患者の姿に触れ無差別平等の医療を実践する民医連への確信が 培われています。
 民医連の無料低額診療事業所は、三五七カ所と四割を超えたところです。今、格差と貧困の拡大、一~三割の窓口負担、生活保護の水際作戦等、受療権、生存 権が脅かされる中、多くの方が医療機関にかかれず地域の中で痛み、苦しみに耐えています。窓口負担の軽減や国保法四四条の拡大など、権利としての社会保障 制度の改善にとりくむとともに、すべての事業所が届出制であるこの事業に挑戦することが無差別平等の地域包括ケアの実践から必要です。国による制度の拡充 を求めつつ、四一回総会が提起した無料低額診療事業に関する方針((1)広報を強め、自治体とも連携し、地域から手遅れを生まない運動としてとりくむ、 (2)社会資源の活用を強め、受療権を守る運動と一体にとりくむ、(3)保険薬局、訪問看護ステーションの負担金への助成事業を自治体に求める、(4)民 医連以外の医療機関の事業参加、自治体病院での実施を求める運動)をやりあげましょう。統一地方選挙でも要求とし、地域からのたたかいを強めていきましょ う。

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(2)憲法と平和を守りぬき、核兵器廃絶の展望を切り開く年に

1)憲法を守りいかす大運動で、戦争をする国づくりストップを

 ある調査では、憲法改正を不安に思っている人の六割が「学校以外で憲法を読んだことがない」、全体では七割が「読んだことがない」と回答、二〇代では八 割に達しています。また、二〇代の六割は戦争体験を聞いたことがないと回答しています。民医連の職員や共同組織でも決して例外ではありません。
 すべての職場で全日本民医連の憲法DVDの活用を中心に学習運動にとりくみましょう。「わたしと憲法」の手記、各地で戦争体験、特に医療従事者の戦争体 験や被爆体験の聞き取り・記録作成、戦跡めぐりなどにもとりくみましょう。憲法カフェなど興味・関心に合わせ、多くの職員、共同組織で気軽に憲法を学び、 話し合う活動を広げましょう。
 引き続き憲法署名にとりくみます。憲法共同センターや九条の会の提起に応えながら幅広く共同して、憲法九条をまもり、戦争する国づくりをストップさせる 運動にとりくみます。五月三日、憲法記念日に東京で憲法を守るすべての団体が一堂に会する数万人規模の集会が準備されています。全国すべての地域で過去最 高の集会を準備していきましょう。
 安倍政権は、侵略戦争と加害を認め謝罪した村山談話、従軍慰安婦への国と軍の関与を認め謝罪した河野談話に代わる談話を八月の敗戦の日に向けて準備に入 りました。日本が談話に代わる談話を八月の敗戦の日に向けて準備に入りました。日本が憲法九条を掲げ、アジアと世界で真の平和な国としての役割を果たすた めにも、日本軍慰安婦問題をはじめ日本の戦争責任、加害の責任、近現代史を学んでいきましょう。

2)被爆70年、2015年を核兵器廃絶への転換の年に

 第四一期全日本民医連平和アクションプランを一二月理事会で決定しました。各県連・法人や事業所でも独自の平和アクションプランを作成し、平和学習やフィールド活動にとりくみましょう。
 核兵器禁止条約交渉開始を求める世論、核兵器廃絶を求める圧力が強まる中で四月末からNPT再検討会議が開催されます。核兵器を人道的な立場から違法な ものととらえる世論が急速に広がり国際的なすべての核兵器の廃絶を求める声となっています。この声に核保有国がどうこたえるのか重要な会議となります。
 「核兵器全面禁止のアピール」署名三〇〇万筆、二〇一〇年を上回る代表をニューヨーク行動へ派遣しましょう。
 全日本民医連は、被爆七〇年にあたり、世界と日本のすべての反核平和運動団体が共同し、二〇一五年原水爆禁止世界大会成功をはじめ、核兵器廃絶の転機の年となるよう奮闘していきます。

3)建白書実現、新基地建設を許さない運動を

 正念場となる辺野古新基地建設反対の新たな運動、翁長県知事、稲嶺名護市長をささえる運動、高江のヘリパット建設反対の運動を強めます。辺野古支援・連 帯行動に引き続きとりくみます。建白書の実現を求める運動を日本中で広げ、アメリカへの要請行動などの支援活動にとりくみます。
 全国配備が展開されているオスプレイの即時撤去を大きな運動にしていきます。日米安保条約や地位協定についての学習にも大いにとりくみましょう。

(3)原発再稼働を許さず、被災者、原発労働者の救援を

 改めて、川内原発をはじめとする再稼働を許さず、すべての原発の廃炉を求める運動を、立地県をはじめ全国各地で強めましょう。そして、福島の仲間や被災者への支援を強めましょう。

1)原発ゼロの大運動を

 川内、高浜原発の再稼働を許さない世論をつくりあげるために、各事業所で再稼働反対の意思を内外に示し、他の団体などとの共同を広げましょう。原発事故 から四年目となる三月を節目に大運動を繰り広げましょう。三月八日に原発をなくす全国連絡会に結集し、首都圏反原発連合、さようなら原発一〇〇〇万人アク ションとともに「NO NUKES DAY」にとりくみます。四月の統一地方選挙では、「原発再稼働反対」の世論を高め、一大争点としましょう。

2)福島に寄りそい、支援・連帯を

 福島をはじめ各地の被災者へ健康管理・生活相談、双葉町、浪江町の検診を継続します。また、原発収束にあたっている労働者への支援、全国的規模での「相談員」養成にとりくみます。
 第一回評議員会で提起した福島支援連帯行動を三月から開始し、今後継続的にとりくむ予定です。また、医師支援をはじめ、福島民医連への全国からの支援を継続します。

3)全職員、共同組織の学習を

 改めて、全職員や共同組織の中での学習を重視します。中でも、憲法一三条、二五条を論拠に、再稼働は憲法違反とした画期的な判決である二〇一四年五月の 福井地裁判決の学習と普及にとりくみましょう。そうしたとりくみを通じて再生可能なエネルギーの普及に計画的にとりくみましょう。

(2)第3回評議員会に向け重点課題の飛躍を

(1)新専門医制度への運動と民医連の研修充実、医学対強化

1)医師養成集会を受け、民医連らしさを貫いた医師養成を

 医師養成集会での議論を踏まえ、情勢の変化や新専門医制度施行に対応しつつ、民医連らしさを貫いた医師養成を旺盛にすすめます。
 この間の各学会の動向や全日本民医連新専門医プロジェクトの議論などをもとに「新専門医制度に対する全日本民医連の見解」を一月理事会で確認し発表しま した。制度の具体的な内容が明らかになるにつれて、大学・大病院での専門医療中心の制度設計であり、地域の中小病院の医師体制を困難にする可能性が高いこ とや、領域別専門医が「総合性」を発揮しながら地域で活躍する日本の地域医療の体制を大きく変貌させる可能性があることなど、多くの懸念を指摘していま す。今後、この「見解」をもとに、病院団体をはじめ医療界全体での議論を喚起し、新制度の問題点を明らかにして国民も医師も納得のできる制度に改善するた めの運動に全力でとりくみましょう。

2)オール民医連で後期研修の充実を

 これらの運動と並行して、後期研修の充実にむけたとりくみを大きく飛躍させることが求められます。四一回総会方針が提起したように、総合診療専門医と総 合内科専門医(新・内科専門医)を育成する後期研修を基軸にすえた検討が求められます。とりわけ無差別平等の地域包括ケアを中心的に担う「総合性」を専門 とする医師の養成が焦眉の課題であり、民医連における医師養成の中心課題に位置づけて、総合診療分野で全国の若手指導医たちが中心になった自主的なとりく みが行えるような援助などの具体化をすすめます。民医連らしい領域別専門医の養成については、単一県連・院所のみで対応できるところは限られており、地域 分析とポジショニングをもとに、民医連内外での連携も含めて具体化することが重要です。まさに全国や地協など「オール民医連」で進める課題です。各地協や 県連・臨床研修病院では、新専門医プロジェクトの提起にもとづき、担当の医師や事務の体制も明確にして、早急に具体的な対応をすすめましょう。

3)あらためて初期研修の充実を

 初期研修充実の課題は、新専門医制度が具体化する中で、あらためて重点として位置づけることが必要です。新専門医制度との関係では大学病院を中心に専門 医資格の取得に偏重し、初期研修を軽視する動きが強まっています。あらためて初期研修の意義(人格の涵養、基本的診療能力の獲得など)を確認し、国民の生 命と健康の守り手としての医師の初期研修をより充実したものに発展させることが必要です。
 民医連の初期研修は、人権を尊重する倫理観・医療観を身につけ、地域で求められる総合的な臨床能力や問題解決能力を獲得できる優れた特徴を持っていま す。こうした民医連らしい初期研修の特質をさらに前進させるために、第三者評価の受審や多職種参加型の研修など、研修の質を高めて多くの医学生に選ばれる 初期研修を充実を、医師をはじめ全職員の総力でとりくみましょう。

4)医学対の質と量の前進を

 医師研修をめぐる情勢の変化を医学生に幅広く知らせ、医学生運動の前進や民医連への合流を飛躍させる医学対活動のバージョンアップに反映させていくこと が重要です。格差と貧困が進行する現在の日本において無差別平等の医療を進める民医連の価値と役割を医学生に知ってもらい、共感を広げるとりくみが必要で す。日常の医療現場で起きていることをリアルに伝え、多職種協働の民主的集団医療や共同組織とともにすすめるまちづくりのとりくみなど民医連運動の全体像 を医学生が体感し共感を呼び起こすような、多彩なフィールドワークや多職種と共同した実習など、創造的なとりくみを模索しましょう。「初期研修医二〇〇人 確保、奨学生集団五〇〇人」は総会方針でも確認されている実践課題です。一六卒での飛躍をかちとり、二〇〇人確保の実現にむけたロードマップ(行程表)確 定のための議論をすすめます。また、中低学年対策や高校生・予備校生対策など、全職員・共同組織ですすめる課題としてとりくみを強めることが必要です。そ れらの前提として、県連・法人の幹部と院所管理部を中心に「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」の論議を開始し、医学対担当者への具体 的な指導・援助を強化し、幹部が先頭に立った医学対活動の質と量のアップにとりくみましょう。

(2)無差別平等の地域包括ケアの探究と実践

1)主な課題は何か

 超高齢化(独居・老々世帯、認知症高齢者の増加、“多死”社会)の進展、貧困・格差の広がりのもとで、政府は「自助、自立」を振りかざし、自己責任、市 場化を土台にした地域包括ケアを推進していく方向をいっそう露骨に示しています。これに対して、私たちがめざすのは、介護が必要になっても、認知症があっ ても、経済的な事情に関わらず必要な医療、介護・福祉、生活支援がきれめなく提供され、住み慣れた地域で、当たり前に暮らし続けていくことを可能にする無 差別平等の地域包括ケアの実現です。
 この間の議論や各地での実践を通じて考えられる無差別平等の地域包括ケアの課題は、(1)政府のすすめる安上がりの地域包括ケアの対抗軸として、安心し て住み続けられる街づくりの一環としての位置づけの明確化、(2)保健・医療・歯科医療・介護の創造的かつ相乗効果的な実践の深化、蓄積、一体化の探求、 (3)これらを担う人材の専門性構築を重視するとともに、初期から総合性を意識し職種間の協力や連帯が生まれるような統合的な育成方針の具体化、(4)そ れぞれの地域の実情を考慮した新しい保健・医療・介護モデルと住み続けられる街づくりを合体した法人中長期計画づくりなどです。
 地域包括ケアをすすめるうえで地域の団体、個人が同じ方向に向かうとりくみをすすめるために「規範的統合」という考え方を打ち出しています。これは、行政の新たな強制につながる危険性があり、注意が必要です。

2)民医連の病院、病床の役割

 民医連事業所は、保健・医療・福祉の複合体としての総合的な機能を発揮するとともに、SDHに基づくヘルスプロモーションの視点を地域に明確に打ち出して、地域・共同組織とともに地域包括ケアシステムの架け橋として役割を発揮していくことが求められます。
 地域包括ケア時代は、都道府県・市町村・地域が主軸です。県連・法人は、総合的な中長期経営計画や地域包括ケア推進体制の設置など組織方針を策定、実践していくことが重要です。
 病院をめぐる情勢では、「二〇二五年医療・介護提供体制改革」へ向けて、病床機能報告制度の実施、地域医療ビジョンと地域医療・地域包括ケア計画の策 定、新専門医制度の実施など二〇一八年同時改定を視野に大きく動き出しています。その改革の中心は、病院・病棟の機能分化と選択を軸にした病院・病床の削 減・再編成です。特に、病床機能報告制度とそれに基づく地域医療構想の策定と協議が、その軸になる制度です。「地域医療構想区域」とその連携の中で、各病 院・病棟機能の評価と選択が、公開され協議が開始される時代になります。
 病院、診療所、介護、保険薬局などすべての民医連事業所は、その複合体の機能を発揮し、適切な急性期医療のあり方、病床数、地域包括ケア病床に求められ る機能など、議論の段階から計画・戦略の策定とその創造へ向けて現場からの発信を強めます。地区医師会、開業医等との連携を強化していきます。

3)地域包括ケアと共同組織の画期をつくる中長期計画

 地域包括ケアの推進を中長期計画に位置づけ、「おおむね中学校区」とされている日常生活圏域を単位に、在宅生活をささえる介護サービスの多機能拠点、在 宅医療や訪問看護による日常的な医療・健康管理、家族介護への支援や施設の展開、急変時の対応や在宅療養をバックアップする急性期・慢性期の入院機能、生 活の基盤となる施設や住まい、さらに家族介護者への支援、共同組織とともにすすめる保健予防・健康づくり、多様な生活支援・助け合いと居場所づくり、総合 的・継続的な相談援助・マネジメント機能など、それぞれの地域ごとの事情をふまえて総合的に検討する必要があります。
 そのために欠かせないのが第一に地域分析です。都道府県、市町村という行政区単位の分析に加え、病床機能の再編に対応した地域医療構想区域、地域包括ケ アの基本単位となる日常生活圏域を視野に入れた分析が必要です。とくに、日常生活圏域の分析では、医療機関・介護事業者の現状や日々の暮らしをささえてい る様々な社会資源などの実態をつかみ、今後どのような機能が必要とされるか明らかにすることが必要です。その際、介護事業所からの発信・提案に加えて、当 事者・生活者の立場から、共同組織(支部・班)が地域分析や計画づくりに参加することが重要です。第六期の事業計画策定に向けて各市町村が実施した「日常 生活圏域ニーズ調査」の結果なども有効に活用します。
 第二に、病床機能の展開と外来、在宅分野の総合的強化の一体的な検討です。病院からみて求められる在宅機能、在宅からみて求められる入院機能という双方 向からの発想が求められます。病床機能再編をめぐる動きの中で、ともすれば病床選択の議論に終始しがちですが、在宅医療・介護をふくめた検討が必要です。 訪問看護の強化はポイントのひとつであり、機能強化型ステーションへの移行など看護体制もふくめ法人としての総合的な視点からの検討が必要です。複合型 サービスや短期入所施設など、急性期入院と在宅の橋渡しとなる中間的機能を体系化し構想している法人もあります。地域包括ケア病棟については、地域包括ケ アを文字通りささえる機能を果たす病棟となるよう、実践を通して問題点・課題を明らかにし、必要な改善を求めていくことが必要です。
 第三に地域の要求や主体的力量をみきわめながら、場合によっては改めて施設体系全体を見直す中で拡充もしくは縮小する領域を明らかにするなど、従来の延 長線上にとどまらない思い切った判断も必要です。関連する法人相互の連携をふくめた保健・医療・福祉の複合体の強みを発揮し、地域から求められる新たな役 割を担うこともふくめ、計画を練り上げましょう。
 第四に、自治体への働きかけ、関係づくりを今まで以上に重視することです。自治体とくに市町村がどのような基盤整備計画・方針をもつかによって、民医連 としての事業展開も左右される可能性があります。それぞれの市町村の意向をしっかり把握し、各圏域で推進される地域包括ケアの一翼を担う立場で、地域の要 求や法人の構想を伝え、具体的に提案することが必要です。定期巡回訪問サービスや施設建設などの基盤整備のほか、第六期以降は医療・介護連携推進事業者や 認知症施策などが市町村を主体とする地域支援事業として本格化していきます。総合事業における住民主体の活動や生活支援コーディネーターの配置、協議体の 設置などは、今後の共同組織の活動とも深く関わっていく課題です。市町村との連携や地域支援事業の受託など、時機を逸しない対応が求められます。
 第五に、たたかいと切り結ぶ視点が重要です。無差別平等の地域包括ケアは、医療・介護総合法に基づく「安上がりな」提供体制への再編を許さず、医療・介 護保険制度の改善を求める運動課題として推進するテーマでもあります。また、運動を通して制度上の矛盾を是正させ、医療・介護事業の選択肢そのものを拡げ ていく視点が大切です。
 地域包括ケア時代、総合事業も含めて三六〇万共同組織の出番とも言えます。第一二回共同組織活動交流集会でも多くの実践が報告されました。全国的に共有 をはかることで飛躍は可能です。全日本民医連として共同組織のこうした活動を知らせるためのパンフレットなどを具体化します。またこうした画期を担う組織 担当者の育成にすべての県連、法人で本腰をいれてとりくみましょう。全国的な研修について検討していきます。
 全日本民医連は、今年八月に「地域包括ケア方針討論会(仮)」を開催し、無差別平等の地域包括ケアの論点提起を行い次期総会へ向けての節目の議論の場に していきます。無差別平等の地域包括ケアは、民医連事業所や共同組織が大きな転換を求められるテーマです。県連・法人では、積極的な議論や提案、実践を持 ち寄り討論・交流していきましょう。

(3)中長期経営計画を確立し、経営改善を実現しよう

1)中長期経営計画の確認

 経営面からは、民医連綱領の原点に立ち返った経営ビジョンを実現し、新しい価値を創造する中長期計画を作成することが求められています。民医連綱領を目 的に、法人・病院・事業所の理念を定め、どういう経営体となるのかを明らかにし(経営ビジョン)、それを実現するための計画と戦略を作るということです。 経営計画は医療や介護活動に裏打ちされたものでなくてはなりません。毎年の予算は、中長期経営計画を達成する戦略の中に位置づけて示すことが必要です。め ざす方向と段取りがわかれば、事業所、職場、共同組織の自発性が高まります。これが全職員の経営への前進です。
 一月には、全日本民医連として初めて中長期経営計画作成セミナーを開催しました。三六法人から一〇九人が参加し、中長期経営計画の重要性の理解を深め、中長期損益計画・資金計画作成方法の基礎を学びました。
 県連全体としてどのような戦略を描いていくのか、県・地域で民医連運動を総合的に展開していくために何が必要かなど、県連としての中長期戦略と計画の作 成・見直しも求められます。病床機能報告制度や新専門医制度の課題を県連としてどのように乗り越えていくのか、医師体制の困難克服、地域包括ケアを含む介 護分野への展開など、法人の枠を超えた早急な検討が必要です。また、一県連だけでは解決できない課題は、地協レベルでの交流や連携、相互援助を検討しま しょう。

2)「たたかう経営」で何としても経営改善を実現しよう

 二〇一三年度および二〇一四年度上半期決算が示すように、民医連医科法人の経営が深刻な事態に直面しているという事態をリアルに深く認識することが必要 です。これまでの延長線では、当面の事業展望さえ見失いかねない事態が広がっています。経営改善は緊急かつ重大な課題としてとりくまなければなりません。 医療・介護大転換時代に、全職員の力を結集し「たたかう経営」で、何としても経営改善を実現し、未来を切り開いていくことを呼びかけます。すべての法人が 二〇一四年度予算達成と、必要利益を確保する二〇一五年度の予算の確立をめざしましょう。
 民医連の経営路線の原点に立ち返り、非営利・協同の経営の前進をめざして、五つの提起を行います。
 第一に、必要なサービスを提供しながら経済的保障を求めるたたかいをすすめることです。民医連は、より身近な医療と介護のニーズに対応し、総合的に展開 していることから、このチャンスを生かせる条件があります。さらに、地域の中で連携につないでいきましょう。連携なしには身近な医療と介護のニーズとのミ スマッチは拡大します。地域医療と地域包括ケアをつくり上げていく上で、このミスマッチを解消していくことが、民医連が果たしていくべき役割です。必要な サービスを創り出して提供しながら、制度の拡充を求めて運動を強めていかなければなりません。
 第二に、法人内外との連携をさらに強固なものにし保健医療福祉複合体に発展させることです。少子高齢化社会の医療・介護ニーズに対応できる新規サービス 開発と展開も重要なポイントです。民医連の強みである共同組織の存在意義を生かしつつ、安心して住み続けられるまちづくりの視点で共同組織との連携と協働 をさらに強化することが重要です。
 第三に、総合的に推進するトップマネジメント機能を一段と引き上げることです。トップマネジメント機能強化の課題では、専務、事務長は法人、事業所の トップと協力して統一的な医療経営方針を練り上げることが求められます。そのためには、(1)政策に精通すること(厚生労働省、内閣府、経産省、総務省な ど)、(2)自治体の情報を確実に掌握すること、(3)医療圏の法人、病院、事業所などの動向を適時把握することが必須です。ここでいう情報はデジタル情 報だけではありません。日常の交流の中で得られる情報が極めて重要です。同時に、民医連の保健医療福祉複合体としての統治機構の質とネットワーク、協同の 質をさらに高めることが課題です。そのための仕組みづくり、あらたな組織のあり方についても検討していきましょう。全日本民医連として第二回理事長・院長 経営セミナーを開催します。
 第四に、管理会計の質の向上、会計制度の充実と再点検を行うことです。会計実務の整備と力量の向上をはじめ、民医連統一会計基準への深い理解と徹底、再 点検を行いましょう。経営がわかる医師や職責、医療にも情勢にも経営にも強い事務集団をつくることが喫緊の課題です。今期も六月から半年間、民医連統一会 計基準推進士講座を各地協で開催し二一〇人以上の推進士を育成していきます。
 第五に、県連経営委員会の強化と全国的な連携・共同の強化です。事業協同組合など県連の共同購入や共同事業は、事業所の経営を医薬品・材料費の面から守 るとりくみとしてますます重要になっています。事業所の医療・経営構造の転換をすすめる上で、まず県連として事業協同組合の活動の質をさらに引き上げ強化 すること、事業協同組合の今日的な存在意義をしっかりと位置づけ、指導・援助し強化させることが必要です。また、地協で、各県連の共同購入の現状の交流と 対策を強めます。全日本民医連、地協としての共同購入の強化について早急に具体化と実績を作るため全日本民医連として新たな体制の検討に入ります。

(4)民医連運動を担う職員の養成、全日本民医連の組織強化

1)民医連運動をすすめる職員養成の飛躍へ向けて

 「綱領を実践する職員の養成と職場づくりをめざして~全日本民医連教育活動指針~(二〇一二年版)」の本格的な実践をすすめましょう。さらに総会方針が 提起した「『人間的な発達ができる』民医連の職場づくりと管理運営の向上」について、具体的な実践を積み重ねながら深めることが重要です。
 特にトップ幹部、職場づくりの要である中間管理職、青年職員の養成を重視します。「自己責任論」の克服は引き続き焦点です。トップ管理者研修会、看護管理者講座を行います。
 総会方針で述べられている三つの物差し(いのち、綱領、憲法)で物事を考え判断できる職員養成が求められています。綱領を実践していく土台として、日本 国憲法について理解を深め、自分の言葉で憲法を語れることを目標に憲法学習を位置づけます。

2)県連機能のための当面の強化点

 県連機能を強化していくため、各県連理事会が県連事務局長会議の問題提起を討議、具体化しつつ、当面、(1)県連・法人の幹部集団が県連の役割と機能に ついてたえず認識と自覚を深めること、(2)県連理事会をはじめとする機構を、役割を果たすにふさわしい内容に整備し充実させること、(3)県連的団結を 促進する組織方針やルール、財政を確立することを具体化していきましょう。
 地協運営委員会と地協事務局長会議が、理事会方針と全国の経験の共有と実践の意思統一の場になり、各県連の実践がより高められるよう地協担当次長、常駐 役員の援助を強めていきます。全日本民医連県連事務局長会議のあり方も検討していきます。

3)全国課題

 第一二回学術・運動交流集会を二〇一五年一〇月、大阪で開催します。「戦後七〇年、平和憲法を守り抜き、戦争する国づくりを許さない運動を進めよう、無 差別平等の地域包括ケアの実現を目指そう、いのち、憲法、綱領の三つの視点から時代を見つめ、行動を起こそう」がテーマです。四一期の成果を全国から持ち 寄り成功させましょう。
 第一三回全日本民医連共同組織活動交流集会in東海・北陸(石川)の準備に入ります。次回看護・介護研究交流集会は、新潟県で開催します。事務幹部養成 講座卒業生のフォローアップを開始します。全日本民医連の広報活動の改善、強化をはかります。

おわりに

 第四二回総会へ向け、折り返し点に立ちました。沖縄のたたかいをはじめ、私たちは、この一年の実践を通じ、微力は無力とは決定的に違い、集まれば集まるほど大きな力になり、平和と人権を守る巨大な力になることを体験しました。
 「過去に目を閉ざす者は、結局のところは現在にも盲目になります。非人間的な行為を心に刻もうとしないものは、また、そうした危険に陥りやすい」と一九 八五年、西ドイツのヴァイツゼッカー大統領は訴えました。ドイツでは小学校の授業に九〇歳を超えるユダヤ人の高齢者が参加し、虐殺の実相を児童・生徒に教 え、過ちを繰り返さない国と国民を育てています。
 私たちは、平和憲法を守り抜き、若い世代、これから生まれてくるすべてのいのちにバトンタッチする大きな責任があります。
 戦後七〇年、被爆七〇年、平和と人権を掲げ、地域からさらなる国民的共同の前進の年となるよう全国で奮闘していきましょう。

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