民医連新聞

2015年4月7日

廃線の危機から救え! 地域の足 粟生線 兵庫・東神戸医療互助組合

 春の訪れを待つ里山に、「ウルトラマン電車」の愛称で親しまれる赤のラインの電車が走ります。神戸電鉄粟生(あお)線は、神戸で働く人たちや通学する学生の大事な“足”。この路線が「廃線の危機」と報道され、「ふるさとの鉄道を守ろう」と東神戸医療互助組合の皆さんが立ち上がりました。医療関係者が「鉄道を守る」? 民医連には、健康づくりやまちづくりに地域で活動するパートナー、「共同組織」が存在するのです。取材しました。(丸山聡子記者)

 神戸市中心部から電車を乗り継ぎ一〇分もすると、電車はぐんと高度を上げていきます。粟生線は神戸市の鈴蘭台駅から三木市を通り、小野市の粟生駅まで走る全長約二九キロの路線です。鈴蘭台駅に着くと、周辺にはすり鉢状に団地や住宅が続きます。
 「朝のラッシュ時間には踏切が開くのを待つ通勤客や高校生であふれ、賑やかですよ」。そう話すのは佐藤フミ子さん。東神戸医療互助組合(民医連の共同組織)北支部の運営委員です。駅舎から急坂を上がった自宅から、行き交う電車を見下ろせます。「看護婦をしていた頃は、来る日も来る日もこの電車で通いました。六人の子どもたちも通学に利用し、見送ったものです。廃線の危機と知り、驚きました」。二〇一〇年のことです。

670万人に影響

 沿線は神戸市街地に勤める人のベッドタウンとして発展。農地や自然も残り、急勾配、急カーブが続く山岳鉄道です。春には線路沿いの桜が乗客を楽しませ、冬は雪の峠越えとなることも。全校生徒約二〇人の小学校もあります。
 ピーク時の年間乗客数は一四二〇万人(一九九二年)でしたが、現在は六七〇万人と半数以下に減少。沿線の団塊世代が定年退職を迎え通勤客が減ったこと、バス路線の開通、自家用車の利用が増えたことなどが要因です。存続が危ぶまれる背景には一〇年連続で一〇億円超の赤字があります。
 神戸市、三木市、小野市と兵庫県、神戸電鉄は〇九年に「神戸電鉄粟生線活性化協議会」を発足。四〇億円の財政支援もしていますが、改善には至っていません。
 北支部の炭山美代子さんは、「いつも粟生線を使っています。近くに路線バスがないので粟生線がなくなったら途方に暮れます」。
 北神支部と北支部はこうした声を受け、「生活と健康を守る会」や新日本婦人の会、「北区の足を守る会」など地域の人たちと相談。「減ったとはいえ、六七〇万人の利用者に多大な影響が出る」「マイカーのない人や運転できない高齢者は引きこもってしまう」と翌一一年、九団体と個人で「みんなで乗って残そう神鉄粟生線・北区連絡会」を結成しました。(1)粟生線存続のための国の支援強化、(2)神戸市の敬老パス・福祉パスの神戸電鉄への適用を掲げ、署名にとりくみました。計一万五〇〇〇筆超を神戸市長に提出しています。

敬老パスで乗れる路線に

 反響を呼んだのは、「敬老パス(七〇歳以上は市営地下鉄、市バスなど小児料金で利用可)、福祉パス(障害者、母子世帯、生活保護世帯は、市営地下鉄、市バスなど無料で利用可=二〇一四年度から生活保護世帯は除外)を神戸電鉄に適用を」という項目です。
 神戸電鉄の運賃は神戸市内の他の交通機関と比べても割高なうえ、二つのパスが使えません。街頭で署名を集めると、高齢者が「運賃が高くて外出が減った。敬老パスが使えるならもっと出かけたい」と署名したり、障害児を連れたお母さんが、「バスは福祉パスが使えますが、障害者には不便で危ない。駅にはエレベーターもあるので、電車で福祉パスが使えると助かります」と話してくれたこともあります。
 一三年一〇月の神戸市長選では、候補者に公開質問状を送り、市長選の争点の一つに。久元喜造市長は、当選直後に「神戸電鉄に対し、敬老パスと同等の運賃割引策を講じたい」と明言しました。

“足”の確保はまちづくり

 神戸市は四月から、七〇歳以上を対象に三五〇〇円で一〇回乗り放題(年四回発行)になる優遇制度を一年間の社会実験として開始。連絡会の安藤歳昭会長は「運動が行政を動かした結果だが、三月まで神鉄が発行していたシニアパスより後退している。引き続き敬老パス、福祉パスの適用を求めたい」と話しています。
 連絡会では、行政の補助金を受け、粟生線に乗って出かける「応援乗車企画」も開催。昨年秋の五百羅漢を見に行く企画には七〇人が参加しました。ローカル線を守る運動をしている和歌山の「貴志川線の未来を“つくる”会」と交流したり、交通学の専門家を招いてシンポジウムを開くなど、住民とともに地域や公共交通のあり方を考えています。
 安藤さんは、「高齢化社会では住民の足の確保はまちづくりの要であり、全国に共通する課題。“住み続けられるまちづくり”の実践です」と話しています。

※共同組織…「安心して住み続けられるまちづくり」の実現を民医連とともにすすめる健康友の会や医療生協組合員などの組織の総称。約三六〇万の仲間がいます。

(民医連新聞 第1593号 2015年4月6日)

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