医療・看護

2015年4月21日

相談室日誌 連載390 障害年金保険料 納付要件の緩和を 村﨑一喜(鳥取)

 当院の精神科訪問看護を利用している患者の多くが就労困難で、生活保護や障害年金で暮らしています。
 Aさんは、父と知的障害の兄との三人暮らしです。Aさん自身は無収入で、父から毎月小遣いを貰っています。高校卒業後、美容学校で学び、二〇歳で県外に出て美容師に。しかし二三歳の時、部屋に引きこもっているところを家族に発見されました。以後約二〇年、統合失調症で入退院を繰り返し、二年前に当院へ転院、週一回訪問看護が入っています。
 美容師だったせいか、Aさんはおしゃれで、新しいアクセサリーを付けて私の訪問を迎えてくれます。しかし不調の時はアクセサリーを床に放り出し、うずくまっています。新しいアクセサリーを付けているかどうかが訪問時に調子を知るバロメータです。
 就労が難しいAさんの所得保障に障害年金を検討し、受給手続きを支援することにしました。初診から二〇年近く経っていましたが、幸いカルテがあり、初診証明が取れました。
 しかし問題が。ひとり暮らしを始めてから家族に発見される二三歳までの四三カ月間、保険料の納付は一六カ月間と判明。障害年金の受給要件には「保険料滞納期間が三分の一以上ない」「初診日前の一年間に保険料滞納期間がない」などがあります。障害年金受給の道はあっけなく閉ざされてしまいました。
 統合失調症に冒され、支援もなく混乱する人に、保険料を欠かさず納めろというのは難しい話です。保険料免除の申請ができれば良かったのでしょうが、当時は両親もAさんの陥った状況を知るよしもありませんでした。
 国民年金法では「年金制度は生存権に基づく所得保障制度」と謳っています。しかし、障害年金は納付要件にみられるように複雑で厳しい制度です。また障害認定基準も見直され、生存権に基づくものとはますます言い難くなっています。要件緩和や当事者の事情に配慮した運用、制度の周知が必要です。
 お父さんが亡くなれば、Aさんに残された所得保障の手段は生活保護しかありません。

(民医連新聞 第1594号 2015年4月20日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ