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2015年4月21日

「改悪」現場から問う 2015年度予算、医療改革法案 社会保障攻撃を整理する

 二〇一五年度予算が成立しました。予算は時の政権が何に力を入れているかを示すものですが、今回の予算は「今まで以上に“安倍カラー”が強い」と指摘されています。審議にのぼる予定の「医療保険制度改革法案」の内容も気がかりです。通常国会が開会して間もなく三カ月。予算の特徴と医療・介護をめぐる動きについて、社会保障政策に詳しい谷本諭さん(日本共産党政策委員会)に聞きました。(木下直子記者)

「三悪」予算

 安倍政権三度目の予算ですが、今回ほどその「カラー」が強く表れた予算はありません。社会保障削減、大企業減税、戦争する国づくりという「三悪」が盛り込まれています。
 【社会保障削減】の大きな特徴は、社会保障予算の「自然増」の削減に手をつけたことです。
 安倍政権は、昨年六月に決定した「骨太の方針」に、「医療・介護を中心に社会保障給付についていわゆる『自然増』も含め聖域なく見直し、徹底的に効率化・適正化する」と明記しました。高齢者の増加などで、制度を変えなくても増えていく「自然増」を減らすには、今の制度を切り詰めるしかありません。
 社会保障予算の「自然増」削減は、小泉政権の時代に毎年二二〇〇億円の規模で行われ、「医療崩壊」や「介護難民」が社会問題になるほどの打撃を与えました。ところが、今回の削減額は、計三九〇〇億円にのぼっています(表1)。「社会保障のため」といって消費税を増税した直後に、社会保障を大削減する予算を組んだのです。
 二つめは【大企業減税】です。法人税率を引き下げ(二五・五%↓二三・九%)、資本金一億円超の企業を対象に地方税の法人事業税の所得割も引き下げます。総額一・六兆円もの減税です。
 黒字企業に減税する一方、赤字企業には、外形標準課税の拡大などの増税を行います。「アベノミクス」は、個人の貧富の格差を拡大するだけでなく、企業の格差を拡大する方向にも舵を切ったといえます。
 三つめの特徴は【軍事費】で、当初予算としては史上最高の四兆九五六〇億円になりました。安倍政権が組んだ一四年度当初予算、同補正予算、一五年度予算の軍事費を合計すると一〇兆円を超えました。
 問題は、額だけではありません。今年調達する装備は、オスプレイをはじめ、F35戦闘機、護衛艦・潜水艦、水陸両用車など明らかに自衛隊が海外に出動することを想定した内容です。
 米軍関連の三つの予算、「思いやり予算」「SACO関連経費」「米軍再編予算」の合計も過去最高。辺野古の新基地建設予算は昨年度の二一億円から、八〇倍の一七三六億円に。まさに、戦争する国づくりを体現しています。

表1

改悪の3つの流れ

 自民党は、「三党合意」で消費税増税が決まった直後に政権に返り咲きました。そして、増税が決まったからには“ニンジンはいらない”とばかりに、社会保障を正面から否定し始めました。彼らがやりたいのは、大型公共事業の復活や大企業減税、戦争する国づくり。「社会保障にまわす予算などない」というのが本音でしょう。
 今年は、安倍政権の社会保障改悪が波状的に現場に押し寄せる年です。それには三つの流れがありますので、整理して押さえておきましょう(表2)。
 一つめは、過去に法律や政省令が変えられており、今年実施される改悪です。「マクロ経済スライド」による年金削減、昨年可決された「医療・介護総合法」による負担増と給付削減、生活保護の扶助基準の引き下げなどです。
 二つめは一五年度予算による制度改悪で、史上最大規模の介護報酬削減、生活保護の住宅扶助・冬季加算削減などです。
 三つめが「医療保険改革」で、今国会に法案が提出されています。入院食事療養費の値上げ(二〇一六年度から実施予定)、後期高齢者医療保険料の引き上げ(一七年度から実施予定、予算措置なので法案には入らず)、国保の都道府県単位化(一八年度から実施予定)、「患者申出療養制度」の導入、医療費削減計画などが盛り込まれています。法案は、この四月から衆議院で審議入りします。

表2

安倍流独自の特徴

 この間、安倍政権が強行した社会保障切り捨てには、独自の特徴がありました。
 たとえば、小泉政権時代の改悪は、「二割だった窓口負担を三割にする」など、“量的な改悪”が中心で、国民多数にその痛みがすぐに実感できました。これに対し、安倍政権の介護・医療分野の改悪は、“質的な改悪”が柱です。
 たとえば、要支援者の介護サービスを保険から市町村の支援事業に移す改変は、要支援者を介護保険から追い出すという制度の大変質ですが、その痛みを専門家や当事者以外に伝えるのには苦労がいります。「特養入所を要介護3以上に限る」「地域包括ケア病床をつくり、入院患者の追い出しを強める」なども同様です。
 「制度の変更後も、要支援者は自治体が適切に支援する」「要介護1・2でも困難があれば特例入所を認める」などの“とりつくろい”も特徴です。それも、改悪の分かりにくさを助長しました。
 介護サービスの利用料の二割への引き上げや介護施設の食費・居住費の負担増など“量的な改悪”もありますが、その対象になるのは「収入や預貯金が一定額を超える人」とされ、改悪の影響を小さく見せかける“ごまかし”が連打されています。
 こうした姑息な“とりつくろい”や“ごまかし”の一方、「高齢者のせいで若い世代が苦しんでいる」「生活保護の受給者が優遇されている」など、国民を分断する宣伝で年金や生活保護の削減が繰り返されてきました。

悪法阻止へ運動を

 しかし、「自然増削減」を宣言した安倍政権はいまや、どんな言い訳も通用しないような社会保障の全面改悪に乗りだそうとしています。その最たる例が、介護報酬削減でしょう。
 注目されるのは、世論の反応です。安倍政権は報酬削減に反対する事業所・施設を黙らせようと、「介護施設はもうけている」など、国民分断の宣伝をふりまきました。ところが、報酬削減に憤る声は、利用者や家族、国民全体に広がり、マスコミからも批判の記事が出されたのです。介護離職の激増、深刻な人手不足による提供基盤の崩壊など、介護問題はいまや国民全体、特に現役世代の不安要因です。そんな時に、“介護の予算を削る”という暴挙に、多くの人が敏感に反応したのです。
 消費税増税による生活苦、アベノミクスによる格差拡大に多くの国民が不満をマグマのようにたぎらせています。安倍政権が行おうとしている改悪は、どれもが国民的運動の発火点となっておかしくないものです。医療・介護現場や暮らしの実態から、改悪のひどさを告発し、悪法阻止の運動を広げることが大事だと思います。
 入院食事療養費の引き上げは、若年世代を標的にしています。低所得者を狙い撃ちにする後期高齢者医療保険料の負担増は、「姥(うば)捨て山」と呼ばれた差別制度の本性をむき出しにする改悪です。国保の都道府県単位化は、市町村国保の財布のヒモを都道府県に握らせ、差し押さえの強化や保険料の値上げをすすめるものです。これらの暴露と告発が求められます。
 財源の問題をめぐっても、格差の拡大を指摘したフランスの経済学者・ピケティがブームとなり、「税金はあるところからとるべき」ということが共通認識になってきています。
 「社会保障を削るしかない」という議論に対しても、年金は消費をささえ、国民の健康増進や介護の社会化はGDPの成長にもプラスになると学問的な立場から反論する本が出てきています(盛山和夫著『社会保障が経済を強くする』など)。
 社会保障を充実してこそ、経済も財政も立て直せるという展望を大いに語っていく時でしょう。

(民医連新聞 第1594号 2015年4月20日)

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