事業所のある風景

2015年7月15日

奈良/土庫こども診療所 地域に貢献できる総合的な小児医療施設として

 奈良・健生会は1955年、地域の人々が自らのいのちと暮らしを守っていきたい、と力を寄せ合い、大和高田市土庫の民家の6畳一間を借りて、夜間診療所を開いたのが始まりでした。その歴史は、草創期の「医療を自分たちの手で」との願いから地域の方々と先輩方の共同の活動の歴史です。現在は大和高田市、桜井市、河合町など奈良県中和地域と生駒市に1病院、5診療所、1介護老人保健施設、6介護事業所を運営する法人へと発展しています。土庫こども診療所は、当時はまだ珍しかった「小児科単科の近接診療所」として、1983年に土庫病院の隣に開設しました。

患者1人ひとりを大事に…

 大和高田市は、古くからの商業都市であり、開設当時は、大阪へのベッドタウンとして開発も進み、子どもたちも多く、ときには深夜にまで外来が続くこともありました。
 電子カルテもなく予約制でもないなか、あふれる患者1人ひとりを大事にする初代所長の横山知司医師(現健生会理事長)と当時の職員の奮闘ぶりは伝説になっています。1990年以降の不況と少子化の波がこの地域を襲い、外来患者数は全盛期の半分以下にまで落ち込んでいます。しかしその中でも、小児二次輪番、アレルギー外来や低身長外来など特色ある活動を続け、地域からは「困ったときはぞうさんの診療所へ」(マークがぞうさん)という確固たる評価を得ています。

あらたな画期を迎えて

 そして健生会60周年にあたる今年、土庫こども診療所もあらたな画期を迎えようとしています。
 健生会中期構想に基づき、「こどもの格差と貧困」「子育て支援」へも活動の幅を広げていこうというとりくみを始めました。ひとつは4月1日に開始した「無料低額診療」事業です。この時点で奈良県の診療所では、1つも行っていませんでした。
 要件として、「生活保護」や経済的困難な患者の自己負担を免除した件数が全体の10パーセント以上というハードルがあります。小児科は乳幼児医療利用者がその対象から外れるため、なかなか困難でしたが、行政とも交渉し、「こどもの貧困対策」の一環であることを訴え、奈良県の診療所としては初めて受理されたものです。今後、「就学援助」世帯などへの働きかけを学校とも連携して進めていきたいと思います。
 もう1つは「病児保育」事業です。6月1日にオープンした土庫こども診療所病児保育園「ぞうさんのおうち」は、奈良県で6番目、大和高田市で初めてのものであり、周辺3市4町(さらに2町が希望を出しています)とも協定を結んだ広域型の事業としても珍しいとされています。そのため、新聞社はもとより、NHKテレビの取材も入り、開設日夕刻のニュースで放映され、地域の話題となりました。

「子どもの貧困」と立ち向かいながら

 少子化が進むなか、まだまだ経営的には困難な時代が続きますが、「子どもの貧困」と立ち向かいながら、地域に貢献できる総合的な小児医療施設として、挑戦を続けたいと思います。
土庫こども診療所 事務長 高崎 大史)

「民医連事業所のある風景」 『民医連医療』2015年8月号 No.516より

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