健康・病気・薬

2015年7月21日

12月からスタート ストレスチェック制度 民医連の視点では―?セミナー開催

 今年一二月から事業所に労働者の「ストレスチェック」の実施が義務づけられます。全日本民医連は六月二〇~二一日に「ストレスチェックセミナー」を開き、一三一人が参加しました。制度の内容や課題、実施にあたって、民医連の健康職場づくりの視点からどう臨むか、などを意思統一。制度の全体像と職場でのストレスマネジメントについて学んだ集会初日からみていきます。

 ストレスチェック制度は、自殺者が年間三万人を超える事態を背景に、メンタルヘルス疾患の早期発見=二次予防目的で二〇一〇年に提言されました。一度国会で廃案になりましたが、一三年の労働政策審議会でメンタルヘルス不調防止の仕組みとして再浮上。目的は、一次予防の「ストレス状況の検証」に変わっています。

▼制度の特徴と懸念

 セミナーでは、全日本民医連の職員健康管理委員の松浦健伸医師が問題提起を行いました。
 「活用の仕方によっては有効になりうるが、有害にもなりうる」というのが同制度への民医連の見解です。制度は「労働者に受検義務はない」「結果は事業主に通知しない」などの特徴があります(別項)。また、事業所内だけで制度に対応することが難しいため、少なくない事業所が外部資源である民間のEAP(従業員支援プログラム)に頼る可能性が。その結果、事業所内部で職場環境を改善する努力が弱まるおそれも指摘されています。
 特に労働者の立場からは、受検結果が人事考査に反映されたり、ストレスチェックを実施した事業所のスタッフが、人事権を持つ管理者に労働者の情報を漏らさず守りきれるかなど、不利益につながるかもしれない、という問題がつきまといます。職場での評価が下がることを恐れ、正直に回答しなかったり、検査の結果「面接が必要」とされても申し出なかった場合は、精神疾患の発病や悪化の責任が労働者本人に問われる懸念もあります。

▼民医連ですすめる視点

 民医連事業所で制度にどう対応するかは、「健康で働きつづけられる職場づくり」がトップの責任だと職員に宣言する、制度を〇次または一次予防に資することを第一にする、制度の意義や目的の職員の周知徹底と一〇〇%の受検率をめざす、などがポイントです。
 その上で、制度を考慮しつつもとらわれず、これまで全日本民医連が示してきた「健康職場の五つの視点」(上)を基本にすすめる、と強調されました。
 そして問題提起は「政府の社会保障解体の攻撃で、医療福祉の現場には、今後一層の厳しさが予想される。安全性や質の向上、経営問題などで職員の健康問題や健康職場づくりは焦眉の課題。ストレスチェック制度の限界を十分理解し、現場にあったあるべき健康職場づくりをすすめよう」と結んでいます。


ストレスチェック制度の特徴

(1)健康診断や長時間労働者の面接指導からは独立
(2)結果は事業主に通知しない
(3)実施者は看護職や精神保健福祉士などでも良い
(4)労働者に受検義務はない
(5)職場環境の改善は事業主の努力義務
(6)50人未満の事業所では努力義務
(7)派遣労働者は事業主の努力義務で、個人対応は派遣元、集団対応は派遣先が行う
(8)職場でストレスチェックが有効か、またそれが職場環境改善に有効かは未確証

健康職場の5つの視点

□個人にとって適度な質的量的負荷となっているか
□職員の安全・安心が保たれているかどうか
□技術的に研修の保障がされているか
□使命が明確で評価されているか
□ライン内・職場間・職種間で少数意見が保障されコミュニケーションが向上しているか


 

〈学習講演〉東京大・島津明人准教授職場のメンタルヘルス 職員と組織の活性化に向けて

 東京大学准教授の島津明人さんが講演しました。
 島津さんは職場のメンタルヘルス対策には一次予防(未然防止)、二次予防(早期発見と対応)、三次予防(治療、職場復帰、再発防止)とあるが、労働環境の変化を背景に、健康度の底上げをはかる「〇次予防」が重要だと語りました。
 そして、こころの健康の新しい考え方の「ワーク・エンゲイジメント」(仕事に誇り・やりがいを感じ/熱心にとりくみ/仕事から活力を得ている)を紹介。「燃え尽き」と対極の概念で、これが高い人は、心身の健康度や組織への愛着が高く、仕事を辞めにくく、生産性も高いと分かっています。仕事にエネルギーを注ぐ点ではワーカーホリックと似てみえるが、仕事を楽しんでいるか「強迫的に」働いているかで違うと島津さんは整理しました。
 活力ある職場づくりのために必要なこととして、健康対策を産業保健と経営が協調して行う、現場の改善のために現場の個々人が関わる、組織の強みを伸ばす視点、などをあげました。加えて、日本特有の問題で、四〇~五〇代が子育てと介護の両方に直面する「サンドイッチ世代」だと認識しよう、と指摘しました。(木下直子記者)

(民医連新聞 第1600号 2015年7月20日)

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