介護・福祉

2015年11月3日

第12回全日本民医連 学術・運動交流集会in大阪 「壊す国」に地域から別の答えを出そう

記念講演
憲法が活きる自治体を目指して 南信州阿智村の実践から
長野県阿智村 前村長岡庭一雄さん

 全体会では「住民主体の村づくり」を掲げ実践した長野県阿智村前村長の岡庭一雄さんが記念講演しました。概要を紹介します。

 岡庭さんは冒頭「安倍首相が来夏狙う憲法改定を容認するか、いまの憲法を維持・発展させるかの選択が国民に迫られている」としました。また政府が「道州制」など地方再編を狙い「自治体消滅論」を流していること、自民党の憲法改正草案は国が地方の統制を強める内容であることなど、地方自治の危機も解説。そして話は日本国憲法の地方自治の位置づけ、住民自治の在り方へと続きました。

戦争放棄と地方自治

 戦後の新憲法に新しく入った項目は二つで「戦争放棄」と「地方自治」でした。明治憲法下では地方は国家の補完物で、特に戦時は兵士の召集や物資の配給から戦意高揚まで総動員の役割を担いました。長野も満蒙開拓団を出し、敗戦後の引き揚げ(死の逃避行)で、多くの犠牲を出しました。
 憲法の「地方自治」はこうした戦争の反省からできました。ですから地方自治体は、現憲法が目指す民主国家を構成する重要な制度です。憲法が最大の目的とする「人権尊重」は、自治体でも最高の行政課題でなければなりません。
 また自治体には政府から独立した「地方自治権」が必要です。沖縄が分かりやすい例ですが、国の誤りを修正するのが住民に最も身近な行政機関の役割です。ちなみに自民党の改憲草案は、この地方自治権を削除しています。

住民自治ということ

 地方自治権を形成するのが「住民自治」で、「住民は政治をすすめる主体で、利用者でもある」ということです。首長選挙で「○○市は○○市最大の企業ですから、皆さんのご要望に応えます」などと演説されますが、これは「行政執行機関が主体で住民は準主体」という誤った発想です。スーパーなら棚に並べる品物を決めるのは店ですが、自治体ではそれも住民が決めることです。自治体行政は一時的に執行権を与えられた代理人なのです。

村でのエピソード

 住民自治の発展は住民が地域づくりの主体者として地域の課題の解決に動けるかどうかがカギです。
 国の施策が変わり、施設にいた障害児たちが家庭に戻ってきた時期がありました。阿智村ではそうした障害児の親たちが、子どもの居場所を村に要望しました。私は「他の村民にも支持される中身が必要」と返しました。村には村のことを考える五人以上の集まりを支援する「村づくり委員会」制度があります。親たちはこの課題で委員会を作り、外に勉強に行き、公民館の研究集会で報告しました。これを聴いた村民は、親たちを応援し始めました。
 最初の要望から一年後、「社会福祉法人を作る」という提案を親たちが持ってきました。これが村議会で通り、実現しました。いまは周辺自治体からも利用者が来る施設になっています。こうした委員会は約七〇。図書館づくりの委員会はメンバーの一人が司書の資格を取り、運営に入りました。地域にゼロだった訪問看護事業所を作った委員会も。運動は「要求」だけでなく「描く」ことも重要です。
 また、先の施設では、措置制度の改正で、通所日数が半減した子が出て、制度改善を求める運動になりました。住民自治は国の主権者も育てる。ですから地方自治を「民主主義の学校」と呼ぶのです。憲法を活かす政治のポイントです。
 なお「多数決は民主主義」との主張がありますが、地方自治に多数決は使うべきでありません。統治する側には便利な方法ですが、少数者の人権が侵害される恐れがあるからです。住民は互いの権利を尊重し、言論を保障し、皆が一定納得できる結論を導き「時間と忍耐・高度な抑制と理解」ですすむしかありません。

福祉型の自治体へ

 国が社会保障費を大幅に削減しようとしているいま、地方自治体は社会保障にシフトをすべき時です。
 民医連の力が待たれています。我々自治体から見れば皆さんは「医療の住民」です。蓄積を地域に還元し「地域包括ケアをささえる力を我が町は持っているのか? 国の描く地域包括ケアで良いのか?」と話し合い、「壊す国」に対し、地域から別の答えをつくりあげてほしい。福祉型の自治体づくりは憲法二五条を守る国につながります。
 戦後七〇年間、憲法に守られていることをあまり意識してこなかった私たちが、憲法を守り・高める流れを作ることは戦争しない国を作ることでもあります。これが憲法一二条のいう「不断の努力」だと思うのです。


 98年2月~阿智村村長。14年に引退するまで、観光と農業振興や集落維持と若者の定住、子育て支援充実などにとりくむ。「小さくても輝く全国自治体フォーラムの会」顧問。著書に『「戦争する国」許さない自治体の力』など

(民医連新聞 第1607号 2015年11月2日)

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