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2015年11月17日

なぜ受診を控えたか? 重症化生む保険証とりあげ ―― 青森・健生病院 ――

 「国保被保険者資格証明書の患者さんで、重症化してやってくる人が目立つ」こんな発信が青森県の健生病院(二八二床・弘前市)からありました。正規保険証の取り上げが、医療にかかりたくてもかかれない受診抑制を生んでいます。同院では、この状況を放置できないと市に改善も要求。取材しました。(土屋結記者)

■「がまんしていた」と患者は

グラフ 「今年度は八月までで、資格証明書で受診した方が八人いました」と地域連携室の看護師・堀川恵さん。二〇一四年には、ひと月で一〇件を数えたことも。今年は、重症化した人が続きました。
 五月に受診した七〇代のAさん(女性)は、誰がみても黄疸と分かる状態でした。進行した胆管がんと診断されました。二月に体調不良で他院を受診し、肝機能の異常で精査をすすめられていました。息子と知的障害のある孫と三人暮らしのリンゴ農家で、昨年一〇月から資格書に。保険料も医療費も支払えず、不調をがまんして家で寝ていたそうです。入院治療で一時回復し、自宅へ戻りましたが、間もなく亡くなりました。
 六月に右半身麻痺で救急搬送されてきた七〇代のBさん(女性)は脳梗塞でした。糖尿は指摘されていたものの、HbA1cが一四・七、血糖値は三四三と、コントロール不良でした。世帯は弟と息子の三人で、年金と農家の日雇いの仕事など、その日暮らしで受診の余裕はありませんでした。「調子は悪かったけど、お金が無くてがまんしていた。本当にお金が無いんです…すみません」とBさんは語りました。現在も通院中ですが、経済的理由で中断する可能性もあり、支援の継続が必要です。

■県内最多の資格書発行

 弘前市は昨年、県内一〇市で資格書発行が最多でした。同院では昨年の時点で、資格書の患者が増えたことに目を留めていました。
 今年の事態は「資格証明書の交付で受診が抑制されている表れ」と、八月七日に改善を求め弘前市と懇談。(1)低所得者世帯への資格証明書の発行中止、(2)相談窓口のワンストップ化、(3)資格証明書世帯の国保料滞納理由や受診状況・健康状態についての調査と情報公開の三点を要望しました。
 弘前市は一年以上理由なく国保料を滞納した世帯に短期保険証を発行しています。それからさらに半年~一年以上の滞納で、検討会で資格書発行を決定します。
 「払えない理由があれば、相談に来るように」というのが市の指示です。しかし、公共交通網が不十分で、自家用車での移動が難しい人は市役所に行くこと自体困難です。なんとか行けても関係窓口が複数あり、手続きの難しさから途中で諦めてしまう人もいます。また、滞納世帯には滞納理由などを記載する「弁明書」が送られ、その内容が資格書を発行するかどうかの判断材料にされています。しかし、弁明書が届いても何を書けば良いか分からない人も少なくありません。
 国民健康保険証は、病気治療中の人からとりあげてはならないというルールがあります。市は受診歴のある人はレセプトで病状を確認し短期証を発行する、と説明しますが「金銭的余裕が無く、慢性疾患でも自覚症状が薄い場合は、受診しないでしょう」と安田肇理事長。受診しなければレセプトはなく、病気があってもAさんやBさんのように資格書が発行されてしまいます。
 SWの工藤聡子さんは、こうした患者さんの相談にあたっています。「生活保護の申請もすすめますが、『頼らず何とかしたい』と言う人たちばかり」と話しました。生活保護を受ける場合、車を手放すことを求められ、生活が成り立たなくなるからです。「長時間労働・低賃金で、相談する時間も金もなく、払いたくても払えない人が多い。市は機械的な対応をやめてほしい」と怒ります。
 また、滞納の回収を優先する窓口対応の問題を安田理事長は指摘します。「短期証の人が窓口に相談に行けば支払いを求める。資格書でも、受診して償還払いの手続きに行くとやはり国保料を支払うよう言う。これではますます病院から足が遠のいてしまう」。

■事例を集めて改善させたい

 病院の要求に対する市の反応は「まず窓口で相談を」「人員や予算が足りない」などと平行線です。「患者さんの事例を積み、そこから問題を見つけ発信していきたい」と堀川さん。
 田代実院長は「病院にかかりたくてもかかれない市民がいることがおかしい。そうした問題意識を市と共有したい」と話しています。引き続き状況を注視しつつ、「ほかの民医連事業所の情報があれば参考にして改善案を考え、少しでも前進するよう市に働きかけを続けたい」と話しました。


 今年度、健生病院を受診した資格書患者

□すい臓がん多発肝転移で予後6カ月。医療費がないためがまんしていた(60代)
□検診後の精査。非結核性抗酸菌症(50代)
□胆管がんで予後約1年。同居の息子にも資格書が発行(70代)
□腸閉塞。他院に入院した時は息子の障害年金で全額を支払っていた(60代)
□脳梗塞。糖尿病未治療。同居の息子は日雇い労働者で資格書(70代)
□熱中症で救急搬送(50代)
□ぜん息発作。治療を中断し悪化した(70代)
□るいそう(痩せ)で緊急入院。椎間板ヘルニアを治療できず動けずにいた(60代)

(民医連新聞 第1608号 2015年11月16日)

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