MIN-IRENトピックス

2015年11月17日

災害時の対応から、“まちづくり”まで 保健予防・ヘルスプロモーションを考える〈民意連交流集会〉

 全日本民医連は九月一二~一三日、保健予防・ヘルスプロモーション活動交流集会を東京都内で開き、三六県連から二〇〇人超が参加しました。交流集会は二年ごとに開催。今回は、地域包括ケア時代の民医連の保健予防・ヘルスプロモーション活動の意義と課題を明らかにし、大災害時のヘルスプロモーション活動のあり方を深めること―などが目的です。一日目は全体会、二日目は四つの分科会を行いました。

 一日目の全体会では、全日本民医連を代表して根岸京田理事があいさつ。保健予防・ヘルスプロモーション委員会の伊藤真弘委員長が問題提起を行いました。
 伊藤委員長は、民医連が大事にしてきた「疾病を労働と生活の場から捉える」「医療は共同の営み」「安心して住み続けられるまちづくり」などは世界の潮流になっていると報告。「疾病の自己責任論を克服し、国がめざす安上がりな地域包括ケアに対峙する無差別・平等の地域包括ケアの実現を目指そう」と呼びかけました。

災害復興と社会関係資本

 東京大学の近藤尚己准教授が「災害復興に向けたソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の醸成」と題して基調講演。山梨の助け合いの仕組みの実例などを紹介しつつ、社会的孤立や低収入、低学歴の人ほど要介護状態や病気になりやすいことをデータで説明。東日本大震災後の健康状態について分析。スーパーなどへの距離が長いと閉じこもりリスクが高く、バス導入で改善した例などを紹介しました。
 「被災地で活動した医療従事者は災害に備えるアイデアを持っている。行政の災害医療計画に反映させてほしい」とアドバイス。「民医連はソーシャル・キャピタルから外れやすい人たちを知っている。その視点で活動を」とまとめました。

〈パネルディスカッション〉
  被災地から考える

 後半は、パネルディスカッション「被災地を通して見えた まちづくりの課題を考える」。
 矢崎とも子さん(医師・宮城・坂総合病院)が被災直後から現在までの被災地の健康状態について、飯塚正広さん(宮城・あすとコミュニティ構築を考える会代表)は、民医連の長町病院とも連携して仮設住宅で孤立死を出さず、健康づくりにとりくんできたこと、復興住宅に転居後は新たなコミュニティづくりなどの課題があることを報告しました(資料)。
 阪神大震災から二〇年が経過した神戸からは、牧秀一さん(NPO法人よろず相談室理事長)が報告。就職差別や家族離散、コミュニティの分断など被災地が直面した問題を伝え、手紙での交流などの継続したとりくみを紹介しました。

資料

夜の2セッション

 夜のセッションは「保健師の後継者育成」と「震災時の避難所開設シミュレーション」の二テーマで実施。
 「避難所開設シミュレーション」では、矢崎医師をコーディネーターに、「ライフラインが全て止まった高台にある小学校の体育館が避難所として開放された」と仮定し、自分が避難所の責任者となったつもりで考えました。(1)設営時に考えること↓トイレ対策、土足禁止など居住空間の衛生管理、医務室設置、水と食料の確保など、(2)医療者として考えること↓透析患者、一型糖尿病患者、在宅酸素、胃ろうの人、介護度の高い人、精神疾患、障害者への対応、(3)翌日以降に何をするか↓情報把握と発信、名簿作成、非常食対応困難者の把握、プライバシーの確保、などと整理されました。
 設営時のシミュレーションで名簿作成を挙げる班も多くありましたが、矢崎さんは「東日本大震災では、津波で濡れた着の身着のままの人も多かった。必死の思いで辿り着いた被災者に、最初に名簿を作って…というのは不可能。それより大事なことは?」などとアドバイス。参加者からは「トイレの工夫や感染症対策など、意外と思いつかないことも多く、現場でも具体的なシミュレーションが必要だと痛感した」などの感想が出ていました。

分科会から

「民医連らしい保健予防活動の実践」
健診後のフォローや健康づくりで保健師らが議論

 「民医連らしい保健予防活動の実践」では保健予防活動にとりくむ職員が学び合いました。
 東京土建国民健康保険組合の保健師・山藤愛子さんが「建設労働者の生活と労働の視点からみた健康問題」と題して報告。同組合は、建設労働者と家族の負担軽減を目的にした国保組合です。
 二〇一四年度の「しごと・くらし・健康に関する実態調査」では、休日は週一日、労働時間は毎日一二時間以上という人が平均的で、休憩場所がないことも多く、現場で危険な目にあったことがある人が六割―などの実態が浮き彫りになりました。疲労が蓄積し、食後二時間以内に就寝、昼食を抜くことも多く、昼食は現場で食べたり、作業服でも入りやすいラーメン屋などを利用すると回答。喫煙・飲酒習慣も多く、五〇代では二人に一人が高血圧傾向、六〇代では二人に一人が高血糖です。
 山藤さんはこうした実態を踏まえ、面談時に連絡方法や連絡がとれる時間帯を確認する、休憩時間や現場作業のない雨の日に連絡する、など工夫して保健指導にとりくみ、特定保健指導を受ける人が増えていると紹介しました。
 埼玉・浦和診療所の中島祐子さん(保健師)は職員の健康づくりを報告。WEB上に毎日の歩数を記録するウオークラリーは結果が見えやすく全員が達成。一方、体力チェック&ヘルスチャレンジは達成感が見えにくく、職員の四分の一しか達成できませんでした。
 兵庫・東神戸病院の横山篤子さん(保健師)は健診後の活動を報告。保健師が電話連絡を開始。フォロー方法をマニュアル化し、保健予防科全体でとりくみ、フォロー数は五倍に増加。「致命的な病気でも放置する人が多く、タイムリーな連絡が受診につながるとわかった」とまとめました。
 健診後のフォロー方法や結果の活用について討論しました。

「共同組織とともにすすむ健康なまちづくりと後継者育成」
多彩な実践学ぶ

 民医連の共同組織と協力した健康なまちづくりの実践交流と、地域で活動する構成員をどう育てるか、などを討論しました。
 基調報告した根岸理事は、政府の医療政策が、公的責任を投げ捨て、営利企業の儲けの手段になるよう社会保障を構造からつくりかえようとしていると指摘。地域では貧困と孤立化が拡大し、「健康」を自分や地域の問題ととらえ、主体的に動ける市民を増やすことが無差別・平等の地域包括ケア実現につながる、と語りました。
 指定報告は三本。東京保健生協の組合員・吉田一夫さんは、高齢化する団地での高齢者の見守りやサロン活動を語りました。同生協は昨年、高齢者見守りネットワーク事業協定を練馬区と締結、自治会主催のサロンにも協力中です。「一一万の構成員の生協は町会より大きい組織」と吉田さん。「孤独死ゼロ・おせっかいなまちを」と目標を語りました。
 大阪・淀川勤労者厚生協会の三本松和也組織部長は「無料塾」について。子どもの貧困に対して動こうと昨年始動。月一回三カ所で開き、計五〇人超が参加。子育てにかかる負担、維新市政の影響、子どもをめぐる深刻な実態を知る機会になりました。講師の確保や困難な家庭の子とどうつながるか、など課題も報告しました。
 看護部の教育要綱に「健康の社会的決定要因(SDH)」の学習を盛り込んだことを紹介したのは、埼玉協同病院の稲村まゆみ看護副部長。昔から日雇い労働者が多い東京の山谷地区で行われている「医療相談会」に参加するフィールドワーク研修を行った主任研修の実例と、そこで気づいたことが日常業務にも反映されていることを紹介。「SDH問診」の導入や医療生協組合員さんとの協同、地域の他の事業所と「地域連携看護師会」を立ち上げるなどヘルスプロモーションの視点があってできた成果も語りました。

(民医連新聞 第1608号 2015年11月16日)

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