MIN-IRENトピックス

2015年11月17日

歯科分野で国際シンポ 〈JAGESが開催〉 口の中の健康と社会格差

 口の中の健康と社会格差の関係を考察し、健康格差をどうなくしていくか―東京で国際シンポジウムが開かれました。九月二七日、日本老年学的評価研究会(JAGES)が主催し、全日本民医連も共催した「健康の社会的決定要因と健康格差の縮小―歯科分野の研究と政策の観点から」の国際シンポジウムの様子を紹介します。会場の東京大学には歯科医師、医師、衛生士、研究者など約六〇人が参加しました。
 ユニバーシティカレッジ・ロンドンの疫学公衆衛生学部学部長のリチャード・ワット先生の講演と、日本の歯科医師三人が報告とシンポジウムを行いました。(田口大喜記者)

 ワットさんは、「口腔の健康格差の研究と政策の国際センター」を今年発足させました。健康格差の問題と口腔の健康を関連付け、また健康格差を無くすために社会にどう働きかけるか? をテーマに、世界各地の健康格差データを示して講演しました。冒頭、「健康格差とは、身長の高低のように『たまたま』では済ませられない格差。受け入れられないほど不公平なものです」と語り、所得差と健康格差が比例していることを説明しました。また健康格差は、「貧しい人の問題」ではなく、子どもから大人まで、世界中で地域に関係なく、全員に当てはまる問題だとしました。特に歯科は最も有病率が高く、社会への影響が大きいという特徴が報告されました。
 健康格差の広がりを防ぐ課題では、貧しい人に積極的に検診を呼びかけること、またそれは個人を促すだけでなく、法律自体を変えることも重要だと指摘。地域ごとに何が問題なのかを把握した上で、行政、施設への働きかけや政治家に要求をすることの必要性を語りました。

■様ざまな視点から

 東北大学の相田潤准教授は、「歯科疾患の健康格差とその解消を目指して」をテーマに報告。日本のう蝕有病率は地域格差があり、それはやはり所得に比例している、とのべました。また、職業によっても歯周病保有に勾配があるという研究が()。自分の歯が一九本以下の高齢者は、二〇本以上残っている人に比べ、要介護状態になるリスクが一・二一倍高くなるという研究も紹介。また「年代に関係なく、健康な口腔の持ち主は所得が高い」と説明しました。
 「問題の解決は、社会的決定要因への働きかけ」とした相田さんは、「国民皆保険、市町村での禁煙条例、訪問歯科診療の普及、職域での歯科健診など、社会環境を変える対策は、どんな状況の人でも健康増進になり、健康格差の減少につながる可能性がある」「そのためには、歯科医師会や衛生士会を通じた政策提言が不可欠」とまとめました。
 神奈川歯科大学の山本龍生准教授は、「健康の社会的決定要因と健康格差の縮小‥歯科分野の研究と政策の観点から」と題して報告。山本さんは高齢者の口腔の健康とSDHの研究に関わっています。
 健康な高齢者を対象に行った研究を紹介。四年間にわたる追跡の結果、歯がほとんど無く、義歯も使っていない高齢者はそれ以外の高齢者に比べ認知症を発症する割合が二倍になっていました。「義歯やブリッジが使えるかどうかは、その人の所得が左右する。『歯科保健は学齢期までが必須で、それ以降は任意』となっている法的枠組みの見直しもあわせて必要」と考えをのべました。
 戸井逸美歯科医師(田島診療所歯科所長・ヘルスコープおおさか)は、臨床の現場から、子どもの口腔の健康と貧困について考察しました。大阪府歯科保険医協会で行った子どもの貧困と口腔状態の調査や、養護教諭との懇談やアンケートでは、教諭の回答から、口腔崩壊している子どもの親は、貧困状態であることに加え、虐待(ネグレクト)もあると指摘されました。「給食も噛めない」「笑うと歯茎が見える」など痛々しい事例も。
 問題解決として、(1)子どもの医療費助成制度の拡充、(2)口腔保健指導の強化、(3)口腔内への健康意識の低い保護者や児童への啓蒙活動の強化、(4)学校、行政、地域などと連携し、歯科治療につなげるしくみづくり、(5)貧困対策、が必要だと語りました。

図

■交流と考察を重ねて

 ディスカッションでは、各地の研究者や歯科医師から、積極的な発言がありました。
 全日本民医連の江原雅博歯科部長は、全日本民医連が格差と貧困が生み出した口腔崩壊についてまとめた「歯科酷書」を紹介し、民医連が行う無料低額診療事業の事例を報告しました。
 全日本民医連の岩下明夫歯科医師部副部長は民医連の共同組織を紹介。「共同組織と一体に、健康づくりをすすめたい」と語りました。
 閉会にあいさつしたワットさんは「日本は資本も豊かで、人々が尊敬しあう素晴らしい国だ。医療環境も整っている。しかし、ヘルスプロモーションの分野では一層の行動が必要。学校、病院、地域を巻き込むことで、改善できることだと思う。今日は興味深い議論を多く聞くことができた」と締めくくりました。

(民医連新聞 第1608号 2015年11月16日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ