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2016年2月2日

事業所アンケートきっかけに介護制度考える場つくれた 静岡県民医連

 昨年四月以降の介護保険制度改正が現場を直撃しています。静岡では、中央社会保障推進協議会の「二〇一五年介護報酬改定アンケート」を静岡市、浜松市、三島市のすべての介護事業所に届け、約一割から回答を得ました。単価の低い要支援者を断ったり、非常勤職員への置き換えをすすめるなど、厳しい現実が浮き彫りに。また、これでつながった事業所に呼びかけ、シンポジウムも開きました。(丸山聡子記者)

 「戻ったアンケートにはコメントがびっしり。深刻さに驚いて…。やって良かった」。静岡県民医連介護福祉委員長の池沼栄子さん(ひまわりケアプランセンター・ケアマネジャー)は言います。
 アンケートを行ったのは、報酬改定の影響が見え始めた七月上旬。実態を把握し、地域の介護事業所とつながろうと、民医連が参加する中央社会保障推進協議会のアンケートをすることにしました。
 手間もコストもかかる郵送は無理でしたが、県内にある約一八〇〇事業所に一つひとつFAXを送りました。翌日から返信が届き始め、わずか一週間で一六六通が戻りました。「コメント欄からは、利用者のために踏ん張り、発信したい思いを持っていることが伝わってきた」と、静岡健生会介護事業部長で静岡県社保協の事務局長も務める遠山陽一朗さん。

■「継続できない」の声続々

 アンケート項目は「介護報酬の引き下げの影響」と「職員の状況」。報酬改定以降、事業収入が「減った」と一〇六事業所(六五%)が回答。減収割合は最大五〇%、平均で九・四%でした。職員は「不足」「大変不足」が計八〇件(四八%)。「賃金水準が低い」「労働がきつい」「社会的評価が低い」が主な理由でした。
 コメント欄には「加算要件をクリアできない」「要支援者の受け入れを減らさざるを得ない」「報酬がさらに引き下がれば継続不可能」「正社員での雇用がむずかしく非常勤比率が高い」などの悩みが綴られていました。池沼さんは、「どこでも、事業所や利用者が制度改正に苦しめられていました。特に通所の小規模事業所は加算が算定できる体制がとれず、減収幅が大きい」と言います(グラフ)。認知症加算の廃止で二カ所のデイを統合したところもありました。「一方で大手は『新規の要支援の申し込みはお断り』と堂々とうたっています。軽度や低所得の人は排除です」と池沼さん。
 浜松佐藤町診療所(デイサービス)の事務長・大城智昭さんは併設のデイケアについて、「介護報酬引き下げによる減収を補うため、デイの半日利用で利用者を増やしています」と説明します。「人手不足はどこも深刻で、苦労しています。非正規職員がフルタイムで働いても月収二〇万円に届かないような介護報酬はおかしい」。

■結果伝えシンポ開く

 一一月一四日、「介護シンポジウム~だめだら! 介護いじめ」を開催。民医連外の介護事業所の三人がシンポジストを引き受けてくれました。県内の事業所にアンケート結果とシンポの案内を送付。六五人の参加者中、三分の一が民医連外の事業所からでした。
 会場から一時間以上かかる地域から参加した人もあり、悩みや思いを交流しました。今回のつながりを発展させ、改善につなげたいと考えています。

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減収9・3%…福祉の役割果たせない 沼津の介護事業所

 シンポジストを務めた堀井謙二さん(ウェルビーイング・代表取締役、在宅支援センターふれあい専務取締役)の法人では、沼津市を中心に、有料老人ホームやデイサービス、グループホーム、小規模多機能、訪問介護などを運営しています。
 しかし、定員一〇人の小規模デイサービスでは、報酬引き下げ後の半年間は前年比で九・三%の減収でした。収入を増やすための加算算定はコストがかかるうえ、「小規模事業所にはハードルが高い」と言います。四月以降、沼津市内では七事業所が閉鎖を決めました。大半が小規模事業所です。

軽度者も通所は必要

 堀井さんたちのデイサービスに通う要支援2のAさんは軽い認知症。認知症に理解のない夫からの暴力があり、娘さんから「週五日、自分のいない日中はデイに通わせたい」と相談があり、受け入れています。「軽度者の介護報酬が大幅ダウンしたため、Aさんのような方を大勢受け入れると運営が成り立ちません。ほかの事業で得た利益を回してなんとか継続しています。必要な人に手を届けることが福祉の役割なのに、できません」と苦渋の表情。
 同法人の小規模多機能ホームでも軽度者を受け入れています。施設長の岩間玉紀さんは、「在宅では時々不安、という方をささえられるのが小規模多機能の利点」と言います。しかし、定員二七人のホームで軽度者が二〇人になれば運営困難に。「今後は要介護度で選ばざるを得なくなるかも」。
 堀井さんは、「事業所の厳しさを自法人で抱え込まず、包み隠さず話すことで利用者の皆さんともいっしょに考えたい。多くの事業所と協力して、行政にも声を届けていきたい」と話しています。

(民医連新聞 第1613号 2016年2月1日)

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