MIN-IRENトピックス

2016年5月13日

第42回定期総会運動方針

第42回総会スローガン

 ○戦争法を廃止し、立憲主義の回復、平和憲法を守る国民運動の架け橋となり、希望ある時代を切り拓こう

 ○共同組織とともに、無差別・平等の地域包括ケアと安心して住み続けられるまちづくりにとりくみ、住民本位の地方自治発展に結びつけよう

 ○民医連らしい医療・介護の実践と健康権・生存権保障の担い手づくりを一体にすすめ、人間的な発達のできる組織をめざそう

目  次

はじめに

第1章 新たな民主主義の発揚を確信に、戦争法廃止を

第2章 安倍政権の現段階
 第1節 国民生活の現状
 第2節 安倍政権の異質な危険性
 第3節 社会保障の実質的解体と医療・介護の崩壊を招く安倍政権

第3章 この2年間の活動のまとめ
 第1節 平和、憲法、社会保障を守る運動の到達
 第2節 東日本大震災の復興支援、福島連帯・被ばく対策
 第3節 民医連らしい医療活動の探究、国内外への発信と共同の広がり
 第4節 介護・福祉分野の到達
 第5節 歯科
 第6節 経営活動
 第7節 職員の確保と養成、各分野の活動
 第8節 全日本民医連としての活動
 第9節 大きな「飛躍」が求められる4つの課題はどこまで到達したか

第4章 時代に立ち向かう今後2年間の重点方針
 第1節 戦争法廃止、平和と社会保障を守る架け橋に
 第2節 無差別・平等、共同の営みとしての医療・介護活動の実践と探究
 第3節 介護・福祉分野の重点課題と方針
 第4節 歯科
 第5節 共同組織の前進へ向けて
 第6節 医師養成新時代における民医連の医師養成・医学対の飛躍のために
 第7節 職員の養成
 第8節 経営活動の重点
 第9節 全国課題のとりくみ、全日本民医連・地協結集、県連機能強化をすすめよう

おわりに

■文中の(※)については用語解説を載せています

はじめに

  東日本大震災、福島原発事故から5年、復興はいまだ遠い状況にあります。現綱領のもとでの民医連運動の実践は6年となりました。2014年に開催した全日本民医連第41回定期総会で、民医連60年の教訓を確認しました。そして、いのち、憲法、綱領の3つのものさしで時代をみつめ、平和と社会保障の充実を求めるたたかい、飛躍が求められる4つの課題を掲げて運動・事業・人づくりを推進してきました。
 2015年8月の第3回評議員会で「戦後70年、被爆70年、平和と人権をさらに高く掲げて」の特別決議を決定、戦争しない国の歴史を守りぬき、人権としての社会保障の充実を求め、憲法9条、25条を守り抜く民医連の存在意義を内外に宣言しました。
 アメリカと一緒に海外で戦争する日本、大企業が一番活躍しやすい日本をめざす安倍政権は、社会保障を実質的に解体し、営利、市場化をすすめ国民生活を犠牲にし、いのちを軽んじる政治を加速させています。憲法の原則の根底にある個人の尊厳を踏みにじり、世論も国会もないがしろにして辺野古への米軍新基地建設を強行し、川内原発の再稼働、TPP交渉も締結に前のめりとなりました。そして、歴代内閣が戦後一貫して変えてこなかった憲法解釈を一内閣で逆転して戦争法(平和安全法制関連2法、以下戦争法)を強行しました。暴走があらゆる分野で矛盾を拡大し、あまりの理不尽さに対して異議をとなえる国民の行動と共同が前進し、激突の2年間になりました。
 第42回総会は、国のあり方、平和、人権、いのち、憲法をめぐり緊迫した情勢のさなかで開催しました。共同組織とともに、架け橋の役割をさらに発揮して平和と社会保障の運動をすすめ、医師の確保と養成を成功させ、経営問題を克服し、事業と人づくりが前進する2年間にしなければなりません。
 今総会では、(1)今日の情勢、時代認識を深め、民医連運動の役割、課題を明確にすること、(2)2年間のとりくみを総括し、今後2年間の方針を決定すること、(3)42期役員を選出、予算を確定する事を任務とし、代議員の積極的討議で全議案を決定しました。
 全日本民医連理事会は、第42回総会運動方針を、すべての県連、法人、事業所が学習し実践していくよう呼びかけます。

第1章 新たな民主主義の発揚を確信に、戦争法廃止を

 2015年9月19日、安倍政権は、国民多数の反対を無視し、国会でのまともな議論を避け、戦争法を強行採決しました。この法律は、日本が海外で戦争するための法律です。これまで戦闘地域には行かない、正当防衛以外の武器使用を禁止するなど不十分ながらも存在した従来の海外派兵の際の歯止めをなくし、自衛隊が地球上のどこでもアメリカ軍の戦争に参加し、武力行使が可能となります。
 世界では、いまの瞬間にもテロとその報復、暴力と憎悪の連鎖が続いています。安倍政権は、この連鎖に「積極的平和主義」と称して参加をもくろんでいます。
 政府と防衛省は、日米新ガイドライン実践のために戦争法で可能となった準備と訓練を着実にすすめており、自衛隊が海外で武力行使する可能性は高く切迫したものとなってきました。
 いま日本は、戦後一貫して守り続けてきた平和主義の危機にあり、戦後最大の岐路に立っています。
 新自由主義、軍事大国化と決別し、憲法に基づく人権、福祉重視などを柱とする新しい福祉国家をめざす私たちの運動と安倍政権のめざす方向は全く逆です。
 安倍政権は、2013年12月の特定秘密保護法強行に続き、2014年7月1日、閣議決定で集団的自衛権行使についての憲法解釈を変更し、行使を容認しました。一内閣が憲法解釈を勝手に変更するのは、法治国家としての日本の土台をくつがえす暴挙です。そして、野党の追及や世論も無視して日米新ガイドライン、戦争法へと突き進みました。これに対し、全ての都道府県弁護士会や多くの学者が反対表明や行動を起こし、これまで平和と民主主義を求めてきた運動団体も共闘し、総がかり行動も生まれ大同団結を実現しました。また、これまで政治に無関心と言われてきた学生や若いママ、女性たちが次々と立ち上がり、国会前で、街頭で、「民主主義ってなんだ」「勝手に決めるな」の大きな声を上げ、戦争法反対の大きな流れを作り出しました。これらの動きの中で戦争法反対、立憲主義(※)守れの一致点で5野党も国民的運動に合流し、史上空前のたたかいを築きあげました。そして、戦争法成立後も国民の行動は止まらず、平和と民主主義を求める国民の声が政党を動かし、戦争法廃止、立憲主義を取り戻す政府を作る国民運動が開始されました。
 こうした共同や行動の根源には、戦後70年間築いてきた平和を求める確固とした国民意識があります。NHKが実施した「戦後70年に関する意識調査」(2014年)では、戦後70年、築いてきた日本社会のイメージとして「戦争のない平和な社会」との回答が87%を占めました(資料A)。
 そして何よりも注目すべきことは、3・11以後の原発再稼働反対の運動の頃から始まった個人が主権者として考え行動する、そして政治も変える、こうした自発的で新しい民主主義の形とその発展です。
 日々、いのちに向きあい、医療や介護を実践する私たちは、戦争政策を拒否します。
断固として戦争法廃止を求める活動を、辺野古米軍新基地建設反対のオール沖縄のたたかい、戦争法成立下での全国にある米軍基地と米軍・自衛隊の共同訓練などの状況や危険性を知らせる活動と結合させます。
 戦争法の廃止を求める2000万人統一署名(※)を必ずやり遂げ、夏の参議院選挙で安倍独裁政治の暴走に、主権者としてNOの審判を下し、戦争法を廃止し改憲を断念させる決意を固めましょう。

資料A

第2章 安倍政権の現段階

第1節 国民生活の現状

(1)生存権を脅かす格差と貧困の拡大

 自民党・公明党政権のもとで続く社会保障抑制の中、子ども、若者、働き盛り、高齢者すべての世代で広範に貧困が拡大し、生存権まで脅かされています。
 年収200万円以下の働く貧困層(ワーキングプア)は、安倍政権の2年間で49万人も増加し、1139万人(2014年)、全労働者の24%に達しました(資料B)。労働者の賃金は1997年から2013年で12%も減少しています。これらの背景には大企業が世界一活躍しやすくする国をめざす雇用制度の改悪があります。正規雇用は1997年から2013年までに518万人減少し、不安定な非正規雇用は754万人も増加、1962万人に達し雇用労働者の4割近くを占めています。貯蓄ゼロ世帯は30%に上っています。非正規雇用が拡大した世代はすでに40代の働き盛りとなり、就職氷河期と言われた人たちは45歳を迎えています。この世代が現状のまま65歳を迎えるなら20年後の日本社会は深刻な事態となります。
 子どもの貧困も深刻です。貧困率は2008年に14.3%、2010年15.7%、2012年16.3%と悪化しています。学用品代、給食代などを援助する就学援助を受けている子どもは、155万人、15.6%にのぼります。目の前の子ども達のいのちと健康がむしばまれ、日本社会の未来が壊されています。2014年の子育て世帯全国調査では、ひとり親世帯のうち年収300万円以下が59.9%に達し、貧困率は54.2%と過半数を超えています。無職の母子世帯の母親の2人に1人が抑うつ傾向にあります。
 高齢者の貧困も深刻です。実質的な生活保護基準(高齢者単独世帯で年収160万円、高齢夫婦世帯で同230万円)からみると、2013年の貧困率は34.3%、397万9000世帯、貧困高齢者数は513万8000人となっています。貧困率が最も高い女性の高齢単独世帯で54.0%(219万9000世帯)にものぼっています。
 総務省の家計調査年報から無職の高齢夫婦世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)を例に、1999年と2014年の15年間の変化を見てみます。収入は、月20万7347円(2014年)、年金削減のために月4万8000円減少しています。支出は、月26万8907円(2014年)、月5387円減少しています。直接税と社会保険料(主に介護保険料増)は月8000円増加しており、その他で節約しても収支は6万1560円(2014年)の赤字、預貯金の取り崩しや家族の支援で生活しています。
 一方で、年金収入だけでは生活できない実態があります。国民年金は年金保険料を40年間納付した場合の満額支給でも月額6万6000円弱(年間80万円弱)にすぎず、平均の支給額は4万4000円にとどまります。家賃を支払ったらほとんど残らない水準です(資料C)。現在65歳以上の年金受給者3031万人の3分の1にあたる1047万人がこの国民年金の収入だけで生活しています。特養待機者が2009年から2014年のわずか5年で約10万人も増えていますが、その背景には施設の不足とあわせて、高齢者の中での貧困の広がりが反映していると考えられます。月額10数万円から20万円前後の費用負担を要する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、国民年金しか収入がない高齢者にとって「終の棲家」の選択肢には到底なり得ないからです。さらに無年金高齢者は93万人にのぼると推計されています。
 生活保護世帯は2015年10月で216万6000人、163万2000世帯と過去最高を更新しており、高齢者世帯での増加が顕著になっています。
 大多数の国民の貧困がすすむ中で、ひとにぎりの富裕層はますます裕福になっており、格差がさらに広がっています。2013年1年間で日本の100万ドル(約1億700万円)以上の投資可能資産を持つ個人富裕層の純資産は前年比で24%増え5兆5000億ドル。日本の富裕層の数は22%増加し230万人となったことが報道されました(キャップジェミニ&RBSによるワールドウエルスリポート2014)。
 また大企業(資本金10億円以上)は、アベノミクスによって、空前の利益を上げ内部留保を急増させ、2014年度だけで14兆円増やし、300兆円近くとなっています。賃金の抑制、法人税の引き下げなどが行われた結果です。日本は、他国に比べて社会保障費の企業負担が極めて低い国でもあります。内部留保を活用すれば、国民生活、社会保障改善のための大きな財源が確保できます。
 格差と貧困の広がりの中、日常の現場では、コンビニエンスストアで倒れ救急搬送され、経済的な理由ですべての介護サービスを拒否した高齢者(地域包括支援センター)や、搬入された高齢の女性で、生活保護申請が却下され、再申請の準備中に経済的困窮を理由に自死した(救急外来)などの事例も発生しています。
 地域で孤立しじっと痛みを我慢している人がたくさんいます。今、事業所の中にいるだけでは、広がる貧困の実相は捉えきれません。共同組織とともに人権のアンテナを研ぎ澄まし、地域へ出る活動で格差と貧困に立ち向かいましょう。

資料B

資料C

(2)5年を経過した東日本大震災・福島第一原発事故被害の現状

 東日本大震災・福島第1原発事故から5年になろうとしています。安倍政権は、5年の集中復興期間終了を理由に、2016年度から被災3県にこれまで国が負担していた復興事業費220億円の負担を押し付け、「自立」を強制しています。しかし、被災3県では、今なお18万2411人(福島県10万1450人、宮城県5万4846人、岩手県2万6115人。2015年12月28日時点)が避難生活を送っています。いまだに「応急仮設住宅」に7万6000人が暮らしています。復興公営住宅の達成率は目標2万9501戸の38.7%に留まり、福島の原発避難者向けはわずか14.0%です。3県では沿岸市町村をはじめとして人口の減少が続いています。漁業・農業など基幹産業、生業を国と自治体が責任を持ち振興しなければ、復興はあり得ません。生業が取り戻せていない中、被災者の医療費・介護費の減免制度の継続と復活(※)はいのちと健康に直結した問題となっています。
 東電福島第1原発の過酷事故に対し、政府は事故からわずか8カ月で「収束宣言」しましたが、建屋内の格納容器付近の放射線量は今なお4~5Sv/hであり、1時間以上いると死に至る状況です。格納容器に近づくこともできず、メルトスルーしている原子炉内の状況は不明のままです。また、当時原発が全電源喪失に至った原因も解明されていません。
 地下水の流入や汚染水の海洋流出をめぐる状況も2014年4月から1年間で推計7420億ベクレルの放射性セシウムが流出し、うち2000億ベクレルが外洋に流出したと報告されています。深刻な環境汚染です。食物連鎖と潮の流れを考えると広範囲の海洋生物が汚染されていることになります。
 30年から40年かかるという廃炉に向けた工程は一向にすすんでいません。建屋上部に設置されている燃料プールから使用済み燃料棒を取り出す作業も、これから行われる屋上部分の瓦礫の撤去作業が完了してからのことです。
 原発事故被害者の状況は、依然深刻です。政府は、2015年6月「福島復興の加速にむけて」(指針)を改定、その内容は、1)営業損害賠償(一括賠償)を改訂、来年3月で年間の逸失利益2年分を支払う、2)避難指示解除準備区域の避難解除を2017年3月までに行い、住民への賠償はその1年後で終了、というものです。被害者の実態にまったく合わないもので、これがすすめられれば県民の新たな苦難が始まります。
 福島県の震災関連死は2008人(2016年1月15日現在)となりました。初期には入院・施設入所者の避難に伴う死亡、その後は長引く避難生活に伴う慢性疾患の増悪、将来を悲観した自死などが続いています。2015年11月30日に開催された福島県民健康調査検討委員会で、2巡目の本格検査で18万2547人の検査結果が確定し、甲状腺がんもしくは、その疑いは39人になりました。39人のうち37人が一巡目の検査では異常がないAないしA2判定でした。
 長期の避難生活は介護を必要とする人を急激に増やし、介護問題や介護保険料の高騰を招いています。介護保険料の全国上位10位の中に避難指示を受けた町村が5つも入っていることからも、その深刻さがわかります。5年を区切りとした福島の切り捨てを容認することはできません。元の福島に戻すのは国と東電の責任です。

第2節 安倍政権の異質な危険性

 日米の支配層は、アメリカを中心とした自由な企業活動ができる市場の維持・拡大のため他国への戦争、積極的な介入を行い、その中で安倍政権は日本のグローバル企業が儲けを最大限追求する大国に日本を作り変えようとしています。2012年12月の安倍政権の成立から3年、この政権の暴走は3つの点で際立っています。
 第1は、アメリカの戦争に全面的に参加する「戦争する国づくり」です。日本版NSCの設置(※)、特定秘密保護法(※)の制定などに続き、その中心となる戦争法を強行しました。戦争法の成立とともに早々に日米の同盟調整メカニズム=共同作戦体制(※)づくりを開始しました。合わせてその延長線にある辺野古新基地建設の強行に奔走しています。これらは、2015年4月の日米新ガイドライン(※)を具体化していくものです。2016年度予算案で史上初めて軍事費が5兆円を突破し、V22オスプレイ4機の購入など自衛隊の海外派兵のための装備強化が計上されています。米軍への思いやり予算(※)を増額するとともに、辺野古新基地建設費に2015年度の2.4倍も計上し、沖縄の民意に挑戦しています。医学、工学などの科学研究や技術開発の分野への日本やアメリカの軍事関連経費の流入が加速しています。医療関係者の戦争参加の可能性も格段に高まりました。
 戦争法の発動は、今年アフリカ南スーダンへの平和維持活動(PKO)(※)派兵で開始されようとしています。後方支援(兵站)(※)、「駆け付け警護」(※)で武器を使用し、自衛隊員は殺し殺される事態となります。また、安倍政権はアメリカからのIS(※)に対する空爆への支援要請を拒否すると明言していません。
 第2は、企業が世界で一番活躍しやすい国づくり、新自由主義改革の推進です。安倍政権は新自由主義改革を新たな段階に引き上げようとしています。
 「1億総活躍社会」を実現するとしてアベノミクス第2ステージ「希望を生み出す強い経済」(GDP600兆円)、「夢を紡ぐ子育て支援」(希望出生率1.8)、「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロ)の「新3本の矢」を打ち出しました。少子高齢化対策と称して社会保障抑制・解体、深刻になる労働力不足に対しては生涯派遣など労働者派遣法を大改悪し、若者、女性、高齢者、外国人労働者などを企業の儲けのために最大限利用する内容です。
 企業の裁量で8時間労働制までも破壊する労働法制の改悪、労働力の流動化の徹底、グローバル企業に必要な先端科学研究に大規模な予算を投じ、大学を産業に役立つものへ作り変える大学改革、グローバル企業の新たな市場拡大のためTPP参加、原発の輸出をすすめるための原発再稼働強行、健康福祉を「成長産業」として位置付け、市場の拡大をすすめています。
 第3は、それらを受け入れさせるための国民意識の操作です。村山談話、河野談話(※)を否定し、「侵略」、「植民地支配」、「従軍慰安婦」等の過去の歴史を捻じ曲げるため執念を燃やしてきました。また、マスコミへの介入も異常です。愛国心を高めるなどを目的にした教育基本法の改悪に続き、南京大虐殺(※)はなかった、沖縄県民の集団自決(※)に軍の関与はなかったなどと記載した育鵬社の歴史教科書の採択運動、憲法改正をすすめる国民運動(※)の推進などの中心を担う議員が安倍政権をささえています。
 安倍政権は3年間、これまでの政権にない暴走を強めていますが、2014年の総選挙で自民党の比例での得票率は全有権者のわずか2割未満でした。それでも6割以上の議席を占めることができる、民意を反映しない小選挙区制(※)の上にある脆弱な政権です。
 この間、戦争法廃止の決議を上げた自治体が広がり、原発、TPPなど主要な政策でも国民の反対は広がっています。NHKが18歳選挙権実施に伴い新たに有権者となる世代を対象に世論調査を行ったところ、「生活と政治の関係がある」と79%が答え、「政治に満足せず」74%、「政治が変わってほしい」88%、「憲法改正は必要」16%、「必要なし」57%という回答でした。
 第41回総会で「相手が大きければ、こちらがもっと大きくなる」そうした大志を持った運動を呼びかけ、41期に大きく新しい国民運動が広がってきました。さらに前にすすめ、平和と社会保障の充実へ向け、共同組織とともに奮闘しましょう。

第3節 社会保障の実質的解体と医療・介護の崩壊を招く安倍政権

(1)社会保障の実質的解体と公的な医療・介護費の極端な抑制、市場化

 2012年に民主党・自民党・公明党の3党合意により成立した「社会保障制度改革推進法」は、社会保障の財源として主に消費税を充てるため税率を8%、10%に引き上げることとあわせて、憲法25条にもとづく権利としての社会保障の理念を、「自助」「共助」を基本とし「公助」による国の恩恵に変質させました。社会保障分野での解釈改憲です。2014年「医療・介護総合確保法」(※)、2015年「医療保険制度改革法」(※)と具体化をすすめています。
 安倍政権は「骨太方針2015」の中で「経済・財政一体改革」を打ち出しました。「財政健全化」(歳出改革=社会保障費削減)と「経済再生」(経済成長)を一体的にすすめようというものです。
第1に、今まで消費税増税を正当化する理由として掲げられていた「社会保障の機能強化」の方針を捨て去り、さらなる消費税増税の上に社会保障削減一辺倒の路線に切り替えました。
 2016年からの3年間を「改革集中期間」に設定、毎年1兆円程度必要な社会保障の自然増を5000億円程度に圧縮する計画です。削減のほとんどを医療、介護分野で行うため、診療報酬・介護報酬の引き下げ、公的給付範囲の制限、患者申し出療養など混合診療の開始、患者・利用者の負担増、都道府県単位の医療費の抑制(※)、地域医療構想による大幅な病床削減(※)や医師数等の抑制と統制など公的な医療・介護費の極端な抑制と医療提供体制を縮小していくための改悪が方向づけられています(資料D)。医療崩壊、介護難民を生み出した小泉構造改革(※)をはるかに上回る規模の削減をすすめる方針です。
 第2に、医療・介護など公的サービスの産業化です。公的給付を削り、その部分を企業に委ねて市場化を図ることにとどまらず、「日本再興戦略改訂版」や規制改革方針などに沿って、医療・介護分野そのものを経済成長に役立つ内容に大きく切り替えていく点にこれまでの改革にない特徴があります。企業の法人税減税、さらに軍事費は過去最高額の確保など戦争する国づくり、企業が活躍しやすい国づくりと一体に従来にない規模と内容による社会保障の実質的な解体を推進する方向です。
 2016年診療報酬改定は、診療報酬本体の引き上げを0.49%にとどめる一方、薬価マイナス1.22%、材料マイナス0.11%でマイナス1.33%とマイナス改定を強行しました。さらに、薬価の市場拡大再算定、後発医薬品の薬価引き下げや使用促進、大型門前薬局の調剤報酬の引き下げ、湿布薬の使用制限など外枠を設け、全体でマイナス1.43%という大幅なマイナス改定です。 2014年診療報酬マイナス改定、消費税率の引き上げに続き、このマイナス改定により、多くの医療機関の経営困難は拡大し、地域医療の崩壊が懸念されます。引き上げを求めて医療関係者、地域住民と共に運動を強める時です。
 2014年6月、介護保険法「改正」が強行されました。その中身は、(1)予防給付の見直し(要支援者の訪問介護などを総合事業に移行)、(2)特養入所の重点化(原則要介護3以上に限定)、(3)一定以上所得者の利用料2割化、(4)補足給付の要件厳格化(資産要件の導入など)などです。特に「総合事業」では、「住民主体の支援」を制度化し、「介護サービスの取り上げ(卒業)」「水際作戦」のしくみが組み込まれています。予防給付切り捨ての受け皿と同時に、地域包括ケアの柱とされている「互助」推進の突破口と位置づけられています。
 介護報酬の2015年改定は、改定率マイナス2.27%のうち処遇改善・重度対応など以外の部分で、4.48%と最大規模のマイナス改定となり、基本報酬が軒並み引き下げられました。新規の加算を算定できない小規模の事業所では基本報酬の引き下げが経営を直撃し、廃業や休止が相次いでいます。
 介護現場での人手不足も深刻化しています。職員が集まらず特養をフルオープンできないなどの事態が起きています。介護福祉士養成校では入学定員割れが続いています。厚労省は人員の供給対策を発表しましたが、肝心の処遇改善策を欠き、中高年齢層などを担い手とする「安上がり」な対応策に終始しています。現行の技能実習制度を見直して外国人介護士の導入を狙っていることも重大です。

資料D

(2)国民皆保険制度を破壊し、医療営利化をすすめるTPP参加

 2015年10月5日に環太平洋連携協定(TPP)(※)が大筋合意したと発表されました。日本はアメリカなどとの交渉で牛・豚肉、乳製品や主食のコメまで大幅な市場開放を受け入れました。世界最低水準の食料自給率をさらに低下させ、国民のいのちや暮らしを根本から脅かすような事態です。安倍政権は臨時国会も開催せず、詳細を国民に説明しないまま、11月25日には「TPP関連対策大綱」(※)を決定しました。
 医療分野では、特許期間の延長や医薬品データの保護期間などに合意し、医薬品の承認データ保護期間が従来の米国12年、日本8年、途上国5年から8年に統一。これによって日本のメーカーも途上国に高い新薬を長期に販売できるようになります。また一貫して米国が反対してきている日本の薬価算定ルールである外国平均価格調整ルール、拡大再算定ルールをなくし、TPPの「透明性と公正手続き」を口実としてアメリカ製薬企業が参加し、決定権をもつ薬価決定機構に作り変える可能性も示唆されています。
 また「ISD条項」(※)も盛りこまれています。国民皆保険制度について政府は交渉の対象ではないと繰り返し発言していますが、公的社会保険制度の文言しか記載されておらず、国民皆保険制度が守られる保証はありません。医薬品分野で企業による市場化が拡大するとともに国民皆保険制度が破壊されかねない事態です。

(3)社会保障充実に使われない消費税増税

 「社会保障の充実のため」を口実に引き上げられた消費税は、増税の大半を既存の社会保障経費の財源に置き換えました。増税分のうち社会保障の充実に回ったのは2014年で10%、2015年16%に過ぎません。逆に年金、医療、介護など社会保障のあらゆる分野で必要な予算が削減されてきました。2014年4月に8%に引き上げられてから国民総生産(GDP)はマイナスとなり深刻な不況となっています。
 税率を10%へ引き上げる計画で検討されている軽減税率(酒類、外食を除く食料品の税率を8%に据え置く)が導入されても、年間1世帯当たり4万円以上の負担増となる見込みです。消費税の負担率は所得が多いほど軽く、少ないほど重くなる(逆進性)という根本的な欠陥はさらに拡大します。消費税を2%引き上げると約4兆4000億円の税収増となりますが、これは富裕層の資産の1.46%に過ぎません。日本の所得税負担率は、所得が1億円を超えると税率が下がる不公平なものです(資料E)。所得税に応能負担原則を適用すれば消費税を引き上げる必要は全くありません。
 全日本民医連の「人権としての医療・介護保障めざす提言」の財源提案では、異常に内部留保を増やした大企業や富裕層への応分の税負担などを求め、所得の再配分機能を強めていくこと、大企業を中心に社会保険の事業主負担をEU並みにし、応能負担の原則で社会保険料を見直すこと、過去最高規模となった軍事費を削減することなどで社会保障の費用を確保していくことを提案しています。この方向で国民的な合意をめざす運動を強め、消費税を社会保障の財源とすることをやめさせることこそ、日本の社会保障を憲法25条にもとづき再生させていく道です。

資料E

(4)経済・財政一体改革が描く医師養成

1)新専門医制度をめぐる現況

 2017年開始予定の新専門医制度(※)は、その全貌が明らかになるに従って、政府・厚労省がすすめようとしている経済・財政一体改革の描く保健医療像と一体のものであることが鮮明になってきました。専攻医(※)の定数を設定し、専門医資格の付与権を統制することで医師の働き場所が制限され、結果として医師数と医療サービスの提供量をコントロールすることが可能になります。このことによって、全日本民医連が2015年1月に発表した「見解」(※)で懸念したように、大学・大病院への医師の集中により地域医療を担う医師体制に大きな危機が訪れる恐れがあります。
 専門医と専門医療が集約化されれば、現在全国ですすめられている病床の機能分化(上流改革)と削減を医師配置の面から加速させ、本来標準的と言える専門医療までもが手の届かない地域が新たに生み出される可能性が大きくなります。また、医療資源を集中することで、「特区」の設定や患者申し出療養制度など実質的な混合診療解禁への環境づくりに活用される恐れがあります。そして、残った地域の小規模施設には、総合診療専門医を含めたかかりつけ医を「ゲートオープナー」として配置するという公的医療費抑制の梃子に利用される危険をはらんだ制度設計と言わざるを得ません。
 また、医師人生の早い時期から専門を決め、資格取得とその更新のために勤め先も限定されるといった状況がすすめば、結果として医療提供側の総合性を大きく損なうことにもつながりかねません。41期に全日本民医連は日本医師会、日本病院会、全日本病院協会、全国自治体病院協議会、日本プライマリ・ケア連合学会の幹部と懇談を重ねてきましたが、どこでも共通して新制度による地域での医師不足加速と大学による事実上の人事支配の再来、公的医療費抑制、医療提供体制の国家統制化などの懸念が述べられ、さらには専攻医の身分保障や専門医資格を取れない医師・更新できない医師の扱いなどが問題点として共有されました。2016年に入り、日本医師会や医療団体から地域医療の崩壊を招くことに対する懸念が表明され、社会保障審議会医療部会に「専門医養成の在り方に関する専門委員会」が設置されることになりました。

2)医学部新設など医師増員を巡る情勢

 この間、2つの医学部が新設(※)されることが決定しましたが、その背景を注意深くみておくことが必要です。特に国家戦略特区(※)での開設計画については、新たな市場化・営利化戦略につながる危険があり、その動向を厳しく監視しなければなりません。
 日本医師会と全国医学部長病院長会議の連名で2015年12月2日に出された緊急提言では、医学部入学定員の削減・医学部設置認可の差し止めを求めつつ、出身大学がある地域での初期臨床研修の原則義務化や、医師不足地域での勤務を病院・診療所の管理者要件とすること、さらには地域ごとに診療科(基本領域)別の医療受給を把握し定数設定を行う方向性が示されました。地域偏在や科偏在是正のための提起ではありますが、医師数抑制・医療費抑制という国家戦略に利用される危険性を指摘せざるを得ません。
 ドクターウエーブ(※)などのとりくみで医学部定員数は1637人増えましたが、勤務医の過重労働や救急のたらいまわしなど、医師不足から派生する諸問題は依然として解決しておらず、OECD内で未だに下位クラスである日本の医師数を抜本的に増やすことが、医療再生の不可欠の処方箋であることは明らかで、医師増員の重要性が再び強調されるべき情勢です。

(5)共同の力で医療、介護の崩壊は食い止められる

 社会保障を自己責任に変質させ、解体し、市場化へとすすめる暴走は安心して暮らしたいという住民の要求と大きくかい離するものです。医療難民、介護難民を生み出した小泉構造改革を、多くの医療団体、個人、住民が連帯し、運動の力でストップさせ、政権交代にまで追いやり、医師増員、診療報酬の引き上げ、生活保護母子加算復活(※)など社会保障の機能強化へ転換させてきました。国民皆保険制度と医療の公共性を守る点では日本の医療界は、大同団結しています。
 一体改革のもとで社会保障の充実のための消費税増税の根拠も崩れてきています。こうした条件も生かし、社会保障を守る国民的な総がかりの行動を作り上げ安倍政権のすすめる社会保障解体、医療・介護市場化を押し返し、権利としての社会保障の充実へ転換させましょう。

第3章 この2年間の活動のまとめ

 この2年間、第41回総会で掲げた3つのスローガン、「平和憲法のもと、戦争をしない国の歴史を守り抜き、新しい福祉国家を展望する国内外の運動をつなぐ架け橋となろう」「誰もが安心して住み続けられるまちづくりとあるべき『地域包括ケア』の実現をめざし、すべての事業所と共同組織の中長期の展望をつくりだそう」「新しい時代に対応し、民医連らしさにこだわり、健康権実現・生存権保障を担う、医師をはじめとする職員の育成を旺盛にすすめよう」に基づき運動と事業をすすめてきました。
 戦争か平和かの激突の情勢の下、架け橋の役割を発揮し、新しい国民運動の発展、生存権、健康権を守り、権利としての社会保障実現をめざす運動と医療・介護の実践、医師の確保と養成、経営活動など全国方針に団結し、評議員会で、重点を定めて奮闘してきました。
 無料低額診療のひろがり、日本HPHネットワークの結成など日常の医療・介護活動を土台として、生存権、健康権の実現を目指す民医連の活動が内外で大きく注目されてきました。憲法と平和の危機が進行する中、憲法の理念実現をめざす組織として呼びかけた「憲法を学ぶ大運動」には、延べ8万7000人以上の職員が参加し、戦争法廃止を巡る過去にない規模の運動発展の力となりました。引き続き、憲法の理念を実現することを綱領に明記した組織として憲法への確信を組織の土台として定着させていきましょう。
 この2年間で、職員数は8万832人と2年前より4.3%伸び、特にリハビリスタッフとソーシャルワーカーが10%伸びています。共同組織は、362万と前総会から3万の増加、『いつでも元気』は5万6300部と700部減少しています。加盟事業所数は1810カ所となりました。

第1節 平和、憲法、社会保障を守る運動の到達

(1)戦争法廃案の大運動

 戦争法案の成立に反対する市民、団体の共同のとりくみは、歴史的なたたかいとなりました。国会周辺の行動には、市民の自発的な参加が多数あり、安保法制に反対する学者の会や、学生(SEALDs=シールズ・自由と民主主義のための学生緊急行動)、母親(安保関連法に反対するママの会)などの新しい形の市民運動がたたかいを大きく盛り上げました。民医連の医師らも呼びかけ人としてはじまった「いのちと暮らしを脅かす安全保障関連法に反対する医療・介護・福祉関係者の会」は7月10日に結成され、賛同人はわずか2カ月間で8548人まで広がり、国会周辺での抗議行動の救護班で中心的な存在として活躍しました。
 「戦後を70年で終わらせるな」、「戦争する国に後戻りさせるな」、「立憲主義・民主主義を守れ」の声があがり、国会とつながり全国各地で戦争法廃案のたたかいが広がりました。こうした国民の声が国会内の主要な野党共闘を作り出し、戦争法案審議中にこれに反対する政党の党首会談が6回開かれ、最終局面では内閣不信任案が共同提出されるなど、大きな変化を生み出しています。
 戦争法案廃案の運動は、民医連でも大きく広がりました。全日本民医連が作成したプラスター、のぼり等は各地の宣伝行動で活用され、法案の内容を解説した学習用DVDも好評でした。戦争法案廃案を求める署名はわずかの期間で17万5412筆あつまり、多くの事業所が戦争法案廃案の声明やアピールを出しました。宣伝行動が各地で連日のように行われ、市民運動との共同したとりくみも広がりました。
 こうした奮闘の土台は、民医連がこれまでも長く綱領とともに憲法の学習、たたかいにとりくんできたことです。
 安倍政権が明文改憲をめざす中、第2回評議員会で決定した「憲法を学ぶ大運動」が力となり、多くの青年職員の自発的とりくみも各地で広がりました。愛知では青年職員たちの呼びかけで連日昼休みデモを行った法人もあり、日に日に参加者や沿道からの声援が広がりました。プラスターを持ってアピールする「スタンディング」宣伝は参加しやすいと好評で、各地で定着してきました。
 戦争法は9月19日未明、強行採決されましたが、その直後から日本共産党が戦争法廃止と集団的自衛権容認の閣議決定の撤回を目的とする「国民連合政府」を提唱、総がかり行動実行委員会有志による戦争法廃止を求める2000万人統一署名など戦争法廃止をめざす運動が開始されました。29団体有志による「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(※)が結成され、戦争法の廃止を求める統一署名を共通の基礎とし、安全保障関連法の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳を擁護する政治の実現に向けた野党共闘を求め、これを公約の基準として参議院選挙での推薦と支援を行う運動が始まっています。

(2)核兵器廃絶、平和を守る運動

 2015年は戦後70年、被爆70年の節目の年でした。原水爆禁止世界大会に1725人(広島699人、長崎1026人)が参加し大会成功に大きく貢献しました。核廃絶全面禁止のアピール署名は約76万1000筆の到達でした。2015年NPT再検討会議(※)ニューヨーク行動に、共同組織、医学生を含め236人が参加し核廃絶の運動を大きくアピールしました。第3回核兵器の人道的影響に関する会議への代表派遣、日本原水協から要請のあったマーシャル諸島での住民の健康診断に医師を派遣してきました。ノーモア・ヒバクシャ訴訟支援を行い、各地で勝利判決を勝ち取っています。
 戦争体験者が少なくなる中、「平和のための私の戦争体験」冊子作成(長野)、元従軍看護婦の体験講演(東京)、「碑めぐりガイド養成講座」(広島、長崎)、平和のつどいでの南京大虐殺体験談を聞く会(大阪)など、各地で戦争体験の継承を行ってきました。
 全日本民医連として全国の活動を推進するため平和活動交流集会の開催、平和活動を担う職員の養成をめざし第5期平和学校を開催、戦争の被害とともに加害の歴史も学び、戦争法をめぐる情勢や運動と結びつけていのちをまもる民医連の果たす役割に確信が広がっています。
 日米新ガイドラインと戦争法の成立を受け、各地で米軍再編、自衛隊との共同演習などいのちと健康を脅かす事態が広がっています。京都では関西で初めて米軍Xバンドレーダー基地の建設強行、滋賀県や東京横田基地などでオスプレイの飛行、利用が拡大され各県でもとりくみが強められてきました。

(3)権利としての社会保障を守るたたかい

 第189通常国会に医療保険制度改革関連法案が提出され、2015年2月16日に民医連幹部決起集会を開催し、学習と行動を強めてきました。会期中は計8回の国会行動にとりくみ、議員要請を強め傍聴も積極的に行いました。まともに答弁せずに国民に十分内容を知らせないまま法案採決を強行しようとする厚生労働委員や政府に対し、初めて傍聴に入った青年職員は、「こんな法案は絶対通してはいけない」と怒りの感想を述べています。
 医療団体連絡会や中央社会保障推進協議会とともに、「いのちまもるヒューマンチェーン会議」(※)のとりくみとして、4回の国会内集会と傍聴行動等、廃案を求めた共同の行動を行う中で、JPA(日本難病・疾病団体協議会)(※)をはじめとする患者団体との共同など今後につながる運動が広がりました。
 この間、政府は本来はひとつひとつ審議すべき法律を多くの関連法案と一括して提出しています。そのため、重大な内容であるにもかかわらず、全職員や共同組織を含め広く国民に知らせ切れていません。分析力、政策力を高めること、学習資材などの工夫がさらに必要です。
 医療団体連絡会(医団連)が中心となって「憲法いかし、いのちまもる10・22国民集会」「11・19診療報酬のプラス改定を求める緊急行動」も開催しました。
 「人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言」のシンポジウムを2014年6月21日に開催しました。外部の3人の専門家によるシンポジウムは「健康格差の診断と処方」「内部留保の活用は可能」「人としての尊厳を守る社会を」など提言の内容と響きあうものでした。山梨県などでも県の単位でのシンポジウムが開催されました。
 「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」は、2005年「国保死亡事例調査」として開始してから、2014年度の調査で10年目になり、通算446事例が集積されました。格差と貧困の拡大のもと、稼働年齢(65歳未満)でも、無職20人、非正規雇用7人と事例の83%を占めています。正規保険証を持っていても窓口負担の不安から受診を控え、手遅れになる事例が寄せられています。山梨では記者会見を実施し地元紙などで大きく取り上げられました。秋田では、地元紙が「医療費支払い重荷、県央部の女性死亡、生活実態、自治体把握せず、受診控え対応遅れる」と取り上げ、市役所との交渉で、一律の資格証交付をやめ、きめ細かく事情を聞く戸別訪問をすると表明させました。各地で事例を力に保険証留め置き(※)をさせない運動など受療権を守る運動に活用していきましょう。
 前総会時340カ所であった民医連内の無料低額診療事業(※)の実施事業所数は37カ所が新たに開始し、2016年1月現在で377(病院106施設、診療所216施設、歯科診療所31施設、老人保健施設24施設)となりました。埼玉11、東京7、奈良7、福井6など大きく増えている県連もあります。生活保護患者の10%条項(※)を申請要件とせずに届け出が受理された長崎・五島ふれあい診療所、奈良の経験などが特徴です。しかしまだ半数以上の事業所が実施にいたっていません。
 保険薬局の窓口負担金への助成では、高知市、旭川市、青森市、苫小牧市に続き、北海道の東神楽町、東川町で助成を実現しました。また、沖縄・那覇市は2016年度予算で承認されて運用が始まります。苫小牧市では3カ月の助成期間を6カ月に拡大しました。今後、すべての病院、診療所で無料低額診療事業を実施していくこと、救えたいのちの事例集など可視化をはかること、受療権を行使できなかった困難事例を分析し職員教育と権利としての社会保障を求める運動に生かすこと、国に対し保険薬局、訪問看護への適用を求める運動、民医連以外の医療機関との連携、公的医療機関をはじめとしたすべての医療機関への働きかけなどをすすめます。
 県連・法人の社保担当の青年職員の養成を目的に、水俣をフィールドにして第3回青年社保セミナーを開催しました。公害の原点ともいわれる水俣病に現地で向き合い、水俣に民医連の旗をかかげ、苦しんでいる患者とともに、地域の人たち、全国の民医連の仲間の支援も受けたたかってきた歴史から、民医連の社保活動とはなにかを深め合いました。「国に対して声を上げた患者家族、民医連の働きかけが少しずつ実を結んでいった実践に勇気をもらった」「社会保障は動かなければ勝ち取れない。言われて参加するのではなく自ら積極的に社保活動に参加できる職員になりたい」など民医連医療とその中での運動への確信が広がりました。

(4)沖縄辺野古新基地をつくらせない運動

 2014年1月名護市長選、9月統一地方選挙、11月県知事選、12月衆議院選挙と、建白書(※)に基づく、普天間基地の無条件閉鎖・撤去、辺野古新基地をつくらせないオール沖縄の民意が勝利しました。全日本民医連は、沖縄民医連と連帯し全国的な運動としてとりくんできました。民意は、辺野古への新基地建設は不可能であることを示しています。
 こうした沖縄県民と国民の民意、そして、翁長知事の「新基地建設の阻止のため、あらゆる権限を行使する」という揺るがない意思の前に、3月4日、政府は、昨年10月翁長知事が辺野古埋め立て承認の取り消しに対して起こした代執行(※)裁判の和解に応じて裁判を取り下げ、工事を中断しました。翁長知事は、再協議の前提に政府に対して「沖縄県民の気持ちに寄り添う」ことを掲げ、「いろいろなやり方で基地を造らせないということは、これからも信念を持ってやっていきたい」と述べました。「辺野古断念」こそ再協議の結論です。沖縄と連帯し、引き続き運動を広げて行きましょう。
 全日本民医連として、2014年6月の第32次辺野古支援・連帯行動から、2016年1月の36次の行動まで、今期はのべ260人が参加しました。各県連や法人の平和学習、全日本民医連の看護管理者講座、事務幹部養成学校フォローアップ研修でも位置付けるなど、これまで3000人を超える職員が現地を訪れて支援行動に参加しています。
 辺野古基金(※)はすでに5億円を超えて全国から寄せられています。全日本民医連は基金からの要請を受け、協力団体となりました。
 2016年1月24日投票で宜野湾市長選がたたかわれました。残念ながら勝利することはできませんでしたが、現職の相手候補は、一度も辺野古新基地建設について触れることができず、争点を明確にしませんでした。投票日の調査で、辺野古移設反対は、56%と過半数を超え、民意は変わっていません。宜野湾市長選挙の直後、全日本民医連は第36次の辺野古支援連帯行動を行い、2月21日の国会前には、全国から2万8000人が集まり、辺野古新基地建設反対を掲げ包囲し、国を揺るがしています。

(5)原発ゼロの日本へ向けた運動

 この2年間、原発ゼロを求める声と運動は、より大きくなってきました。2014年5月21日、福井地裁で争われた大飯原発3・4号機運転差し止め訴訟の判決(※)など重要な裁判を民医連としても支援してきました。判決は、福島第1原発事故の深刻さを真正面から見据え、原発の運転再開を憲法上の権利である人格権に対する侵害行為と見なし、再稼働差し止めを認めました。まさに「原発と人類は共存できない」という考えを認めた画期的な判決を引き出しました。
 2016年3月9日、大津地裁は、3・4号機は、耐震性に欠け、津波による電源喪失等を原因として周囲に放射性物質を飛散する危険性を有するとして、滋賀県の住民29人が再稼働差し止めを求めた仮処分申請で「関西電力高浜3号機、4号機を運転してはならない」との仮処分を決定しました。現に運転中の原発に対し運転を禁ずる仮処分決定は史上初です。決定は、避難計画を審査しない新規制基準の合理性を否定し、避難計画を基準に加えることは、国の「信義則上の義務」であるとし、新たな規制基準を満たしたとしても、原発の安全性が確保されるわけでないと明確に示しました。福井地裁と今回の決定で原子力規制委員会が新基準に適合していると判断した原発の安全性は2度にわたり司法により否定され、新基準は再稼働の十分な条件ではないとしました。
 2015年4月、函館市は青森県大間原発の建設中止を求め、国と電源開発を相手に、東京地方裁判所に自治体として初めて裁判を起こしました。国策と位置づけて、原発再稼働、建設を強行する国と設置企業に対して、憲法92条の地方自治の本旨にもとづく、地方自治を守るたたかいとしても発展しています。いったん原発事故がおこると人の住めない地域になり、地方公共団体の存立自体が危機にさらされる事態に対して、憲法上保障された地方自治権すなわち地方自治体の存立を求める権利に基づいて今回の訴訟が起こされました。
 函館市議会の大間原発無期限凍結を求める決議は自民党を含む全会一致で採択、国などへの抗議行動には、道南10自治体の首長・議長、市の連合町内会、各業界団体あげて参加し、文字通りオール道南・函館の反原発運動になっています。
 原発をなくす運動全国連絡会の事務局団体として運動をすすめてきました。川内原発などの再稼働ストップの運動を強めてきました。玄海原発差し止め訴訟の原告は1万人を超えています。
 福島原発事故の収束も、被害の回復の目途もないまま、政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発の再稼働・新設、原発の輸出に躍起になっています。原発輸出のために「原子力規制委員会が安全を確認した原発は再稼働させる」と述べ、川内原発再稼働を突破口に、伊方原発をはじめ、全国の原発の再稼働をすすめようとしている姿勢は異常です。福島に寄り添い原発ゼロの日本をめざす運動をより大きくすすめていきましょう。

第2節 東日本大震災の復興支援、福島連帯・被ばく対策

 福島支援連帯活動の参加者は、各県連や事業所のとりくみを含め1000人を超え、辺野古支援連帯行動に次ぐ全国行動に発展しています。全日本民医連として福島被災地視察・支援連帯行動を3回開催し、避難者の方々を訪ね直接懇談する機会や、原発労働者の実態を把握する内容も取り入れてきました。原発事故に対するマスメディアの報道が激減する中、福島に寄り添い、原発事故被害者の切り捨てを許さないたたかいに連帯することこそが、原発のない社会をめざす運動を大きく前進させます。
写真 事故から4年間の情勢の変化、新たな知見を加え『被害者に寄り添い いのちと人権を守るために~新版 原発問題学習パンフレット2015』(写真)を発行し、3万部が活用されています。原発事故後の健康に対する不安だけでなく、生活や家族の悩みなど、原発事故被害者が抱える問題は様々で、それに応える健診や相談活動が全国各地でとりくまれてきました。こうした問題に対応できる相談員を養成する目的で「相談員セミナー」を開催してきました。
 全日本民医連は、双葉町から委託された39歳以下の甲状腺エコー検診の継続に続き浪江町からも要請を受け、委託契約を結びました。福島県外への避難者に対して実施した検診は一般1211人、甲状腺エコー1603人(2014年4月~2015年3月)となりました。
 福島民医連への医師支援を継続してとりくみました。福島民医連として初期研修を自前で行えるよう内科病棟の支援を2015年9月まで行いました。他に、栃木民医連から月1回、わたり病院への当直支援、月2回の桑野協立病院への日当直支援も継続してきました。小名浜生協病院も含め、臨床工学技師、薬剤師、看護師などの多職種支援が行われました。
 こうした支援の中、2013年につづき、2014年、2015年と連続して初期研修医を受け入れてきたほか、低学年からの医学部奨学生の確保、県連的な医師養成を検討するための医師委員会機能の再確立が始まっています。

第3節 民医連らしい医療活動の探求、国内外への発信と共同の広がり

 39期(2010年度~)から「無差別・平等の理念を基に総合的な医療の質の向上」と「貧困と健康格差・超高齢社会に立ち向かう医療活動の実践・8つの重点課題」にとりくんできました。今期は、この間のとりくみや成果が結びつき民医連らしい医療活動の探求と実践、その国内外への発信と共同が大きく広がりました。

(1)医療安全、医療・介護倫理、QI活動、チーム医療など総合的な医療の質の向上の実践

 医療安全文化の醸成へ向けてノンテクニカルスキル(※)の向上(コミュニケーション不全の改善)、そのための「チームSTEPPS(※)(基礎コース、アドバンスドコース)」の各県連規模での研修会の広がりなど医療安全の新たな段階に入っています。さらに、どこまで実践に生かされているか、成功事例の収集やステップアップが必要です。ノンテクニカルスキルの追求は、チーム医療の発展や医療倫理の課題と関わっており、新たな探求が必要です。また、介護や在宅での安全確保についての検討が今後の大きな課題です。
 今日、民医連の現場で直面する倫理問題は、医療だけではなく介護の分野にも存在しています。特に、高齢者・終末期の医療・介護倫理は、「在宅や施設の終末期、急変時の倫理」「抑制と事故予防」「摂食困難者へのかかわり」「認知症ケアの倫理(本人の意思決定、暴言暴力など)」など病院以外(在宅や施設等)でも起こりうる問題です。医療・介護の多職種協働を通して、倫理的問題への気づきをつよめ、事例検討の手法を学ぶことが重要な課題です。「全日本民医連医療倫理事例集2015」に収載される困難事例の多くは、「身寄りのない」事例です。
 2015年10月1日「予期せぬ死亡事故の届出に関する『医療事故調査制度』」が始まりました。全日本民医連が長年(2003年から)にわたって設立を要望してきた医療事故を調査する第三者機関が、ようやく実現しました。しかし、制度開始から3カ月余り経過しましたが、当初予想を大きく下回っています。医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行う、としたこの制度の目的を、国と厚生労働省の責任ですべての医療機関に熟知させ、患者・国民へ周知することが必要です。
 その上で、真に公正・中立な第三者機関の役割発揮と国民と医療機関との信頼関係をより高めていく制度として充実、発展させていくことが求められます。
 この間、介護分野での事故報告が増えています。従来の医療事故の対応だけでなく介護分野を視野に入れた危機管理に対する政策づくりが課題です。
 2011年度からQI活動(「医療の質評価・公開推進事業」)を開始し、測定5年の積み重ねで89病院に広がっており、薬局や診療所でも開始されています。また、厚労省事業評価会議は、民医連QI事業が、「中小病院が多く、同規模・機能の病院の評価の指標として有用であり、患者の人権が考慮されている。現場の改善につながっている。他の医療団体と比べ高く評価できる」と述べています。また、2016年日本病院学会「QIシンポジウム」において民医連QI活動の発表が推薦されました。2016年からは、日常の医療介護活動への浸透・共有や得られるデータの標準化、見える化をすすめ新しい民医連の土台の一つにしていくステップアップの段階にきています。
 民医連がめざすチーム医療では、「民医連のチーム医療に関する実証的調査研究」に引き続き、ファシリテーター研修会を重ねてきました。今期は、民医連のチーム医療の実践や探求には、基本的な理念・目的が共有され、「いのち」・「憲法」・「綱領」という3つのものさしの判断基準があること、それが“気軽に話せる文化”に醸成されている事など明らかにしてきました。チーム医療の中に「3つのものさしを常に働かせる」かが重要な課題です。特に、地域包括ケア時代では、在宅医療・介護の質を高めるために、多職種連携・協働の推進(IPW)や地域を変える視点を持ちながら実践していくことが必要です。

(2)日本HPHネットワークの結成とSDHの実践・探求

 日本HPHネットワーク(※)が、地域全体の「健康水準の向上」と「幸福・公平・公正な社会の実現への貢献」をめざして、日本の主な病院団体や学会・研究者の発起人により、結成されました。この3年間の粘り強いとりくみで佐久総合病院を含め現在46事業所が加盟しています。
 多くの発起人からは、「日本の保健医療を越える歴史的な日」、「自治体病院や公立病院、厚生連などとともに広く」など日本HPHネットワークの結成の意義や展望など力強いあいさつが行われ、幅広い連帯・協同の財産を作り出し大きな歴史的な一歩を踏み出しました。大学や学会主導のアカデミズムを背景とした医学モデルではなく、生活モデルに立脚した医療機関のあり方を地域住民とともに示すことで、地域に密着した病院や診療所の新たな価値を創造する契機になることが期待されています。
 SDH(健康の社会的決定要因)の探求と実践では、「放置されてきた若年2型糖尿病」パンフレットが、各県連・事業所で普及学習されています。初めて「SDHセミナー」を開催し、民医連のHPHや無低診の実践が研究者や行政関係者に大きく注目されました。また、SDHを医療活動に生かすために研究者と現場のワークショップを行い、「目の前の患者さんがSDHの視点でどんな社会的リスクを抱えているか」などの学びを深めてきました。さらに、患者の社会背景に関する情報共有やSDH関連の問診表とサマリーの活用も始まっています。

(3)水俣病大検診の実施やアスベストなどの被害者救済、労働衛生社会医学分野のとりくみ

 2014年10月、水俣病大検診が、全日本民医連の力を結集して実施され、受診者の9割超に水俣病の症状が確認されました。
 アスベスト疾患はすでに2万人を超える被害者を生みだし、中皮腫だけでも年間1000人が死亡しています。引き続きアスベスト疾患や水俣病患者など被害者救済のとりくみの強化が重要です。
 2014年に過労死等防止対策推進法が成立しました。過労死が社会問題化してから30年以上にわたる国民的な運動の成果です。また、働くもののいのちと健康を守る全国センターの地方センター確立、労災、職業病、過労自殺、じん肺アスベスト、振動障害(※)、頸肩腕障害、メンタル不全など分野別のとりくみが行われ、ストレスチェック義務化(※)対応、アスベスト教本簡易版の作成をすすめています。労働衛生・社会医学分野の後継者育成の具体化が大きな課題です。

(4)貧困と格差に立ち向かう民医連自主研究会活動

 民医連の各自主研究会は、学術研究活動や医師養成などで重要な役割を発揮しています。今期は、貧困と格差に立ち向かう学術研究テーマの設定や医師養成の関わりを強めてきています。特に、大学と共同し小児医療委員会がとりくんだ「外来診療での子育て世代実情調査」(低所得世帯ほど予防接種を控える等)や、大学やNPOと共同した精神医療委員会の路上生活者への精神保健調査(6割に精神疾患と知的障害のいずれかを有する)は、社会的な発信や解決に結びつける提言を含んでおり、その存在意義を発揮しています。

(5)県連医活委員会の現状と課題

 今回、全県連の医活委員会の現状把握を行いました。29県連(63%)で医活委員会体制があり、役員や事務局員が配置され、多くは毎月や隔月開催しています。また、全日本民医連から出される方針・課題についてのとりくみの現状では、県連の方針を持ってとりくんだり、独自の委員会体制と県連企画を具体化している県連も少なくありません。特に、各県連の事業所が位置づけとりくんでいるのが特徴です。この間の全日本民医連の方針や実践が反映し、この6年間の積み重ねの中で広がり受けとめられています。
 一方で、提起される課題が多く、それぞれ着手しているものの、力を注ぐ分野を決めきれなかったり、県連によっては「問題提起」を読みこなせない状況と参加者以外の県連理事、医活委員、法人、管理部などに浸透していないことがあり、全県連の医活委員会の確立などが重要な課題です。

第4節 介護・福祉分野の到達

 今期、「無差別・平等の地域包括ケア」の実現に向けて、介護ウエーブ、事業活動と実践、職員確保と養成、中長期計画づくりをすすめてきました。大幅引き下げとなった報酬改定に対しては、影響を最小限にくいとめ、質の向上や機能強化を追求してきました。制度改悪に立ち向かい、利用者・家族の生活と権利を守る実践が各地で積み重ねられ、全体としては、押し返しつつ踏みとどまっている状況といえますが、一方で事業所収益や利用者の減少、慢性的な人手不足、法人間でのとりくみ上の差もみられます。

(1)介護ウエーブのとりくみ

 今期は、制度改悪の動きに対して、法案段階での改悪中止、改悪強行後は改悪の撤回・制度改善、介護報酬の引き上げを求める介護ウエーブをすすめてきました。2つの請願署名、調査活動、国会要請行動などにとりくみました。各地で多彩な介護ウエーブがすすめられ、県連の介護職部会としての積極的なとりくみもありました。介護報酬改定に対して、地域社保協と連携しながら影響調査にとりくみ、事業所の現状、改定の問題を広く訴えてきました。特定事業所集中減算(※)に対して自治体での運用基準の改善が勝ちとられました。総合事業(※)の実施など第6期の対応をめぐる自治体交渉も実施されました。
 今期初めてとりくんだ「介護をよくするアクションウィーク」(7月と11月)では、多くの職員が自らメッセージボードを掲げ、インターネットなどを通して現場の実態、制度改善を求める声を発信しました。11月11日の「介護の日」を前後して、街頭宣伝や署名、介護シンポジウム、介護・認知症110番などが各地で旺盛にとりくまれました。
 全日本民医連では数次にわたり介護の改善を求める国会行動にとりくみました。補足給付、マイナンバー記載について厚生労働省交渉や小池参院議員の国会質問などを通して運用の改善を盛り込んだ通知を得ることができました。各地で起こっている実態を国に突きつけた結果であり、実施前に制度を一部修正させたことは、改悪の内容を政府の思惑通りに実施させなかった成果として今後の運動につながる内容となりました。制度改善、報酬再改定などを求める新たな請願署名、利用料2割化など負担増に伴う影響調査にとりくみました。

資料F

(2)事業活動の特徴

 今期、機能強化型訪問看護ステーションの開設をはじめとする在宅事業の拡大、特養の受託・建設、高齢者住宅(サ高住、有料老人ホームなど)の建設、地域包括支援センターの新規受託、共同組織と連携した地域活動の展開、自治体との関係づくり、生活支援モデル事業や生活支援の体制づくりなどを担う協議体(※)への参加などの新たなとりくみがありました。
 介護報酬2015年改定に対して、各事業所では、重度やリハビリなどに対応した新規加算の算定を積極的に追求してきました。今年の第1四半期の収支差の状況では、マイナス2.27%のもとで前年同時期比プラス0.5%と全体として善戦しています。処遇改善加算のもつ限界や矛盾(※)のなかで、各法人において職員の処遇改善に向けた対応も強められてきました。一方で、多くの事業所で利用者の減少や慢性的な人手不足が続いており、利用者の確保、職員の確保が思うように進まず苦慮している実態があります。
 全日本民医連として2015年7月に「介護報酬2015年改定検討会議」を開催し、個別サービス事業ごとの対応の現状や今後の対応方針について交流・共有しました。全日本民医連第41期地域包括支援センター交流集会、2014年度・2015年度社会福祉法人専務・事務局長・施設長会議を開催しました。

第5節 歯科

 地域包括ケアがすすめられる情勢を受け、疾病構造の変化、格差と貧困の進行への対応とたたかいを重視して運動をすすめてきました。歯科部は「2つの課題」として、(1)民医連らしい歯科医療活動のチェックリスト(※)と、(2)地域包括ケアをみすえた中長期計画の策定を呼びかけ、全ての事業所がとりくみを開始しました。

(1)6・4集会の成功と保険でよい歯科医療運動の広がり

 「保険でよい歯科医療」の運動は、地域の歯科開業医や共同組織・住民との共同がすすみ、技工士会、衛生士会などから賛同も得、民医連歯科の事業所がない県連でも大きく署名が広がりました。2015年6月4日、「“歯は命”健康長寿社会をめざして 保険で良い歯科医療の実現を 6・4国会内集会」には、民医連歯科職員102人を含む426人が全国から参加し、運動の節目となりました。20万筆を目標としてオール民医連でとりくまれた請願署名の到達は、18万4061筆(1月13日現在)でここ4回のとりくみでのべ70万筆を超えています。この力は政府や厚労省を動かし成果も勝ち取ってきています。
 鳥取県では、大分県に次いで県下全自治体で請願が採択されました。今後、金属アレルギー患者への非金属補綴への医療費助成など、この決議を基に、具体的な施策を迫り、自治体独自の制度化へ向けてとりくみを強化する必要があります。

(2)医科歯科介護の連携の強化

 第21回歯科学術・運動交流集会(福岡)での口腔ケアシンポジウムでは、病院の医療活動に歯科が必要であることが認識され、歯科からだけでなく医科からのアプローチとして先進的にとりくまれていることが報告されました。
 医療従事者統計では、歯科衛生士の配置がすすみ、活動と役割が増していることが報告されています。今後は、病棟横断チーム(摂食嚥下、NST、RST(※)など)での口腔ケアのとりくみや退院時カンファレンスなどの参加、周術期口腔機能管理のマネジメントなど様々な活動が期待されています。

(3)経営活動の評価

 2014年度歯科経営実態調査では、調査対象の全事業所から提出があり、黒字事業所比率は67.8%で、(2012年度71.2%、2013年度63.5%)となり、2012年度には及ばないものの前年度より回復しました。全事業所合計の経常利益は約3億9000万円(2.4%)で史上最高となり、4年連続で全事業所合計は黒字になりました。患者数は、前年比較でのべ数0.7%、件数3.7%と共に増加、奮闘しています。
 患者結集、保険収益増加、訪問診療へのとりくみ強化の3点が大きな特徴となっています。教訓を共有すると共に赤字が固定化し困難な事業所に対する援助を強めることが必要です。

(4)歯科医師をはじめとした後継者の確保と養成

1)民医連歯科奨学生、歯科医師養成のとりくみ

 民医連歯科奨学生は11人に止まり、後継者確保と養成が遅れています。国の政策で、歯科医師国家試験の総数制限があからさまに行われ、80%あった合格率は、2014年度には63.8%にまで低下しました。そして、研修医に卒後臨床研修などで大学から離れることを躊躇する傾向が出てきています。
 一方、歯学生対策の中心のデンナビ(※)は、全国の歯学部を対象とした開催とはなりませんでした。民医連の歯科医師臨床研修制度を伝えきる活動、歯科医師確保と養成課題を事業所の中長期計画の中でしっかり位置づけることが求められます。地協単位での管理型臨研施設整備の課題は、九沖地協で新たに整備されました。引き続き近畿、東海北陸地協での整備が急がれます。~京都で温故知新~をテーマに開催した中堅歯科医師集会は57人参加し成功しました。学習を重点にとりくみ、実行委員も民医連歯科の次世代を担う若手歯科医師の核として成長しています。

2)歯科技工士の分野のとりくみと課題

 入れ歯や差し歯を作る技工士は、低賃金や過酷な労働実態の中、養成施設の入学者数の激減、20~30代の離職率約80%など、担い手不足が懸念される事態となっています。これらのことは国会でも取り上げられ、保険で良い歯科医療全国連絡会を中心に、広範な懇談会や国会要請行動が行われました。
 民医連歯科では、2012年プロジェクトを立ち上げ、地協での集会を積み重ね、2015年12月12、13日に民医連全国技工士交流集会が開催されました。14年ぶりの集会には100人を超える技工士が集い今後の課題と展望について共有しました。

第6節 経営活動

 41期は、管理運営と非営利・協同の事業体として経営力量の向上をめざし、医療介護大転換時代にあらためて民医連の経営路線を振り返り、「たたかう経営」で未来を切り開くことを追求してきました。また、情勢に対応しながら経営改善を成し遂げる法人の中長期計画策定を重視してきました。
 第9期民医連統一会計基準推進士(※)養成講座を、全地協で開催し281人が受講し239人が推進士の認定を受けました。また、「民医連『新』部門別損益計算書およびそれにもとづく『管理要綱』(案)」について、今日の医療情勢や実践の到達を踏まえ、補強修正し「民医連部門別損益管理要綱」(※)として確認しました。

(1)民医連経営の厳しい現状と課題

 民医連の経営は、診療報酬、介護報酬の大幅なマイナス改定、消費税引き上げ、医療提供体制の縮小、また医師体制の困難などのもと全体的に悪化しています。
 2010年度から4年連続して利益が減少しました。2014年度医科法人の経営状況は、5割の法人が前年比で経常利益を減少させ、約3割の法人が赤字となっています。費用の伸びが収益の伸びを上回る傾向が続いています。短期指標該当(※)が10法人、中期指標該当(※)は48法人です。2014年度に引き続き資金を減少させている法人が少なくありません。経営悪化がこのまま進行するなら、民医連運動の重大な障害となり得る状況です。
 この間、経営困難に陥った法人に共通する問題は、正しい経営状況の把握、自らの経営認識の甘さ、経営管理の不十分さ、民主的な管理運営の不徹底などがあります。同時に、こうした問題を法人内部や県連、地協で率直に指摘し、十分な議論がなされていないことも共通しています。民医連はこうした困難を全国、県連に結集して乗り越えてきた力をもっています。全日本民医連、地協、県連の力を、オール民医連、オール地協の観点からどう生かすかが今日的な課題です。
 医療経済実態調査(※)と比較すると、民医連の病院、診療所とも高人件費の構造にあることが特徴です。2014年度病院(医療法人・693病院)の経常利益率は2.5%、民医連病院(142病院)はマイナス1.0%です。入院、外来収益や委託費、減価償却費、経費の構成比はほぼ同様の傾向ですが、人件費比率は民医連61.2%、医療法人57.2%となっています。無床診療所の経常利益率は、民医連(432カ所)は5.3%、医療法人(716カ所)8.8%です。収益構造の違いは、民医連が介護収益14.2%、医療法人2.1%と介護分野の比率が多いことが特徴です。費用では、人件費比率が民医連57.8%、医療法人48.3%となっています。一方、医薬品費の構成比は民医連7.3%、医療法人14.1%となっています。

(2)診療報酬改定の影響

 2014年診療報酬改定は、医療崩壊を加速するマイナス改定となりました。この間の診療報酬引き下げで、医療機関の経営は急激に悪化し、国民が求める医療の安全、医療の質の向上が大きな危機に瀕しています。
 民医連以外の病院グループ法人の2008年度から2014年度経営状況は、いずれも医業収益は一貫して増加している一方で、経常利益率は最高であった2010年度と比較して大幅に低下しているのが特徴です。
 国立病院機構(※)は、医業収益は2008年比で21%増、経常利益は2010年利益率対比で30%減少しています。済生会は、医業収益17%増、経常利益率5%減少し、2014年度は半数の病院が赤字でした。日赤は、医業収益21%増、経常利益率は2010年度3.2%であったのが2014年度はマイナス1.2%となり、約7割の病院が赤字です。診療報酬の引き下げは、全国の医療機関の経営に深刻な影響をもたらしたことが分かります。民医連の医科法人は、医業収益は2008年度比で11.2%増、経常利益率は2010年度比1.5%減少しています。民医連は医業収益の伸び率が低いのが特徴です。
 こうした中、2015年8月には、厚生労働大臣に「診療報酬改定に関する要求書」を提出し交渉を行い、診療報酬の大幅引き上げを要求しました。廃用症候群と高齢者に対するリハビリ査定が強硬に行われ、事業所によっては月に数百万円の減収となり、回復期病棟では充実期加算算定に困難を来す事態も発生しました。全日本民医連として厚労省へのリハビリ査定を中止するよう要請行動を行いました。

(3)消費税増税の影響

 2014年4月からの消費税8%への増税は、医療機関の経営にも深刻な打撃を与えました。2014年度の民医連医科法人の控除対象外消費税(※)は、額で前年度の1.5倍に引き上がり、対事業収益比は1.9%で前年から0.6%増となっています。とくに、病院経営に大きな打撃を与えました。2014年10月には、「消費税問題に対する全日本民医連の見解」を表明しました。逆累進性の非常に強い消費税は社会保障財源に最もふさわしくなく、廃止を視野に入れて縮小すべき税制であること、社会保険診療等は非課税のままとして社会保険診療に係る仕入税額控除(※)を100%認めることを内外に示しました。2015年10月には、日本医師会と四病協が連盟で「税制改正要望書(※)」を提出しました。消費税に関しては、患者負担を増やさないことを前提に「社会保険診療等に対する消費税の非課税制度及び医療保険における補填の仕組みを、仕入税額の控除または還付可能な制度に改めること」を強く要望しています。私たちの主張とほぼ同様であり、医師会や医療関係団体と懇談の機会を設けるなど、医療界あげての共同のとりくみが求められます。

(4)経営困難法人の援助と地協・県連経営委員会の機能強化

 経営困難法人について県連からの要請を受け、11法人と経営懇談会や検討会を行い、改善に向けた対策や危機を乗り越えるための打開策を検討してきました。また、地協経営委員会でも検討会の開催や対策委員会を設置し幹部派遣を行うなど、地協としての対応を図ってきました。現場に密接している地協・県連経営委員会の役割がこれまでにも増して重要になっています。
 徳島対策委員会は、41期に資金困難の状況が発生し専務補佐と事務局次長1人を派遣し、援助をすすめています。現在、2016年度の総代会に向けて、医療構想と中長期計画作りがすすめられています。
 川崎医療生協理事会は、「全日本民医連川崎対策委員会の終了に向けて、前倒産要因克服・経営再建行動、検証と課題の確認(案)」をまとめました。今後の事業展望、中長期経営計画の策定を自らの力で構築し克服する決意が示されています。川崎対策委員会はこの到達を共有し、任務を終了しました。

第7節 職員の確保と養成、各分野の活動

(1)看護

 「いのちの平等めざす最前線の役割を発揮する看護集団めざしてさらに前進しよう!」をスローガンに、看護のやりがいを持ち、働き続けられる職場づくりの推進者として、看護管理の役割の重要性を再度確認し、(1)これまでの看護実践や民医連の医療活動に誇りと確信を持ち、綱領を旗印に、学ぶこと、実践を組織すること、(2)その上で、医療活動方針に沿った民医連看護の実践指導を担える集団づくり(後継者の育成)に力を注ぐこと、(3)新卒看護職員の確保活動をさらに強化すること、(4)看護改善大運動「看護師増やせ」の運動を継続的・多面的に展開することなどを柱とし、綱領と総会方針を実践する立場で活動してきました。
 超高齢社会で発現する事象は、多様な病態を持った高齢者から、多様なニーズが発信され、医療と介護が絡み合って対処するという複雑な様相にならざるを得ません。「人権と総合性」を基本に「施設重視から地域(くらし)重視の看護管理への転換」「無差別・平等の医療活動の展開と経営的なバランスを一体のものとして捉える」「事例を通じ人権意識や科学的なものの見方・考え方を養い、患者中心の職場運営」などを視点に、平和・いのち・人権を守り抜き、民医連の看護を引き継ぐ後継者育成にとりくみましょう。きびしさを増す現場だからこそ、民医連の看護の輝きを、意味づけ・可視化・伝える努力が重要です。患者・利用者・国民の命を守る最前線に存在する民医連の看護集団の役割をさらに発揮させましょう。
 これまで「民医連の看護 受け継がれる歴史と特徴~民医連の看護のものさし」(※)発表や『看護10ストーリーズ~輝く命の宝石箱』の出版、「看護管理現状調査」にとりくみ、民医連の看護の継承・世代交代を支援する「看護管理者講座」開講など行ってきましたが、これらの到達点をさらに発展につなげるために、(1)日本国憲法、民医連綱領を土台に民医連の看護理念として「人間らしく、その人らしく生きていくことを援助し、それを守り抜く無差別・平等の看護を民医連の3つの視点と4つの優点を基本にすすめること」を確認し「民医連の看護のものさし」をより実践的に生かせるものにするための「解説ガイドブック(仮称)」の作成、(2)看護管理の現状を把握・分析し課題を明らかにし、看護管理のスキル向上をめざすことを目的とした「看護管理調査」の実施、(3)「特定行為」についての事業所ごとの議論の推進を中心にとりくんできました。
 新卒看護師受け入れは、4年連続で1000人を超え、2016卒も1000人を超える見込みです。教訓は日常の看護実践を語り体感し共感を育むこと、奨学生の内定者率のアップ、2012年改定「新卒看護師受け入れマニュアル」の活用、高校生体験受け入れの量と質のこだわり、低学年からの奨学生集団づくり、臨地実習の充実などです。引き続き、オール民医連の視点で全県の目標達成にむけて看対活動を重視します。大学生の増加への対応、診療所や訪問看護STなど多彩なフィールドでの新人研修受け入れ、学生や若手看護師のメンタルヘルス問題の克服、経済的な問題など様々な事情を抱えた学生・若手看護師に対する援助、などの課題についてとりくみをすすめます。また、高額な有料紹介事業者による看護師紹介が新卒看護師の就職活動にも及んできています。高額な紹介料による経営負担、また早期離職や定着率の低さにもつながっているケースもあります。民医連の自前の後継者養成、看学生対策を強めていきましょう。
 第12回看護・介護活動研究交流集会を青森市で開催し、917人が参加しました。「60年の歴史に学び、さらに高めよう“いのち・人権・くらし”を守りささえきる民医連の看護介護の力~地域と未来への架け橋として~」をテーマに、口演・ポスター共に10分科会で466演題が発表され、日頃の看護介護を確認し合い、活発に意見交換することができました。
 2013年に再開した看護管理者講座は3年間で158人が受講しました。幹部の世代交代がすすめられる中、タイムリーな開催となりました。沖縄・福島などを研修フィールドにしたことで管理者となるための自己変革を迫る研修となりました。受講者は次代をになう看護管理者として歩み始めています。
 医療介護総合確保法で特定行為に係る看護師の研修制度の創設が決まり、2015年10月から制度開始となりました。本制度の大きな狙いは、チーム医療の名の下に看護師が医行為を行うことにより、医師の増員なしに職種の役割分担による安上がりな医療提供体制で、地域包括ケア、とりわけ急激に増加する在宅医療需要に対応することにあります。医療提供体制の再構築につながる制度であり、医師をはじめ他職種の役割や働き方に大きな影響を及ぼすものです。
 全日本民医連は2015年5月に「医療のあり方を大きく変える『特定行為に係る看護師の研修制度』について 民医連の考え方と留意点」を提起しました。県連として方針・提言をまとめた貴重な経験もありますが、学習会の実施、方針の検討は県連で約6割、法人では約3割と、緒についたばかりです(11月末時点)。引き続き、医師を始め多職種で議論・検討する必要があります。まだこの制度が国民に広く知られていない状況があります。看護の役割とは何かを深めることが重要です。患者・利用者、共同組織へ周知し懇談をすすめましょう。医師会や看護協会はじめ、地域で連携している医療機関との情報交換や懇談を通じて、現場の要求を整理していきましょう。
 看護学校では、年1回の副校長・教務主任会議や事務長会議、後継者養成、教育実践の交流と学びあいをすすめるため、第1回民医連看護専門学校学術交流会を北海道で開催し、7校から参加があり、教育実践の交流が行われました。今後は平和で豊かな社会建設の形成者として貢献できる民主的で人間性豊かな看護の専門家の養成のため、実践的な課題について議論し、交流を深めていきます。

(2)薬剤師

 今期、薬剤委員会の機構を見直し、薬剤師政策の全面実践のために病院の課題と保険薬局の課題を共有して論議をすすめました。患者の立場に立って医師と共に薬物治療を行っている病院薬剤師の役割は重要です。この実践が民医連の枠も超えて地域の保険薬局、医療機関と連携した医薬品評価、副作用モニター活動へと発展している活動もあります。
 国試合格率の低下で新卒薬剤師の確保が厳しくなっています。民医連医療への共感をはぐくみ国試に合格する力をつけるなど育てる薬学生対策の重要性が増しています。同時に「6年間の大学教育プログラムをしっかり学んでも6割の学生しか国家試験に合格できない」という薬学教育の大きなゆがみを是正するために薬剤師会や大学と協議をすすめるなど運動を提起することが必要です。
 保険薬局法人の非営利型の一般社団法人(※)への移行について具体化をすすめるため実践的な手引きを作成し、セミナーを開催しました。現在7法人が移行済みです。医療である調剤を行う保険薬局が営利追求の事業体である株式会社によって経営されていることへの批判があります。民医連の非営利協同を体現するためにも保険薬局の非営利型の一般社団法人への移行をさらにすすめましょう。
 某大手調剤薬局チェーンの社長の高年棒問題や、薬歴未記載の不正請求問題なども利用し、次期診療報酬改定では病院に近接した中規模以上の薬局のさらなる技術料改悪がすすめられています。また医薬分業の見直し議論も起こっています。しかし、本来あるべき医薬分業の基本は「経済的、機能的、構造的にも独立した組織、事業所の医師と薬剤師による医薬品使用の個々患者への適正化のシステム」です。そのためにも地域包括ケアにおいて地域に根ざした保険薬局の役割が必要です。国も「かかりつけ薬局」を提言しています。民医連の保険薬局は病院に近接した大規模の薬局であっても、複数の医療機関からの処方のチェックや服薬指導、在宅支援などの役割を果たしています。
 日本の利益相反(※)マネジメントの後進性と製薬企業・専門医のモラルハザードにより、製薬企業の営利追求と専門医・行政のなれあいが続いています。利益相反の透明化を専門医・製薬企業・行政に求めるとともに、欧米のように非開示についての罰則も含むルール作りを求めていきます。化血研(※)などの企業のモラルハザードに厳しい対応をすすめることが必要です。私たちの医療活動の中に利益相反によるゆがみに影響されないようルール作りや医薬品被害を生じさせないとりくみや被害救済のとりくみも必要です。

(3)リハビリテーション

 民医連の常勤セラピストは5300人を超えました。後継者確保は改善していますが、困難が続いているところもあります。セラピストが急増し、多くの青年職員を少ないベテランと中堅職員が指導しなければならず、中堅・幹部職員の育成も喫緊の課題です。これまでに中堅研修会に400人を超える中堅職員が参加し、職場の中心的役割を果たす職員も出てきています。今後、次世代の民医連を担うトップ管理者の養成に向けてとりくみが課題です。
 診療報酬・介護報酬改定で回復期リハビリ病棟の基準変更、地域包括ケア病棟の新設、さらに通所リハにおける個別リハの本体報酬への包括化など、リハビリ分野に大きな改定が行われました。特に地域包括ケア病棟は、回復期リハビリ病棟と異なり、脳血管障害や運動器疾患など疾患枠に関係なくリハビリを行うことができますが、報酬が包括化されており、必要なリハビリが十分に提供出来ないなどの声もあります。出来高制を求める改善のとりくみが必要です。
 介護保険におけるリハビリは、地域包括ケアの構築の名の下、これまでの機能回復・維持から生活支援と社会参加へのシステム変更が求められ、さらにリハビリを「卒業」する人たちの数を評価するなど、アウトカム評価の導入がなされました。改めて維持期のリハビリの継続に関するたたかいと対応が重要です。同時に地域で暮らしていくため、目的に合わせたリハ(生活行為向上)という形での役割も示されており、それに対応できる多職種協働の体制づくりが必要です。

(4)介護・福祉分野

 各法人で教育要綱の整備や養成システムづくりがすすめられてきました。雇用形態、職員の年齢・経験が多様な中で、様ざまな工夫が講じられています。地協では管理者・職責者の養成にとりくみました。介護職員確保では厳しい事態が続いています。民医連102法人の採用率は14.5%、離職率12.9%、増加率1.6%でした(2014年10月~2015年9月)。前年と比べると、採用率を伸ばしている一方で離職率が上昇しており、全体の増加率が低下しています。全国平均(介護労働安定センター調査)との比較では離職率は低く押さえられていますが、採用率が7ポイント程度低く、結果として増加率が下回っていることが特徴です。各地で確保に向けた様々な対策が講じられており、紹介業者の活用のほか、無資格者を受け入れて入職後に育てていくことを開始した法人もあります。介護学生対策を位置づけてすすめているところも増えています。介護福祉士養成校の実習受け入れ、「高校生1日介護体験」、介護奨学金制度などもとりくまれています。
 県連の介護職部会は26県連で設置され、介護職が自ら主体となって介護ウエーブ、職員養成などが旺盛にとりくまれています。全県連での介護職部会設置と活動交流を目的に、第2回介護職の組織づくり交流集会を開催しました。
 全日本民医連として、法人介護・福祉責任者研修会、法人ケアマネジメント部門責任者研修会を開催するとともに、「キャリアパス作成指針」「民医連ケアマネジャーの役割」を提起し、議論をすすめてきました。

(5)各専門職種の活動

 放射線部門は活動交流を柱に医療被ばく低減、医療安全の向上、CT・MRIなどの合同保守をすすめる課題を継続検討してきました。3年半ぶりに放射線部門全国代表者会議を開催し、民医連の歴史を学び、チーム医療の推進が求められるなかでこれからの放射線技師に求められる課題を討議しました。
 検査部門は、全国交流集会を実施、医療安全や多職種協同の中で検査部門の果たす役割について議論を深めてきました。日本臨床検査技師会の設立母体別代表者会議に、全日本民医連検査部門委員会として参加、要望を伝え改善を求めるなど行ってきました。福島からの避難者や福島における甲状腺検査に検査技師として協力できるよう、関東・北関東地協主催のエコー講習などもとりくまれました。
 ソーシャルワーカー部門は、地協開催が定着した初任者研修会に続き、初めての中堅職員研修会を実施、中堅者研修要項を作成しました。権利としての社会保障を目指す実践・事例レポートは、全国から300を超える事例が集約され、事例集の作成をすすめています。安保法制に反対し平和を守るたたかいの決意を込めて声明文を出し、民医連内外にSW9条の会への賛同を呼び掛け、会員は700人を超えています。
 栄養部門は、食の安全と災害時の給食、嚥下食のとりくみ、職員育成、経営改善、チーム医療の推進を重点課題にしてとりくみをすすめてきました。また、厳しい栄養部門の情勢を反映し、給食部門の外部委託や集中化・共同化も広がっています。全日本民医連栄養委員会は、引き続きその実態の把握に努め民医連らしい栄養部門のあり方について討議・交流し、経営改善・給食品質の向上・職員育成をすすめていきます。
 鍼灸マッサージ部門では、鍼灸・マッサージ療養に関する要望書を、厚労大臣に提出し厚労省交渉を行いました。
 保育部門は、交流集会の開催、院内保育所充実に向けた厚生労働省への要請行動を行いました。

(6)事務

 14年ぶりに事務養成責任者・担当者会議を開催し、民医連事務職の役割を再認識する機会となりました。各地で意識的な事務養成のとりくみがすすめられています。県連で世代のまとまりを意識した5年目までの事務職員研修を企画している(東京)、事務職でもプリセプター方式(※)や屋根瓦方式(※)をとりいれているなど経験がみられます。5年目までの初期研修は多くの法人で具体化されていますが、計画的な採用、5年目以降、特に幹部養成は引き続き重要な課題です。民医連事務職に求められる実務力・政策力・組織力を身につけるための具体的な方策を明らかにしていく必要があります。
 事務養成をすすめていくため、すべての県連・法人で事務委員会を強化し、事務養成方針を確立・充実、実践し、事務政策の中に実践的な研修計画を盛り込むなどして、機能する政策に作り上げていくことなどが必要です。地協で定期的な県連事務委員長会議や交流集会などを開催し、各県連・法人の実践を交流しましょう。

(7)職員の健康管理

 2014年に改定した「健康で働き続けられる職場づくり」パンフレットの普及を継続的に行いました。また、2015年12月より義務化されたストレスチェックに関するセミナーや、第7回目となる職員の健康を守る交流集会を開催しました。

第8節 全日本民医連としての活動

(1)理事会・全国会議等

 全日本理事会は、出席率は95%を超え、各専門部・委員会への各県からの幹部、若手も参加し全国的な課題をけん引しています。また、今期、戦争法廃案のたたかいにおいて総がかり行動の結成、共同行動など大規模な国民的な運動をナショナルセンターの一翼としてささえ、共同のとりくみを積極的に広げてきました。
 県連機能を強めるため、県連運営の全国アンケートにとりくみ、県連事務局長研修会を8年ぶりに開催しました。この議論を踏まえて、県連機能強化のため第2回評議員会で、(1)県連・法人の幹部集団が県連の役割と機能についてたえず認識と自覚を深める事、(2)県連理事会をはじめとする機構を、役割を果たすにふさわしい内容に整備し充実させること、(3)県連的団結を促進する組織方針やルール、財政を確立することを呼びかけました。一方で全日本の問題提起が多すぎて県連でこなせない、全国会議の開催時期が集中し過ぎる、などの意見が引き続き寄せられています。
 2015年10月に開催した第12回学術運動交流集会は、全県連から1123人が参加、709演題が発表され、総会方針の3つのスローガンを深めました。また、テーマ別セッションは、「戦争・被爆体験、平和の運動をつなぎ、受け継いでいく大切さを学ぶ」「無差別・平等の地域包括ケアの実践と探究」「新しい時代を切り開き、健康権実現を担う民医連らしい職員育成をどうすすめるか」「平和と健康権、世界の新自由主義を乗り越えて」「遺棄毒ガス兵器被害の問題を考える―戦後70年の視点」の5つで開催しました。「民医連に転職して2年半になりましたが、ますます良い所に働くことができうれしく思います」「民医連の最も困難な人に寄り添うこと、あきらめない医療、介護を感じました。最後の人の輝きを大事にして欲しいと思いました」など総会方針に基づく全国の活動を交流し感動と学びを広げています。
 記念講演は、長野県阿智村の岡庭一雄前村長に「憲法が活きる自治体をめざして」のテーマで講演をいただきました。人口6800人、山間の小さな村で、憲法が生きる、住民が主人公の地方自治を貫いてきた実践を学び、地方自治、地域包括ケアの中で民医連と共同組織の活動で「福祉国家型地方自治体」を作り上げていこう、との呼びかけに共感が広がりました。「憲法や地方自治など、本当にそれが生きるのは生活する場なのだということを学んだ」など感想が寄せられています。
 創設13年を迎えた非営利・協同総合研究所「いのちとくらし」の長期ビジョン案について四役会議で懇談し、共同組織の研究などをすすめています。

(2)災害対策・MMAT研修の開始

 2014年8月広島土砂災害に36県連1632人で支援活動を行いました。2015年9月の茨城県を中心とした豪雨災害など地球温暖化の影響で自然災害が頻発しています。また、規制緩和と利潤第一・安全軽視により、被害が拡大しています。40期にまとめた「全日本民医連の災害救援活動指針」にもとづき、MMAT研修の具体化をすすめ、研修がスタートしました。

(3)民医連の共済活動

 1979年に発足した民医連共済年金制度(現在は民医連退職者慰労金制度)は今年で37年目を迎え、「新たな発展めざす2017年度改定案」(※)が提案されています。この制度は、我が国の社会保障制度の不備な面を仲間の連帯と団結で補い、民医連運動に貢献した先輩たちの退職後の生活の一助となっています。またこの制度は、全日本民医連に結集する法人の福利厚生制度の一つです。すべての役職員が共同連帯して、この事業をさらに発展させましょう。

(4)国際活動

 半世紀にわたって医療、教育の無料化を実現し、保健予防活動の重視とあわせ高い健康水準を確保しているキューバの医療、教育の実情を交流することを目的に第5回キューバ視察を実施しました。今回は現場で働く医師や医学生との意見交換、交流を深めることができ、参加した医師、研修医、医学生にとっても実りの多い視察となりました。キューバ大使館からの推薦でベトナムで開催した第7回キューバ連帯アジア太平洋地域大会に副会長を派遣しました。
 学術・運動交流集会で「平和と健康権、世界の新自由主義を乗り越えて」「遺棄毒ガス兵器被害の問題を考える―戦後70年の視点」の2つのセッションが実現しました。「平和と健康権、世界の新自由主義を乗り越えて」では、「万人の社会保障を求めるアピール」(※)をフランス、韓国代表との間で確認しました。
 フランス保健センターからの招へいにより会長が訪仏、NPT再検討会議への役員派遣を行ってきました。韓国の健康権実現のための保健医療団体からの医師等の日本滞在への支援要請があり、受け入れと交流を行いました。韓国のナヌムの家(※)からの要請でハルモニの来日と証言活動にとりくんできました。
 第2次世界大戦後に、旧日本軍が中国に遺棄した毒ガス兵器(※)による被害者の検診に引き続き協力してきました。民間レベルで被害者救済のための基金が設立されることになりました。
 国際ボランティアセンターを通じたイラク、アフガニスタン、インドネシアなどの紛争地域への人道支援のため義捐金を送りました。
 国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格(※)審査が終了し、推薦が決定しました。7月の理事会で協議資格付与が決定される見込みとなりました。(その後4月理事会で決定)

第9節 大きな「飛躍」が求められる4つの課題はどこまで到達したか

 41期は、今後の民医連運動の前進へ向けて飛躍が求められる4つの課題を提起し、さまざまな実践をすすめてきました。41期のとりくみ、到達を踏まえ42期も引き続きこの分野を重点としてとりくみをすすめていきます。

(1)民医連運動を担う医師の確保と養成

1)医師養成集会の開催

 「医師養成集会」を2014年11月に熱海で開催しました(参加者287人:医師122人、事務等164人、共同組織1人)。「70歳代診療所長の後継者が見つからず閉院も検討中」「若手が確保出来ず高齢化した常勤医師集団では当直がまわせない」「外来の穴埋めが出来ず日々非常勤医確保に奔走」など、日々の診療体制の維持のみならず、事業や民医連運動の継続・発展に支障をきたすような直面する厳しい実態を共有し、その上で、新専門医制度による大きな環境変化と地域包括ケア時代に求められる日本の医師養成の在り方について大いに議論を深めました。
 集会の中では、民医連の医師養成の歴史を振り返り、その果たした役割に確信を持ちつつ、総合診療医にも領域別専門医にも求められる「総合性」の内容について検討しました。憲法の理念や民医連綱領の魂、SDHの視座や健康権実現の課題にも議論が及び、政治変革も含め、地域の医療要求に真正面から応えようとすることで「総合性」を発揮することが重要であるという認識を共有しました。その上で、今後の具体的な医師養成の方向として、内科と総合診療を軸に自前の医師養成に拘り、各診療領域については各県連の医療展開やポジショニングを基にその必要性を吟味し、新しい連携の力で医師養成を模索していくというアウトラインを確認しました。

2)41期の医師研修・医師養成のとりくみ

 41期も新入医師統一オリエンテーション(医師参加2014年度129人、2015年度142人)(※)、セカンドミーティング(医師参加2014年度107人、2015年度110人)(※)、臨床研修交流集会(医師参加2014年度189人、2015年度206人)を開催しましたが、回を重ねることで工夫を凝らしその内容が充実してきています。
 2014年、2015年に全国の民医連で初期研修を修了した医師275人のうち158人が民医連で後期研修を開始(57.5%)しました。この水準はここ数年横ばいですが、低学年から奨学生だった研修医は概ね80%が後期研修で民医連を選択しており、今後の活動の教訓とすべき点と言えます。初期研修期間を通じて民医連医療をより実感しその魅力を伝えていく努力、研修内容の充実がさらに求められます。
 41期、1つの病院で基幹型臨床研修病院の資格を返上せざるを得ない状況となりましたが、その一方ではオール地協の力で資格維持に成功した経験も生まれています。民医連の基幹型臨床研修病院48病院中、JCEP(卒後臨床研修評価機構)(※)の認定病院は7病院増え、30病院になりました。2015年度のマッチング結果は160人でした。

3)民医連医学対活動のとりくみ

 41期は、医学対活動の今後の飛躍を作るための方針が提起された2年間でした。「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」(2014年11月)では、今日の情勢に相応しい活動を展開し前進するために医学対担当者(集団)の力を強化することが鍵であることを確認し、幹部が責任を持って医学対活動の現状をリアルに掴み、担当者の配置やその成長への援助が進展するよう必要な改革を行っていくことが提起されました。
 夏期休暇の短縮など医学生の勉学条件の変化に対応して、医学生のつどいについて見直しを行い、メイン企画の開催時期を3月に移しました。民医連の医療活動と研修について医学生が学び成長する場として引き続き重視します。
 「新卒医師200人受け入れ、奨学生集団500人」を目指し全国的な目標達成計画(※)が策定され、地協・県連での具体化がすすんでいます。200人受け入れは民医連全体の研修医定数の約80%をマッチさせるという高い目標ですが、全日本、地協、県連、事業所あらゆるレベルで現在抱えている弱点を前向きに乗り越え、私たちの組織そのものを強化前進させる課題として捉えることが必要です。
 2015年秋には中低学年で100人の奨学生を増やし育てる大運動が提起され、11月の医学生委員長会議・担当者会議で意思統一を経て現在進行形で全国的な実践が展開されています。

4)医師運動のとりくみ

 震災復興・医療再生を掲げて2011年にスタートした「ドクターズ・デモンストレーション」(※)のとりくみでは、統一地方選挙に向けた政策提言シンポジウムや「守ろう平和、守ろう医療」と訴えた「ドクターズ・ラン&ウオーク」を開催しました。医師・歯科医師自身が運動の先頭にたち、地域医療や平和を守ることの大切さを社会に発信していく貴重なとりくみとして継続・発展させなければなりません。戦争法を廃止する新しい医療者の連帯など、共闘を広げることが必要です。

(2)中長期の事業・経営計画の検討、作成

 40期に開催された全国会議や交流集会で明らかにされた情勢の変化や教訓を力にして、全法人・事業所が中長期の事業・経営計画を検討、作成することを呼びかけてきました。
 すべての法人が中長期の医療構想にもとづく経営計画を作成すること、県連・地協として、加盟事業所をもつ法人の計画をつかみ検討することを呼びかけてきました。2014年4月の診療報酬マイナス改定、消費税8%への引き上げ、2015年4月介護報酬の大幅マイナス改定など経営環境の悪化、また医師の確保と養成の課題などを切りひらくうえでますます中長期の事業・経営計画を持つことが重要となっています。
 2011年度の調査で「3年~5年の資金計画を作成していない」のは76医科法人(58%)でした。この3年間で17法人が新たに計画を作成し、2014年度は59法人(45%)となりましたが、十分に前進したとは言えません。
 また、医療構想はあるが中長期経営計画がない、損益計画はあるが資金計画がない法人が一定数あります。医療・介護と経営が一体のものとなった中長期経営計画を作成することが必要です。中長期の医療構想をつくり、明確なビジョンをもち、その裏付けとなる経営計画を確立することは、各法人・事業所にとって必要不可欠な課題となっています。
 中長期の経営計画作成のため「第2回医科法人理事長・院長経営セミナー」で、法人や病院のトップが中長期経営計画作成の基本点と経営戦略の重要性の理解を深めました。また、「第1回中長期経営計画作成セミナー」を開催し、基本的な計画の作り方を普及してきました。

(3)共同組織のとりくみ

 41回総会では、共同組織の今日的な役割を踏まえ、画期を作ろうと呼びかけ全国、各地で共同組織とともにとりくみをすすめてきました。

1)共同組織活動交流集会の成功

 2014年9月に開かれた「第12回全日本民医連共同組織活動交流集会in近畿(神戸)」は過去最高の3000人を超え、参加者に元気と感動を与え共同組織が民医連と地域にとってかけがえのない存在であるという確信につながりました。全国から寄せられた387もの演題は、地域での健康づくりを積極的に広げ、安心して住み続けられるまちづくりをすすめることが共同組織の中心的課題となっていることが特徴です。

2)共同組織のとりくみの特徴と担い手づくり、職員参加

(1)安心して住み続けられるまちづくりと無差別・平等の地域包括ケアの実現

 私たち民医連がめざす無差別・平等の地域包括ケアは、共同組織がこれまで地域で培ってきた活動と重なります。健康づくり、助け合い、見守り、居場所づくりなどは、それ自体が無差別・平等の地域包括ケアの実現につながるものです。
 昨年4月から実施された「総合事業」について自治体と繰り返し懇談したり、地域包括支援センターの行う懇談会に参加したり、行政との連携や行政への働きかけも行われています。地域包括ケアの単位である日常生活圏域に対応して、中学校区単位での共同組織づくり、支部再編等の検討も始まっています。
 認知症への対応でも、認知症サポーターの養成、自治体と共同した見守りネットワーク活動、認知症カフェなどにもとりくんでいます。

(2)居場所を拠点に地域に人権のネットワークを広げる

 共同組織の活動では、居場所づくりが最も広がっています。形態は様々ですが定期的に開催することで地域の人たちが集まり、集まった人どうしの新たなつながりが生まれています。「話をできる相手がいる」「ここにいていいと感じられる」「困ったときに助けてと言える」、一人ひとりの存在がかけがえのないものとして尊重されるつながりです。助け合いやささえ合い、見守りの活動も行われています。「居場所」を会場にして、健康相談会や体操教室などの健康づくり、食事会やカフェ、サークルや趣味の活動、学習会などが多彩に開催され、参加した人が知り合いを連れてくることで活動がさらに広がっています。無料塾(※)などの子どもの学習支援、「ママカフェ」(※)や親子向けサロンなど、子どもの貧困への対応や子育て世代を対象としたとりくみも始まっています。

(3)全県を視野に入れた共同組織づくり

 民医連事業所のない地域に共同組織の支部や「たまり場」をつくり、そこを一つの拠点として地域での健康づくりやサークル活動が行われています。事業所のない地域も含めて県内全域を視野に入れてとりくむことを目的に県内の共同組織を再編したとりくみもあります。民医連事業所と共同しながらも、事業所の空白地域に足を踏み出して共同組織の活動をすすめるとりくみが広がっています。

(4)あらゆる活動を共同組織とともに

 共同組織による事業所利用やボランティア、事業所との定期懇談、職員と共同してとりくむ事業所リニューアルや新設に向けた地域訪問や資金協力、仲間増やし、民医連の後継者づくりとしての医学生や看護学生とのランチミーティングへの参加や学生紹介活動、医師初期研修や新入職員研修への協力、東日本大震災の被災者支援、等々。事業所と共同組織が共同して、多彩なとりくみが行われています。

(5)共同組織の担い手づくり、共同組織活動への職員参加

 共同組織は、日常的には共同組織の活動への参加、職員からの働きかけによって増えており、その上で、拡大強化月間等で職員と共同組織が一緒に地域訪問することで増えています。担い手づくりについては、共同組織のサークル活動やボランティア活動、相談活動等に参加した人がやりがいを感じ、要求が実現することを経験して次の担い手となっています。また、継続的に役員の研修会を開いて、情勢を学び、民医連や共同組織の理解を深めながら担い手づくりをすすめている共同組織もあります。
 職員の共同組織活動への参加については、職員と共同組織の人たちが一緒にとりくむ訪問行動や要請行動、職場ごとに担当地域や担当支部を決めた共同組織活動への関わり、共同組織が行う健康チャレンジや健診、「歯みがきセミプロ講座」等に職員が専門性を生かして関わるなど、様々な形ですすめられています。
 全日本民医連として全職員用学習パンフレット「共同組織とともに」を発行しました。テキストを活用して、すべての職員が共同組織について学び理解を深めるとりくみもはじまっています。

3)共同組織の構成員と『いつでも元気』の到達

 2015年12月現在、共同組織構成員は363万人、『いつでも元気』は5万6300部です。構成員数は増加していますが、『いつでも元気』は月間で過去最大の拡大数を実現しつつも一進一退です。
 全国には1700を超える販売所があり『いつでも元気』をささえています。『いつでも元気』販売所交流集会を開催し、地域包括ケア時代に地域から見える販売所活動など活発に討議しました。販売所の活動や担当者の悩みなどを、県連や事業所、法人が丁寧に把握することが必要です。

(4)人間的な発達ができる組織にふさわしく、民医連運動の担い手を育てる

写真 この2年間の職員育成の特徴は、1つは教育指針(2012年版)にもとづいた職場教育、職場づくりの活性化です。教育活動には自己学習、制度教育、職場教育の有機的結合が重要で、とりわけ、指針で強調された日常の医療・介護活動、社保活動など職場の活動を通して成長をはかるために、職場教育、職場づくりが重点的にとりくまれています。この点は次期も引き続き追求する課題です。
 職場会議の持ち方を工夫して全員参加を追求し、学習や職員の「よいとこ探し」などにとりくみ職場の団結と雰囲気が変化した、事例検討会の開催で民医連への確信が深まった、などの経験が報告されています。もう1つは、憲法学習の全国的なとりくみが戦争法案反対の運動と結びつき、学びつつたたかい、たたかいつつ学ぶ動きがつくられたことです。これらを通して民医連運動への確信が深まっています。
 第41回総会で「人間的な発達ができる組織」としての民医連のありかたが提起され、実践と探究をすすめてきました。2015年12月に開催した教育委員長・担当者交流集会で、人間的発達を促す組織をめざすために、第1に人間的発達を阻害する新自由主義(※)による社会改変と考え方の特徴、第2に人間的発達の今日的内容、第3に新自由主義的改革に対抗し人間的な発達を促す民医連運動の意義を提起しました。
 新自由主義的な政策を推しすすめていくために、競争的価値観と自己責任論を浸透させ、国民の人間観、価値観までも変えようとする支配層の狙いがあります。それに対抗していく上で重要なのは、平和・人権・民主主義といった憲法の理念に根ざした価値観・人間観です。人間的発達の今日的内容は、人間の尊厳を何よりも大切にし、平和と民主主義を社会的正義として志向する、科学性とヒューマニズムに満ちた人格と能力を育むことだと考えます。
 民医連が「人間的な発達ができる組織」といえるのは、綱領で日本国憲法の理念の実現を自らの社会的使命として宣言し、平和、民主主義、人権の理念を、日本の社会はもちろん自らの事業所・職場に実現するため、たえず努力し実践している組織だからです。民医連らしい医療と介護の実践、平和と人権としての社会保障をめざす運動、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりをめざす活動、民医連が綱領で「地域と共に歩む人間性豊かな専門職の養成」を明記し、職員の教育・研修のとりくみを一貫して重視していること、非営利・協同の事業体(※)として科学的で民主的な管理運営(※)に努力することなどが、人間的発達ができる組織の在り方として重要です。

第4章 時代に立ち向かう今後2年間の重点方針

 日本は、戦争か平和か、貧困の拡大か社会保障の拡充か、重大な岐路に立っています。同時に平和と人権を巡り新しく大きな運動が起こり、主権者であるひとりひとりの国民が政治を変え、希望を創りだす時代です。
 原発、TPP、米軍新基地、秘密保護法、そして戦争法と対峙しながら発展してきました。こうした民主主義の新しい機運を政治の変革につなぐ市民の行動が、野党を結束させ安倍独裁政治を終わらせる時は今です。
 また、超高齢社会はいっそう進行し、人口減少も確実に起こります。また、このまま非正規雇用が増え続けるならば、格差と貧困はますます拡大します。人々の健康や暮らしに関する不安や社会保障に対する要求は、変化しながらもますます切実となり、私たち民医連への期待も大きくなります。
 運動は総かがりで、事業は積極的な連携で、職員育成は民医連らしい運動と事業から、新たな展望を主体的に創りだす2年間としなければなりません。民医連の事業所と共同組織の存在意義を深め、41期の活動の軸を明確にしましょう。
 42期は、(1)戦争法を廃止し、立憲主義の回復、平和憲法を守る国民的な連合政府をつくる運動を軸に、平和と憲法を守り抜くこと、(2)医療・介護活動の新しい2つの柱として「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践」、「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」を提起し、あわせて安心して住み続けられるまちづくり、地方自治の発展を展望すること、(3)社会保障を求めるすべてのグループ、団体の共同によってすべての人々のための社会保障を充実する運動でも総がかりの行動を実現すること、(4)引き続き、原発事故被害者に寄り添い、人権を守るために力を尽くすこと、(5)こうした民医連運動をすすめるため、健康権・生存権と綱領実現をめざす医師の確保と養成の前進、共同組織の質量の前進、職員集団の成長をかちとり、人間的な発達のできる組織をめざす、民医連経営を断固として守ります。
 全日本民医連は、これらの活動を確実にすすめるために県連、地協の機能強化をすすめ、獲得目標を明確にした全国集会の確実な成功に努力します。

第1節 戦争法廃止、平和と社会保障を守る架け橋に

(1)戦争法廃止、辺野古新基地建設阻止を結びつけた大運動を

1)戦争法廃止、憲法を守る大運動を

 戦争法の廃止へ向け、圧倒的な世論を可視化することが鍵です。その軸となる2000万人署名を必ず達成します。5月3日憲法記念日へ向けて4月25日が全国の達成期日です。全日本民医連として300万人を目標とします。
 全日本民医連の新しい戦争法廃止の学習用DVDを全職員、共同組織で学習し、ひとりひとりが主権者として自分の意思による行動参加をすすめましょう。
 戦争法を廃止する道筋は、7月の参議院選挙で戦争法廃止、立憲主義を取り戻す議員を多数にし、戦争法廃止法案を国会に提出することです。そのために、すでに熊本県では統一候補の擁立が実現しました。全国で「野党は共闘」の声と運動を巻き起こしましょう。
 国政政党となったおおさか維新の会は、結党にあたり、安倍政権と一緒になって憲法改悪することを宣言するなど、反動性を露わにしています。日本国憲法の今日的意義について改めて確認し、学習を強め、県や地域段階での9条の会の活動強化や総がかり行動に積極的に参加していきましょう

2)参議院選挙で主権者としての行動を

 今年7月には、改憲を目指す勢力と平和を希求する国民との激突となる参議院選挙が行われます。安倍政権は参議院で3分の2以上の議席を獲得し改憲をすすめるとしています。選挙は18歳以上のすべての国民が直接政治に参加することのできる行為です。政治が変われば暮らしが変わります。世界に誇る平和憲法を守る選挙です。いのちの平等の実現をめざす民医連職員として、また主権者の一人として選挙の意義を深め積極的に政治参加をすすめましょう。

3)辺野古新基地を造らせない運動

 戦争法の具体化として、米軍が世界に出撃する一大拠点にしようとしている辺野古新基地を絶対に造らせないたたかいを、日米両政府が断念するまで沖縄と連帯して奮闘します。県民と国民の運動、法廷闘争、選挙の3つの分野で全国的な運動を作りましょう。
 引き続き辺野古支援・連帯行動を継続します。日本全体の世論が決定的です。各県連でも独自に沖縄での平和学習、沖縄から講師を招いて連帯集会の開催、沖縄のたたかいを伝える映画の自主上映会など、多くの職員が沖縄の現状などを学び広げていきます。高江ヘリパッド建設(※)断念、既設のヘリパッド撤去のたたかいに連帯し、支援を続けます。
 6月の沖縄県議会議員選挙、7月の参議院選挙で必ず勝利して沖縄と全国の世論を示しましょう。
 2015年12月14日に、政党、市民団体、労働組合、平和団体、企業などが総結集して「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」が結成されました。全日本民医連として連帯と共同を強めていきます。

4)米軍、自衛隊基地強化への運動

 自衛隊、米軍基地の強化はいのちの対極にある戦争につながるものです。新ガイドラインのもとで、平時から先制攻撃戦争に至るあらゆる事態で日本の自衛隊が米軍の指揮下にくみこまれる「同盟調整メカニズム」の設置が決められ、日米共同の常設の調整所が設置されました。米軍と自衛隊で日本全土を「基地化」するものであり、こうした戦争法の具体化を許さず、全国各地で日米同盟強化反対、基地強化反対にとりくみます。

(2)核兵器廃絶、被ばく者支援のとりくみ

 2015年秋の国連総会本会議で、核兵器禁止条約を含む具体的な措置を議論する作業部会を開く決議案が138カ国の賛成で採択され、改めて核兵器の禁止条約を求める声が世界の流れであることが示されました。2016年には作業部会が開催され、国連総会の補助機関として総会に勧告と報告をします。しかしこの決議にはアメリカなど核保有5大国を含む12カ国が反対、日本を含む34カ国が棄権しており、圧倒的多数の国の核兵器禁止を願う流れに逆行しています。被爆国日本の政府が核廃絶の立場に立つよう強く要求するとともに、核兵器の使用がもたらす非人道性を告発し、核兵器の全面廃絶を求め、使用を禁止する条約制定を求めるたたかいを強化していきます。原水禁世界大会を圧倒的な核兵器廃絶への被爆国の世論を示すものとして成功させましょう。IPPNW、反核医師の会の活動にとりくみます。
 被爆者は高齢化しており、医療介護の必要性がますます高まっています。癌の発症をはじめ疾病に対する不安を抱えながら生き続けています。また貧困、孤老の被爆者も多く、老後の不安を抱える被爆者の思いに寄り添いながら、医療・介護だけでなく、生活そのものへの支援にとりくみます。
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟(東京、名古屋、大阪、広島、熊本、長崎)を引き続き支援していきます。
 広島の「黒い雨」地域の指定拡大を求める裁判、長崎の被爆対象外地域での聞き取り調査を通じ、より広範な地域での被ばく実態が明らかになってきています。これらのたたかいを支援していきます。
 1954年、アメリカが、太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁を中心に実施した6回の核実験では、のべ1000隻の漁船、約1万人もの船員が被ばくしました。健康調査とともに、高知などで起きている労災申請を求める運動を支援していきます。

(3)人権としての社会保障を実現する総がかり行動

 第42期の2年間は従来の社会保障費の削減にとどまらず、政府と大企業・財界の攻撃によって、いっそうの規制緩和と医療・介護の市場化・産業化が本格的に推しすすめられます。患者・利用者の人権を守り、社会保障制度解体を許さない国民的な大きな運動をつくりあげていくことが求められています。そうした運動は、無差別・平等の地域包括ケアの実現にむけた重要な土台にもなります。

1)全職員の学習運動

 憲法を土台に権利としての社会保障の学習を推進します。日常の医療や介護現場に引き寄せて、自己責任論を乗り越えて権利としての社会保障についてすべての職員が自分の言葉で語れる組織に成長しましょう。学習を進める為に学習用テキスト「あれ?おかしい。気づきからはじまる、わたしのシャホ」を発行しました。大いに活用しましょう。県連や法人、事業所の社保運動の担い手の養成の場として、第4回青年社保セミナーを開催します。

2)いのち、憲法、綱領の立場で事例にこだわろう

 徹底して現場で起きている困難や事例にこだわりましょう。患者・利用者の困難に寄り添い、その背景にある貧困や格差、制度の矛盾に気づく人権のアンテナの感度を高めて、患者・利用者とともに改善の方法を考えましょう。
 「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」をはじめ、あらためて職場や事業所で地域訪問や未収金訪問、中断チェック、一職場一事例運動などにとりくんで、患者・利用者の実態を把握し、医療・介護制度改悪の影響や実態を告発し、制度を改善していきましょう。事例検討の際には民医連綱領をものさしに検討し、確信にして行動につなげていきましょう。

3)社会保障分野の共同の輪、総がかりの行動を広げよう

 診療報酬、医師・看護師増員、患者負担増反対、TPPと医療など多面的な要求が広がる時代です。社会保障の各課題で一致点の共同を広げましょう。地域の実態を発信しながら、患者・利用者、患者団体や難病団体をはじめとした当事者とともに、自治体や国に対して医療・介護制度の改善を求めていきましょう。また、近隣の医療機関や介護事業所、自治会や老人会等の住民組織などとの対話と共同の行動をさらにすすめると同時に、いままでつながりのなかった地域の様々な団体や個人との共同を大胆に推進し、医療・介護充実のための総かがりの運動と大きな世論をつくりましょう。
 「いのちの格差を是正する―人権としての医療・介護保障をめざす提言」を大いに活用しながら、医療・介護要求を共有するシンポジウムや学習会を大小さまざまな規模で、無数に開催しましょう。国保都道府県単位化(※)などこれから制度改悪の実行主体とされる自治体には地域要求を伝え、ともに地域に必要な医療や介護を守り拡充していく立場に立つよう働きかけ、自治体を変えていきましょう。
 「安全・安心の医療・介護」署名を5月末までに200万筆を集めましょう。社会保障制度の根幹にかかわる危険なマイナンバー制度は廃止を求めていきましょう。

4)「地域医療構想」策定と県連の役割発揮

 地域医療構想(※)の検討、策定が都道府県単位で進んでいます。計画の問題点を県連が把握し、運動の中心となることが決定的です。北海道では県連が主体となり医師会など団体への申し入れを行い、道議会で「診療報酬を引き下げず、地域医療を守ることを求める意見書」を全会派一致で採択させました。また、策定委員会や調整会議の委員等に参加しているところもあります。
 診療報酬、病床機能報告制度、地域医療推進法人制度などにより、急性期医療が削減のターゲットとなっています。二次救急も含めた急性期医療が一部の大病院に集約化され、大病院の外来への自己負担の導入などとも重なり圏域の住民に必要な医療が届かない地域も生まれます。地域によっては民医連の病院が二次救急の中心的役割を果たしている場合もあります。急性期医療が、住民に平等に提供されることは、地域包括ケアにおいても必要な内容です。住んでいる地域でいのちが差別されてはなりません。県連は、法人、病院幹部と協力して、医師会や地域の医療機関等への訪問や共同のシンポジウムなどを開催しましょう。
 2015「新公立病院ガイドライン」で、地域医療構想を踏まえた役割の明確化が明記され、公立病院の病床削減は県との協議でなく、知事の命令で病床削減がすすめられることになりました。医師不足により稼働していない病床が機械的に削減計画に入っているなど公立病院の病床削減が先行しています。地域医療を守るために公立病院を住民とともに守っていく運動をすすめましょう。

(4)原発ゼロ、被害者支援、震災復興

 どの世論調査でも原発再稼働反対は6割を超えています。原発ゼロの社会をめざし、再稼働反対、廃炉の運動を原発立地県の運動と協力してとりくんでいきます。
 事故から5年が過ぎようとする中、精神面も含め避難者の健康問題はより深刻となっています。甲状腺エコー検診をはじめとした健診活動や相談活動、また「心のケア」の活動などにとりくみ、原発事故に関わる「相談員」の養成をすすめることを提起しました。
 福島第1原発では、今でも多くの原発労働者が、被ばくしていのちを危険にさらしながら、懸命に原発事故の収束と廃炉のための作業を行っています。全国のどこの事業所でも原発労働者や元原発労働者が受診する機会があります。改定した原発問題パンフレットでは、臨床現場で、職歴の聴取を強化し、とりわけ悪性腫瘍の患者さんの原発作業歴を聞き、必要な場合は、労災申請に結び付けることなども提起しています。パンフレットをすべての県連、事業所で学習し、全国で実践を強めましょう。
 被ばく医療セミナー、被ばく問題交流会など、被ばく医療のスキルアップと活動の交流のとりくみを行います。
 2016年4月1日から電力小売りの自由化が開始されます。全日本民医連のある平和と労働センターは、東京電力との契約を打ち切ることに決めました。原発を推進する電力会社を選択する必要はなくなります。各県連、法人でも原発依存でなく自然エネルギーを活用した電力への転換を検討していきましょう。
 福島、宮城、岩手の被災3県への支援を各県連とともに引き続き行っていきます。住民本位の復興をすすめる自治体の活動を学ぶことは安心して住み続けられるまちづくりをすすめる民医連にとっても大切です。運動面では、震災から5年目を節とした各種の打ち切り政策を許さず、各県ごとに課題を明確にし、対政府交渉、県、自治体交渉を全国的な課題としてすすめていきます。

(5)TPPからの撤退、温暖化防止と環境を守る運動

 TPPが医療営利化を推進し、公的皆保険制度を破壊する危険な内容を知らせていきます。また、TPP反対の多くの個人、団体との共同をさらに発展させ、医療分野の共同を広げ、批准を阻止しましょう。
 COP21(※)は、190余りの国々がそろって世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える目標とともに、海面上昇に苦しむ島嶼国などの訴えに応え1.5度未満に抑える目標を確認、5年ごとに各国の温室効果ガスの削減目標を見直すことなど歴史的な確認をしました。地球温暖化が進む中で、異常気象、生態系の破壊、干ばつ、海面上昇など人命にかかわる事態が各国で進行しています。平和と環境をまもる組織としてCOP21の合意の実現へ向けたとりくみは重要です。各事業所でも創意あるとりくみをすすめていきましょう。

第2節 無差別・平等、共同の営みとしての医療・介護活動の実践と探求

(1)日常の医療・介護に憲法と民医連綱領を根づかせよう

1)平和的生存権実現、共同のいとなみ実践の民医連綱領と世界の潮流

 民医連は、人々の苦しみのあるところに生まれ、設立当初より患者の立場に立つ医療・介護を実践してきました。民医連の62年間は、1960年代には「生活と労働の場面から見る眼と構え」や「患者とともにたたかう医療」、1970年代には多職種が医療に参加する「民主的集団医療」、1980年代には「共同の営みとしての医療」や「患者の権利の2つの側面」など、医療や介護に関わる民主主義的な理念や倫理的な視点を確立してきた歴史でもあります。
 民医連が以上のような医療理念にかなり早い時期に到達した理由は、経済的困窮者の医療から公害、労働災害、災害救援など、困難かつ切実な患者・国民要求に応える活動に率先してとりくみ、患者・住民と苦労を共に行動してきたからです。また、医療や介護事業の前提となる平和や社会保障の課題を曖昧にせず、日本国憲法に依拠して運動してきたからです。そして、これらすべての実践が民医連綱領に結実、表現されており、今後とも日々の実践の羅針盤とすべきものです。
 一方、国連を中心にした歩みは、世界人権宣言(25条第1項)やWHO憲章前文に謳われた「健康権」も同じく第2次世界大戦への痛烈な反省のもとに確立されたものです。健康権実現への挑戦は「2000年までにすべての人に健康を(Health for Allby the year 2000)」と目標を掲げ、1978年に「プライマリ・ヘルス・ケア」をアルマ・アタ宣言(※)で、1986年に「ヘルスプロモーション」をオタワ憲章(※)で打ち出し、健康戦略に具体化されました。21世紀になり、健康の社会的決定要因(SDH)に基づくヘルスプロモーションが提案され、ヘルシー・シティ(※)やHPHのとりくみにつながります。
 民医連綱領が掲げている無差別・平等の医療・福祉の探求は、このような国連やWHOの歴史的な提案や努力と響き合い、重なるものです。しかし、新自由主義的な政策が横行する世界情勢のもとではWHOが各国政府に呼びかけるだけでは実現困難です。各国のヘルスケアの担い手による真摯な実践、連帯を基礎にして、人権としての社会保障制度の確立のための人々のたたかいが決定的に必要です。

2)医療・介護活動の新しい2つの柱と民医連らしさの追求

写真 これまで民医連は、運動と事業の両面から無差別・平等の医療・介護を追求してきました。そして、今日の無料低額診療事業のとりくみ、「若年2型糖尿病調査」等のSDHやHPHの展開など、外部から見ると「民医連ブランド」ともいわれる状況にもあり、私達の誇りと確信につながっています。
 今日、このような活動を、日常診療や具体的な医療課題の中で次の世代に引き継ぎ豊かに発展させていくことが重要です。特に、地域包括ケアの時代にいかなる医療・介護事業戦略モデルや共同組織との協同を創りあげるのかが問われています。そのために、39期綱領改定の総会で提起してきた「医療活動の2つの柱(総合的な質の向上と8つの重点課題)」(※)を医療・介護活動の2つの柱として以下のように新たに発展させることを提起します。なお、これまで努力してきた8つの重点課題の追求は引き続き重要であり、新しい2つの柱の具体化の中に位置づけましょう。
 その第1の柱は、「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療、介護の実践」です。今後の民医連事業所は、自己完結型モデルから本格的に脱皮して、住民参加と地域連携・ネットワーク型の保健・医療・介護モデルに進化させることが必要であり、地域連携を思い切ってすすめるための役割と構想を明確にしましょう。そして、予防から治療、ターミナルケアまでの包括的な対応が必要な癌や認知症、また社会的な幅広いとりくみが必要なメンタルヘルスや子どもの貧困に関わる課題などは、特に重視して組み立てましょう。
 第2の柱は、「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」です。これまでに到達した理念に基づく医療・介護の実践は、新しい理論や技術の吸収や標準化と共に、安全、倫理、チーム医療、QIなど総合的な質の向上のとりくみに裏打ちされたものでなければなりません。そしてこれらのとりくみの積み重ねこそが、共同の営みとしての医療・介護につながります。またそのために、各職種が必要な理論や技術を独自に、また連携して学ぶとともに、日常のなかで貧困と格差、地域の重大な健康問題に気づき、その克服を追求するような職員育成や研修システム等の仕組みづくりが合わせて求められます。
 各県連・事業所において地域の中で民医連らしさと思われるものは何かを議論し、貧困と格差に立ち向かう医療・介護活動を実践していくことが重要です。

(2)医療・介護一体に、無差別・平等の地域包括ケアの実践を

1)地域包括ケアの対決点と民医連のめざすもの

 政府は、「自己責任」と「市場化」を基本に、上からかなり一方的に推進する地域包括ケアをすすめています。地域では、受け皿が不十分なままの退院の増加、高齢者の介護困難、生活困難の深刻化、貧困に伴う社会的孤立が拡大する中、住み慣れた地域を離れざるをえない事態が広がっています。政府・厚労省の地域包括ケアのイメージである「植木鉢モデル」は、本人と家族の自己責任による負担の覚悟から始まりますが、私たちの示す「医療・介護・福祉の一体的提供」は、生存権・健康権の理念の上にしっかり根を下ろした大樹のようなイメージです。それは、住民が主人公となる議論と合意の広場(プラットホーム)の形成を中心に置く、地方自治や民主主義につながる実践でもあります。
 民医連のめざす無差別・平等の地域包括ケアの目的は、「誰もが、人間らしく、その人らしく、安心して暮らし続けるために、住民と医療・介護のネットワークを実現する」ことです。地域では、徹底してニーズの掘り起こしと他事業や行政との協力・連携をすすめ、民医連内部では「医療が分かる介護職」、「生活を理解する医療職」の視点で相互理解を深め、医療、介護部門一体で管理運営をすすめます。

2)主治医機能の発揮、多職種協働の場としての外来医療の構築

 外来部門は、地域包括ケアをささえる医療の最前線に位置しています。「何か困ったことがあった時には、とにかく民医連の病院・診療所の外来に相談しよう」と言われる窓口にならなければなりません。この10年、窓口負担増や病院での外来制限や入院にシフトした人員配置もあり、全体として外来医療は患者減、後退させられてきました。しかし、高齢化の進行で認知症の急増や併存する慢性疾患の増悪などに対する介護保険主治医意見書作成、介護、生活相談まで、外来こそ総合的な医師の診療や多職種連携による問題解決が図られる場となることが大切です。このことは、継続性や包括性を担保した総合的な主治医機能を発揮することであり、外来部門が人間中心のプライマリ・ケアの重要なフィールドになるということでもあります。

3)在宅医療の強化と診療所の医療・介護複合展開

 民医連の診療所は、早くから在宅医療にとりくみ、介護保険制度以前より訪問看護にとりくんできました。民医連の原点であり、地域に根ざす医療の最前線との位置付けで500の医科診療所は達成したものの、その後は主に医師体制の理由から増加が困難となったり、経営的にも苦しくなるところが出てきています。地域包括ケア時代こそ、民医連診療所の出番です。いざという時の病院の在宅支援も受けながら、多くの医師が在宅医療への思いを持ち、定期訪問診療、24時間対応の往診、訪問看護・介護、在宅看取りなど、民医連内外の在宅医療・介護のネットワークを地域に創りあげましょう。
 まず、地域包括ケアの地域拠点として、診療所・介護・住居複合施設や近接の医療・介護複合展開を可能な限り追求しましょう。複合施設や高齢者住宅を展開する中で、患者利用者、地域で活動する職員も確保できる経験が生まれています。
 また医師を先頭に地区医師会や地域ケア会議など、地域包括ケアの推進に関わるネットワークに積極的に参加、近隣の病院や介護施設には訪問して顔の見える連携に徹しましょう。
 そして、医師の確保と養成、事務を含む多職種連携の協働と育成を重視しましょう。若い家庭医が所長となって、精力的な診療と民医連らしいチーム医療・介護を展開する診療所、医師と多職種を育てる診療所の経験も生まれています。

4)「地域医療構想」に対応する病院・病棟のポジショニングの決断

 民医連の病院は、高齢者の肺炎や心不全などの急性増悪の救急入院など、地域包括ケアが重視する患者の受け入れにおいて重要な役割を果たしてきました。また、領域別の専門的力量のある病院では、重症患者の集中治療を含む専門性を生かした実践を行ってきました。今後「地域医療構想」が実践段階に入る中で、地域の中でなくてはならない存在を果たすためポジショニングを再度議論し、早急に定めなければなりません。
 民医連の病院は、今後も急性期病院単独の展開ではなく、回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟、慢性期病棟等がミックスされた総合性が求められます。急性期の病棟選択をする場合にも、地域の急性期医療の質的量的変化を見据えた上での自院の守備範囲、専門医の確保と養成、急性期における総合診療の位置づけ、領域別専門医療との調和など、持続可能な組織方針と実践が求められます。
 民医連の地域包括ケア病床数は、2014年度末の段階で50病院、1357床に到達しています。地域包括ケア病棟は、自院の回復期リハ病棟や療養病棟との役割分担や、民医連外の急性期病院・慢性期病院、介護施設との関係で果たす役割は、異なります。地域包括ケア病棟での医療活動を職員育成、特に初期・後期研修等の医師養成や医学生対策の一環として位置づける視点も重要です。

5)地域包括ケアと保険薬局の役割

 民医連保険薬局は、地域の健康づくりに貢献する「かかりつけ薬局」として医療機関からの処方薬、市販薬、サプリメントなどの一元管理、健康、介護相談活動と適切な受診勧告のできる機能・体制強化が求められます。
 その中で民医連保険薬局は、民医連内外の多職種連携、医療と介護の連携を強化してきています。在宅患者だけではなく外来で困難を抱えている患者への訪問による薬剤管理へのとりくみをさらに積極的に行い、地域包括ケアネットワークの中での役割を果たしていきます。

6)住民・共同組織が地域包括ケアの牽引車に

 経済的理由から受診抑制、保険あって介護なしの状況がいっそう広がります。加齢や障害、認知症などによって暮らしが困難になる人を発見し、治療やケアのネットワークにつないだり、まちぐるみで予防したり助け合ったりすることがますます求められます。医療機関や介護施設が待ちの構えでは、問題は解決しません。地域包括ケアは、住み続けられるまちづくりの重要な部分であり、この間全国の共同組織で積極的なとりくみが広がっています。医療や介護の専門家の支援を得ながら住民が主体となり、行政を巻き込み、様々な社会資源を活用してゆくというネットワークづくりの牽引車に共同組織の役割が期待されます。共同組織の支部や班を基礎に、助け合い活動や居場所づくり、ヘルスプロモーションの視点での健康づくりなど、民医連・共同組織ならではの特徴・強みを生かしたとりくみをすすめ、まちづくりの一翼を担っていきましょう。

7)今後の介護・福祉事業の展開と地域包括ケア

 第1に、中長期計画策定の際は、病床機能の展開と在宅分野の総合的強化を一体的に検討する視点が重要であり、介護・福祉分野からの積極的な提案が不可欠です。同時に「生活者」としての共同組織の視点も重要であり、共同組織の参加を求め、具体的な意見を反映させることが必要です。
 第2に、地域包括ケアの基本単位とされている「日常生活圏域」の分析です。ひとりひとりの高齢者がどのような具体的ニーズをもち、どのような団体・個人とつながりささえられているかは日常生活圏域を分析する上での重要なポイントです。日常生活圏域の分析のキーワードは「地域に出る、地域を知る」ことであり、地域包括支援センター、社協、民生委員等との懇談、「地域つながりマップ」づくりなどのとりくみをすすめましょう。
 第3に、自治体との関係づくりです。第6期介護保険事業計画がスタートし、施設など従来型の基盤整備計画に加え、総合事業や在宅医療・介護連携推進、認知症施策、生活支援体制整備事業など、各自治体での地域包括ケアのとりくみが本格的に開始されています。自治体の計画内容や進捗状況をよく分析し、増えている委託事業に法人としてよく検討し積極的に受託していきましょう。地域包括ケアや総合事業などで苦悩を抱えている市町村、国に対する私たちの要求に共感を示す自治体もあります。つながりを強め、担当者の問題意識をつかみながら、新しい関係づくりをすすめましょう。
 第4に、地域包括ケアを地域の「共同の課題」としてとりくむ視点が重要です。地域包括ケアは、民医連だけで完結するものではありません。当事者となる利用者・患者、家族をふくめ、地域の幅広い人たちと共同し、地域・圏域ごとの地域包括ケアのビジョンをつくり、自治体に提案して政策化・計画化を働きかけていくことが必要です。日頃の介護実践で築いたつながりを生かし、住民本位の地域包括ケアの実現をめざす地域の「架け橋」の役割を果たしていきましょう。

(3)ヘルスプロモーションの裾野を広げるネットワークの前進

 へルスプロモーションは、生活や職場、教育、病院などあらゆる場面で住民や地域社会・企業・NPO・自治体等とともに健康なまちづくりを推進することです。特に、社会的孤立を招きやすいひとり暮らしの高齢者のように社会的立場が脆弱な人々の生活をささえることが地方自治体やコミュニティーに求められています。
 2015年10月に「日本HPHネットワーク」が結成されました。医療機関がHPHに加わるということは、組織の理念としてヘルスプロモーションを掲げ、住民とともに地域の健康を守る姿勢を明らかにすることです。HPHは医療や保健予防活動を推進するだけでなく、住民主体の活動を支援することで健康なまちづくりに貢献していきます。それは「無差別・平等の地域包括ケア」の実現に近づくことでもあります。
 日本HPHネットワークを前進させ、その実践を国内外に発信し、地域のヘルスプロモーションの裾野を広げていく大きな力にしていきましょう。そのためにも地域の多くの事業所がHPHに加盟し推進していきましょう。

(4)民医連ネットワークを生かした調査・研究の継続・前進

 小児科や精神科分野に留まらずに救急医療や産婦人科医療などの現場でも、今日の貧困と格差の社会的問題を抱えています。民医連の全国ネットワークと臨床データを生かした調査・研究を自主研究会や社会疫学研究者と協同して継続・前進させ、健康格差の「事実」「知見」「エビデンス」とともに不公正な健康格差を是正するための効果的な手法に関するエビデンスづくり、実践、そのノウハウの普及など社会的な提言・発信が求められます。

(5)県連医活委員会の確立と全日本民医連医活委員長会議の再開

 全日本民医連は、問題提起の伴う全国集会・会議は、できるだけ絞り込み、地協・県連で議論・具体化できることや医師が参加できる企画を中長期的な視点で重視します。全県連の医活委員会の確立と強化は、新たな医療・介護活動の2つの柱の実践や求められる医師養成の土台です。各県連内の事業所の活動を総合的に把握し、克服すべき課題や学ぶべき教訓を共有し、次への発展につなげることが重要です。「医療・介護活動と医師養成の一体化の前進」をめざし、全日本民医連医活委員長会議を再開します。

第3節 介護・福祉分野の重点課題と方針

 絶対的貧困ラインを下回る高齢者世帯が、この4年間で60万世帯増加している中で、政府の一連の改革が本格化します。すべての活動の土台に綱領と民医連の介護・福祉の理念「すべての活動を共同組織とともに」の視点を据え、介護・福祉分野のたたかいと対応をすすめます。民医連の医療部門と一体にすすめる無差別・平等の地域包括ケアの事業展開については前節で提案しており、ここでは重複を避けて介護部門の管理者と介護事業所職員が共同組織の協力を得て、積極的にとりくむべき重点課題と方針を提起します。

(1)介護ウエーブ2016・2017のとりくみ

 軽度給付の切り捨てや利用料2割化の拡大などさらなる介護制度改悪を断じて許すことはできません。国に対して、制度改悪の検討中止と改善、介護報酬の再改定、職員確保と処遇改善、必要な財源の確保を基本要求として実現を迫っていきます。そして、介護保険制度の抜本改革を重ねて求めます。「必要充足原則」(※)、「応能負担原則」(※)、「非営利原則」(※)を貫いた制度の再設計が必要です。給付体系の見直し、利用料の廃止、認定制度と支給限度額の廃止、介護保険財政に対する国庫負担割合の引き上げなど、制度の根幹に関わる改善を求めます。
 自治体に対して制度変更に伴う利用者の実態を把握し、利用者・家族に不利益が生じないよう具体的な対策を検討・実施することを求めます。総合事業を「受給権の侵害」「介護サービスの取り上げ」が生じない内容で実施すること、実効ある介護職の確保・処遇改善、保険料の軽減を要請します。国と自治体に向けて一体的な運動をすすめます。
 運動なくして現状の困難は打開できません。介護ウエーブはひとりひとりの職員が学び、成長する場でもあります。すべての事業所・職場から介護ウエーブの波を起こしましょう。全職員の参加、当事者の参加を追求します。地域の幅広い団体・個人にも介護ウエーブを広げ、介護改善を願う地域の運動の「架け橋」の役割を果たしていきましょう。北海道、東京、長野の経験に学び、恒常的な「共闘組織」づくり(※)も検討します。

(2)地域の要求にいっそう応える事業活動・介護実践

 「2025年へのアプローチ」「機能に対する評価」と位置づけられた2015年報酬改定には、今後の政府の介護事業に対する基本方針が示されています。「改定後3年間をどう乗り切るか」ではなく、「2018年度制度改正・同時改定までに何が必要か」という視点と方針の組み立てが重要です。
 事業活動の重点は、地域で今後増加していく中重度者への対応力の向上と、制度上いっそう切り捨てられようとしている要支援者をふくめた軽度者への対応という二面性の対応が必要です。
 自らの機能や特徴を打ち出すこともなく、漫然と対応している事業所は明確に淘汰される時代に入ったと言われています。異業種・営利企業の参入が相次ぎ、市場化・寡占化の流れが強まる中で事業者間の競争も激化しています。時機を逸しないスピード感をもった対応が必要であり、法人の「総合力」を発揮してとりくみましょう。
 (1)制度改悪がもたらしている介護困難、生活困難への対応を強めます。多職種協働と共同組織の力で利用者の生活を守り抜きましょう。介護保険などの公的制度を利用できず、様々な困難を抱えている高齢者に対する支援を、地域の関係機関・団体とも協力しながらすすめます。
 (2)介護の質の向上と安全性を追求します。これは「民医連の介護・福祉の理念」(※)を深め、豊かなものにしていくとりくみでもあります。日々の実践をまとめ、事例検討会などを通して質の問題を掘り下げましょう。病棟で働く介護職の役割・専門性を明らかにすることも課題です。転倒、誤嚥など事故防止のためのとりくみを強めるとともに、事故が起こった場合は集団的に分析し、教訓を法人・事業所全体で共有します。質や安全性を考える上で倫理的な視点が重要です。
 (3)在宅生活を総合的にささえる地域拠点づくりを引き続きすすめます。訪問看護、リハビリをはじめ個別事業の機能強化をはかります。総合事業については、利用者に不利益をもたらさない内容での実施を求める運動と、必要な介護サービスや生活支援を保障する事業の両面からとりくみます。「住民主体の支援」は、単発のボランティア派遣にとどまらない安定的・継続的な対応が求められる課題です。共同組織と連携し、市町村の意向も確認しながら、ボランティア・コーディネーターなどの養成、協議体への参加などもふくめた総合的な検討をすすめます。関係法人との連携を強め、低所得でも入居できる住まいづくりを引き続き追求します。
 (4)地域ケア会議への対応を重視します。介護保険外しを誘導する会議ではなく、利用者・高齢者の人権と生活を保障し、困難ケースへの対応と地域の課題を明らかにするしくみとして機能させることが必要です。ケアマネジャーをはじめ民医連全体として関わりを強めます。法人を超えたケアマネジャーのネットワーク化をすすめることも重要です。
 (5)民医連の地域包括支援センター(82カ所)は、高齢者・住民の生活と人権を守る地域の砦として、潜在化している実態、要求を掘り起こし、無差別・平等の地域包括ケアをリードしていく役割が期待されています。体制・財政保障の強化を自治体に求めていくとともに、当該法人の理解・支援を強めます。受託のチャンスがあれば積極的に検討・対応します。
 (6)民医連の社会福祉法人は44法人となりました。政府は、特養でのいわゆる「内部留保」の存在を強調し、困難者に対応する事業を社会福祉法人に担わせる方向を強めています。単なる行政の受け皿となるのではなく、本来の公的福祉の役割を国や自治体に求めていくことが必要であり、民医連社会福祉法人としての非営利性・公益性を確保しつつ、「地域福祉の砦」として、運動と事業を推進することが求められています。
 (7)個々のサービス事業・事業所ごとの損益状況をしっかり把握し、収支改善、利用者増に向けた具体的な経営課題と方針を明らかにすることが必要です。改定報酬への対応を引き続きすすめるとともに、現状の事業が地域の要求に見合った内容になっているか改めて分析し、地域要求をふまえた新規事業の検討や既存事業所の再編など従来の延長線上にとどまらない思い切った対応も必要となります。法的整備のとりくみを強め、制度改定に対応させた自己点検・相互点検をすすめます。「たたかう経営」の視点を貫くことが重要です。
 (8)地域包括ケアの推進、日常の管理運営、法的整備、職員養成、介護改善の運動など介護部門の課題が拡大しており、法人介護事業部の強化が必要です。介護ウエーブや事業活動の交流、職員養成、困難を抱えている小規模法人への支援など、県連の役割もいっそう重要になっています。法人・事業所の管理者の養成を各地協ですすめます。介護ウエーブや事業活動の交流など各地協の実情や問題意識にあわせて検討、具体化しましょう。

(3)無差別・平等の地域包括ケアを担う介護職員の確保・養成

 介護・福祉分野は依然として深刻な人手不足状態にあり、職員を募集しても応募がほとんどない状態が続いています。現場の体制も厳しくなっており、新たな利用者の受け入れ、事業規模の拡大、新規事業の開設、管理者の配置などにも支障が生じています。このままでは事業の継続そのものに困難をきたし、地域の要求に十分に応えきれない事態をまねきかねません。介護事業所任せにせず、法人幹部が先頭に立ち、法人の総力を挙げて介護職員の確保に手立てを尽くしましょう。
 介護の魅力を「見える化」して発信したり、法人の事業内容や地域での役割、養成の実績を積極的に伝えることが重要です。対外的なアピール力は介護職を確保する上でもっとも大切なポイントのひとつです。「介護学生対策」を位置づけとりくみます。介護報酬の引き上げなど制度改善を求める運動と結びつけた総合的なとりくみが必要です。
 引き続き民医連綱領と民医連の介護・福祉理念を「自分の言葉で語れる」職員の養成を目標に、あらゆる機会を養成の場と位置づけ、養成システムづくり、「育ち合う職場づくり」を追求します。「キャリアパス作成指針」に基づき、民医連らしいキャリアパスをつくりあげ、実践していきましょう。管理者の世代交代の時期を迎えている法人も多くあります。地協、県連での管理者・職責者養成のとりくみを強めます。
 介護職部会を設置した県連は26県連となり、7県連で設置が検討されています。介護職が自律した職能として自ら集い、専門性を深め合い、社会的地位向上のために行動することは、民医連運動を前進させていくうえでも重要な課題です。全県連で介護職部会を立ち上げましょう。すでに設置している県連では、他の県連の経験に学びながら、介護ウエーブや事例集づくりなど創意あふれるとりくみをすすめましょう。県連、法人として活動への支援を強めることが必要です。
 政府が描く地域包括ケアを推進するゲートキーパーとしての役割をケアマネジャーに強制する流れが強まる中、制度改悪に正面から向き合い、憲法25条に基づく生活理解を深め、利用者・家族の生活と権利を守る「たたかうケアマネジャー」への期待はたいへん高まっています。今後の事業展開に対応したケアマネジャーの計画的養成と集団づくり、質の向上などをふくめたケアマネ政策を法人として策定することが必要です。「民医連のケアマネジャーの役割について」の議論と実践をすすめます。
 無差別・平等の地域包括ケアを推進していく上で、事業計画に見合った人事政策を確立し、養成と配置を系統的にすすめていく必要があります。地域の多様な要求に応え、質の向上、管理者の養成をすすめる上で職員の体制の強化が必要です。制度改善を求める運動と切り結んだ検討・具体化が必要です。介護福祉士会など職能団体への加入・対応を強めます。

第4節 歯科

 無差別・平等の地域包括ケアの実践の中で、歯科の役割を大いに発揮するためにも、医科・歯科・介護との連携をすすめ、赤ちゃんから高齢者まで、地域から職場までのヘルスプロモーションをすすめましょう。また、民医連歯科においても、今後5年の間に、待ったなしの課題として「世代交代」がやってきます。民医連らしい歯科医療活動のチェックリストと、地域包括ケアをみすえた中長期計画の策定の「2つの課題」を実践し、これまでに培ってきた民医連歯科の歴史に確信をもって新たな課題に挑戦していきましょう。

(1)医科、歯科、介護の連携を大いにすすめていこう

 口腔ケア難民を出さないために医科、歯科、介護の連携をすすめます。誤嚥性肺炎の予防、摂食嚥下や口腔ケアをすすめるため、病院・在宅・施設での実践交流や研修などを行いましょう。口の健康から全身の病状の改善につながるとりくみと健康づくりの全国の経験交流をすすめていきましょう。
 このとりくみの重要な役割を担っている歯科衛生士の確保と養成をすすめ、各地の実践を全国で交流します。
 噛む力の維持は健康寿命の維持に大きくかかわること、口から食事をすることは高齢者をはじめ全ての人の願いであり、歯を失った人にとっては、歯科技工士の役割がますます重要になっています。確保と養成をすすめていきましょう。

(2)口から見える困難事例をつかみ、民医連らしい歯科医療をすすめよう

 広がる格差と貧困を原因とした口腔崩壊がますます深刻になっています。「保険で良い歯科医療」の運動と合わせて、口の健康が守られない社会的な背景に目を向け、生活と労働の視点で捉え、歯科からの告発を行う職場事例調査(歯科酷書第3弾)のとりくみをすすめます。
 民医連らしい歯科医療をすすめるために、(1)すべての事業所で無料低額診療の実践をすすめること、(2)2014年度の歯科医活調査結果をもとに医療活動の点検にとりくむことが大切です。

(3)民医連歯科を担う歯科医師養成と奨学生のとりくみ

 民医連歯科が存在意義を発揮していくためには、理念に共感し、民医連歯科を担う歯科医師の確保が必要です。「生み育てる」歯学対をすすめるとりくみと、(1)すべての歯科大学でのデンナビの開催、(2)本腰を入れた歯学生対策を行うために、奨学生の獲得目標・歯学対の予算化、(3)歯科医師卒後研修で確立されていない「後期研修」の方針化、(4)現在すすめている中長期計画の中に、歯科医師確保と養成課題を位置づけることにとりくみます。中堅歯科医師の全国集会は2年に1度開催し、地協での開催と交互に行います。

第5節 共同組織の前進へ向けて

 格差と貧困のかつてない広がり、自己責任を基本とした国の社会保障の改悪が進行する中ですべての人が安心して住み続けるには困難が増えています。362万の共同組織のなかまと民医連の職員が共同して地域の中で、自らの要求実現と住民の生存権、健康権をまもる運動と実践の主体者となることが求められています。
 豊かに発展してきた共同組織の健康づくりの活動、地域包括ケアへの挑戦などを、社会保障の拡充、平和と民主主義を求める運動と結びつけ、住民本位の地方自治へと発展させる展望を持ちましょう。そのためには、自らが住む地域を分析し、地域の人々と協力して行動する共同組織の活動家を今の2倍、3倍に増やしていく必要があります。共同組織の担い手づくりと職員の共同組織活動への参加を抜本的に広げていきましょう。
 共同組織の活動が広がり地域での役割が大きくなる中で、その事務局を担う組織担当者の役割も大きくなっています。組織担当者の成長をはかるための援助は、県連、法人幹部の任務です。「共同組織とともに」を活用し、担当者と職員の学習と理解を深めましょう。医療や介護・福祉の専門家であり、民医連の方針を具体化して実践している職員の共同組織活動への参加は欠かせません。また、それは民医連職員としての成長にもつながります。事業所や法人では、地域担当制や支部担当制なども実情に合わせて検討しましょう。健康づくりなど、専門性を地域で生かせるとりくみの充実や職員の共同組織への加入をすすめましょう。退職の際には、地域で共同組織の担い手となっていただくよう働きかけましょう。県連、法人でこうした共同組織の前進へ向けた計画を中長期計画の中に位置づけましょう。
 全日本民医連は、こうした活動を共有し教訓化するため、全国的な企画を開催します。
『いつでも元気』は、共同組織の全国のすぐれた経験を、見やすく美しい写真もあわせて共有でき、すぐに活用できる記事が満載です。また世界や日本のうごき、社会保障をめぐる情勢をわかりやすく学べ、班会などで活用できる内容です。
 職場での学習会や職員の制度教育など、『元気』の活用を職員の中で意識的に追及しましょう。すべての職員の『元気』購読をめざし、当面、全職責者の購読をすすめましょう。販売所活動の活性化と交流を目的に今期も販売所の交流集会を行います。
 第43回総会までの目標を構成員370万、『元気』7万部とします。第13回全日本民医連共同組織活動交流集会(2016年9月石川)までに構成員365万、『元気』6万部とします。このとりくみの中で、職員の共同組織加入や『元気』購読を意識的に追及しましょう。

第6節 医師養成新時代における民医連の医師養成・医学対の飛躍のために

(1)「医師養成新時代」に構えを新たに「民医連医師」養成にとりくもう

 医療活動と医師養成をめぐる情勢は大きく動いており、まさに「医師養成新時代」と言って過言ではありません。民医連は、あらためて地域医療の発展と医師の専門的力量の向上を支援するような専門医制度が構築されることを要望します。そして無差別・平等の理念を堅持しつつ、保健・医療をめぐる世界と日本における情勢の変化を機敏に捉え、医師養成のあり方を進化させていかなければなりません。地域医療構想が策定される過程で自院所の役割を再度確認し、その役割に沿った医師の確保と養成のビジョンを創り上げることが求められています。時代が変わっても、初期診療や主治医機能を重視したプライマリ・ヘルス・ケアと二次救急レベルの診療をささえる専門医療はどの地域でも必要です。地域の要求や高度化する診療水準への対応力、医師養成の実現可能性などを慎重に吟味し、自前で受け持つ内容と連携強化の中で実現すべきものを明確にすることが必要です。そうした検討の上で、その地域でのポジショニングを見定め、それに沿った医療構想を医師集団や共同組織とともに練り上げる中で、やりがいや夢を重ね合わせていきましょう。
 41回総会決定は「民医連の医師養成の基本路線は、無差別・平等の活動をすすめる民医連の医療を担い創造する医師を養成することであり、総合診療医(※)も領域別専門医もすべての医師が互いに協力し合って、地域やそれぞれ働く場面で求められる役割に応えてチーム医療の一員として進化(深化)していくこと」「家庭医も病院総合医も領域別専門医も地域のニーズ(求められる機能・医師像)に応えるために必要な修練を集団の力で保障しあい、臨機応変に日々の仕事に臨む」と、民医連医師養成の基本軸を示しました。
 私たちは41期の2年間に民医連における総合診療医と領域別専門医の在り方について議論を重ね、医師養成集会での総合性についての検討を経て、全体としてこの基本軸を深め発展させてきました。42期の医師養成もこの視点ですすめることを基本とし、その上で総合診療医養成でも領域別専門医養成でも、新しく提起された医療・介護活動の2つの柱を実践する「民医連医師」としての養成をすすめることを強調します。

(2)総合性にこだわった医師養成をすすめよう

 無差別・平等の地域包括ケアを推進する為には総合力を持った医師の養成は必須であり、民医連は新専門医制度においても、総合性にこだわった医師養成を貫きます。総合診療医養成でも領域別専門医養成でも、求められる「総合性」の内容を吟味し、プログラム化することが重要です。39期以降連続的に深めてきた各分野(チーム医療、医療安全、医療倫理、在宅医療、慢性疾患医療、認知症など)の到達点に加えて、民医連の各領域別専門医療が積み重ねてきた豊かな実践が生かされるならば、真に国民の期待に応え得る医師づくりに一歩近づけるのではないでしょうか。
 民医連内で多くを占める中小病院と診療所は、コモンディジーズ、高齢者医療、認知症を軸に、がん・緩和ケア、終末期医療などと必要な一定の急性期機能を担い得る地域の砦としての役割を期待されています。その現場で医師養成を継続発展させられるかどうかは、地域での役割を果たす上で欠かせない課題であり、新設された19番目の専門医「総合診療専門医」の養成を戦略的重点として位置づけることが必要です。
 日本専門医機構が示す「総合診療医の6つのコアコンピテンシー(※)」を修めることを重視しつつ、現在における民医連の役割を意識した養成方針を追求しましょう。
 なお、保健医療2035実行プランなどで重点としてあげられている「かかりつけ医」構想については、日本医師会の研修制度が新専門医制度での更新要件の一部に活用される方向性が示され、診療報酬への連動も示唆される等、急速にその整備が進んでいます。研修医のみならず、中堅以上の医師にとっても重視すべき課題として各県連・事業所での積極的な対応が求められます。

(3)連携の力で民医連医師養成のさらなる発展を

 新専門医制度の下で多施設協同の医師養成が大前提になる中で、民医連らしさをどのように発揮し差別化を図るのかが重要になります。特に無差別・平等の専門医療を提供し続ける為には、その担い手づくりが、民医連医師としての姿勢を醸成しつつ継続できるような新しい水準での連携の構築が欠かせません。自前の医師養成へ拘りながらも「調整力」を存分に発揮することが求められます。
 「連携施設」(※)になる場合は、「基幹施設(大学病院など)」(※)との間で、民医連のフィールドを活用しやすく、こちらの意向を反映できるような関係をどう構築できるかが重要になります。こうした連携を持続可能にするためには、民医連側からの専攻医がコンスタントに登録され、基幹施設にとって必要度の高い連携施設と評価されるような仕組みを構築することも大切な視点です。
 そのためのひとつの方法論として、民医連内での「連携拠点病院」の設定は新しい挑戦課題です。研修施設として相応しい症例数・指導医体制を擁している病院を民医連側の「ハブ」として活用する方法で、専攻医希望者を連携拠点病院に集中させ、専攻医研修修了後に元の県連に帰任させるという発案です。各領域、各地協での検討を開始しましょう。
 一方、普段我々とは距離があった他施設の専攻医が、プログラムに則って民医連のフィールドで研修することも現実化してきます。民医連院所の研修環境の良さを存分に実感でき、研修修了後の進路として選択されるような環境整備をすすめましょう。

(4)初期研修の内容を進化させ、あらためて質の高い民医連研修施設を目指そう

 新専門医制度開始に向けた準備が進んでいますが、医師としての基本を身につける初期研修の大切さ・重要性は今まで以上に強調されるべきです。「専門医資格を取るためには大学にいる必要があり、だから初期研修から大学にいた方が有利」といった働きかけが医学生に行われており、現在の初期臨床研修制度の理念や、地域医療の最前線で初期研修を行うことの重要性をあらためて医学生に伝えていくとりくみが求められています。
 民医連研修病院のプログラムも情勢の変化や医学教育の進歩に沿って見直されなければなりません。SDHや健康権など、医療活動の理念の発展を反映させることや憲法9条、25条の大切さ、医師の社会的役割を自覚できるようなカリキュラムや工夫が必要です。また、相対的に病棟研修に偏重しがちだった内容に、外来、在宅、地域医療といった場の拡大を検討すること、老年医学やこころの診療の問題を視野に入れるなど、民医連のめざす無差別・平等の地域包括ケア時代を担う医師養成となるよう整備しましょう。
 こうした改革を通じて、「初期研修は民医連で」が医学生のトレンドになるような状況を創り出そうではありませんか。そして、42期中に全ての民医連臨床研修(基幹)病院がJCEP(卒後臨床研修評価機構)の認定を取得することを、民医連全体の課題として確認し、必要な連携と援助を具体化します。

(5)民医連全組織をあげて医学対活動で大きな飛躍をつくり出そう

 42期も2つの任務に立脚した医学対活動を前進させ、多くの医学生が民医連運動に共感し、将来の後継者として決意できるような大きな飛躍を創ることを目指します。戦争法強行や原発再稼働、辺野古基地建設問題など、立憲主義・民主主義をないがしろにする策動に対するSEALDsをはじめとした若者の新しい民主主義への萌芽は医学生の中にも拡がっています。昨年の全国医学生ゼミナール(千葉大)の「戦後70周年企画」では、「医療と平和がどのように結びついているのか、医療者として平和をどのように考えていくのか、今私たち医療系学生が知っておきたい社会のこと」を真剣に学び、語り合い、参加者が平和への「決意」を高らかに宣言しました。民医連が医学生向けに行った「戦後70周年アンケート」(350人回収)でも、「9条変えるべきではない」74%、「安保法制反対」56%という結果が出ており、広範な医学生に積極的に働き掛けることが極めて重要な局面であることがわかります。
 その一方で、新専門医制度開始の影響により「まず資格ありき」「だから大学へ」というような風潮が意図的に作られ、「病める人・困っている人の為に働きたい」「地域医療をささえたい」という思いとのギャップに苦悩する医学生も少なくありません。病人・患者を取り巻く社会状況を学び、求められる医師像を模索する機会を数多く準備し、医学生自身がその医療観を育んでいけるような支援ができるかどうか、民医連医学対の真価が問われている時です。
 この課題を最前線で担う民医連医学対担当者の育成は緊急かつ重要です。今後、新専門医制度下で年単位の民医連外施設研修期間が想定される中、民医連へのより強い共感を医学生時代や初期研修中に十分に醸成することを今まで以上に重視することが必要です。担当者に寄り添い、その成長を組織的に支援する医師・事務幹部を配置すること、担当者自身が医学生に民医連への参加を直接働きかけられるように成長できることを意識し、強化していきましょう。
 2021卒で200人の初期研修受け入れと500人の奨学生集団の確立は民医連の未来を左右する重点課題であり、その達成に向けた具体的なとりくみを42期では大きく前進させなければなりません。その為にも、現在とりくまれている100人の中低学年奨学生を増やす大運動を民医連の総力で成功させましょう。

第7節 職員の養成

(1)民医連綱領の実践をすすめる職員集団をつくる

 民医連綱領の実践をすすめる職員養成をさらに前進させましょう。その基本は、全日本民医連の教育活動指針の具体化と総合的実践です。日常の医療介護活動、社保活動など日々の民医連運動と事業を通して職員が育ちあうことに確信をもち、学び合い・育ち合いの職場風土を確立しましょう。
 育ち合いの職場づくりをすすめていくために、職責者の役割は大変重要です。具体的に職場づくりを前進させるために必要なことを5点提起します。
 第1に、どのような職場にしていくかの中期的構想(夢)を持つことです。「育ちあいの職場づくり8つの視点」を基本に、また職場診断結果などをふまえ、どのような職場づくりをしていくかの「夢」をもちつつ、職場の年度方針と目標に具体化しましょう。
 第2に、職員の学ぶ機会を保障することです。制度教育や職場外のいろいろな企画などへの参加を大切にしましょう。学びあい育ちあう「機会」や「時間」を保障しあうために、業務改善をすすめることも大事です。「人は必ず変わる」という観点から一人ひとりの職員の成長を大いに期待して、声や思いに耳を傾け、積極性を引き出す援助や話し合いを心がけましょう。また職場目標と結びついた個人目標づくりを援助し、育成面接を重視しましょう。
 第3に、職場会議を大切にし、定期的な開催と内容の充実につとめることです。月数回の職場会議の開催は職場管理者の重要な課題であり、職場会議の充実は職場づくりの最も重要な場になります。職場会議の開催自体が困難になっている現実もありますが、あらゆる工夫をして前進をはかりましょう。さまざまな学習や事例検討などの時間をもつこと、多くの職員が発言すること、欠席者に会議内容をしっかり伝えることなど大いに工夫しましょう。
 第4に、学習と民医連新聞の活用です。管理者が自ら学びを怠るとその組織の教育力が確実に低下します。民医連の方針や全国の仲間の経験を学ぶうえで「民医連新聞」をはじめとする機関誌紙は手軽で絶好の材料です。管理者先頭に全職員が大いに活用しましょう。 第5に、管理者の集団化と団結です。職場管理者は、担当する職場が事業所全体の連動のなかの基本単位であることを自覚し、重要な事柄を必要なタイミングで上司(全般的管理者)に報告・連絡・相談することが求められます。また職責会議などを通して、職場管理者同士の集団化と団結をはかることが大事です。そして、職場の次席(主任などのスタッフ)との情報と課題の共有、意思統一を大切にしましょう。そのことは自らの後継者養成にもつながります。トップ管理者は職責者を援助し、事業所全体に学び合い・育ち合いの風土を作ることが重要です。
 また県連・法人の教育委員会は、制度教育の企画立案・実践を担うとともに、教育委員会の二重の任務として、職場づくりの促進のために事業所のラインに対し経験の共有など役割の発揮に努めましょう。

(2)青年職員の育成の重視、主権者としての成長をはかる

 現代の青年は、競争的価値観と自己責任論を押し付けられ、さまざまにその影響を受けながら成長してきた世代です。そのために日本の少なくない青年が、他者不信と自己肯定感の希薄な状態に陥っています。
 一方、3・11を経て、社会のあり方や自らの生き方への真剣な模索と探求が行われ、格差・貧困問題や、原発問題などの社会的問題に関心を向け、その解決のために社会的な行動に立ち上がる青年が増えてきました。戦争法案反対運動での青年・学生の大規模な活動は、自らの未来を自らの力で憲法的な価値観によって切り拓こうとする巨大なエネルギーが発揮されたものであり、新自由主義を乗りこえる健全な人間的発達を示しています。
 青年職員養成に特別に力を注ぐことが必要です。(1)「未来は青年のもの」という視点、すなわち青年を明日の民医連運動と民主的な社会の担い手として限りない期待をもって接すること、(2)青年ひとりひとりを尊重すべき個人としてみること、(3)職場を基礎に民医連らしい医療・介護・運動で力をあわせ、そのなかで積極的な役割を果たす経験を積むこと、(4)果たした役割やその姿勢をきちんと評価すること、(5)制度教育や地域活動をはじめ、さまざまな成長・発達のきっかけになる場を多彩に提供すること、(6)18歳選挙権が実現し、7月の参議院選挙から実施されます。主権者意識が高まる機会です。医学対・看学対など学生対策も含めて主権者としての自覚と成長を促すとりくみを強めることなどが大事です。
 36回全国青年JBは岡山・湯原温泉で43県連650人の参加で開催されました。ハンセン病や朝日訴訟など、8コースのフィールドワーク、全員で一つのものを作り上げようと「手形アート」を作成するなど、充実した内容となり、実行委員も成長しました。一方で、全国と地協・県連・法人それぞれのJB活動がうまく結びついていない、平和学校など青年を対象に行っているさまざまな教育活動がJB活動に結びついていない、という実情もあります。青年職員の成長とJB活動の果たす役割についてあらためて検討します。

(3)幹部の養成

 民医連の事業と運動をすすめていくためにトップ幹部の力量向上が極めて重要です。全日本民医連で行っているトップ管理者研修会、職種毎の管理者研修など、地協や県連の状況をふまえて内容をより充実させていきます。
 特に事務幹部の養成は急務です。事務職員集団全体の成長をはかりつつ、独自の追求が必要です。各県連で、40代以下の幹部を必要なだけ必ず育成する決意とかまえを確立し、特別の体制と手だてをとることが求められます。全日本民医連事務幹部学校の内容も参考に事務幹部学校を県連、地協、複数の地協合同開催など検討しましょう。全日本としての事務幹部養成の方針を検討していきます。

第8節 経営活動の重点

 地域医療計画、地域包括ケアに向けた動きが加速し、医療費適正化計画も都道府県単位ですすめられています。都道府県における民医連運動がかつてなく重要になっています。情勢に対応するためには県連の中長期計画が必要です。その中に民医連事業所、法人の中長期計画、中長期経営計画を位置づけなければなりません。オール民医連、オール地域の2つの側面から、県内の自治体の動きも県連としてつかみながら、民医連の組織力を生かしたたたかいと対応をすすめていきましょう。

(1)厳しい経営を乗り越え、すべての法人で必要利益を確保しよう

 民医連の医科法人の約半数が累積赤字を抱えています。2016年度以降は、診療報酬マイナス改定、消費税率のさらなる引き上げなど医療経営環境は厳しさを増し民医連の経営は、さらに深刻な事態に陥ることが予想されます。財政基盤の弱さ、利益獲得能力の不足により、資金困難に陥る可能性が強まっている法人も存在しています。加えて、事業所のリニューアルなどの大規模投資の必要性に迫られ、さらに医師の確保と育成の課題を抱えながら先に進まなければならない実情もあります。必要な利益、必要な事業キャッシュを獲得できなければ、手元資金の流出、借入金の増加による返済負担の増などの悪循環となり経営危機に直面することとなります。必要利益を曖昧にせずに緊張感をもったとりくみが必要です。同時に、厳格な資金管理と中長期的な経営計画を持たなければなりません。複雑で新しい情勢のもとで、法人や事業所のビジョンを情勢との関係で見直し、戦略を持ち具体的戦術と行動計画を確立してすすめば、民医連経営、民医連運動の持つ歴史と積み上げた力は、必ず困難を突破することができます。

(2)県連機能、県連・地協の経営委員会機能を抜本的に強化して県連の中長期計画を作り上げよう

1)県連機能、地協・県連経営委員会の機能強化

 県連機能を強化することは、今日の民医連経営を巡る状況の中で重要です。少なくとも大規模県連は、経営委員会に責任をもつ専任幹部を配置し、県連内の法人の状況を把握すること、地協運営委員会に経営を担当する専任幹部を配置することなどを具体化しましょう。また、各法人、事業所のリニューアル等の大規模投資については、その必要性や内容と合わせて、資金計画を含めた経営計画の妥当性など全国の経験にも学び、県連・地協で相互点検することが必要です。共同購入事業に関しては、東京民医連で2015年度予算づくりの段階から全ての法人から予算化している医療機器を集約し、スケールメリットを生かした交渉をすすめ、大きく価格を引き下げた経験が報告されています。県連で共同購入事業の状況を把握し到達点や課題を確認するとともに、全日本民医連の共同購入連絡会の活動をより強めていきます。他の医療団体の共同購入組織との交流なども検討します。

2)すべての法人事業所の中長期計画策定と県連の中長期計画づくり

 経済・財政一体改革路線に対する「たたかいと対応」をすすめていくうえで中長期計画は必須です。経営困難を打開するとともに貧困化が生み出す地域のニーズに民医連事業所がこたえていく上で欠くことができないものです。県連の中長期計画を今日の情勢に相応しく確立し、その中に法人事業所の中長期の計画を県連的視点で位置づけましょう。法人計画の寄せ集めの構想から決別し、全県を視野においた構想を県連が推進することが必要です。近隣の医療機関や介護施設とも連携を重視した地域連携型の計画を検討しましょう。
 計画策定の際は、病床機能の展開と在宅分野の総合的強化を一体的に検討する視点が重要です。「病院中心」に展開してきた医科法人の中には、介護・福祉の領域について十分な検討に至っていない実態もありますが、法人幹部が総合的な視点をもつことが求められます。計画には共同組織の参加が不可欠です。作成段階から共同組織の参加をすすめて行きましょう。
 県連の中長期計画は、法人の中長期経営計画、医療構想と事業計画を把握し、県連的視点で議論すること、県連での議論を踏まえて必要な場合、法人の計画の見直しや、法人合同等を含む県連内の組織の見直し、事業の機能分担について検討・発議すること、医師、看護師、薬剤師、事務などの後継者確保や経営幹部の配置を県連として議論し提案すること、経営の角度から、オール民医連の力を生かすことと、地域での連帯と連携を強めオール地域で地域の医療介護を総合的に発展させることなどに留意して具体化しましょう。

(3)医師確保と養成は、民医連運動の中心課題

 医師確保と養成の課題は、経営問題の中心課題の一つです。医師確保と養成の遅れが、経営基盤を揺るがすことは今も昔も変わりありません。民医連綱領の実践を担う医師養成が中心です。奨学生確保、初期研修の成功へ医学対の養成と体制確立、とりくみへの参加に事務幹部が力を尽くしましょう。新専門医制度を踏まえ中長期計画に沿って、医師養成計画を明確にしましょう。
 医師委員会まかせ、研修・医学対などの担当者まかせでは、前進はできません。医学対、初期研修、後期研修、既卒医師対策など組織としての総合的力量の飛躍的な向上が求められています。個別の課題ごとの分担主義的な検討を超えて、経営幹部が全体像をつかみ、課題を整理し、各分野の活動を適切に援助・指導しましょう。

(4)トップマネジメント機能を高め、全職員の経営を追求しよう

 幹部が経営実態を直視し、全体をつかんで職員の意欲を引き出し「全職員の経営」で経営問題を克服していきましょう。全職員参加の経営の強みを発揮するためには、まず経営幹部が経営を正確に把握すること、その上で職員に正しく知らせることが前提です。経営活動とたたかいの課題、医療・介護活動、医師確保・養成、後継者づくりがつながっていなければなりません。また、一時的、部分的な経営改善策の実施で打開できる時代ではありません。事業所の目標と職員の生きがいの一致、共同組織の存在、住民患者からの信頼、労働組合との協力・共同が民医連経営の優れた特徴です。ここに依拠して経営危機を突破していきましょう。まさに、経営幹部の姿勢と決意、幹部の質が問われる時代です。
 この間の経営困難法人は、病院の赤字構造が多年に渡り改善できず、診療所等の利益でもささえきれなくなり、結果、資金状況が厳しくなっていることが特徴です。病院の経営改善は、待ったなしの最大の焦点となっています。入院患者の実態と病床・病棟構成、診療報酬の選択にミスマッチはないか、地域での需給バランスのミスマッチによる新入院確保や占床率確保に課題はないかなどの収益増にかかわる問題は何かを見定める必要があります。空床が多く新入院が伸びていなければ、自院の病床過剰として規模や機能を見直すか、確実な新入院増の戦略と確実な結果が必要です。この課題は、決して先送りにできない課題として、検討を踏まえた決断と実行が求められます。また、規模や機能は見直したが、人員体制は従来のまま変化していない事業所も見受けられます。収益に見合った費用管理を徹底し、高人件費構造から転換が必要です。

第9節 全国課題のとりくみ、全日本民医連・地協結集、県連機能強化をすすめよう

 第43回定期総会は広島、平和公園一帯を会場に開催します。戦争法を必ず廃止して迎えましょう。第13回全日本民医連共同組織活動交流集会in東海・北陸(石川)、第13回学術運動交流集会、第13回看護介護活動研究交流集会(新潟)、第37回青年JBを成功させましょう。
 これからの時代、地域医療構想をはじめ医療改悪は都道府県を単位としてすすめられています。今こそ、県連の出番です。今まで以上に県連機能の強化を共通の認識に高め、点検し確実な前進をはかりましょう。全日本民医連の幹部養成の一環として県連事務局長研修会を開催します。
 民医連の強みは、様々な困難に対し、全国の連帯と団結の力で乗り越えられることです。ひとつの県連、法人、事業所ではできない課題も全国の総合力を集めれば可能です。医師問題、経営課題、幹部配置など県連、地協のレベルで考え、作り上げる時代です。地協相互の交流を図るなど学び合い、活動の強化・発展をはかります。
 全日本民医連各専門部の体制について地協を考慮に入れ構成するなど、全国方針が県連、地協のとりくみを反映し、また理事会方針が現場に具体化されるよう努めます。
国際活動の分野で新自由主義に抗した国際連帯、国連への情報発信などの活動にとりくみます。

おわりに

 全国のすべての職員、共同組織の仲間の皆さん。
 今年は、敗戦の翌年1946年5月1日に初の民主診療所(民診)である東京自由病院が開設され70年の年です。
 戦争の惨禍により国土は焦土と化し、国民は言語に絶する食糧難、住宅難、不衛生と病気の蔓延に見舞われていました。
 そして、民診は敗戦から8年後の1953年には全国で117にまで広がり、全日本民主医療機関連合会を結成するまでに発展しました。
 民診発展は、医療の絶対的な欠乏状態に対して、国民の切実な医療要求がうずまいていたこと、それに応えるための労働運動、民主主義と平和を求める運動、生活と命を守る運動などが診療所設立に動いたこと、そしてその要請に応える医師・医療従事者の参加、この3つの要素がつくりだしたものです。
 日本国憲法もまた、公布70年を迎えます。私たちの歩みは日本国憲法の歩みと一体です。
 6年前、私たちが全国で共同組織と一緒に討議し、改定した民医連綱領は、憲法の理念を中軸に据え、人類が多年にわたる自由獲得のたたかいの成果としての国民主権・平和的生存権・基本的人権を普遍的権利として確立してきた歩みを、さらに発展させることを内外に宣言しました。
 いのちの平等、個人の尊厳を守り抜くため憲法を守り、壊そうとするものに対して徹底して抗うことが私たちの使命です。
 戦後日本が平和を守り抜き、権利としての社会保障のたたかいをささえてきた最大の力は現憲法であり、それを守り活かしてきた私たちの運動の力です。
 日本国憲法が生まれ、今の日本を作ってきた歴史を70年で終わらせるわけにはいきません。
 世界と日本の宝である現憲法を70年の節目にさらに日本社会に根付かせ、平和と人権が大切にされる希望ある時代とする2年間としていきましょう。
(以上)

■ 議案用語解説

【第1章】

○立憲主義
 国民の自由・権利を守るため、憲法で権力を制限する考え方。「権力保持者の恣意によってではなく、法に従って権力が行使されるべき」という政治原則。「憲法は国民が守るべき法ではなく、国民が国家に守らせるべき法です。国家が国民の人権を不当に侵害してとんでもないことをしでかさないよう、歯止めをかけておくのです」と伊藤真弁護士は説明する。

○2000万人統一署名
 戦争法を廃止するため、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」(「戦争させない1000人委員会」、「解釈で憲法9条を壊すな! 実行委員会」、「憲法を守り・いかす共同センター」の3団体により構成)が提起した国会あての請願署名。2016年5月3日の憲法記念日までに全国で2000万人分を目標にとりくんでいる。

 【第2章】第1節

○医療費・介護費の減免の継続と復活
 東日本大震災の被災3県(岩手・宮城・福島)では、被災者に国民健康保険の窓口負担と介護サービス利用料を免除する措置がとられた。免除のための費用は国が8割、県や市町村が残りを負担。宮城県は2013年3月末でこの制度を打ち切り、2014年4月から対象を非課税世帯に限定して再開した。免除の対象が国保加入者のみで、組合健保などに加入する被災者は免除の対象外など課題があるが、国は2016年3月で補助打ち切りを発表。本来なら、復興の目途がまだ立っていない被災自治体をささえるために、国が被災者の立場に立ち、全額国庫負担で対応すべき。

 【第2章】第2節

○日本版NSC
 アメリカのNSC(国家安全保障会議)にならい、同国と共同で戦争を行うためにつくられたのが日本版NSC。首相、官房長官、外相、防衛相を中心に、軍事・外交問題を主導的に判断して決定する戦争の司令部の役割を果たす。

○特定秘密保護法
 外交・防衛・テロなどにかかわる国の「特定秘密」を漏えいした者に対して、最大10年の懲役を科す法律。特定秘密を偶然知ったり、聞きだしたりする行為も罰せられる。首相、外相、防衛相、警察庁長官など「行政機関の長」の判断で秘密の範囲をいくらでも広げることができ、何が特定秘密に指定されたのかも秘密とされるため、国民の知る権利を侵害するものと批判されている。

○日米の同盟調整メカニズム=共同作戦体制
 自衛隊と米軍が平時から連絡や政策調整を行うための仕組みで、一体運用するための新機関。2015年4月に改定した「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)に基づくもので日米両国があらゆる事態に対し、緊密に連携し共同対処することが目的。新ガイドラインと戦争法の具体化をすすめ、日米の軍事一体化をさらに強化するもので、2015年11月3日の日米による「同盟調整メカニズム」の運用合意は、世界中で米国の戦争に切れ目なく自衛隊が参加・協力する戦争法メカニズムの始動の宣言。事実上の日米統合司令部として恒常的に設置し、米軍と自衛隊との「運用面での調整」や「共同計画の策定」を行う。自衛隊は米軍の戦争計画に組み込まれ、米国が戦争を始めれば日本は自動的に参戦する極めて危険な仕組み。

○2015年4月の日米新ガイドライン
 戦争法案が国会に提出される前の2015年4月末に策定。自衛隊は「米国又は第三国に対する武力攻撃に対処する」ために「武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」とし、日本の集団的自衛権の行使を明記。その際に、米軍と自衛隊が協力して実施する作戦例として挙げたのは、「(兵器などの)アセットの防護」や「艦船を防護するための護衛作戦」「機雷掃海」など。

○米軍への思いやり予算
 在日米軍の駐留経費の日本側負担のうち、義務がないのに負担している経費のこと。もともと日米安保条約に基づく地位協定によれば、日本の負担は土地の賃料や地主への補償などに限られる。ところが自民党政府は1978年、「思いやりの精神で米軍駐留経費の負担に応じる」と新たな負担に応じた。その内容は、米軍家族住宅や教会などの施設のほか、水光熱費、演習費、戦闘と不可分の施設整備など、米軍活動のほとんどすべてを対象にし、米兵がレジャーで利用する高速道路の料金まで負担している。

○アフリカ南スーダンへの平和維持活動(PKO)
 2011年7月9日の南スーダンの独立に伴い、平和と安全の定着及び発展のための環境構築支援等のため2012年1月より陸自部隊が順次派遣している。

○後方支援(兵站)
 戦闘地域に入り、輸送や支援活動を行うことを総称したもの。主な活動内容は物資の補給などが挙げられるが、今回の戦争法の国会議論では、特に(1)爆撃活動に向かう航空機への給油や整備、(2)武器・弾薬の輸送、も挙げられた。特に武器・弾薬の提供は相手国に交戦国と見られるとともに、格好の標的になる。米同時多発テロ後、ドイツはアフガニスタンに「後方支援」に限定して派兵したが、戦闘に巻き込まれて55人の犠牲者を出した。

○駆けつけ警護
 PKOに参加している他国部隊などが武装勢力に攻撃された際、自衛隊が現場まで行き、武器を使って守るという任務。

○IS
 イスラム国の略称で、イラクとシリアなど支配地域を広げている過激組織。

○村山談話
 1995年、村山富市首相(当時)が出した談話。国策を誤り、「植民地支配と侵略によってとりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」ことなどを認め、「心からのお詫びの気持ち」を表明した。

○河野談話
 1993年、河野洋平官房長官(当時)が出した談話。第2次世界大戦中、中国・朝鮮・フィリピンなどの女性を中心に日本軍が性奴隷にした従軍「慰安婦」問題に関し、「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたもの」で、「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」と認めた。

○南京大虐殺
 1937年12月、中国の首都だった南京を日本軍が占領し、一般市民など少なくとも十数万人を虐殺した事件。虐殺の他にも、強姦・略奪・放火などがおこなわれたため、総称して「南京事件」とも呼ばれる。

○沖縄県民の集団自決
 第2次世界大戦終盤の1945年4月、沖縄に米軍が上陸。本土決戦に備えた時間稼ぎの捨て石作戦として、住民も動員した唯一の地上戦が行われた。米軍に追い詰められ日本軍は南部へ撤退。その過程で動員した住民が米軍のスパイになることを恐れて「自決」を強要し、虐殺も横行した。当時は捕虜になるより死を選ぶよう教えられ、また、軍隊のいうことは天皇の命令とされ、逆らうことができなかった。沖縄本島だけでなく慶留間(けらま)や座間味、渡嘉敷でも軍の命令・強制で凄惨な「集団自決」が行われ、親が子を、子が老親を、夫婦や兄弟同士が殺すといった悲劇が起きた。

○憲法改正をすすめる国民運動
 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、日本国憲法をGHQによる押しつけ憲法であるとし、憲法改正を求めて1000万人を目標に賛同署名を募る運動をすすめている。ジャーナリストの櫻井よしこ氏や、第2次世界大戦を「自衛の戦争だった」と美化する日本会議の椛島有三事務総長などが推進。安倍首相も日本会議の一員。

○小選挙区制
 この制度は1996年の衆院選から実施され、選挙区の中で得票数が一番多かった候補者が当選となるため、民意を正確に反映しない。この間のいずれの選挙でも小選挙区での第1党の得票は4割台にもかかわらず、7~8割もの議席を占めるといった状況。この制度の根本的欠陥は、得票率と獲得議席に著しい乖離をつくりだすことであり、議席に反映しない投票、いわゆる「死票」は過半数にのぼる。今求められている改革は、民意を正確に議席に反映する制度に抜本的に改めること。

 【第2章】第3節

○医療・介護総合確保法
 
「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」の略称。19本もの重大な法案を1つにまとめて国会上程し、衆院厚労委では強行採決、参院厚労委では22項目の附帯決議を採択し、2014年第186回通常国会で可決成立した。2025年に向けて医療・介護提供体制や制度の大幅見直し、社会保障制度の縮小・後退を推進するのがねらい。都道府県ごとの「新たな財政支援制度(総合確保基金)」の創設、病床機能報告制度の創設、地域医療ビジョンに基づく病床数の整備、一定所得以上の高齢者の介護サービス利用料の自己負担引き上げ(1割から2割へ)などが盛り込まれた。

○医療保険制度改革法
 国民健康保険法など5本の法律が一括で提案され、2015年第189回通常国会で成立した法律。国保の都道府県単位化(2018年度実施)、健康保険組合や共済組合の保険料負担増、紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担、入院時食事療養費の患者負担引き上げ(現在260円→460円)、患者申し出療養の創設などが柱。

○都道府県単位の医療費の抑制
 政府・厚生労働省は、医療費適正化計画の一環として、公的保険制度を都道府県単位に再編・統合し、都道府県ごとに給付と負担が連動する仕組みを導入しようとしている。現在、市町村が運営している市町村国民健康保険は、都道府県単位で広域化をめざし、市町村国保を段階的に統合するなど、都道府県単位の財政運営に切り替え、都道府県の医療給付費を反映した保険料を設定する計画。

○地域医療構想による大幅な病床削減
 2015年3月、厚生労働省が必要病床数の推計や都道府県のとりくみに関する具体的手法を記した「地域医療構想策定ガイドライン(以下、ガイドライン)」を示し、各都道府県は「病床機能報告制度」のデータを活用しながら、二次医療圏における医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)の需給予測を算出し、医療提供体制の将来像の検討をすすめている。また、2015年5月に成立した医療保険制度改革法では、各都道府県が定める「医療費適正化計画」に、地域医療構想と整合性のある医療費の「目標」を設定するよう求める条項が盛り込まれた。
 政府は、2025年の必要病床数は現状よりも20万床削減可能との推計値を公表。「ガイドライン」に示されている算定式を用い機械的に算出されたもの。さらには、「経済・財政一体改革」(骨太方針2015)でも、「医療・介護提供体制の適正化」「公的サービスの産業化」などが打ち出され、7対1入院基本料算定要件の一層の厳格化や病床4機能の点数・算定要件見直し、民間医療機関に対する転換命令などさらに踏み込んだ検討が、内閣官房、財務省の主導ですすめられている。

○小泉構造改革
 2001年~2006年に当時の小泉首相がおしすすめた「構造改革」。「民間にできることは民間に」を合言葉に、財界・大銀行、アメリカ生保業界が参入・解体を求めた「郵政民営化」や、道路公団などの民営化をすすめた。また、労働法制の規制を緩和し、政府主導で不安定雇用、パート、派遣労働への置き換えをすすめ、「ワーキングプア」を増大させた。さらに社会保障費の自然増を毎年2200億円削減。診療報酬は、2002年から4回連続で計8%近く引き下げた。老人医療費を一割負担へ引き上げ、健康保険の窓口負担は2割から3割に、「100年安心」の名のもとで年金の給付カットと保険料の引き上げなどの大改悪を強行した。後期高齢者医療制度の導入も同時期に行われた。

○環太平洋連携協定(TPP)
 米国を中心とした環太平洋地域による経済連携協定(EPA)の略称で、加盟国の間で取り引きされる品目に対して関税撤廃しようという枠組み。日本の交渉参加から2年以上経った2015年10月、政府が大筋合意を発表。5年程度をめどに段階的に関税が撤廃される。米国などから安い農作物が流入し、日本の農業に大きなダメージを与えること、食品添加物・遺伝子組み換え食品・残留農薬などの規制緩和で食の安全が脅かされること、医療保険の自由化・混合診療の解禁により、国保制度の圧迫や医療格差が広がりかねないなどの問題点が指摘されている。グローバル大企業の利益追求が最優先され、各国の経済主権が脅かされかねない。

○TPP関連対策大綱
 政府は2015年11月25日、環太平洋連携協定(TPP)総合対策本部の会合を開き、「総合的なTPP関連政策大綱」を決定した。中堅・中小企業を後押しする「新輸出大国」やTPPを通じた「強い経済」の実現、TPPで大きな打撃を受ける農業に対する「農政新時代」の提唱など。具体的な対策は来年秋までに詰めるという、裏付けのないスローガンの羅列である。「総合的なTPP関連政策大綱」は、まだ署名も国会審議も行われていないTPPへの対策で、秘密交渉で大幅に譲歩した大筋合意の全容も明らかにせず、政府が情報を独占したまま対策なるものを打ち出すのは、きわめて不当といえる。

○ISD条項
 「投資家対国家間の紛争解決条項」(Investor State Dispute Settlement)の略。主に自由貿易協定(FTA)を結んだ国同士で、多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めた条項。当該企業・投資家が損失・不利益を被った場合、国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴が可能。

○新専門医制度
 2017年3月に初期研修を終了する研修医から対象になる予定の新制度。これまで各学会が独自で制度設計し認定してきた専門医のあり方が国民にとってわかりづらく、専門医の質を担保するために、第三者による専門医の認定を目的としている。法的な義務ではないものの、医師は初期研修修了後、専門医資格を目的に後期研修を行うことが求められる。日本専門医機構が設立され、専門医資格の認定、更新を管理する。

○専攻医
 2年間の初期研修につづいて、19の専門領域からひとつの領域を選択し、3年から4年の後期研修をおこない、専門医資格を取得する。その期間を初期研修医と区別するために「専攻医」と呼ぶ。専門医資格取得後はさらにサブスペシャルティー領域の研修が想定されている。

○2015年1月に発表した「見解」
 新専門医制度スタートを前に、新制度を地域医療の崩壊につなげないために、(1)施設の認定医を現行から乖離させないこと、(2)資格更新について現役の専門医の資格更新が可能となる設計とすること、(3)十分な議論のないまま拙速に制度を開始しないこと、(4)制度の法制化や診療報酬上の位置づけは行わないことを求めた。

○2つの医学部が新設
 2016年4月に東北医科薬科大学(前東北薬科大学)が80番目の医学部・医科大学としてスタート。医師増員を求める声を背景に、以前から医師養成数の少ない東北で、震災からの医療再生をすすめることが目的。1979年の琉球大学開設以来の医学部新設。これとは別に、東京圏国家戦略特別区域会議で千葉県に医学部新設が確認されている。外国人患者を受け入れる「医療ツーリズム」の拡大を目指すと言われている。

○国家戦略特区
 2014年2月に閣議決定され、指定された6か所の特区には、政府主導で特定区域での規制・制度を緩和するもの。1979年以降、政府は医学部の設置を認可しなかったが、「世界最高水準の『国際医療拠点』をつくるという国家戦略特区の趣旨」から、「国際的な医療人材の育成」のため、千葉・成田市での医学部新設が認可された。「既存の医学部とは次元の異なる」特徴として、留学生や外国人教員の確保、海外での診療経験がある教員の配置や海外臨床実習などが検討されている。日本医師会や成田市は、「地域医療の崩壊を招く」などと懸念を表明。

○ドクターウエーブ
 「OECD比較で最低の人口あたり医師数」など「医療崩壊」とも言える困難な状況を前に「病院を守れ、医師を増やせ」と声をあげようと、医学生や本田宏医師(医療制度研究会)、邉見公雄医師(全自病会長)などの医療者が集まりよびかけた運動。民医連も参加。2008年からは医師増員署名にとりくみ、医学部定員増や医学部新設などに結実した。

○生活保護母子加算復活
 2005年小泉政権時代に段階的に廃止され、2009年4月に全廃された生活保護母子加算は、廃止に対する国民の批判と復活を求める運動がわき起こった。民主党が政権についた2009年12月に復活。マスメディアでも生活保護母子家庭の厳しい生活実態が明らかにされるなど、大きな世論と運動が加算復活につながった。

 【第3章】第1節

○団体有志による「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」
 2000万人統一署名の呼びかけ団体にもなっている29団体(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、SEALDs、安保関連法に反対するママの会、安全保障関連法に反対する学者の会、立憲デモクラシーの会など)の有志によってつくられた。
 市民連合は、諸団体有志および個人によって組織され、各地域において野党、あるいは無所属の統一候補擁立を目指し活動している市民団体との連携をはかることをすすめる。

○NPT再検討会議
 NPT(核拡散防止条約)は、核兵器の拡散防止、核軍縮の促進、原子力の平和利用の促進を目的に、1963年に国連で採択され1970年に発効。米、露、英、仏、中を核兵器国とし、新たな核保有国を増やさない義務を課した。25年間の期限付きで発効したが、1995年の再検討会議で無期限延長が決定。その後5年ごとに再検討会議が開かれている。現在、国連加盟国のうち189か国がこの条約に参加。

○いのちまもるヒューマンチェーン会議
 患者負担増と安全性・有効性の未確立な医療を拡げる「医療保険制度改革関連法案」の徹底審議と廃案を目指すために設けられた。本田宏氏(医療制度研究会副理事長)、川島みどり氏(日本赤十字看護大学客員教授)、伊藤真美氏(花の谷クリニック院長)などが呼びかけた。

○JPA
 正式名称は「一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会」。難病・長期慢性疾患、小児慢性疾患等の患者団体及び地域難病連で構成する患者・家族の会の中央団体。現在86団体が加盟し、構成員は約26万人。当事者を中心に患者家族の交流、社会への啓発、研修活動など幅広く活動を展開している。2015年の「医療保険制度改革関連法」のたたかいでは、代表理事が参考人質疑に立ち「患者申出療養は混合診療への道をひらくもの」と発言。いのちを守るヒューマンチェーン会議の院内集会にも代表が参加して連帯発言するなど、共同がひろがった。

○保険証留め置き
 国民健康保険料を滞納している国保加入者には、期間限定の短期保険証や窓口でいったん10割負担が求められる資格証明書などが発行されているが、保険料の納入相談をするという理由で本人に保険証を郵送せず、窓口に留め置く処置。保険証が手元に届かず、病院にかかれず手遅れになるなどの事例にもつながる運用である。

○無料低額診療事業
 低所得者などに対し、医療機関が無料または低額な料金で診療を行う事業のこと。社会福祉法人や日本赤十字社、済生会、旧民法34条に定める公益法人などが、法人税法の基準に基づいて実施するものと、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に基づく第二種社会福祉事業として実施するものの2種類がある。事業所は第二種社会福祉事業の届け出を行い、都道府県知事、政令市・中核市市長の認可で事業の実施が可能。

○10%条項
 無料低額診療事業を届け出る際、「生活保護の患者と、無料または10%以上の減免を受けた患者が全患者の1割以上」などの基準がもうけられている。しかし厚生労働省は、10%に達していなくても「都道府県の状況を勘案して判断する」としており、都道府県との相談・交渉の末、10%未満でも認可された事業所もある。患者の実態を届けるなどの運動が重要である。

○建白書
 2013年1月、沖縄県民の民意として国に対し「一、オスプレイの配備を直ちに撤回、二、米軍普天間基地を閉鎖、撤去し、県内移設の断念」を求めたもの。「建白書」には、沖縄県議会議長、沖縄県市長会会長をはじめ沖縄県内の全市町村長・議会議長が署名し、安倍首相に提出した。その後「建白書」の実現は、思想信条や支持政党を超えたオール沖縄の運動でたえず掲げられてきた原点といえる。

○代執行
 政府は、翁長知事による辺野古埋め立て承認の取り消しは「違法」だとして、県に代わって国が取り消し処分を撤回する「代執行」を求めて提訴した。政府は、この間の選挙により示された沖縄県民の民意に反し、辺野古新基地建設を強行している。

○辺野古基金
 2015年4月、辺野古新基地建設に反対する運動を支援するため、石川文洋氏(沖縄出身のカメラマン)、鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト)、呉屋守將氏(沖縄・金秀グループ会長)、宮崎駿氏(アニメーション映画監督)、佐藤優氏(作家)などが呼びかけた基金。2015年12月には5億円超。7割は県外から寄せられ、沖縄県民のたたかいを支援する全国の連帯をひろげている。

○大飯原発3・4号機運転差し止め判決
 2014年5月21日、福井地裁が出した判決。安全性が保障されないまま関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させたとして、福井県などの住民189人が関西電力に運転差し止めを求めた訴訟。「原発は電気を生み出す一手段に過ぎず、人格権(憲法13条、25条で保障された権利)より劣位にある」という立場で、関西電力に運転差し止めを命じ、再稼働を認めない画期的な内容。また判決は、関西電力の「原発稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながる」という主張に対し、多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の問題を並べ論じること自体が「法的に許されない」とした。

【第3章】第3節

○ノンテクニカルスキル
 近年、専門的な知識や技術(テクニカルスキル)のみならず、安全管理をすすめる上で、「状況認識」、「意思決定」、「コミュニケーション」、「チームワーク」、「リーダーシップ」、「ストレス管理」、「疲労への対処」などの「ノンテクニカルスキル」の重要性が強調されている。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集・分析・提供事業の2014年医療事故報告では、「知識の不足」「技術・手技が未熟」などのテクニカルスキルが発生要因とされたものは18.6%。「確認・観察を怠った」「判断を誤った」「通常とは異なる身体的・心理的条件下にあった」などのノンテクニカルスキルが発生要因のものは51.3%を占めている。

○チームSTEPPS
 Team Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safety。協働すべき「チーム医療」の多職種のメンバーがともに研修し、ヒューマンエラーや医療事故を未然に防ぎ、医療安全の推進、安全文化を醸成するためのチームトレーニングの一つ。2005年に米国で開発。チームSTEPPS研修では、「リーダーシップ」「状況モニター」「相互支援」「コミュニケーション」の4つを学び、最終的にはチームのパフォーマンスを改善し、より安全なケアを提供し、組織の安全文化の醸成を目標にしている。

○日本HPHネットワーク
 2015年10月、患者、職員、地域住民の健康水準の向上をめざし、住民や地域社会・企業・NPO・自治体等とともに健康なまちづくり、幸福・公平・公正な社会の実現に貢献することを目的に発足。発起人は日本病院会や全国自治体病院協議会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本ヘルスプロモーション学会など。民医連の事業所のほか、佐久総合病院など40事業所が加盟。WHOが推奨・開始したHPH国際ネットワークの国・地域ネットワーク(日本支部)の役割も果たす。

○振動障害
 振動を伴う工具を長年使うことで生じる職業病で、手の冷えやしびれ、上肢の痛みや運動制限が特徴で、いったん発症すると治療は困難。1960年代後半から1970年代前半にチェーンソーが普及したことにより、山林労働者に多発。大きな社会問題となった。工具の改良や国の予防対策で林業における新規患者発生は減少したが、建設業や製造業での発生は増加傾向。振動工具を扱う労働者は500万人超と言われるが、振動障害特殊健診の受診者は極めて少ないのが現状。

○ストレスチェック義務化
 労働安全衛生法改正に伴い、50人以上の事業所に年1回のストレスチェック実施、高ストレスと評価された労働者から申し出のあった時の面接指導、医師が必要と認める時は就業上の措置が義務化された(2015年12月施行)。職場のメンタルヘルス対策の第一次予防が目的で、「心身のストレス反応」「職場のストレス要因」「周囲からの支援」を含む項目が必要となっている。
 本来は集団分析による職場環境改善を目的としていたが、今回の改正では努力義務に。一次予防の目的周知と総合的なメンタルヘルス対策として位置づけなければ成果は期待できない。法的対応にとどまらず「健康職場づくり」を土台に活用方法の検討を提起している。

【第3章】第4節

○特定事業所集中減算
 ケアマネジャーの介護報酬(居宅介護支援費)に対する減算措置。特定のサービス事業所に利用が集中しているケアプランが1件でもあると、そのケアマネジャーの在籍する事業所の全ケアプランが減額になる仕組み。2015年の報酬改定で対象が全サービスに広げられ、集中割合も80%へと引き下げに。特定の事業所に集中せざるをえない訪問看護、訪問リハなど医療系サービスが対象とされた影響は大きく、各地で運用の改善を求める自治体要請が行われ、独自の基準の設定などの成果も出ている。

○総合事業
 「介護予防・日常生活総合支援事業」の略称。2014年の法改定で、介護給付費削減策の一環として要支援者の訪問介護、通所介護を市町村事業に移行させることが決定。受け皿は、現行(予防給付)相当サービスのほか、人員基準を緩和したサービス、住民主体の支援(ボランティア)など。国のガイドラインでは、事業の単価や委託費を国の定めた基準以下とするなど、コストを徹底的に抑え込み質を落とす内容。さらに「基本チェックリスト」を活用し、介護保険の利用を申請しても要介護認定にまわさずに「総合事業」に回せる仕組みも導入。運用は市町村の裁量に委ねられ、サービスの取り上げや受療権の侵害となりかねない。2018年3月までに全市町村での実施が義務づけられている。

○協議体
 「生活支援・介護予防サービスの中核となるネットワーク」であり、新設された「生活支援体制整備事業」で、生活支援に関わる情報共有や連携強化の場として位置づけられた。国のガイドラインでは、構成団体として、社協や地域包括支援センター、民生委員、行政機関のほか、NPO、社会福祉法人、協同組合、ボランティア団体、介護サービス事業所などが例示されている。民医連の中にもすでに協議体に参加する法人もある。

○処遇改善加算のもつ限界や矛盾
 2015年介護報酬改定で、介護職員処遇改善加算の拡充が図られた。しかし、介護報酬全体が大幅に引き下げられ、事業所経営が悪化している中では、処遇改善加算の引き上げだけでは労働環境全体の改善にはつながらない。また、加算の対象が介護職員に限られ、ケアマネジャーや看護師などが対象外であることや、加算の算定が利用料に反映されてしまう仕組みなど放置されたまま。加算そのものの改善とともに、一般財源による抜本的な処遇改善を講じることが必要。

【第3章】第5節

○民医連らしい歯科医療活動のチェックリスト
 歯科医療の質を追求する指標として、貧困と格差、少子・超高齢社会に立ち向かう、民医連の「医療活動8つの重点課題のとりくみ」をもとに、作成した歯科独自の事業所チェックリスト

○RST
 呼吸サポートチームの略

○デンナビ
 デンタルナビフェアの略 歯学生に向けた、民医連歯科医師臨床研修説明会

【第3章】第6節

○民医連統一会計基準推進士
 基礎的な会計知識を身に付け、1989年に「民医連の法人・事業所が従うべき会計の基準」として定めた民医連統一会計基準を実践する職員をより広く育成することなどが目的。2000年に全日本民医連で養成講座を開き、2015年までに9回開催。1188人の推進士が誕生し、法人や事業所で民医連統一会計基準の推進・普及の一翼を担う。現在は各地協で講座を開催。

○民医連部門別損益管理要綱
 2015年12月の全日本民医連理事会で決定した。部門別損益管理の目的は、部門(職場)毎の経営データの提供と経営改善の推進、部門ごとの経営構造を明らかにし、病院の経営構造改善をすすめること、診療報酬制度の矛盾を明らかにし、診療報酬改善の運動の前進のために、根拠となるデータの集約と蓄積、など。ちなみに全日本民医連として1991年に「民医連部門別損益計算要綱(案)」および「計算マニュアル(案)」を発表。2003年に新「要綱(案)」を提起し、2006年に「民医連『新』部門別損益計算およびそれにもとづく管理要綱(案)」が決定した。

○短期指標・中期指標
 1992年に設けられた医科法人の「要対策項目」は、経営危機の兆候を早期に把握し対応することが重要であるとして、各法人が自己点検するために定められた。2001年、2007年、2011年と改定し、各法人の経営診断、県連、地協、全日本での組織的対応を行う上で有効性を発揮してきた。短期要対策項目は、資金的に危険な状況にある可能性があり、1項目でも該当すれば「緊急要対策法人」として、県連及び全日本民医連へ速やかな報告書提出が求められる。中期要対策項目は、収支のバランス、事業の発展性、大きな赤字や連続する赤字、資金繰りや投資の有効性、財務の状態などをチェックし、該当項目が多い法人は、このままでは危険な状態に陥る可能性があるとして、対応を検討する必要がある。該当項目が5ポイント以上の法人は全日本民医連への報告が求められる。

○医療経済実態調査
 厚生労働省の中央社会保険医療協議会が毎年実施し、11月に公表している。病院、一般診療所、歯科診療所及び保険薬局における医療経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整理することが目的。損益状況と給与費は、直近の2事業年度の数値が報告される。2014年度調査から、キャッシュフローの状況を追加。全日本民医連の経営実態調査との比較検討にも活用している。

○国立病院機構
 厚生労働省所管であった旧国立病院・療養所(一部を除く)を引き継ぐ形で発足した独立行政法人。国の責任で行われるべき、不採算分野等の政策医療の継続・向上、医療従事者の育成等を目的に運営される。国の使命である国民への医療責任の観点から、機構のあり方には注視が必要。2015年4月以降、「中期目標管理型法人」に分類され、職員の身分は非公務員とされた。

○控除対象外消費税
 社会保険診療等の給付は非課税となっているため、医療機関は患者から消費税を受け取ることができない。しかし、社会保険診療を行うための設備投資や医薬品、医療材料などの仕入れには消費税がかかるが、医療機関は税を納める際、仕入れ分の消費税を控除することができない。その分は、医療機関が負担。控除されない消費税を「控除対象外消費税」と言う。消費税が2014年に8%に引き上げられた際、診療報酬に1.53%上乗せされたが、多くの医療機関でそれを上回る控除対象外消費税が発生している。民医連の病院でも、控除対象外消費税の事業収益に占める割合が2013年度の1.4%から2014年度は2.1%に増加。経営に深刻な影響を及ぼしている。

○仕入税額控除
 事業者が消費税を納付する税額は、消費者から受け取った消費税額から、事業に必要な仕入れのために支払った消費税額を差し引いた額を納める。これが仕入税額控除。仕入れ時に支払った消費税額の方が多かった場合は、払いすぎた分の還付を国から受けることができる。医療機関は、社会保険診療等に係る仕入れ税額控除が100%認められていない。

○税制改正要望書
 毎年12月中旬に与党が次年度の「税制改正大綱」を発表。翌年度以降の税制改正や税制上の措置などをまとめたもの。その後、財務省と総務省が「税制改正大綱」をまとめ、翌年度の予算案とともに1月に「税制改正要綱」として閣議決定する。税制改正法案として2月下旬に通常国会へ提出し、審議・採択の末、3月末までに成立・公布、4月1日から施行される。税制改正大綱に向け、夏ごろに各省庁が要望を公表。日本医師会をはじめ医療界も関係省庁に要望書を提出。全日本民医連は、2011年度、2012年度に要望書を提出。2014年度は消費税問題で見解を発表した。

【第3章】第7節

○看護のものさし
 民医連の看護の歴史から導き出された民医連の看護の継承と発展させるためのツール。『3つの視点(患者の立場にたち、患者の要求から出発し、患者とともにたたかう看護)、4つの優点(患者の生活と労働を見据え、総合的な視点をもつ:総合性、看護の基本を守り抜く立場で在宅を含む看護の継続性を追求すること:無差別性、真に患者の立場に立つことで民医連の医療集団が団結し、民主性を貫いてきたこと:民主性、一人ひとりの患者の人権を守り、要求を追求する立場で、運動と結びつけてきたこと:人権を守る・運動)に照らし合わせ、「人間らしく、その人らしく生きていくことを援助し、それを守り抜く無差別平等の看護をすすめます」という民医連の看護理念をいつでも振り返ることができるよう、40期の看護委員会で提案された。

○保険薬局法人の非営利型の一般社団法人
 国による医薬分業政策の下で、処方箋を出して調剤薬局で薬を受け取ることが一般的になった。薬局法人の場合は、医科法人とは違って多くが株式会社・有限会社という営利法人形態をとらざるをえなかったため、利益剰余金を株主に配当しないこと、大株主をつくらず7人以上で株の均等所有をすることなど、民医連綱領の立場から非営利性と協同性を担保する努力をしてきた。2008年に「一般法人法」が施行され、薬局法人でも一般社団法人という「非営利・協同」の法人運営形態の取得が可能となり、これまでの株式会社・有限会社から一般社団法人への移行をすすめている。2014年に理事会で「民医連薬局法人の「一般社団法人」への移行について」を確認した。

○利益相反
 企業と大学や病院などが協力して研究開発を行う場合に、経済的な利益関係によって「公正」かつ「適正」な判断が損なわれる、あるいはそのおそれがあることを言う。ノバルティス社のディオバン問題で表面化した臨床試験の不正問題は、利益相反の弊害を象徴する事件となった。日本学術会議は2013年に「臨床試験にかかる利益相反マネジメントの意義と透明性確保について」を提言。企業と連携した研究の際に、費用を正確に開示することや、資金提供の目的などの透明性を確保すること、などが提起されている。

○化血研
 化学及血清療法研究所。各種ワクチンや血漿分画製剤などを製造しているが、約40年にわたって国の承認書と異なる方法で血液製剤を製造し、記録の偽造など組織ぐるみの不正が行われていたことが明らかになった。調査にあたった第三者委員会は「常軌を逸した隠ぺい工作」と断罪。110日間の業務停止処分を受けた。
 全日本民医連は声明「国・厚労省は、化血研の血液製剤不正を生み出したこれまでの行政のあり方を反省し、再発防止を急げ」を発表。今回の不正に対する国・行政の責任の所在を明らかにするとともに、ワクチン・血液製剤を供給する製薬企業の安全性の確保を第一義にしたとりくみの強化、医薬品の安定供給を保障するために製薬メーカーの寡占化を解消するための業界への指導強化を厚労省に求めるとしている。

○プリセプター方式・屋根瓦方式
 新人看護師が自立するために、2~4年目くらいの先輩看護師(プリセプター)がマンツーマンで教育・指導する仕組みや、医師の初期臨床研修で指導医とは別に2年目医師が1年目医師を、3年目医師が2年目医師を屋根瓦のように重なり合って教えるしくみ。事務職の養成に、これらを参考にした実践が始まっている。

【第3章】第8節

○新たな発展をめざす2017年度改定案
 今回の改定案は、65歳まで働く時代になり、退職者慰労金の受給者が増えていくもとで、安定的に将来にわたって給付を継続するためのもの。会費の改定を行わずに、安定的な慰労金給付と、やむをえず中途退職する職員への退職時一時金の給付を確実にする。改定案は2016年6月の通常総代会で決定し、2017年度から実施する予定。

○万人の社会保障を求めるアピール
 第12回学術運動交流集会において保健センター(フランス)等の代表と保健医療団体連合、民医連にて確認された課題について各団体と作成した、世界の国々の団体個人に向けたアピール。

○ナヌムの家
 韓国にある日本軍「慰安婦」の被害女性達が共同生活を行う施設。

○遺棄毒ガス兵器
 日本軍は、国際法で禁止されていた毒ガス兵器の研究・製造を秘密に行い、旧満州(いまの中国東北部)などで人体実験を行っていた。終戦時に日本軍が遺棄した毒ガス兵器は中国全土で70万~200万発にもおよぶといわれており、廃棄処理作業はすすんでいない。1970年代以降、中国の各地で曝露被害が発生した。とりわけ2003年には中国黒竜江省チチハル市の建設現場で大量の曝露事件が発生。また国内でも茨城県神栖や神奈川県寒川で被害が発生している。

○国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格
 国連経済社会理事会(英語:United Nations Economic and Social Council)は、国際連合の主要機関の一つ。経済および社会問題全般に関して必要な議決や勧告等を行う。国連憲章で定められているNGO参加のための公的な体系をもった唯一の国連機関で、略称はECOSOC(エコソク)。
 民医連がECOSOCの協議資格を取得すると、日本政府によって放置されている健康権の侵害や、貧困と格差が拡大している実態などを国際的に明らかにするため、国連への意見書提出や配布、会議への参加や傍聴などが可能となる。2012年、日本のNGOでECOSOCの協議資格をもつヒューマンライツ・ナウの要請で、国連特別報告者アナンド・グローバー氏が来日。福島の放射線被害の実態を調査、2013年に報告書が国連に提出され日本政府に勧告がされたのも、その一例。

【第3章】第9節

○新入医師統一オリエンテーション
 全国の民医連の臨床研修病院で初期研修を開始する新入医師を対象に、毎年行っているオリエンテーション。(1)全国組織のスケールメリットを活かして研修をすすめるための出発点とする、(2)民医連の歴史・理念と活動方針や初期研修医に期待することを伝える学習する場とする、(3)全国の初期研修医が一堂に集まり、繋がりを持つことで青年医師の集団形成につなげる、などを目的に2010年から開催。

○セカンドミーティング
 民医連での研修1年目を終了し、2年目を迎える研修医を対象に開催している。(1)1年間の初期研修を修了し、研修内容や医師としての成長・気づきなどを同世代で意見交換・交流し、2年目を迎えるにあたり上級医としての指導スキルを身に付ける、(2)地域医療を担う医師として専門医取得後を見据えたキャリア形成を考え、自分の医師像を見つめる機会とする、(3)専門医制度について正しい情報を知り、民医連の後期研修を考える場とする、などが目的。

○JCEP(卒後臨床研修評価機構)
 国民に対する医療の質の改善と向上をめざすため、臨床研修病院における研修プログラムの評価や人材育成等を行い、公益の増進に寄与することを目的として設立された第三者機関。初期研修を行う臨床研修病院についてサーベイをおこない、改善点の指摘や認定をおこなっている。

○「新卒医師200人受け入れ、奨学生集団500人」を目指し全国的な目標達成計画
 民医連の総力をあげ、全国の医師、職員、共同組織の仲間とともに、これまで掲げ続けてきた「新卒医師200人受け入れ」、民医連奨学生500人集団の目標を現実に達成すべく、数年間の展望をもって運動をすすめる方針。2015年9月に医学生委員会から発信された。地協や県連ごとに目標達成を目指した活動計画の作成など、基本方略や具体的実践課題を提起している。

○ドクターズ・デモンストレーションのとりくみ
 ドクターズ・デモンストレーションは2011年秋、震災復興と医療再生に必要な診療報酬の改定を求める集会に全国から医師・歯科医師が結集したことが始まり。2015年秋には、医療再生の課題だけでなく、安保関連法案やTPP、沖縄や原発事故からの復興などの課題を掲げ、すべての医療者が声をあげようとアピールも出し、11・3ドクターズ・ラン&ウオークを実施した。

○無料塾
 貧困の連鎖(貧困家庭で育った子どもは成人してからも貧困に陥る傾向が強い)や学力の格差(家庭の経済力の差が子どもの学力の差になって現れる)などに着目して始まったとりくみ。民医連でも、元教師の共同組織や大学生などの協力を得て、無料塾のとりくみが広がっている。

○ママカフェ
 子育て中の母親が孤立しないように、子どもをつれて気軽に参加し、食事などを交えて母親同士の交流や子育ての悩みを相談できる場を提供するとりくみ。「子育ての先輩」として共同組織がアドバイス役を担っているところもある。

○新自由主義
 「市場原理主義」「市場至上主義」「競争第一主義」で、市場で企業が競争することで、よりよい商品を消費者が買えると主張。公的規制を緩和して民営化をすすめ、自己責任や「勝ち組」「負け組」を肯定する考え方。社会保障分野では、国の責任を放棄し、医療・介護の民営化・市場化を推進。アメリカの要望に応えてTPPにも参加、混合診療容認、医療機器や医薬品などの市場開放、患者・利用者の自己負担増と民間保険の拡大などを推しすすめている。

○非営利・協同の事業体
 民医連の事業所は、創立以来、無差別・平等の医療を掲げて事業を行ってきた。利益追求を最大の目的とするのではなく、綱領の実現を目的としている。一方で事業を存続・発展させるために一定の利益を出すことは求められており、経営活動における非営利性の原則(すべての利益は医療介護活動の充実・発展のために使い、出資者や構成員への配分を行わない)を確立してきた。2002年の第35回総会で確認された全日本民医連の医療・福祉宣言では、民医連の組織・事業所を非営利・協同の組織の一員として、「住民と医療・福祉の専門職が、営利を目的とせず、自主的に設立し、民主的に管理運営する多様な事業の発展方向をさらに追求します」としている。

○科学的で民主的な管理運営
 民医連の組織管理をすすめていくには科学的な管理と民主的な運営が必要。科学的な管理とは、民医連統一会計基準にそった正確な経営管理を行うことや、管理学や経営学など諸科学の成果から学ぶことなど、正しい知識を身につけ我流に陥らない管理をすすめていくこと。また、民主的な運営(職員や共同組織、地域住民の意見をくみ上げて、民主的な議論で物事を決定していくこと)を前進させるために、管理者や職員の姿勢や能力の向上、運営機構やシステムの整備など不断の努力を続けることが大切である。

【第4章】第1節

○高江ヘリパッド建設
 日本政府は、SACO合意にもとづき、沖縄県北部訓練場の半分を返還する条件として、返還予定地にあるヘリパッド(ヘリコプター用の離発着場所)を東村・高江周辺に移設すると決めた。米軍のオスプレイ配備とともに建設をすすめており、地元住民の座り込みによる抗議が続いている。

○国保都道府県単位化
 地域医療構想や地域包括ケアと一緒になって医療費を抑制する新たな手法の一つ。2018年度から国保の運営を市町村から都道府県に移行するが、保険者は「市町村」から「市町村及び都道府県」になり、市町村も運営に関わる。都道府県は国保の財政運営を担いつつ国保運営方針を策定。標準保険料率や納付金などを決め、市町村に対して標準保険料率を基に保険料の決定や徴収などを行う。市町村はそれにしたがって住民から保険料を徴収し、都道府県に納付する。特定健診の実施や収納率向上などの市町村の努力に対して、支援金を交付するような制度もあるため、さらに高い保険料の設定や徴収強化が懸念される。

○地域医療構想
 「医療介護総合確保推進法」(2014年通常国会で成立)により、都道府県は医療計画の中で「地域医療構想」を定める。「地域医療構想」は、2025年に向けて、原則第二次医療圏を単位とする「構想区域」ごとに、急性期から回復期、在宅医療に至るまでの医療提供体制の構築がすすめられ、病床の機能分化、在宅医療・介護、医療従事者の確保・要請等について検討がすすめられる。

○COP21
 国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議の略称。2011年のCOP17で、2020年以降の新たな温暖化対策の国際枠組みをCOP21で採択することを決定。先進国だけに対策を義務づけてきた京都議定書に代わり、途上国を含むすべての国が参加する枠組みを目指すもの。

【第4章】第2節

○アルマ・アタ宣言
 1878年にWHOとユニセフの共催で開催されたアルマ・アタ会議で採択。新しい健康に対する概念としてプライマリー・ヘルス・ケア(PHC)を提唱した宣言。この宣言は、人間の基本的な権利である健康に関して格差や不平等は容認されるべきではないという基本精神にもとづき、健康教育や母子保健・家族計画などのPHC基本活動にとりくむことをうたっている。この宣言によって、PHCがそれ以後の世界的な健康戦略の基本となった。

○オタワ憲章
 1986年11月にカナダ・オタワで開催された第1回健康づくり国際会議で採択。「世界の全ての人の健康のため」の憲章。この憲章でWHOが「ヘルスプロモーション」を打ち出し、健康戦略の主要方針として位置づけた。同憲章が示す「健康」とは、病気でないなどの身体的意味だけではなく、社会的にも問題がないことを意味する。オタワ憲章の定める健康の条件は、平和、住居、教育、収入、安定した環境、持続可能な資源、社会的公正と公平等の8つ。1998年には、これらの条件が健康の社会的決定要因(SDH)に整理された。

○ヘルシー・シティー
 健康都市。健康をささえる物的および社会的環境を創り、向上させ、そこに住む人々が相互にささえ合いながら生活する機能を最大限活かすことができるよう、地域の資源を常に発達させる都市。WHOは健康都市の基準として、「都市の役人や指導者が優先順位決定や参加型アプローチに積極的に関与する」こと、「多くの場合、市の発展計画や未来像の要素ともいえる市あるいは町村の健康計画を策定する」ことの二つをあげている。

○医療活動の2つの柱(総合的な質の向上と8つの重点課題)
 「総合的な医療の質の向上(QI・医療安全・倫理)」を中心に置き、貧困と健康格差や超高齢社会へ向けた実践的医療課題として「8つの重点課題((1)貧困と格差に立ち向かうヘルスプロモーション・保健予防、(2)がん医療も含む慢性疾患医療、(3)救急医療、(4)子どもを産み育てる地域社会と、子どもの貧困の克服、(5)リハビリ医療、(6)在宅医療、(7)チーム医療、(8)地域医療の連携)」を位置づけている。徹底した地域分析や自己分析を前提に、各県連・法人での中長期的な構想と計画で策定・実践していく課題を提起している。

【第4章】第3節

○「必要充足原則」「応能負担原則」「非営利原則」
 医療、介護など、公的社会サービス制度において貫かれるべき原則。「必要充足原則」は、「給付」に関する原則で「給付は負担に応じてではなく、必要に応じて」、「応能負担原則」は「負担」に関する原則で、「負担は給付に応じてではなく、(負担)能力に応じて」、「非営利原則」は「提供主体」に関する原則で、公的介護サービスは営利を目的としない提供主体によって担われるべき―という考え方。

○北海道、東京、長野の経験に学び、恒常的な「共闘」組織づくり
 北海道の「介護に笑顔を!連絡会」、東京の「介護をよくする東京の会」、長野の「介護保険をよくする信州の会」など、地域の様ざまな個人・団体によって構成された「会」が活発に活動。介護学習会やシンポジウム、介護改善署名、街頭宣伝、調査活動、自治体への要請などがとりくまれている。「地域が主戦場」になる中、介護改善を求める共同を広げることが求められており、先行経験などに学びながら、地域で恒常的に運動をすすめる組織づくりを検討・具体化することが必要。

○民医連の介護・福祉の理念
 第40期第11回理事会(2012年12月)で確認。介護・福祉分野の活動の土台として、学習を深め、日常の実践や養成のとりくみ、介護ウエーブに活かしていくことが提起されている。全文は次の通り。

【民医連の介護・福祉の理念】
 私たちは、民医連綱領を実現し、日本国憲法が輝く社会をつくるために、地域に生きる利用者に寄り添い、その生活の再生と創造、継続をめざし、「3つの視点」と「5つの目標」を掲げ、共同組織とともにとりくみます。
3つの視点
 1利用者のおかれている実態と生活要求から出発します
 2利用者と介護者、専門職、地域との共同のいとなみの視点をつらぬきます
 3利用者の生活と権利を守るために実践し、ともにたたかいます
5つの目標
 1(無差別・平等の追求)
  人が人であることの尊厳と人権を何よりも大切にし、それを守り抜く無差別・平等の介護・福祉をすすめます
 2(個別性の追求)
  自己決定にもとづき、生活史をふまえたその人らしさを尊重する介護・福祉を実践します
 3(総合性の追求)
  生活を総合的にとらえ、ささえる介護・福祉を実践します
 4(専門性と科学性の追求)
  安全・安心を追求し、専門性と科学的な根拠をもつ質の高い介護・福祉を実践します
 5(まちづくりの追求)
  地域に根ざし、連携をひろげ、誰もが健康で、最後まで安心して住み続けられるまちづくりをすすめます

【第4章】第6節

○総合診療医
 定義は様々で社会的にも明確でない。日本医師会は総合医を「自身の専門性を生かした『医療的機能』と『社会的機能』を備え、保健・医療・福祉の諸問題にも応じるなど全人的視点での対応を併せ持つ医師」と定義し、総合医≒かかりつけ医であり、総合医≠総合診療医と考えている。「かかりつけ医」の定義は「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」としている。
 「総合診療専門医」は、新専門医制度では他の専門医資格と同様にある領域の専門性を示す名称として使われている。日本専門医機構では「総合診療医」を「主に地域をささえる診療所や病院において、他の領域別専門医、一般の医師、歯科医師、医療や健康に関わるその他の職種などと連携し、地域の医療、介護、保健など様々な分野でリーダーシップを発揮しつつ、多様な医療サービスを包括的かつ柔軟に提供する医師」と定義。
 民医連では、「総合医」の定義を明確に定めていないが、「民医連の総合医養成」と表現する場合は、家庭医であれ、病院での総合診療医であれ、領域別に専門医療にとりくんでいる医師であれ、各々の各専門領域での能力の基盤として、基本的な総合性(基本的診療能力は勿論、平和や民主主義を大切にする姿勢、人権擁護やSDHの視座、憲法を活かす視点、倫理や安全への配慮など)を備え、民医連綱領の精神に沿って変革の視点で日々の仕事に臨める医師、という思いを込めている。

○総合診療医の6つのコアコンピテンシー
 新専門医制度の具体化の中で、日本専門医機構は総合診療医の基本的能力として、総合診療専門医の「専門研修カリキュラム」の中で到達目標として6つのコアコンピテンシーを提示。(1)人間中心のケア、(2)包括的統合アプローチ、(3)連携重視のマネジメント、(4)地域志向アプローチ、(5)公益に資する職業規範、(6)診療の場の多様性からなり、それぞれに個別目標が設定されている。

○連携施設
 新専門医制度において基幹施設と連携しながら、概ね3年から4年の後期研修のうち、一定の期間について専攻医の後期研修にあたる。連携施設となる施設の基準は、指導医数、症例数、担当分野など、領域ごとに基準が設定され、基幹施設ごとに提出される後期研修プログラムに期間や研修内容が定められる。

○基幹施設
 新専門医制度において、連携施設(群)と協力しながら後期研修にあたる施設。連携施設をふくめた後期研修のプログラムの中心となる施設。基幹施設の基準については指導医数、症例数など領域ごとに基準が設定されている。

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