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2016年5月3日

「保育園落ちた」なぜ保護者は怒るのか 全国保育団体連絡会 実方伸子事務局長に聞く

 「保育園落ちた、日本死ね!!!」。わが子の入園がかなわなかったお母さんのブログでの発信を機に、待機児の問題が急浮上中です。なぜこんな声が? 全国保育団体連絡会(全保連)の実方伸子事務局長に聞きました。(木下直子記者)

■「詰め込み」の対策

 保育所不足はいまに始まった話ではありません。政府は二〇〇一年から「待機児童ゼロ」を掲げてきました。ですがその対策は、保育所を増やさず、現存の施設に定員を超えて入所させるなどの規制緩和や基準の弾力化が中心でした。一人の保育士がみる児童数、園児一人当たりの面積などの日本の基準は、国際的に貧しい部類。ここにまた「詰め込め」というのです。しかも効果は検証せず、新たな待機児童対策を出すことが繰り返されました。
 不安定雇用の増加も影響しています。低収入のため結婚年齢が上昇、出産は三〇歳前後。その年までキャリアを積んだ女性は、簡単に仕事を辞められず、保育ニーズも高まっています。
 「保育園を選り好みしなければいい」と思う人がいるかもしれません。認可園とそうでない施設では、保育士資格者の配置や環境の差が格段に大きく、しかも保育料の負担は認可園の方が軽い。保護者が保育で重視する(1)環境が整っている、(2)住まいに近い、(3)就学前まで預け続けられる―などの条件を踏まえれば、やはり認可園を増やすしかありません。

■妊娠初期に保育所探し?

 待機児童問題が深刻な自治体は、以前から認可保育所が極端に不足していた特徴があります。国の対策が規制緩和に走ったことで事態が深刻化しました。
 そうした自治体の一つが東京です。「認証保育所」という独自基準の施設をつくり、認可園を増やしませんでした。保育所探しを妊娠初期から行っていた人が五、六割も居たというママたちの調査も。また杉並区では昨年、三六三四人が認可園に申し込んで一六五九人が落ちました。ところが区が発表した待機児童は四二人。認可園に落ちて育児休暇を仕方なく延ばしたり、兄弟が同じ保育園に入れず、やむなく辞退したケースなどは待機児に数えないのです。区の発表で保育環境が良いと考え、同区に越してくる世帯が増え、さらなる保育所不足も招いています。
 二〇一五年に子ども・子育て支援新制度が実施されてからは「三歳の壁」という問題も。新制度では三歳未満児保育の拡大を目的に、保育所より基準の緩い地域型保育が導入されましたが、三歳になると行き場がなくなるのです。

■保育労働の改善が鍵

 施設整備とあわせ最優先課題は保育士の処遇改善です。建物を作っても保育士が集まらなければ保育所になりません。保育士の賃金は、全産業平均を一〇万円も下回っています()。保育にかかる費用は国が定め(公定価格)、保育士の賃金は月約二〇万円弱に設定されています(一五年)。ですが、国の配置基準(図1)通りでは現場が立ちゆかないため、保育士配置は基準より厚くなります。保育所の開所時間が一〇~一二時間と長いことにもこの基準は対応していません。こうして、国の設定でも十分でない保育士の賃金が、さらに減るのです。昇給財源も勤続一一年以降は見込まれていません。
 労働条件の厳しさも保育士不足の要因です。保育士は一日の勤務時間(八時間)すべてを子どもの保育にあてざるをえないのが現状で、記録や保育計画づくりなどの事務作業や保護者との連絡、地域の子育て支援の核の役割、研修などの時間は勤務時間内ではなかなかとれません。また年三〇〇日、週六日(国の要求)という開園日数の多さも負担です。

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■保育は社会保障

 普通のお母さんたちが行動を始め、赤ちゃん連れの国会要請で、こんなスピーチがありました。「この子のためにも、自分のためにも、社会のためにも改善を」。保育の問題を表した言葉です。
 保育は、子どもの発達を保障し、子育てする国民をささえる社会保障です。ところが国の支出では、日本はOECD参加国中、最下位(図2)。いまこそ規制緩和中心の政策を転換する時です。

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(民医連新聞 第1619号 2016年5月2日)

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