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2016年6月7日

「患者さんを見る目が変わった!」 毎週の事務カンファがくれたこと 栃木・宇都宮協立診療所

 毎週火曜、昼過ぎの1時間。宇都宮協立診療所の8人の事務職員たちが「気になる患者カンファレンス」を続けています。全員が「なんだか気になる患者さん」をピックアップし、書面にして報告します。始めて半年あまりで、「患者さんを見る目が変わった」「目の前の問題解決の先を考えるようになった」と変化もしています。(丸山聡子記者)

 「三〇代の男性が頻回に受診している。話を聞いてもらいたくて来るのは、お年寄りだけじゃないのかも」「長年の患者さんが無料低額診療の利用を開始。自分の年金で妻と義母と生活。『早く死んだ方がいい』と言っていた」…。「こんなこともあった」「もしかして…?」と意見が出ます。
 取材した五月二四日、もっとも議論になったのは二〇代前半の母親のこと。赤ちゃんの生後四カ月健診で受診しましたが問診票を持っておらず、母子手帳を見ると、予防接種を全く受けていません。夫とともに清掃の仕事をし、出勤は赤ちゃん連れとのこと。「保育園や預け先はないの?」「清掃現場は感染症も心配」「育てづらさも感じているよう。受診が中断しないよう見守ろう」など出し合いました。「小児は母子手帳のチェックが必須。任意の予防接種は高すぎて、受けたくても払えない人もいる」という指摘も出ました。

「伝える」「記録に残す」

 カンファは昨年一二月に始めました。全日本民医連の診療所交流集会に参加した事務次長の大野学さんが、診療所での多職種カンファの報告にヒントを得ました。「事務は、数年前に退職者が続いたり、様々な活動に『そこまでやる必要があるのか』と見る空気もありました。どうすればみんなで成長できるか悩んでいたところでした。『気になる患者さん』を出し合うカンファならできるかもしれないと思った」と大野さん。
 事務の職場会議はそれまでも毎週ありましたが、気になることを問いかけても、意見は滅多に出ませんでした。多職種でやると他の専門職に遠慮してしまうからと、あえて事務だけで始めることに。
 気をつけたのは、「人の報告を“聞く”だけにしないこと」と「記録を残すこと」。「自分で“なぜこの患者さんが気になるのか?”を考え、伝えることで、仲間の報告もより考えられるようになる」と考えたからです。記録は、問題を曖昧にせず、後追いできるようにするためです。

深く掘り下げ、考える

 「気になる患者さん」を書き込んだ用紙の綴りは厚さ二センチほどに。全員が「カンファを始めて変わった!」と口をそろえます。
 ムードメーカー的存在の武藤隼さんは「経済的困難を無低診や生活保護で解決しても、『患者さんに寄り添えた』と言えるか? その人が生き生き暮らせるために何ができる? とさらに先まで考えるようになった」と言います。
 大島伸子さんと薄久保春菜さんは同診に異動して一年足らず。「この場があるから患者さんのことがわかった」と大島さん。薄久保さんは、「法人の子ども企画(長期休み中の無料塾など)の担当なので、気になる親子にも声をかけていきたい」と言います。
 主任の大森香さんは、「職場全体で考えることで、自分と違う視点に気づいた」と話します。「引っかかったことを、どうしてだろう? と掘り下げ、色々な角度から考えるようになった」。
 性同一性障害の患者さんが、戸籍上の名前とは違う名前で呼ばれることを望んでいると知った時は、意思統一しました。「望む名前で呼ばれ、患者さんはもちろん、お母さんがホッとしていたのが忘れられない」と武藤さん。
 経済的困難の背景に、派遣など不安定で低賃金の働き方が広がっていることに話が及んだことも。

診療所全体に活気

 このとりくみは、診療所全体の雰囲気も変え始めています。「事務から看護師に声がかかることが格段に増えました」と、前田弘子看護師長。先日も、独居の患者さんから「具合が悪く受診は休む」と連絡があり、事務の提案で看護師と一緒に患者さん宅を訪問しました。「患者さんに最初に接するのが受付です。事務なりの視点で患者さんに向き合ってくれています。頼もしい仲間」と言います。
 法人の青柳るり子看護介護部長も、「気になることを見逃さず、背景も考えていのちと向き合う事務集団になってきた」と感慨深げ。
 渡辺弘子事務長は、「やってみよう! という活気がある。専門職中心に行ってきたデスカンファに参加するメンバーも出てきました。地域に目を向け、踏み出す活動が今後の課題」と話します。
 今月から、事務のカンファの事例を元に、多職種での事例検討と学習会もスタートします。

(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)

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