MIN-IRENトピックス

2016年6月7日

ホントに活躍できるのか?! 「ニッポン一億総活躍プラン」をチェック

 政府は今後一〇年間の施策を盛り込んだ「ニッポン一億総活躍プラン」を公表。「戦後最大の名目GDP六〇〇兆円」「希望出生率一・八」「介護離職ゼロ」を掲げ、「新しい三本の矢」の働き方、子育て支援、介護などの見直しを打ち出しました。どれもいまの日本には切実な問題ですが…。「この内容で活躍はムリ」という声が早くも出ています。雇用、保育、介護の主要三点について、詳しい人に聞きました。(木下直子記者)

「アベノミクスは大きな成果」が政府の認識?!

 各分野のチェックに入る前に、「プラン」冒頭の記述を紹介しておきます。一行目で「三年間のアベノミクスは大きな成果を生み出した」とし(写真)、続けて連ねたデータは、国民総所得や税収の増加や日本企業の収益が史上最高に達したこと、就業者数が一〇〇万人増加など、明るいものばかり。
 この「プラン」、アベノミクス第二ステージとして出たものですが、それを考慮に入れても、政府の認識が国民生活の実態とかけ離れすぎていることに不安がわきます。この数年、国内の経済格差はこれまで以上に広がり、厳しい暮らしを強いられる国民は増え、景気は悪化しています(資料)。だからこそ、安倍首相は消費税一〇%を先のばししたのです。

写真


働き方

首都圏青年ユニオン顧問弁護団
佐々木亮 弁護士

雇用のルール強める方向だが本気度は…どうなのか?

 「働き方の見直し」は、プランの目玉。労働問題にとりくむ佐々木弁護士は四〇点と採点。「解釈次第の記述が多いです」。

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 プランでは非正規労働者と正規労働者の格差の是正に「同一労働同一賃金」が打ち出されていますが、非正規の問題は同一労働同一賃金だけでは改善しません。最低賃金の引き上げや技能を身につけるための職業訓練を国が給与付きで行うなどの施策が必要です。
 最低賃金は「年率三%をめどに一〇〇〇円(平均)を目指す」と出ましたが、意外に低い数字でした。最低賃金は政府がやると言えば引っ込められない性格のものだからでしょう。「最賃はいますぐ一〇〇〇円に。そして一五〇〇円を目指す」。これがいま僕らが要求している数字です。
 「長時間労働の是正」も出されましたが、やる気のなさは一目瞭然。なぜなら政府はそういいつつも「残業代ゼロ法案」を撤回していないのです。過労死や精神疾患の労災申請は増え続けています。労使の協定さえあれば、過労死ラインを超える残業時間も許される三六協定のあり方の見直しからまず手をつけるべきなのです。
 全体的に見て、選挙前で有権者を意識したものだなと思います。ただ、一応雇用ルールの規制を強める方向なので、自民党政権が出した政策としては珍しい。二〇年前の橋本内閣から続けてきた規制緩和を否定することにはなりました。「運動や国民の声が動かした」と言えると思います。


保育

全国福祉保育労働組合
小山道雄副中央執行委員長

抜本改善でない規制緩和「活躍」できません

 「読んでも希望が持てません」と小山さん。0点でした。

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 まずプランには、二〇一五年度も補正予算などで保育士の処遇を改善してきたと書いてありますが、賃金が上がったと実感している保育士はいません。発表は国が決めた定員を元にした机上の数字。一日一一時間開所、土曜も保育を求められ、現場では定員より多い保育士を配置していますから、国が賃金を改善したといっても、一人一人にまわるのはわずかです。
 二%相当(月額約六〇〇〇円)の処遇改善や「キャリアアップの仕組みを導入し、全産業の女性労働者との賃金差(四万円)をなくす」という記述に至っては「話にならない」との声が。保育士の賃金は、全産業の労働者と比べ一〇万円低いのです。それを男性より賃金が低い女性労働者を基準にして賃金差を小さく見せた。またこれは保育を「女性の仕事」と決めつける、専門性の否定にほかなりません。また保育士以外の「多様な人材」の確保も強調されていますが、それにあたる「子育て支援員」などの人件費を国は一人年間二五〇万円程度しかとっていません(昨年開始の「子ども子育て支援制度」)。
 足りない施設をどうするか、に関しても、「認可保育所を増やす」とはどこにも書いていません。既存事業所の空き定員の活用や企業主導の保育事業の開始など、期限も財源も明らかにせず、子どもたちを詰め込むだけの方針です。抜本改善ではない、単なる規制緩和だと思います。


介護

全日本民医連介護福祉部
林泰則事務局次長

現状認識はあるが、処方箋がおかしい

 「どうがんばっても合格水準にも達しない」と林さん。二〇点は今後の運動で政府を追及できる【介護離職ゼロ】の言葉に対して、だそう。

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 現状認識はそれなりにされているが、出されてきた処方箋がおかしく、財源の確保もあいまいです。
 まず、家族の看護・介護で仕事を辞める「介護離職」対策について。年間一〇万人にのぼりますが、「プラン」が在宅サービスや施設整備などで救う対象は一・五万人。残り八・五万人は「相談」や「柔軟な働き方」で対応するそうです。
 また介護の受け皿について、昨年末の緊急対策の「一二万人分を上乗せして二○二○年代初頭までに五〇万人を整備する」という計画は変わっていません。
 特別養護老人ホームに入りたいが入れない「待機者」は五二万人いて、このうち要介護度三以上で在宅にいる人は一六~一七万人にも。当事者や家族は待ったなしの状況ですが「いつまでに整備するか」の明示はなく、整備も自治体・事業所まかせですから、計画そのものが不十分、実現の根拠も薄いと思います。
 肝心の介護職の処遇改善策には「月額一万円アップ」を掲げています。介護職の賃金は保育士同様、全産業労働者平均より一〇万円低いですから、積極的な数字ではありません。財源も「来年度の予算編成で検討」や「アベノミクスの果実で」などと不確かです。
 介護職の確保に関しては、介護職の資格を介護福祉士に一本化する当初の方針から「多様な介護人材」の名で、研修を受けた無資格者や子育て経験のある女性、高齢者など、専門性を落として安上がりな担い手づくりに流れています。
 そもそも、介護離職の増加は、制度改悪で家族の介護負担が重くなった現れ。改悪をすすめた張本人が「介護離職ゼロ」を言っても説得力がありません。

「一億総活躍」は何を狙う?

 「そもそも【介護離職】は、介護制度だけでは片付けられない問題を抱えているよね」―。プランのチェックを終えた林さん。
 「企業から見れば、介護離職の増加は労働力を失うこと。結局このプランは、政府が国民生活に目を向けているようにみえて、日本の経済成長を助ける人を動員する、という発想では? 戦時中のスローガンだった『一億総火の玉』ではないけれど、活躍できない人は切り捨てるのではないか? そんな疑問もわいてきます」。

(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)

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