MIN-IRENトピックス

2016年7月19日

社会と健康 その関係に目をこらす(3) 慢性疾患の増悪、ADL低下 避難環境が拍車 震災3ヶ月、熊本・くわみず病院から

 社会と健康の問題を考えるシリーズ。今回は被災地から。熊本地震から三カ月になります。被害を受けた住宅が一五万棟を超えた同県では、今も五〇〇〇人余が体育館などで避難所暮らし。車中泊を続ける人もいます。発災直後の時期を過ぎると、被災者の健康のカギを握るのが避難環境であることは周知の事実。熊本市にあるくわみず病院の救急搬送ケースや高齢者支援センターに入る相談事例を通して考えました。

(丸山聡子記者)

増悪の一因は

 「最近は、地震性のめまいなど、心性反応と思われる症状で救急搬送されてくる人が目立っています」。くわみず病院(一〇〇床)の池上あずさ院長は資料を示しながら話します。発災から六月末までに、避難所から入院した患者は四六人でした。地震があった四月は同院への救急搬送は、前年同月比で二八三%、六月の救急搬送は同一七一%。被害の大きい益城町や南阿蘇村からの患者が多いのも特徴です。また、慢性疾患の増悪も、五月頃から増え始めました。
 増悪の要因とみられるのが、避難所の環境の悪さです。例えば食事。五月下旬には、内閣府が熊本県に対し、避難所の食生活を改善するよう「通知」を出し、メニューの多様化、温かく栄養バランスのとれた食事の確保を求めています。にもかかわらず、いまだに朝と昼はパンかおにぎり、カップ麺。夜は弁当がほとんどで四種類程度のメニューの繰り返しです。しかも休日の夕食はおにぎり、魚肉ソーセージ、缶詰、ということも。
 入浴環境も十分でなく、シャワーしかない避難所もあります。同院では、市内や益城町など約一〇カ所の避難所を回り、具合の悪い人がいないか声をかけたり、足浴を行っていますが、足浴中、糖尿病の被災者の足に真っ黒な病変を見つけたこともあります。シャワーだけだったので、本人も気づいていませんでした。

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介護の新規申請が急増

 また高齢者にはADLの低下も見られます。くわみず病院と連携する熊本市高齢者支援センター「ささえりあ水前寺」では、六月に入って、介護認定の申請者が倍増。通常は月二〇件前後でしたが、六月は五四件に。
 センター長の谷口千代子さんは、「自力で生活再建に踏み出せない人たちが避難所や被災した自宅にとどまり、弱ってきています。食事の届かない自宅で何日も食べずにいたり、夜中に避難所で血圧が高くなって救急車を呼んだり…」。
 また、「今後のめどが立たず、もともと“社会的弱者”だった人たちが取り残されかねない」という池上院長の指摘を象徴するようなケースも相次いでいます。仮設住宅の整備は遅れ、完成は計画数の三五%(七月六日現在)。しかも、計画戸数は三五五一戸で、全壊が約八二〇〇戸という実態に見合うものではありません。

生活不安の影響

 発災の約二カ月後、知人に引っ張られるようにくわみず病院を受診した益城町の男性(八〇代)は、全壊した自宅近くのビニールハウスで生活していました。
 受診時は話しかけられてもほとんど答えず、小さな声しか出ませんでした。家族が心配した認知症ではありませんでしたが、地震のショックで意欲を失った状態でした。建設が始まった仮設住宅を申し込んだものの、抽選に外れていました。脳梗塞の既往があり、後遺症の麻痺や発語障害も悪化。「あのままビニールハウスで生活していたら、脳梗塞を再発していた可能性が高い」と池上院長。
 六月一一日、避難所で四〇度近い熱を出していたところを同院の川上和美総師長に発見されたのは、七八歳のAさん。震災前は四二kgだった体重は三五kgにまで激減していました。
 Aさんはひとり暮らし。変形性膝関節症が避難所で猛烈に痛んで立ち上がれなくなり、通院もできませんでした。「何も考えたくない、見たくない…。そんな気持ちで目をつぶっていた」とAさん。
 入院後、医師から「心配せんでよか。この病院は『もう帰って』とは言わないから」と言われ、「涙が出た」と話しました。自宅の修繕なども考える気持ちができ、リハビリにとりくんでいます。

再建への支援を

 同院では、自力での生活再建が困難だったり健康を害した人のフォローを、関連機関と協力してすすめながら、避難環境の改善や生活再建の具体的な支援を行政に求めていくことにしています。
 六月には、二巡目となる友の会会員、気になる患者訪問を実施。「自宅に戻っても、片付けがすすまず、途方に暮れている高齢世帯も多くありました」と井上悟事務長。片付けボランティアにもとりくんでいます。
 現在、地震で自宅が全壊、半壊だったり、失職した人の医療費窓口負担は免除されています。くわみず病院でも五四人の患者さんがこの制度を利用していますが、免除は当面七月末までの予定。
 井上さんは、「医療費免除が必要な人はもっといるはず。必要な人に知らせるとともに、被災者の背景を把握し、医療費免除の継続につなげたい」と話しています。

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(民医連新聞 第1624号 2016年7月18日)

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