MIN-IRENトピックス

2016年7月26日

第42期第1回評議員会方針

2016年8月21日 全日本民医連第42期第1回評議員会

はじめに

第1章 総会後の情勢ととりくみの特徴
 〈1〉参議院選挙の結果と展望
   (1)民主主義が発揚する中でたたかわれた参議院選挙
   (2)参議院選挙の結果を次の希望につなげよう
 〈2〉進行する社会保障の実質的解体と
 〈3〉平和、米軍基地、原発再稼働を巡って
 〈4〉総会後のとりくみの特徴
   (1)奨学生を増やし育てる大運動の到達と教訓
   (2)格差と貧困に立ち向かう民医連への期待と関心の高まり
   (3)その他

第2章 2016年熊本地震をめぐる到達と今後
 〈1〉熊本地震で問われているもの
 〈2〉全国支援の到達
 〈3〉復興の課題
 〈4〉全日本民医連の大規模災害支援活動の前進へ向けて

第3章 第2回評議員会へ向けた強化点
 〈1〉新たな医療・介護の2つの柱の実践へ向けて
 〈2〉経営改善の課題
 〈3〉希望ある時代へ向け、社会保障総がかりの運動を
 〈4〉共同組織の拡大・強化
 〈5〉医師の確保と養成をさらに前進させよう
  (1)引き続き、奨学生を増やし育てるとりくみを
    (2)新専門医制度の動向と医師養成、新専門医制度に対する運動
 〈6〉全国的なとりくみ

おわりに

はじめに

 第42回総会から5カ月が経ちました。私たちは共同組織とともに、希望の時代を切り開こうと奮闘してきました。
 歴史的岐路のもとで参議院選挙が行われました。改憲勢力が3分の2の議席を獲得する一方、市民の運動におされ、戦争法廃止、立憲主義回復を共通の目標にした野党共闘が統一候補を立ててたたかい、11の1人区で勝利、安倍政権の大勝を阻止し、改憲を止める原動力を作りだしました。
 米軍属による女性暴行殺人という許されない犯罪が沖縄で発生しました。基地あるが故の事件に、沖縄県議会が初めて「海兵隊撤退」決議をあげるなど怒りは限界を超えています。オール沖縄とともに普天間基地の即時閉鎖・撤去、辺野古新基地建設は許さない、私たちの決意を確認しましょう。
 4月14日、震度7が2度観測された熊本地震が発生し、甚大な被害が広がっています。全日本民医連の要請にこたえ、全県連から949人が自らの課題として、熊本の医療を守るため支援に駆けつけています。自ら被災しながらも、励ましあい多くの被災者に寄り添い、連携して医療・介護活動を行い、自ら足を踏み出す地域支援など、民医連のミッションの1つである災害救援活動をすすめ、医療と介護を継続してきた熊本民医連の職員と共同組織の仲間の奮闘に、あらためて敬意を表します。理事会は熊本の復興へ向けた全国の連帯と団結をあらためて呼び掛けます。
 奨学生を増やす大運動は目標を超す108人の奨学生を生み出しました。教訓を豊かに交流し、医師の確保と養成へ向け、さらに前進をはかりましょう。
 第42回総会で2年間の総路線を明確にしました。総会方針学習運動は、7月末で4万6635人が参加し、旺盛にすすめられました。
 第1回評議員会は、(1)総会後、半年間を振り返り、情勢を明らかにし、第2回評議員会へ向け総会方針の重点を明確にすること、(2)2016年上半期決算の承認、(3)42期選挙管理委員会の承認の3つを目的に開催し、53人が発言、満場一致ですべての議案を決定しました。

第1章 総会後の情勢ととりくみの特徴

〈1〉参議院選挙の結果と展望

(1)民主主義が発揚する中でたたかわれた参議院選挙

 憲法を無視した安倍政権の暴走を食い止めるため、全国規模で初めて野党と市民が共同し、まさに総がかりで対決した選挙となりました。
 今回の選挙は、2014年7月1日に安倍政権が憲法9条を解釈で変更した暴挙から2年、共同と連帯が広がり、暴走を続けさせることへの強い危機感、戦後日本の平和国家の歩みを止めてはならないとの強い意思と行動から始まりました。
 戦争法の廃止を求める2000万人統一署名は全国に広がり1400万人の規模に達し、民医連にも121万人を超える署名が半年間で寄せられました。政策面でも、戦争法廃止、立憲主義回復、安倍政権の退陣を求めるとともに、公正な税制の確立と分配による格差と貧困の解消など、憲法にもとづく日本の再生を願う共通の公約を掲げたものでした。これらは、いのちの平等を掲げる民医連の要求とも合致するものであり、公示日には、全県連会長の連名によるアピールを出すなど、全力でたたかいました。
 野党と市民が共同を広げたことは、参議院選挙にとどまらない新しい民主主義の方向です。参議院選挙の直後にたたかわれた東京都知事選挙も敗れたとは言え野党統一候補が実現し健闘しました。

(2)参議院選挙の結果を次の希望につなげよう

 結果は、3年前の参議院選挙と比べると与党である自民党、公明党は76議席から70議席と6議席減らし、野党統一の4党は27議席から40議席と13議席増加しました。野党と市民の共闘が実現した32の1人区の対決では、前回の野党2議席から今回は野党共闘により11議席に増加しました。特に、辺野古新基地建設に反対する県民の声を無視し工事が強行されている沖縄と、原発事故被害に苦しみ、復興が遅れている福島では現職大臣を落選させ勝利しました。
 今回は自民党が得票数、率とも増加させていますが、勝利した1人区では、自民党の得票の増加より、統一候補の得票が大きく増加しています。全国の出口調査の結果、「支持政党がない」と回答した無党派層の56%は野党統一候補へ投票し、前回野党に投票した38%を大きく上回りました。山形、沖縄ではそれぞれ79%、71%と圧倒し、統一候補が安倍政権に反対する民意の受け皿になったと言えます。
 選挙中、与党は改憲という争点を語らず、徹底してそらし、その結果として戦後の歴史で初めて改憲勢力が衆参両院で3分の2を占めました。開票結果を受け、安倍首相は「憲法の前文を含めて変えていきたい」と発言するなど、決して楽観できない状況です。しかし世論調査では、安倍政権の下での憲法改正反対は5割を超え、国民は改憲賛同には程遠い状況です。
 安倍政権と補完勢力が強引に改憲に手をつけるならば、国民の怒りと行動は広がり、次の衆議院選挙も含めあらゆる場面で野党共闘を求め、発展していくことは必然です。
 全日本民医連は、「2016参議院選挙アピール 戦争法廃止へ、7月、選挙へ行こう、選挙で勝とう!」を発表し、全国で奮闘してきました。とりわけ、8万人以上が参加した憲法学習運動や2000万人署名運動、事例と結びつけた学習活動などを通じ、政治を語り、行動を広げてきました。歴史的な岐路、改憲が現実的となる時代だからこそ、日々の実践の中でも学びつつたたかうことを重視していきましょう。

〈2〉進行する社会保障の実質的解体と

 医療・介護の崩壊 42回総会は、安倍政権が社会保障を実質的に解体し、医療・介護の崩壊を招くと指摘し、骨太方針2015では「社会保障の機能強化」の方針を捨て去り、「消費税増税と社会保障削減」一辺倒の路線に切り替えたと指摘しました。
 その柱は、1.医療提供体制の再編・縮小、そのための病床報告制度の導入、地域医療構想策定の義務化を中心とした仕組み、2.医療費管理強化のため都道府県単位に医療費目標を設定し計画に盛り込み、国保の都道府県単位化により都道府県自らが医療費の抑制をすすめる体制とした、3.医療提供体制の再編と縮小とともに介護の再編・縮小も図り、不足する部分を保険以外でカバーする仕組みを推進、自立、自助による地域包括ケアシステムとして整備しようとしていること、4.負担の強化と給付の抑制をさらにすすめること(高齢者の負担強化と軽減策の見直し、資産による費用徴収、介護保険の対象範囲の縮小)とともに、こうした再編・縮小、削減・抑制をてこに医療・介護を成長戦略に位置付けて金で売り買いする市場にしようとしていることです。
 2017年1月からの通常国会では、一般病床の居住費負担増、かかりつけ医以外の受診の追加負担、市販品類似医薬品の保険外し、年金では一定所得以上の一部支給停止など、負担増、給付削減の改悪をねらっています。
 社会保障解体の大きな柱である地域医療構想の策定がすすみ、2016年4月1日現在、案も含め策定済み12府県、9月までに策定27都道府県、今年度中に全都道府県で策定される予定です。
 多くの都道府県では病床数の問題に矮小化され、本来なされるべき在宅医療の整備などは検討されていないのが実態です。都道府県により状況も異なるとともに、県内でも都市部と周辺部では異なる課題があります。県連で構想を把握し、県内のすべての地域で、住民にとって必要な医療体制が入院、在宅で確保されているか、また他の医療機関や介護施設などとも懇談するなど、問題点を把握しましょう。また、療養病床の再編で、介護療養病床の廃止の具体化が進み、8万床が影響を受けます。介護難民が生まれないよう運動をすすめることが必要です。
 地域医療連携推進法人制度の省令・施行規則などが年内にも示され、2017年4月施行で準備がすすめられています。地域医療構想・計画の具体化や機能分化の促進のために、経営主体を超えた目標・方針設定を行うための非営利法人として具体化されつつあります。地域医療連携推進法人の定款では、参加する法人はその重要な意思決定の際にあらかじめ地域連携推進法人の意見を聞くことを定めることになっており、県連や法人の独自の意思決定ができなくなるという危惧も生まれています。全日本民医連として専門家の力も借りて見解をまとめていきます。
 特別養護老人ホームの待機者が各地で大幅に減少していますが、安倍政権が、特養入所を原則要介護3以上とし、加えて利用料の2割負担を導入し、補足給付を縮小したことが要因です。入所できたために待機者が減少したのでなく、入所が必要な人を待機者の枠から退場させたのが実態です。認知症の人と家族の会からは、改定の撤回を求める要望書も出されています。
 安倍政権は「ニッポン1億総活躍プラン」を発表し、改めて介護離職ゼロ政策を掲げました。すでに計画されている38万人分の施設・在宅サービス整備に加え、12万人分を新たに上乗せする方針を示しているものの、要介護3以上で在宅の特養待機者が15万人に達している現実に応えるものではありません。介護職の処遇改善に向けて給与を月1万円引き上げるとしていますが、全産業平均と約10万円もの差がある実態を改善するには程遠い水準です。さらに、これらの財源として、すでに破綻しているアベノミクスの果実を充てるとしている点も問題です。
 安倍政権は、昨年実施した一連の制度改悪が生み出している様々な介護困難を放置したまま、次期の介護保険の見直し作業に着手しました。現時点で、(1)要介護1、2の生活援助の原則自己負担化(一部補助)、(2)軽度者の福祉用具・住宅改修の原則自己負担化(一部補助)、(3)「新しい総合事業」の対象サービス拡大の検討(要介護1、2の通所介護など)、(4)65~74歳の利用料を原則2割に引き上げ(8割給付に引き下げ)などの改悪を掲げています。地域医療構想に基づく病床再編に対応した給付の重点化(軽度切り捨て、中重度シフト)、給付費の抑制を徹底的にすすめる方向です。11月末までに審議会の答申を受け、来年の通常国会に向けて「改正」法案要綱のとりまとめ作業を行うとしています。

〈3〉平和、米軍基地、原発再稼働を巡って

 安倍首相は秋から、改憲へ向かおうとしています。ターゲットは9条です。安保法制(戦争法)は、3月29日に施行されましたが、法に基づく派遣を許していません。南スーダンPKOで11月に交代で出る自衛隊に戦争法に基づく新しい任務を担わせる可能性があります。すでに、離れたところにいる民間人が襲われた場合に出動する「駆けつけ警護」や巡回する「治安維持活動」を想定した準備がすすみ、正当防衛以外でも武器使用基準が緩和されました。確実に戦争に巻き込まれ、自衛隊員のリスクは高くなります。
 辺野古新基地建設を巡って、3月に国係争処理委員会は、知事の埋め立て承認取り消しに対する国の是正指示の適否を判断できませんでした。県議会選挙、参議院選挙でも移設反対の県民の圧倒的な民意が示された中、国は、県との協議を真摯に行い、辺野古新基地建設を断念するしか解決の道はありません。
 6月30日に発表された福島県の震災関連死は3月30日現在で2038人となりました。福島第1原発事故の除染がすすまず、住宅再建の遅れによって避難が長期化していることが大きな原因です。こうした中で2017年3月の帰還、自主避難者への支援打ち切りなど、暮らしと将来への不安はより拡大しています。東北3県の避難者数はいまだ15万4782人です。
 3月に大津地裁は新基準が安全を保障するものでないと指摘し、高浜原発3、4号機運転差し止めを命じ、関西電力の不服申請も却下しました。熊本地震では、九州新幹線と高速道路を使った広域避難計画が虚構であったことが明確となり、鹿児島県知事選挙で、熊本地震を受け川内原発の停止と避難計画の再検討を掲げた新人候補が勝利しました。安倍政権は、こうした世論に逆らい、新基準に適合したとして2カ所目となる伊方原発の再稼働を8月12日に強行しました。

〈4〉総会後のとりくみの特徴

(1)奨学生を増やし育てる大運動の到達と教訓

 2015年8月~16年4月末までの「奨学生を増やし育てる大運動」にとりくみ、108人の奨学生が新たに誕生しました(22卒58人、21卒26人、20卒15人、19卒5人、18卒4人)。42回総会方針は、2つの任務に立脚し、多くの医学生が民医連運動に共感し、将来の後継者として決意できるような飛躍を作ろうと呼びかけ、月間では高校生、学生に民医連を語り、決意を広げてきました。
 第5回理事会は、大運動を総括し、各地の経験を盛り込み、教訓を確認しました。すべての県連が次の前進へ向けこの総括を必ず討議し、学びましょう。
 前進した経験から学ぶ教訓的なことは、(1)全国のとりくみに学びつつ、高校生対策をはじめこれまでの医学生対策の活動を地道に発展させてきた、(2)「奨学生とは何なのか」を正面からとらえなおす議論ととりくみをしたところで運動が前進した、(3)幹部が担当者を励ましつつ、自県連の活動の抱える課題や弱点を分析し克服しながら、共同組織を含む組織全体の力を引き出した、(4)担当者自身がとりくみの中で県連、民医連事業所の活動そのものにあらためて確信をもつなど成長し続けた、(5)幹部を先頭にその民医連事業所の存在意義、医師養成の実際など具体的に語る中で医学生と保護者の共感が得られた、(6)看護職など他職種が大運動の提起を受け止めて議論と活動に参加し、組織全体の動きとなった、(7)地協や県連単位での方針練り上げや決起集会開催などが運動の推進力を生みだし成果につながった、(8)県連間協力はもちろん地協間協力も大いにすすんだ、(9)全国つどいも含めて奨学生活動の中で奨学生自身が成長し学友を誘うことができた、(10)医学生のつどいが連続して大きな成功をおさめその中で医学生が確実に意識を高め決意につながっていったことです。
 2014年11月の理事会文書「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」の内容が幹部・管理者に正面から受け止められ実践に活かされたところでは、幹部のかかわりと担当者の成長がかみ合い、前向きな変化が作り出されました。

(2)格差と貧困に立ち向かう民医連への期待と関心の高まり

 2015年経済的事由による手遅れ死亡事例調査は、32都道府県から63事例が寄せられました。会見内容は、全国紙も含めて報道されました。53%が正規の保険証がなく(無保険35%、資格証明書9%、短期保険証9%)、窓口負担金が払えないなど、保険証があっても手遅れとなる実態が改めて浮き彫りとなりました。失業、非正規雇用等による低賃金、また高齢者の低年金など国民生活全般の悪化と社会保障制度改悪の影響が明らかです。国民健康保険滞納世帯は360万世帯、17.2%にも上ります(2014年6月)。私たちの調査は氷山の一角です。山梨民医連では独自に記者会見を行い、テレビでも大きく報道されました。すべての県連で記者会見等、世に問い、広げる活動をすすめていきましょう。
 総会以後、歯科酷書、40歳以下の2型糖尿病調査、小児の貧困調査など民医連の実施した調査活動が新聞、書籍、雑誌等で連続して報道され、注目が広がっています。

(3)その他

 正式に国連経済理事会の協議資格が認定されました。健康権の侵害や格差と貧困の実態を報告する準備をしていきます。国際HPHネットワーク主催「第24回国際カンファレンス」が開催され18人が参加し、16演題を発表しました。
 徳島対策委員会は、41期に資金困難が発生したことから対策委員会を設置し援助をすすめてきました。2015年度は徳島健生病院が黒字に転化し、法人全体でも3年ぶりの黒字確保となりました。厳しい状況ではありますが、危機的な資金状況からは脱し、病院のリニューアル計画を含む中長期経営計画を検討しています。9月に対策委員会を終了し、中国四国地協に結集し中長期経営計画の実践をすすめる方向です。
 退職者慰労会は総会を開催し、退職慰労金制度、規約の改定を満場一致で承認しました。

第2章 2016年熊本地震をめぐる到達と今後

〈1〉熊本地震で問われているもの

 4月14日に発生した熊本地震は、短時間のうちに震度7の直下型地震の2度の発生、予測を超える余震の継続などこれまでの地震にない特徴がありました。
 この地震は、2011年の東日本大震災からの復興の途上に発生し、3・11が問うた構造改革路線、超高齢社会にふさわしいまちづくり、崩壊した原発安全神話などを踏まえ、日本社会の在り方を突き付けています。
 熊本地震でも、広域合併と開発優先の都市政策によって、大災害に対応する力が損なわれ、災害に弱いまち、いのちが優先されない自治体と言わざるを得ない状況に直面しました。地域医療の中核的な総合病院で、周産期母子医療の拠点を担う熊本市民病院(34科、556床)は施設の一部が1981年の新耐震基準を満たしておらず、2012年の市議会で2015年までの耐震化を決定していました。しかし、熊本市は建設費の高騰を理由として2015年1月、事業を凍結する一方で巨大コンベンション施設建設を優先しました。今回の震災で病棟の一部が崩落し、全入院患者の転院、外来・救急の停止など機能がストップしました。熊本県内の自治体では、2003年から約10年の間に職員数が減らされてきました。益城町は6人、甲佐町は28人、西原村は7人、南阿蘇村は24人の減で、4町を合わせると65人の削減です。非正規職員の割合は、益城町43.5%、甲佐町37.4%、西原村52.5%、南阿蘇村21.5%となっています。自治体職員のマンパワー不足で対応が遅れ、初期段階では、多くの自治体は被災者数や家屋の被害状況もつかめない状況となり、罹災証明の手続きも遅れました。今回の特徴であった車中泊の家族の8割に高齢者が含まれているなど、災害時に最も厳しい環境におかれる障がい者、子ども、妊産婦、高齢者などの災害弱者が、人間らしく避難生活を送るには、多くの課題が残っています。福祉避難所の開設は、スペースがあってもマンパワーが圧倒的に不足し熊本市ではまともに機能しませんでした。内閣府の通知「避難所の生活環境の整備等について」(4月15日付)は、最低限準備させるものですが、現在も避難所の弁当支給は1日1回などの状況です。

〈2〉全国支援の到達

 全日本民医連は、発災を受けて全日本民医連対策本部を立ち上げ、現地までの空路、鉄道が遮断されていること、拠点となる病院の規模が大きくないことなどを勘案し、福岡民医連親仁会米の山病院に対策本部を設置、熊本民医連対策本部をくわみず病院に設置しました。全国支援の到達は、全県連から、1039人、のべ4719日、義捐金は、7800万円となりました。熊本民医連の職員は、自ら被災者となる中で事業所の医療介護と地域を守ろうと全力を尽くし、全国の民医連の支援者は、熊本民医連の医療・介護の現場をささえ、被災地からの切実な要求に応えて避難所訪問や南阿蘇村久木野地区の仮設診療所への医療支援にとりくみました。地震直後から友の会員の安否確認の訪問活動にとりくみ、益城町の『いつでも元気』販売所の方が全読者を訪問するなど、困難な中で民医連の団結と連帯の力を発揮しました。
 また、東日本大震災の教訓を踏まえて職員の健康管理を当初から重視し、サポートしてきました。熊本民医連のすべての職員を対象にストレス・トリアージを実施し、「積極的休養」の取得を勧め、支援を終えた支援者のためにクールダウンの企画を取り入れるなど、職員の健康を守り抜く方針と実践が継続した支援活動をささえました。また、MMATが入り、初期の対策本部の構築を援助し混乱なく支援体制を確立できたことは重要な教訓となりました。

〈3〉復興の課題

 甚大な家屋の被害や長期化する医療・介護体制の確立など、復興へ向けたとりくみはこれからです。7月9日現在で、死者・行方不明者75人、全半壊3万棟以上、罹災証明書の交付12万件以上となっています。被害を受けた医療・介護施設とネットワークの再建とともに、多くの被災者の住宅、生活再建を急ぐべきステージになっています。熊本民医連は6月19日に震災で延期していた第63回定期総会を開催し、「熊本地震を受けての方針」を決定し、復興を目指す方針を確立し実践しています。医療・介護の医、食べ物と職業の「しょく」、そして住まい、原発のない安全環境など、県全体を視野に入れ、住民とともに医・しょく・住・環境の再生をめざす活動を開始しました。そのために必要な全国支援を続けていきます。

〈4〉全日本民医連の大規模災害支援活動の前進へ向けて

 今回の熊本地震は、全国のどこでも、いつでも大地震が起こりうることを示しました。6月10日に公開された「2016年版全国地震動予測地図」では、震度6以上の地震が起きる確率は首都圏を含めて熊本の10倍程度のところが多くあります。地震だけでなく、2014年の広島市土砂災害、発生から8カ月で復旧の途上にある関東・東北地方豪雨災害(茨城、栃木等)など大規模災害が毎年のように発生しています。すべての県連、事業所で災害時の対策マニュアルの整備と災害時医療・介護活動の方針化にとりくむよう呼びかけます。9月には熊本地震の経験と教訓を踏まえ対策本部の役割、立ち上げをテーマにMMAT研修会を行います。事務幹部も含め全県から参加しましょう。
 全日本民医連は、1995年の阪神大震災以後、中越地震や東日本大震災などの経験を経て、大規模災害支援についての方針を発展させ、今回のMMATやヘルスケアのとりくみなどに結びつきました。また人的支援、物流、管理支援、情報など本部機能の整理と全国動員の在り方、地協内の支援の在り方などについても今回のとりくみからさらに発展させる点も生まれています。
 全日本民医連は、他の団体とともに国や県に対し、(1)仮設住宅も含めた住居の確保と再建、(2)避難所の生活環境の改善、(3)車中泊者など把握されていない被災者の救済、(4)罹災証明書の迅速な発行、(5)被災者生活再建支援金の引き上げなど被災者総合支援法の拡充、(6)被災者に係わる医療介護の一部負担金免除期間の延長、などを求めていきます。熊本支援はまだ途上です。第1回評議員会として中間的な議論を行い、全日本民医連の大規模災害支援活動の前進に結び付けていくこととします。

第3章 第2回評議員会へ向けた強化点

 総会方針は、戦争か平和か、貧困の拡大か社会保障の拡充か、戦後最大の岐路にあたり国民一人ひとりが主権者として政治を変え、希望を創りだす時代、「運動は総がかり」「事業は積極的連携」「職員育成は民医連らしい運動と事業から」の3つの合言葉を提起しました。今後の2年間は、地域医療構想の確定、新専門医制度のスタート、診療報酬介護報酬同時改定など、医療制度「改革」の大きなターニングポイントです。「民医連らしさ」を鮮明に打ち出して、医師をはじめとした職員の確保・養成と経営の着実な改善の基礎となる無差別・平等の医療・介護の実践と発展が重要です。そして、事業の積極的な連携をすすめる中で新たなつながりも生かして改憲と社会保障削減に突きすすむ安倍政権に総がかりで対峙してゆかねばなりません。42期総会方針実践の本格化をはかる時です。
 総会方針の学習と具体化をすすめ、第2回評議員会までの6カ月間の強化点を確認し、運動と事業を前進させていきましょう。

〈1〉新たな医療・介護の2つの柱の実践へ向けて

 いよいよ制度の抜本的な「改革」が地域で断行される中で、医療・介護の供給体制が様変わりします。各県連・法人は、変化する地域と医療・介護のなかで医師の確保・養成、経営改善を図るためにも、「民医連らしさ」を鮮明にした医療・介護ビジョン(2つの柱の具体化)を打ち出し、徹底した連携で事業を展開しましょう。事業所の幹部は、近隣の医療、介護施設を全部訪問し、地域の患者、利用者のための協力と事業の連携を呼びかけましょう。県連理事会は、新たな構えで県連医療活動委員会を確立し、法人・事業所に提案ができるレベルをめざしましょう。今期は、「新たな医療・介護活動の2つの柱((1)貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療、介護の実践、(2)安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上。以下「2つの柱」)の実践と県連医療活動委員会の課題・役割」をテーマに2016年と2017年の2回にわたり「全日本民医連拡大県連医活委員長会議」を開催します。全日本民医連としては、2005年以来の開催です。2016年は、「2つの柱」を実践していくうえで重要な課題((1)県連医療活動委員会の課題・役割、(2)無差別平等の地域包括ケア、(3)SDH、(4)HPH)についての研修と議論を行い、県連の医療活動の目標・課題をもち帰り実践することを獲得目標にします。
 2017年は、県連・地域で設定した医療活動の目標や課題の豊富な実践を持ち寄り交流・検証し、県連医療活動委員会の役割の発揮やその実力をいかにつけていくかなどを明らかにしていきます。また県連医師委員長も参加し、民医連の医療・介護と医師養成の一体化のステップアップをすすめていきます。
 「2つの柱」の実践では、運動方針で明らかにしたように、無差別・平等の地域包括ケアが焦点です。具体的には、民医連外の事業所とも医療、介護の実践を通じて新しい連携をつくりあげること。介護保険制度改悪の中でサービスから排除される方々をささえる活動を共同組織とともにとりくみ、活動を広げていくこと。日常的に職員自身が困難事例に気づき、かかわれるしくみづくり。こうしたとりくみを通じ、地域全体の健康水準を高めるHPHの活動などを、共同組織や地域の諸組織と協力して、旺盛に広げていきましょう。今期も全国集会を開催し、無差別平等の地域包括ケアと実践の交流、医療・介護の法人内外の連携や住まいのあり方、医師(職員)養成の課題など踏み込んだ提起と議論を行います。
 さらに、貧困と健康格差が広がるなかで不公正な健康格差を是正するための効果的な手法に関するエビデンスづくりが求められています。診療現場で活用できる簡潔で根拠に基づいたSDHの評価・介入ツール(例:SDH簡易スクリーニング表等)が必要とされており、電子カルテを用いた情報共有のしくみづくりなども含めて疫学研究者と共同して検討を開始していきます。そして、安全や倫理の医療・介護の連携なども含め医療部・介護福祉部・医師部の共同したとりくみを強化していきます。

〈2〉経営改善の課題

 2015年度経営実態調査(速報値)では、全体として経営悪化傾向を食い止める状況にはなっていません。一定の安定的経営構造を確立していたり、経営改善の前進がみられる法人がある一方で、より厳しい経営状況が継続・深刻化する法人が増えています。155の医科法人の経常利益率は0.4%(前年0.7%)と悪化しています。医科法人の要対策中期項目5ポイント以上該当法人もさらに増加し、155法人中53法人(前年47)と過去最高となっています。
 厳しい経営状況を脱していない法人の特徴は、(1)利益予算の未達成、(2)診療報酬改定の影響、医師体制の悪化等による事業収益の減少、(3)事業キャッシュの獲得力の低下、(4)資金不足による長期での金融機関からの運転資金導入などです。
 2018年度の同時改定など外部環境はさらに悪化することが想定されます。医療介護活動、医師対策、共同組織、各種運動などあらゆる課題での主体的力量と地域的連携の強化発展なしには経営活動の前進はできません。そのためにも、中長期的視点で現在の自法人の経営体力をきちんと評価し、課題を鮮明にすることができていることが出発点です。2016年診療報酬改定への対応は、攻勢的な戦略をもって臨みましょう。改定での各種加算点数の取り漏れがないか、連携関連点数などの実績把握と前進の戦略はあるか、未算定項目での要件確保に向けての具体的戦略をもてているかなど、全職員で知恵を絞りましょう。
 特に予算と大きく乖離する法人の困難を打開するために、具体的な協力も進め、他法人の経験を学び、生かしていくことも重要です。
 42回総会で提起した課題を深め具体化をすすめましょう。経営管理のレベルアップ、全職員に共通の認識をつくり、全職員参加の経営をつくること、全国の経験に学び、問題を正しく客観的に把握するため、法人・事業所での検討する能力を大きく引き上げること、県連や地協での経営検討の内容改善、タイムリーな開催をすすめることが求められます。とりわけ、大型投資の計画段階、実行段階での県連や地協で知恵と力を集めた検討が不足しています。状況を適切に県連として把握し、安全な執行のための援助を強めましょう。県連、地協の役割発揮に向けて早急に体制を確立し、具体化を図りましょう。
 11月に県連経営委員長、幹部会議を予定し、情勢や経営改善の課題とともに、県連事務局長の参加もはかり、総会方針が提起した県連、地協機能についても議論を深めます。
 42期は、地域医療構想とそれにもとづく医療計画の推進や診療報酬改定などによる病床削減や再編・転換という大きな動きの中で、なんとしても経営改善を実現しなければなりません。医師の確保と養成などあらゆる活動が経営活動と表裏一体の関係にあります。つまり、総合力やマネジメント力の真価がためされる2年間です。総会方針で提起している法人・事業所の中長期計画と県連中期計画作成とあわせて管理・運営のレベルアップを図りましょう。
 また、「全日本民医連2010~15年度経営に関する問題提起集」を発行しました。改めてよく読み込み経営改善に生かしましょう。

〈3〉希望ある時代へ向け、社会保障総がかりの運動を

 平和と憲法を守る運動は総がかりで前進し、参議院選挙で安倍政治の暴走にブレーキをかけ、今後の選挙に希望をつなげるものとなりました。そして、平和と憲法の課題だけではなく、暮らしと社会保障の課題でもアベノミクスではない実現可能な展望が世論となった時に安倍政治を変えることができるでしょう。
 貧困と格差の拡大、国民生活の悪化は、進行し、医療・介護から生活保障(年金、最低生活保障等)、住居、雇用、教育まで多面的な課題を突き付けています。運動を総がかりとするためには、社会保障が絶対的な貧困層や高齢者のためだけの課題ではなく国民99%の課題であること、富の再分配による社会保障充実が国内経済の活性化にもつながることを明らかにし、運動の担い手を増やすことが決定的に重要です。社会保障、暮らしなどの要求は参議院選挙の中でも投票先を決める上で、大きな選択肢であり、青年層でも大規模な運動参加の可能性も芽生えています。戦争法廃止をめざす総がかりの運動に学び、これまでの経過にこだわらず、いのち、人権を大切にするすべての団体、個人への働きかけと共同の追求を全日本、県連、地域それぞれの段階で開始しましょう。
 地域医療構想の策定に対し、山梨民医連が呼びかけた県民医療を守るための実行委員会によるシンポジウムには、自治体病院や行政も参加し、山梨の地域でどのような医療や介護が求められているか、そのための課題は何かを議論しました。広島民医連は、独自に地域医療構想を分析し、北海道に次いで無医地区が多い中で、都市部だけでなく県全体を把握し、地域医療構想に対抗する県連としての長期計画の検討、住民の側からの地域医療構想づくりを提案し運動を強めています。県や診療圏を単位に行政、他の医療機関や介護施設と共同したシンポジウムや懇談会を開催し、あるべき地域包括ケアの姿を議論していきましょう。
 社会保障解体の内容を知らせる宣伝物を作成し、中央社保協が提起する新署名を軸に運動を強めていきます。
 社会保障の財源論の解明と提案が運動の環となっており、全日本民医連の提言「いのちの格差を是正する」が輝きを増しています。この内容をさらに広げ、破たんしたアベノミクス、消費税増税路線でなく、消費税に頼らない社会保障制度の財源に切り替えていく学習と合意を広げていきます。
 先の国会で、TPPは批准できませんでした。これからが焦点です。参議院選挙を通じてTPP批准反対は野党統一の政策となりました。農業をはじめ各分野の運動と連帯し、社会保障解体ストップとTPP批准を阻止する課題を統一してすすめます。
 介護分野では、(1)介護保険制度の抜本改善、(2)大幅な処遇改善、(3)消費税によらない必要財源の確保、(4)制度改悪の検討中止、の4点の実現を求める「介護を良くするアクション」を、職場から、地域から大きく広げていきましょう。中央社保協と連携し11月に統一行動などを計画します。
 各自治体では、第6期(2015~17年度)の中盤をむかえ、「新しい総合事業」の準備作業が本格化しています。軽度給付切り捨ての受け皿にさせない「たたかいと対応」の視点でとりくみます。全体の6割の市町村は最終期限である2017年度の実施を予定しています。適切な報酬単価の設定や専門職による必要なサービスが保障されるよう働きかけることが必要です。すでに実施している市町村の中には、「卒業」という名のサービスの打ち切り(強制退学)、事業単価の過度な引き下げによる事業所の経営難などの事態が生じているところもあります。「新しい総合事業」に移された利用者の実態把握など実施後の検証をしっかり行い、事業運営や内容の改善を求めていく必要があります。「新しい総合事業」は、改めて「地域包括ケアの“入り口”」として位置づけられています。地方議会が開催される時期でもあり、地元議員とも協力してとりくみましょう。
 これらのたたかいの跳躍台として、「憲法・いのち・社会保障まもる10・20国民集会」(日比谷)を5000人以上で成功させます。
 これらをすすめるうえで職員の学習が決定的です。社保ブックレットの学習をすすめます。
 安倍政権は、「自民党改憲草案」を基本として改憲の動きを起こしてきます。憲法の学習をすすめ、改憲を止める運動を広げましょう。憲法学習の教材を作成します。総がかり行動、9条の会などをさらに活発に広げましょう。
 沖縄に連帯し、辺野古支援・連帯行動など普天間基地の無条件撤去、辺野古新基地建設反対・高江ヘリパッド建設中止のたたかいをすすめていきます。
 被爆71年、核兵器禁止条約の実現が焦点となっています。原水禁2016世界大会を大きく成功させましょう。被爆者が初めて呼びかけた国際的署名「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」がスタートしました。2020年までに世界で1億人規模の賛同を得ようというスケールです。実行委員会には幅広い方が参加しています。全力で成功させましょう。ビキニ環礁での米国の核実験による被爆に対して、国家賠償請求((1)国が被災資料を隠してきたことの責任、(2)国が被災者を援助し、被害を回復するために必要な行為を行う義務があったのに全くしなかった責任を問う裁判が開始されました。人道上決して許されない国の不作為を問う裁判であり支援していきます。労災認定をめざすとりくみも引き続きすすめます。

〈4〉共同組織の拡大・強化

 「決めるのは私たち 憲法をいかし平和・人権・環境を守ろう 地域まるごと安心して住み続けられるまちづくりを」をメーンテーマに第13回全日本民医連共同組織活動交流集会を、9月4~5日に石川県加賀温泉郷で開催します。応募演題は目標を超え、共同組織が地域にとって、民医連にとってかけがえのない存在であることが深く理解できる多彩なとりくみが発表されます。共同組織とともに、医師、幹部をはじめ職員の参加を改めて呼びかけます。
 第42回総会方針では、次期総会までに370万の構成員と7万部の『いつでも元気』の達成を目標に、第13回共同組織活動交流集会を365万の構成員、6万部の元気の到達を築いて迎えることを呼びかけました。昨年の共同組織拡大強化月間とその後のとりくみを通じて、構成員は365万6000を超えました。一方で、『元気』は減誌傾向で、今年に入ってから約900部減の5万5000部です。すべての事業所で、幹部が中心となって全職員に購読を呼びかけましょう。1販売所、1事業所が1~2部純増し、集会を迎えましょう。
 『元気』は、2016年10月号で300号です。記念号を発行、誌面刷新して民医連と共同組織を結ぶより親しみの持てる月刊誌にしていきます。
 10~11月の2カ月を共同組織拡大強化月間とします。構成員369万(純増で3万5000)、『元気』6万2000部(純増で7000部)を全国目標とします。
 地域包括ケアが待ったなしの課題となっています。住民が安心して暮らせる無差別・平等の地域包括ケアの主人公は、行政でなく、住民です。健康づくり、まちづくりの経験を積み重ねてきた共同組織が、これまで培ってきた多彩なとりくみを、住民が安心して暮らせる無差別・平等の地域包括ケアの実践、一人ひとりの会員、組合員とつながってゆく活動へとつなげていくことが求められています。活動交流集会に持ち寄られた全国の豊かな経験に学び、地域の中で協同を広げながら、積極的に牽引者の役割を果たしていきましょう。
 2017年2月に共同組織委員長会議、2017年度の早い時期に組織担当者研修交流会(仮称)を行います。

〈5〉医師の確保と養成をさらに前進させよう

(1)引き続き、奨学生を増やし育てるとりくみを

 大運動を経て7月時点で430人を超える奨学生集団となりました。改めて「医学対活動2つの任務((1)医学生のさまざまな自主的活動を援助し医学生の民主的な成長と運動の発展を促すこと、(2)民医連運動の後継者を確保すること)」に沿って、民医連への合流とともに、医学生の民主的成長への援助を強めましょう。医学生のつどいは、2016年度のテーマが「いのちの平等」に決まり「1年を通していのちの平等、民医連のあり方を学ぶ」ことにしています。経済格差が拡大し、生命の格差につながっている現在の情勢の下での民医連の存在意義と活動を学ぶ中で、民医連の将来を担う確信に満ちた医学生の合流が促進されることが期待されます。また、医学生のつどいの参加者から全国医学生ゼミナール(医ゼミ)をはじめとする自主的な医学生の活動への参加を促すことは、医学生の成長にとって非常に重要なことと位置づけ、とりくみを強めます。夏季休暇での実習や諸企画にいろんな職種の職員が積極的に関わり、医学生と一緒に学び成長していきましょう。
 医学対担当者の育成はひきつづき重要です。今1度「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」の文書で示された内容を確認し実践しましょう。特に担当者の交代があっても活動の空白が生まれないようにすることに留意し、また現在の求められる活動量と内容にみあった体制の増強など、運動をすすめることができる医学対担当者の集団形成に積極的にとりくみましょう。大運動の経験からも明らかなように担当者自身が民医連運動に確信を強め、自県連の医療介護活動の展望を自らの言葉で医学生に伝えることができる成長が重要となります。幹部自身が「将来の幹部育成」の視点ももって必要な時間を作りだし担当者と共に学習する、そして面談、諸企画でも積極的な役割を果たしていきましょう。
 医学生委員長会議を9月に開催し大運動の成果と教訓を共有し、ロードマップで確定した「21卒200人受け入れ、500人の奨学生集団の形成」へむけてさらなる発展の方針を作り上げます。そして、「民医連」という組織が継続的に奨学生を増やし育てる組織へと進化するためにも、県連会長、事務幹部、院長、事務長などトップ幹部は、経営課題の重要な柱としての認識も持って医学対活動を位置づけることが重要です。大運動の成果を力に、また浮上した自らの弱点があればその克服にとりくみつつ、オール民医連で目標を達成していく流れを確実につくりだしていきましょう。

(2)新専門医制度の動向と医師養成、新専門医制度に対する運動

 新専門医制度は総会以降、地域医療への影響を憂慮した日本医師会と4病院団体協議会からの「立ち止まって検討すべき」という趣旨の声明、その意見を尊重しつつ十分な検討をよびかける厚労大臣声明と続き、専門医機構の役員交代、新理事会発足という混沌とした経過を呈しました。
 私たちは国民のための専門医制度の整備と確立の必要性を支持し、地域医療への重大な影響が起きない、医師数・医療費抑制の道具にしない、臨床教育での総合性の軽視を懸念するという3つの立場からの見解を発表して医療団体と交流を重ねてきました。また、新専門医制度への対応を事業所、県連、地協、全日本それぞれのレベルで行ってきました。
 この専門医制度の改革は専門医が提供する医療の質を高めるという目的を掲げ、プロフェッショナルオートノミーと第3者性をその前提に据えて開始されました。しかし、実際にはとりくみの中途から学会が社員に加わることで第3者性という前提は弱まり、学会主導つまりは大学主導による制度作りの側面が強いものとなっています。
 地域枠の拡大も相まって、行政と大学が一体となって後期研修をすすめる体制がつくられています。今後、後期研修医を大学人事の掌に載せるという方向が強まる可能性が十分にあり、また、実践においてプログラムは県ごとに調整するという方向になれば、県単位での地域医療構想により医療費を抑制するという厚労省の方針と歩調を合わせて、地域医療の提供体制の削減に専門医制度が利用されることになりかねません。また、医師需給に関する検討会では、将来の医学部定員削減が議論されています。
 また医学生、研修医からみれば、制度説明もはなはだ不十分で、かつ身分経済的保障を含め多くのことが不透明のままです。この未整備状態は、研修医への不当な負担と重大な混乱を招く可能性が高く、見切り発車は慎むべき状態です。
 この間の専門医制度をめぐる動きの中で、明らかに欠けているのは、国民が専門医に何を求めるのか、地域でどのような医療提供体制をのぞんでいるのかという議論です。
 あらためて民医連は、わが国の専門医制度は、国民、地域住民のニーズから離れて設計されてはならず、国民の受療権の保障、国民皆保険制度を前提としたものでなければならない、と主張します。
 目の前にある地域包括ケア時代の到来に際し、基本領域の修練においては、地域医療の現場で一定の役割を果たせる力量、地域包括ケアの時代にこれから高まる医療ニーズに対応できる力量を身につけることをしっかり位置付けるべきです。
 初期研修は引き続き非常に重要です。この専門医制度改革に乗じて初期研修までも骨抜きにする動向(初期研修の時から専門医になるための症例集めをする等)もありますが、初期研修必修化の本旨を損なうことなくプライマリケアの習得を主眼とした充実を訴えます。
 医学生、研修医、市民代表、医療団体、医学教育者と一緒にこの問題を考えるシンポジウムを開催するなど、全日本、地協、県連さまざまなレベルで、意見交換、議論を開始しましょう。一方で、混乱・迷走した情勢の下ではあっても、民医連としてすべき対応はきちんと実施し、総合診療、内科分野での研修施設の準備と、領域別専門医については総会方針で示した「連携拠点病院」を目指したとりくみを引き続きすすめます。地域で本当に求められる専門医を総合診療の分野でも領域別専門医の分野でも養成するのが私たちの方針です。地域医療を担う医師は地域の中で育てるという基本的な立場を内外に示しつつ、さらに教育内容を豊かにし、教育の場としての地域の医療機関の重要性も示していきましょう。
 研修医に対しては、機敏かつ丁寧に一人ひとりのキャリアプランに寄り添いながら、民医連医療の担い手への成長をそこに重ねる働きかけを行いましょう。

〈6〉全国的なとりくみ

 本格的に42期の活動が始まります。9月の第13回全日本民医連共同組織活動交流集会in東海・北陸(石川)、10月の第13回看護介護活動研究交流集会(新潟)を成功させましょう。第13回学術・運動交流集会の準備を開始します。第37回青年ジャンボリーを福島で開催します。全県で実行委員を選出し準備に入りましょう。
 42回総会は、医療、経営、運動、人づくり、それぞれで県連・地協の強化を提起しました。第2回評議員会へ向け、具体的な実践をすすめていきましょう。また、多くの県連で世代交代がすすみ県連事務局長の交代も続いています。第2回事務局長研修会を実施します。また、会長・事務局長の合同研修等についても検討をすすめ、県連機能強化をすすめていきます。
 介護の未来をかけて争われている長野・特養あずみの里刑事裁判は5回の公判が開かれ、多くの支援者の参加、弁護団の奮闘により、ずさんな立件事実が明確になり、事件の全容を明らかにする上で大きな前進が始まっています。無罪を求める要請署名を開始しました。学習と一体にすすめましょう。

おわりに

 総会から5カ月の期間、熊本地震、参議院選挙など、いのちと人権がするどく問われてきました。団結し、連帯し、民医連らしさ、存在意義を発揮して、大きな一歩を築いてきました。
 「1953年熊本大水害の時、全国の民医連の仲間は、数カ月間あの暑い夏に献身的な医療救援活動をみせてくれた。もちろん熊本保養院も参加した。彼らの大部分は関東、関西の病院、診療所であったが、遠い熊本県民の災害に対して、涙が出るような活動をしてくれた。これでわれわれは民医連を理解し、九州で初めてその翌年に民医連に加入した。これが保養院のすすむべき方向を正しく示してくれた」(熊本・平田宗男医師)。そして63年たった今、「民医連は1つ、この力にささえられて今日もがんばる」と熊本民医連の仲間は奮闘しています。
 6月23日、住民を巻き込んだ沖縄戦終結から71年が過ぎました。激しい地上戦で子どもを含む住民約9万4000人、日米軍人含め20万人以上が犠牲になりました。沖縄全戦没者追悼式で平和の詩を小学校6年生が読み上げ、「平和ぬ世界どぅ大切」と平和な世界を必ず作ると日本中に訴えました。これは、私たち、すべてに問われている言葉ではないでしょうか。
 第2回評議員会までの半年間、平和と人権、いのち、この国の在り方をめぐり、激突の時代です。すべての県連が、総会方針の全面的な具体化をすすめ、平和と憲法を守り抜き、人権としての社会保障を取り戻すため希望をつくり出しましょう。そして民医連らしい医療・介護の活動を飛躍させていきましょう。

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