Medi-WIng

2016年8月16日

社会と健康 その関係に目をこらす(4) 患者半減なぜ? 地域の「足」削られて― 宮城・長町病院/仙台南健康友の会

 社会と健康の問題を考えるシリーズ、今回は「医療機関に行けない―」という問題を、公共交通網との関係で考察した宮城・長町病院と仙台南健康友の会の報告から。受診抑制は経済的問題との関わりの深さが知られていますが、地域の「足」にも影響されます。地域に共同組織があってこその着眼です。

(木下直子記者)

特定地域の患者減る

 きっかけは「秋保(あきう)方面からの患者さんが減っているのでは?」という検査技師の佐藤龍朗さんの指摘でした。長町病院のある太白区は、仙台市西南部にあり、過去の自治体合併により温泉で知られる旧秋保町まで長く伸びた地域です。佐藤さんも秋保に隣接する地域の住民で、友の会も担当してきました。
 秋保地域の外来患者数の推移を確認した組織課の平尾伸二さん(友の会事務局次長)は、がく然としました。二〇〇六年と一三年の外来患者数を比較すると半減、集落別では最大九割減、という地域まであったのです(下図)。
 原因を調べましたが、大きな人口減はなし。また、近くに新しい医療機関ができたわけでもありません。残る要因として、地域の唯一の「足」である路線バスに平尾さんたちは着目しました。一九八八年に仙台市に編入して以降、秋保町の路線は縮小傾向でした。
 バス会社から運行表を取り寄せると、この数年で市の中心部に行く便が減っただけでなく、平日便が消滅したり、路線自体が廃止された地区がありました。

図

病院サ行げない

 長町病院の長年の患者・庄子みや子さん(85)も影響を受けた一人です。秋保温泉郷からさらに山あいに入った長袋地区でひとり暮らしです。自宅から病院まで車で直行すれば一時間もかかりません、市の中心部に行く路線バスが午前・午後各一本に減り、午前の診療に間に合う便がゼロに。バスを乗り継ぎ九時半の診察に行くには三時間かかるようになりました。
 行程はこう。最寄りの「長袋」停留所を六時二八分に発車する市営バスに乗るため電動カートで家を出ます。最寄りといっても急勾配もあり、足の悪い庄子さんには徒歩では無理な距離です。カートは近くの商店に預け乗車。市の中心部へ行く民営バスが通る温泉街まで出て、長町方面へ乗り継ぎます。ここで三~四〇分間の待ち時間が。雨や雪の日は、ここまでタクシーしかありません。内科と整形の予約を同日に調整してもらい、受診は月一回で済むようにしていますが、時間の面でも交通費の面でも負担です。最近、事情を知った友の会役員が病院まで送ってくれるようになりましたが、帰りは親戚かタクシー頼み。タクシー運賃は約七〇〇〇円。
 「診察代より交通費が高いの。近ごろ病院で同じ地区の人たちの姿を見ない。近くに医者はないし、皆どうしているか…。まさか病院サ行げなくなるとは考えもしなかった」と、庄子さん。

路線廃止の地区で―

 路線バスが廃止されたのが一二〇世帯が暮らす坪沼地区です。〇七年のバス路線廃止と同時にタクシー会社が市の委託を受け、乗り合いタクシー「つぼぬま号」を運行しています。四〇〇円の運賃や市の助成(年二五〇万円)では運営が厳しく、最初に受託した会社はすでに撤退、二社目は、「無くせば住民が困る」と、不採算を覚悟で引き継いでいます。
 地区には医療機関がなく、他の地区の市立診療所までつぼぬま号が走ります。小学校も廃校になり、子どもたちも他区への通学に利用中。住民たちも各戸から運営資金を集め、運行費用に充てますが、月の利用者は最大時で八〇人。通学の児童が減れば、市は助成額を減らす方針。「地域に足がないと人口が減ります。人口が減れば乗客も減り、減便を考えざるをえない悪循環」と、会社の運行担当者は指摘します。

受療権侵害の問題だ

 仙台市内の健康友の会では、敬老パスや路線バスの改善など交通問題に注目し、運動してきました。「二〇〇〇年以降、仙台市は公共交通を切り捨ててきました」と、仙台南健康友の会の炭谷彰三副会長。無料・利用上限無しだった敬老パスを有料化し、利用運賃の上限も設けました。同時期、不採算路線から市営バスを撤退し、民営バスに路線を移譲、秋保のような郊外で減便が相次ぎました。
 最近さらに巨額の税金をつぎこんだ市営地下鉄東西線が開業し、バス路線が再編されました。地下鉄の利用客を確保するため、バス路線の終点を市の中心部から地下鉄の始発駅に集めたのです。地下鉄への乗り換えは動線が長く、足の弱い人には負担です。バス・地下鉄両方の運賃が必要になり負担増にも。バスターミナルに居た高齢者に聞いてみると口々に「通院に苦労だ」と語りました。
 「本来は不採算路線こそ、公共交通の出番です」と炭谷さん。「この様子では、他の病院でも同じような患者減があるでしょう」と平尾さん。「交通の問題は、受療権や地域の健康を守る課題です。改善のとりくみをすすめたい」と語っています。

(民医連新聞 第1626号 2016年8月15日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ