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2016年8月16日

全被爆者を救済する原爆症認定制度にノーモア・ヒバクシャ訴訟はいま― 原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会 宮原哲朗事務局長

  原爆の投下から七〇年を過ぎても「自らの原爆症を国に認めてほしい」と被爆者たちの法廷でのたたかいは続いています。生存する被爆者は最高時の半数以下の一八万人、平均年齢は八〇歳を超えました。全国七地裁で原告一一九人が提訴している「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」は、集団訴訟(二〇〇三年~)をはじめ、これまでの運動で勝ち取った司法判断や国との確認事項が守られていないため起こされています。東京では六月二九日、新しい認定基準の対象外とされた原告六人全員を原爆症と認定する画期的な判決が出ました。民医連の医師たちも原告を支援しています。訴訟の現状を全国弁護団連絡会の事務局長・宮原哲朗弁護士に聞きました。

(土屋結記者)

約束を破った厚労省

 最初はごく小さい範囲だった原爆症の認定基準は、これまでの法廷でのたたかいや運動の中で改定させ、広げてきました。二〇〇九年八月には、麻生太郎総理大臣(当時)と約束し「今後訴訟の場で争うことのないよう、定期協議会の場を通じて解決を図る」との確認書を取り交わしました。一三年には三度目の改定が行われ、現在の認定基準となっています()。
 しかし、厚労省は「確認書」を守らず、認定基準を狭く適用し、残留放射線の影響をほぼ否定するという状況がその後も続きました。がんでは「三・五km以内被爆」「入市は一〇〇時間以内」と線引きし、がん以外の疾患では、爆心地からの距離が一・五kmを超える人や入市被爆者を認定しませんでした。例えば、心筋梗塞では一km、肝機能障害では〇・七kmの被爆距離でも却下されています。
 このような状況から私たちは「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」に踏み切らざるを得ませんでした。一二年三月の大阪地裁判決以降、一二の裁判所で判決が出ました。福岡高裁では今年四月に「積極的に認定する範囲」に該当しない被爆者たちが勝訴し、国は上告を断念しました。厚労省は判決の趣旨に従って認定制度を抜本的に改善すべきです。

表

「他原因」を主張

 今、厚労省が裁判で主張しているのは「他原因」です。例えば、心筋梗塞は高脂血症や高血圧、糖尿病といった病気があれば発症リスクが高まります。被爆者たちは多くが八〇歳以上と高齢ですから、そのような病気も合併する人がほとんどです。それを利用して「放射線が原因ではない」と主張しているのです。今年二月に大阪高裁で被爆者が逆転敗訴していますが、まさにそれが要因でした。
 厚労省は権威のある医師の意見書を用意し証人を立てました。これは前例の無いことでした。今後の裁判でも同様に、原告ごとに意見書や証人を準備しています。私たちも医師団の協力がなければたたかえません。そこで、民医連の医師団に厚労省の主張に反対する意見書をお願いしました。今までの協力に加え、さらなる尽力をお願いしています。

被団協の提案

 「他原因」の主張は、厚労省の最後の抵抗だと思います。そこまで追い込んだのは、被爆者裁判で勝ち続けたことはもちろん、これまでの運動の成果です。七〇年間一貫して被爆者自身が運動を続けてきたことがとても大きな力なのです。国内的にも国際的にも政治的なプレッシャーになりました。
 裁判では最終決着はつきません。政治的な決着を求めて日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は全被爆者救済を提案しています。
 この提案は、被爆の状況を限定せず被爆者手帳所持者全員に手当を支給し、病気があれば程度に応じて加算するというものです。今でも被爆者手帳所持者の九割が手当を受けているので、全員に支給しても大きく変わりません。また、現行制度ではどんな病気でも同じ手当ですが、例えば、提案では白内障だけでは給付額は下がります。とても合理的で、国民的な支持も得られる内容です。

* *

 この提案を実現するためには、運動で政治を動かすしかありません。裁判傍聴、署名活動、集会などいろいろな運動にぜひ皆さんも参加して下さい。

(民医連新聞 第1626号 2016年8月15日)

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