いつでも元気

2016年8月31日

認知症Q&A 第9回 「BPSDに効く薬は?」 向精神薬、漢方薬などで効果 お答え 大場敏明さん(医師)

 認知症に効く薬として、前号では認知症の中核症状(記憶力、見当識、判断力などの機能低下)に効く薬(抗認知症薬)を解説しました。今号では認知症に合併しやすいBPSD(行動、心理症状)に効く薬と、漢方薬について述べます。

BPSDとは?

 BPSDという医学用語は、あまり聞いたことがないかもしれません。以前は「問題行動」「周辺症状」と言われていた妄想・幻覚・不穏・攻撃性・うつ・無感情・不安などの総称です。
 BPSDは介護者(家族、介護スタッフ)に大きな負担を及ぼし、患者さん自身のQOL(生活の質)も下げます。BPSDを抑えることは、認知症を治療するうえでとても重要です。
 そもそも、抗認知症薬の「アリセプト」が出る前は、認知症の治療薬といえば、「問題行動」を抑える向精神薬のことだったのです。
 BPSDは、認知症患者と本人を取り巻く環境との不適合などが原因で出てくるものです。たとえば生活環境や住環境の急激な変化、家族や介護にあたる人の本人への接し方が不適切な場合などです。薬物治療を始める前にそうした環境の改善が重要で、環境改善だけでBPSDが解消することもあります。

BPSDに効く薬

 環境調整によっても症状が改善しない場合には、以下の薬を使います。
・向精神薬…妄想・幻覚・不穏・攻撃性などが対象
・抗うつ薬…うつ状態・食欲低下・自殺示唆など
・抗不安薬…漠然とした不安
 このほか、睡眠導入剤なども適宜使用します。これらの薬剤はできるだけ少量から投与し、副作用と有効性を注意深く評価しながら、量を調整したり、薬そのものを変更したりします。
 ご家族から患者さんの家庭での様子を報告してもらいながら、適切に投薬の調整をしていけば、間違いなく効果が出てくるものです。ご家族の協力がとても重要です。

漢方薬の効果と副作用

 漢方薬の効果として、中核症状の改善やBPSDに有効との報告があります。
 まず、近年広く使用されている漢方薬として「抑肝散」があります。抑肝散は怒りを主とする精神症状や幻視、易怒性(怒りやすい)、不安、焦燥などに有効です。
 「釣藤散」は、主に脳血管性認知症のBPSD(感情の変動、昼夜逆転)と、認知機能の改善傾向が認められています。
 また、「八味地黄丸」は、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の混合型に効果があり、患者さんの認知能力と、日常生活動作を改善することが報告されています。
 ただ、漢方薬の場合も副作用は軽視できません。副作用として血圧上昇、低カリウム血症、間質性肺炎などがあります。特に長期投与の場合は、私の経験でも、血圧上昇などを合併することがあるので注意が必要です。


認知症とサプリメント

外苑企画商事(東京都渋谷区)
薬剤師  藤竿伊知郎

 ネットで検索すると、認知症の予防や進行を抑えるというサプリメントが、たくさん出てきます。しかし、現時点で私がおすすめできるものはありません。
 成分が持つ理論的可能性や権威者の発言を通して、「効く」とうたっているものがほとんどです。なかには「水素水」といった疑似科学さえ混じり込んでいます。認知症の治療医が補助的に利用することもある「フェルラ酸」のような物質もありますが、それでさえ、十分な臨床データが蓄積できていない研究的段階です。
 効果を期待し、使いたいというご家族の思いは貴重です。しかし、複数のサプリメントを重ねて使うことで、取り過ぎによる副作用や、金銭的な無駄遣いをしないように気をつけたいものです。

いつでも元気 2016.9 No.299

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