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2016年8月31日

human story 
訪問介護 は“天職” 
京都・ヘルパーステーション吉祥院所長 谷口賢治さん

 ヘルパーステーション吉祥院(京都市南区)所長の谷口賢治さん(37)は「ヘルパーは天職」と言います。専門知識で利用者の生活を支える訪問介護の仕事にやりがいを感じるからこそ、政府の介護保険改悪に「おかしいぞ」と声を挙げます。

文・新井健治(編集部)/写真・亀井正樹

勝負は最初の訪問

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台所で洗い物をする谷口さん

 谷口さんは管理業務で忙しいなか、毎日4~5軒の利用者宅を訪問します。南区で一人暮らしをする清水千鶴さん(92)宅では、掃除や台所の洗い物を片付け、夕飯も作ります。寿司屋や料亭でアルバイトをしたことがあり、調理は得意。「男のヘルパーは最初の訪問が勝負。ここで料理がまずいと、断られてしまいます」と言います。
 「谷口さんの味付けはおいしい。優しくてなんでもできる男性は珍しいね」と清水さん。ちょうど1年前に、夫の良一さんを亡くしました。末期がんの良一さんの入浴を介助した谷口さん。「第三者の私だから、話してくれることもある。最期に千鶴さんへの感謝の気持ちを聞くことができて良かった」。
 谷口さんは清水さんの手を握り、「少し体温が高いね。看護師に連絡をとっておきます」と言います。清水さんは「みんなに囲まれて、私は恵まれているなあ」と笑顔を見せました。

生活を支える専門職

 中学3年から福祉の仕事に興味があった谷口さん。高校時代は特別養護老人ホームでアルバイト。専門学校で介護福祉士の資格をとり、縁あって民医連の職場に。清水さんは週に4回の訪問介護を利用していますが、週に1回、1時間という利用者もいます。
 「食事はきちんととれているか、転倒する危険性はないのか。常に利用者さんの24時間の生活をイメージしています」。
 利用者は個々に身体の状態や生活環境が違います。ヘルパーの仕事は個別性、専門性の高い職種。高度なコミュニケーション労働であるとともに、家政学、医学、看護、社会福祉、臨床心理などさまざまな知識を使い、利用者の生活の質を良くする専門職です。
 「利用者さんは年齢を重ねるごとに、できないことが増えていきます。困難な状況のなかでも、その人らしい生活をサポートすることがヘルパーの役目です」。
 ところが今、その介護の担い手が見つかりません。政府は昨年4月の改定で介護報酬を大幅ダウン。ただでさえ低い介護職の給与がさらに厳しくなりました。
 また、要支援1、2の人を介護保険のデイサービスや訪問介護から外し、自治体の「総合事業」に移行しようとしています。ヘルパーの専門性を低く評価し、ボランティアや有料の民間業者に置き換えようとしているのです。
 9人の職員がいるヘルパーステーション吉祥院で、男性は谷口さんただ1人、年齢も最年少です。「職員は常時募集していますが、なかなか見つかりません」。管理者としても苦慮しています。

気持ちを変えた大震災

 政治には興味がなかった谷口さんの気持ちを変えたのは、5年前の東日本大震災。原発事故の報道で政府やマスコミを信じられなくなり、「嘘か本当か、自分で見極めるしかない」と、厚生労働省の審議会など政策決定の過程から勉強するように。
 地元にも目を向けます。京都市は来年4月から「新総合事業」を始める予定です。同事業は介護予防訪問介護から「生活援助」を外し、「身体介護」のみの仕組みに変更(6月末現在)。「高齢者支えあい担い手養成講座」を開き、たった3回の研修で有償ボランティアに生活援助を肩代わりさせようとしています。
 「自分の仕事が否定されている。許せない」。制度改悪を止めようと、今年2月の京都市長選では、暮らしと福祉を大切にする候補者を応援しました。

歌って踊れる介護士に

 谷口さんは共働きで、9歳、7歳、2歳の男の子がいます。2歳の三男は保育園に入れませんでした。「『保育園落ちた』のブログが話題になりましたが、わが家も当事者。保育や介護、教育を大切にする政治にしたい」と言います。
 長男はサッカー、次男は野球、三男はアンパンマンが大好き。毎週火曜日の昼休みに、事業所に近い九条通りで戦争法反対のプラカードを掲げます。「息子たちには、好きなことを思い切りやらせたい。だから戦争する国づくりに反対します」とキッパリ。
 高校時代はバンドと三線にはまった谷口さん。毎年10月の「元気まつり」ではオープニングを担当します。「場を盛り上げるのが好き。歌って踊れる介護士になりたいんです」。

いつでも元気 2016.9 No.299

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