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2016年9月30日

伊藤悟のひょうたん島便り Vol.13 参院選の“情報統制”

 7月10日、参院選投開票日の夜。午後8時にテレビをつけた私はあ然とした。各テレビ局で始まった選挙関連番組が、いっせいに「憲法改正が争点だった」と叫び始めたからだ。
 ある局では、8時になった瞬間に、与党系と野党系で色違いのTシャツを来た人たちがスタジオへ駆け込んできた。何をするのかと思ったら、過半数ラインと3分の2ラインがくっきり線引きされた床に、与党系と野党系に分かれて整列して並んだ。当確者の色分けだった。
 分かりやすくインパクトある演出ではある。続いて「3分の2」の詳しい説明が。参議院で憲法改正に「3分の2」以上の議員が賛同すれば、衆議院と併せて発議できる。今回の選挙の重要な争点だったという意味で、そこにスポットを当てたのは当然だ。
 しかし各局は投票日前に、憲法改正に関してまったく問題提起をしなかった。簡単なものがテレビ朝日系とTBS系で1回ずつ報じられただけ。なのに選挙が終わったら突然、特集を始める。テレビ局側もその重大さをわかっていた証拠だ。なのに、なぜ?
 もしかして、自民党と安倍首相が、争点を隠したことに同調したのだろうか。首相は選挙前に「この選挙では憲法改正を問いようがない」と言って、争点は経済であるかのような発言をした。街頭演説でも憲法改正にいっさい触れていない。
 ところが、選挙が終わるやいなや「憲法改正するとは、ずっと申し上げています。選挙公約にも書いております。前文からすべて変えたい」と手のひらを返す。この矛盾をどの局も厳しく問わない。怪しいこと限りなしだ。
 政府の圧力があったとしか思いようがないのがNHK。参院選終盤の1週間、NHKの夜のニュースでは、まったく参院選の争点を取り上げなかった。過去にどの国政選挙でもなかった事態だ。
 参院選自体の話題もほとんどなく、テレビ画面の「今週の予定」に参院選が入っていないことさえあった。国民の関心を喚起せず「有権者が選挙へ行かない方向へ誘導したいのか」と突っ込みを入れたくなる。
 投開票日夜の特番では、自民党議員のかなりの数が所属している「日本会議」にふれた局もあった。この日本会議、戦前のような社会をめざすかなり危険な右翼団体だ。
 立候補者の所属団体は、投票を左右する必須情報だ。なぜ、これを投票前に伝えないのか。池上彰氏の各政党への厳しい突っ込みも、投票前に見せてほしかった。
 こうして情報は統制されていくのだろうか。テレビ局の責任は果てしなく重いぞ。


 いとう・さとる 作家、音楽評論家。『大人にも読める思春期ガイダンス』(明石書店)など著書多数

いつでも元気 2016.10 No.300

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