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2016年10月18日

介護「総合事業」 全市町村で開始まで半年 どうたたかい どう対応するか―

 介護保険の「要支援」者向けの訪問介護と通所介護が、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)に移行され、すべての市町村でスタートするまで残り半年を切りました。国の法令で内容や報酬、利用料が定められていた介護が、市町村ごとに違うものになります。総合事業スタートに際し、民医連には、各市町村に高齢者の人権や生存権が守れる水準の事業を求める運動と同時に、事業の担い手としての対応も必要になります。全日本民医連・介護福祉部の林泰則事務局次長に聞きました。(木下直子記者)

軽度者の受け皿作って「安上がりの介護」ねらう

 介護保険制度は、受けられるサービス(給付)の抑制と利用者の負担増という改悪が、連続して行われてきました。二〇一五年の改定介護保険法に「総合事業」が盛り込まれたのは、これまで以上に介護にかける費用を抑制することが最大のねらいです。介護度の軽い人を介護保険から除外し、その受け皿の事業を市町村にさせるということです。
 現段階で総合事業の対象になるのは、要支援1、2の人たちで、サービスは訪問介護と通所介護です(図1)。しかしいずれは要介護1、2まで拡げ、サービスの全てを介護保険から外す考えです。

図1

費用抑制2つのシフト

 総合事業では介護費用を抑制するための二つのシフトがしかれています。ひとつめは、「給付」から「事業」へのシフトです。
 「保険給付」なら、介護保険加入者が介護認定されれば、給付を受ける権利が発生し、サービスの質も保証されますが、「事業」ではそうなりません。事業の財源は介護保険財政ですが、サービスを提供するかどうかは実施主体である市町村の判断です。また、要介護・要支援認定は必ずしも必要でありませんから、要介護認定をさせず総合事業に振り分けることも可能です。
 事業はあくまで予算の範囲内。その人にどんな介護が必要か、より「財政の枠」優先です。政府は地域医療構想を導入し、医療費を各県でコントロールさせようとしていますが、介護分野にも「市町村がコントロールせよ」という発想が持ち込まれているのです。
 もうひとつのシフトは「専門職からボランティアへ」というもの。図2は、厚生労働省が示したサービス類型ですが、「担い手」にそれが表れています。予防給付相当と短期集中予防サービスをのぞき、介護助手(短期の講習で養成)やボランティアなどの無資格者があてられています。

図2

総合事業の動向

 要支援者への予防給付を総合事業へ移行する、と定めた改定介護保険法の施行は二〇一五年四月でしたが、その後二年間、二〇一七年四月までは実施を延期できる「猶予期間」です。一五年度に総合事業を実施した市町村は二八三で全市町村の一七・九%。一六年度は三一一市町村(一九・七%)なので、六〇%超の市町村が来年四月実施です(厚労省)。最終年度に六割の市町村が未実施というのは、市町村も困っていることの表れです。なお一六年一月の調査時に「実施時期未定」と答えた市町村も三二カ所ありました。
 サービス内容は、多くの市町村が、現行の予防給付と同等(サービス内容・事業単価とも)の「現行相当サービス」から始め、他の類型を追加してゆく傾向です。現在予防給付サービスを実施している事業所は「辞める」と言わない限り、自動的にここに移ります。
 「サービスA」は、従来の基準よりスタッフ体制を薄くしたり、サービス内容を限定して訪問・通所介護を行う「基準緩和サービス」です。事業単価は、現行の介護報酬の七~九割に抑える市町村が大半です。「サービスB」は、「住民主体の支援活動」で、多くが社会福祉協議会などへの委託です。医療生協や友の会が参入する場合、ここに該当します。
 国は利用者を現行相当サービスから、より安あがりにすむ基準緩和型やボランティアへと移行させていこうとしています。

***

 いま、主な市町村の情報を集めていますが、すすみ方はさまざまです。すでに内容が物議を醸しているところがあります。
 たとえば札幌市は「現行相当サービス」で行うにもかかわらず、事業単価の引き下げを提案しました。川崎市(神奈川)も現行相当サービスの単価を変更し、事業者は減収が避けられません。基準緩和型の訪問介護は、短時間の研修を受けた無資格者が行えるとし、市は研修資料も作らず指定事業者任せです。また「スーパー基準緩和サービス」なるものを創設しましたが、委託業者が行うのは自費サービスのみ、市は宣伝だけして報酬は無し、というもの。
 大阪市では「住民主体」サービスを導入しないそうです。基準緩和型の訪問介護を研修を受講した無資格者に置き換え、単価は現行の七五%に設定されます。また、新規利用者は、身体介護を除いて基準緩和型のサービスしか利用させないことにしています。

◆低報酬で参入事業所が半減◆
 総合事業の下で介護サービスに参入する事業所が、現在介護サービスを行っている事業所の半数に届かない見込みであると毎日新聞が報道しました。
 すでに低報酬型の基準を決めた先行自治体157カ所を調査。報酬は平均して2割減に設定。手を挙げた事業所は訪問介護で5割弱、通所介護(デイ)では3割弱。「採算がとれない」というのが見送り理由で、軽度の人たちが受け皿の不足で必要なサービスさえ受けられない事態が懸念されます。

運動は市町村単位 「最後の拠り所」の視点も

 では民医連はどんな姿勢で臨むのか―。総合事業の本質をつかみながら「たたかい」と「対応」の両面のとりくみが必要です。

「卒業」と「水際作戦」に抗する

 第一は、サービスを受ける権利の侵害を許さない、利用を抑制しない事業をさせる、ということ。実施主体が市町村ですから、運動も地域単位です。市町村の動向をつかみ、働きかけましょう。
 焦点は当面、利用者をサービスから「卒業」させる動きと、介護認定を申請した人への「水際作戦」を防ぐことです。「卒業」とは、地域ケア会議などで利用者を自立に誘導し、総合サービスも終了させるというもの。「水際作戦」とは、高齢者や家族が介護の相談に来ても、「基本チェックリスト」という簡易表を使って総合事業に振り分け、介護保険サービスにつながないことです。なおこのチェックは無資格も担当可能。当事者は振り分けが不服でも申し立てのしくみがありません。

図

私たちも試される

 もう一つの構えは、誰もが最期まで安心して介護が受けられるよう事業者として対応すること。総合事業がすすむほど、サービスの縮小や事業所の撤退で介護難民が生まれる危険性があります。
 民医連の介護事業所の利用者の六割が要介護1・2までの軽度者です。共同組織とも協力しながら、「無差別・平等の地域包括ケア」の課題とも位置づけ、とりくむことが欠かせません。法人の事業全体の裾野を拡げたり、共同組織の活動を強めていく重要な側面もあります。
 総合事業の開始は、我々がどう自力をつけていくかも試されると思います。

(民医連新聞 第1630号 2016年10月17日)

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