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2016年11月22日

知る見る “安倍社会保障解体” (1)高齢者の医療 高額療養費上限引き上げ 窓口負担2割化も

 安倍内閣は、「社会保障“解体”」とも言える制度改悪を打ち出しました。今年度からの三年間は「集中改革期間」。削減の対象は医療、介護から年金、生活保護まで多岐にわたります。内容と問題を見ていきます。第一回は、高齢者の医療にかかわる分野です。

 社会保障審議会医療保険部会は参議院選挙から四日後の七月一四日に再開。「高額療養費」「後期高齢者の窓口負担」などの見直しを矢継ぎ早に議論しています。「負担能力に応じた負担を求める観点からの高額療養費の見直し」を明記した社会保障制度改革推進法(二〇一三年)にもとづいたもの。「骨太方針二〇一五」は社会保障を「歳出改革の重点分野」と位置づけ、自然増分を年三〇〇〇億~五〇〇〇億円ずつ削減する予定です。

貧困化すすむ高齢者に打撃

 七〇歳以上の高齢者の自己負担上限額(高額療養費)は現在、現役世代より低く設定されています。それを現役世代と同水準に引き上げ、七五歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担についても現行の一割から「原則二割化」が狙われています。昨年末に閣議決定された「社会保障改革の工程表」によれば、高額療養費は今年末まで、窓口負担は二〇一八年末までにまとめます。
 高齢者の“貧困化”は急速にすすんでおり、追い打ちをかけて負担増をすれば、受診抑制で命や健康が脅かされたり、なんとか生活が安定している人が低所得に陥る危険があります。たとえば後期高齢者約一五五五万人のうち、基礎年金の満額(年約八〇万円)に届かない低所得者は約四割(一四年)にも。後期高齢者医療制度開始から六年間で後期高齢者人口は一八%増ですが、低所得者の増加率は大きく三一%にもなります。
 高額療養費の上限を引き上げると、一般的所得の七〇歳以上の人で医療費の負担上限が現行(月額一万二〇〇〇円)の五倍近い五万八〇〇〇円に跳ね上がります。

老人クラブ、医師会も反発

 東京・訪問看護ステーション泉の金子千草さん(看護師)は、「介護保険の利用料も二倍になったばかり。利用回数を減らす人も出ているのに…」と絶句します。往診が必要な患者の家族に自己負担額を告げると「何とか診療所に連れて行きます」と断ったり、費用の高い検査を敬遠する人が目立ちます。「国は『在宅へ』と言うが、受診や利用控え、家族の負担は増えるばかり。社会保障の削減ではなく拡充こそ必要」と金子さん。
 患者・利用者、医療関係者の双方からも高額療養費制度の維持を求める声が相次いでいます。九月二九日の社会保障審議会医療保険部会では、「高齢者の収入は低下傾向。高額療養費は維持を」(全国老人クラブ連合)、「高齢ということだけでも弱い立場。弱い立場の人たちに負担をかけるのは反対。高額療養費制度は日本の医療をささえる一番大事なもののひとつ。維持していただきたい」(日本医師会)、「外来の受診抑制になる制度改正は好ましくない」(日本歯科医師会)、「低所得者は有病率が高い。介護保険、医療保険とそれぞれ厳しくなり、一人の患者さんに重なる。非常に厳しい」(日本慢性期医療協会)など。
 一方、日本経団連は「現役世代の負担との公平性」を口実に、「高額療養費のすみやかな見直し」や「窓口負担の原則二割化」を要求。反対をよそに国民的な議論もない負担増は許されません。

グラフ

(丸山聡子記者)
(民医連新聞 第1632号 2016年11月21日)

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