いつでも元気

2008年4月1日

地球温暖化を止めよう(1) 1℃や2℃でなぜ騒ぐ? ~温暖化のいま(上)

 「地球温暖化」の言葉を聞かない日はない。温暖化問題の解決のために、全世界が力を尽くすことは待ったなしの課題だ。本連載では、温暖化問題について大づかみに知りながら、解決に向けて私たちにできることや国内外の動きについて、専門家の和田武さんにきいてゆく。

■「地球温暖化」とは?

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わだ・たけし
  1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部特別招聘教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境 アドバイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』など多数。

 大気中の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが増えて地球の平均気温が上昇する現象が温暖 化です。温室効果ガスには、熱を蓄える性質があります。このようなガスが大気中に増え、地球が温室に入ったような状態になるのです。産業革命以降、石炭や 石油などの化石燃料が大量に消費されるようになり、温室効果ガスが大量に排出されるようになって温暖化が起こってきました。
 「1℃や2℃、平均気温が上がるくらいで、大騒ぎしすぎでは?」と思われるかもしれませんが、これまでも研究者たちは「産業革命以前の平均気温から2度 上がると危険」と警告してきました。巨大台風などの異常気象の多発など、温暖化の被害はすでに起きつつあります。また、温暖化には、さらに温暖化をよんで 回復困難な悪循環におちいる性質があることも心配です。
 では、具体的にどう私たちに影響するのか。下の図は、1980~99年の平均気温を基準にして、温暖化が健康や生態系、食料の供給などに及ぼす影響を推 測したものです。1℃台後半(産業革命前と比べ2℃)以上になると、数億人規模の水不足、感染症の拡大、生物の最大3割の種が絶滅の危機、洪水や暴風雨被 害の拡大など、深刻な影響がではじめます。健康被害も深刻で、熱波や洪水、干ばつで病気や死者が増える、栄養失調や下痢、呼吸器疾患の増加などがあがって います。

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1980~1999年の平均気温からの気温上昇幅

影響は適温の程度、気温変化速度、社会経済のシナリオによって異なる
(出所・文部科学省・経済産業省・環境省報道発表資料「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)の公表について」2007年4月6日)

■世界の科学者たちの分析

 図を発表したのは国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」です。約130カ国2500人の科学者たちが、世界中の温暖化研究をもとに、地球 の現状や未来予測をおこない、重大な事態を招かないようにするための対応なども示す機関です。ノーベル平和賞を受賞しましたね。
 このIPCCが出した最新の報告(第4次評価報告書)で、地球の平均気温が産業革命前から0.76℃上がったとわかりました。さらにその変化は、最近急 にすすんでいます。100年単位でみると、1901~2000年では平均気温が0.6℃の上昇でしたが、1906~2005年と5年ずらしただけで 0.74℃にアップ、さらに最近50年間の上昇速度を100年単位に換算すると、1.3℃という事態でした。
 そして、「持続可能社会」から「化石エネルギー資源重視の高成長社会」まで6パターンの未来社会を仮定し、各社会ごとの気温上昇幅を予測しました。最善で1.1℃、何もしない最悪の場合は6.4℃も気温が上昇、という結果になりました。

■対策なければ被害は世界大戦レベル

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環礁の島国ツバルでは海水面の上昇の被害が出始めている。年に数回起きる異常潮位により湧き出してきた海水に、大切な自転車を入れたくなくて、立ち往生する兄弟。
撮影:遠藤秀一(写真家/NGO Tuvalu Overview代表)

 IPCC報告とともに、世界に衝撃を与えたのがイギリス政府発表の「スターン・レビュー」 (06年)です。温暖化を経済学の視点から分析したものです。「国際社会が温室効果ガス削減に向けて行動を起こさなければ、21世紀半ばに世界経済が受け る損失は国内総生産(GDP)の5~20%以上で世界大戦や恐慌が起きたレベルに匹敵する状況が続き、被害の回復は非常に困難」と、のべたのです。

■人間がおこした問題だからこそ

 「もう手遅れ」とか「自分が生きている間の話じゃない」と、いわないでください。今回のIPCC報告で注目したい点は、地球温暖化の主な原因が「ほぼ間違いなく人間活動にある」と解明したことです。人間が起こした問題なら、人間の力でくい止めることは可能です。
 先にご紹介したスターン・レビューも、「すぐ確固たる対策をとれば、危機を回避する時間は残っている」とのべました。「各国が温室効果ガスの排出削減の対策に、現在の世界のGDPの1%の投資をすれば、何もしなかった場合の危機的な事態が防げる」と。
 まさに、いまの私たちに未来がかかっています。これまで環境問題の運動の合言葉は「地球規模で考え、地域で活動しよう」でした。私はこう付け加えたいと思います。
 「地球規模で未来のことを考え、いますぐ地域で活動しよう」
次回は「打開の道はどこに?」です

ミニ解説

温室効果ガス…温暖化の原因となる気体。二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六ふっ化硫黄など。中でも影響の大きいものが二酸化炭素。

ノーベル平和賞…2007年は温暖化対策を訴える映画を制作したゴア米前副大統領 と、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に贈られた。温暖化がすすめば大規模な人口移動や資源をめぐる紛争などにつながる恐れがある。温暖化防止活 動は平和のためにも重要、という認識からである。

スターン・レビュー…イギリス財務省が元世界銀行チーフ・エコノミストのニコラス・ スターン博士に依頼し、地球温暖化が世界の経済に与える影響を試算した報告書。温暖化を「史上空前の規模の極めて深刻な市場の失敗」と指摘。今後 10~20年の投資が21世紀後半~22世紀の気候を左右する。温暖化対策のコストは、何もしなかった場合の損害額よりはるかに安い、とした。2006年 11月発表。

いつでも元気 2008.4 No.198

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