緊急企画

「自殺も考える」深刻な医学部生の留年問題

全日本医学生自治会連合会が留年問題の実態を全国調査 〜奥野開斗委員長(群馬大学4年)に聞く〜


 いま留年をめぐる問題が医学生の中で大きな問題になっています。今年7月末に開催された第42回日本医学教育学会のポスターセッションでは、全日本医学生自治会連合会(医学連)の奥野開斗委員長が、「留年に関する意識とメンタルヘルス、留年問題実態調査アンケート」中間報告を発表しました。調査を取りまとめ、発表を行った奥野委員長にインタビューしました。

─なぜ、留年の問題に取り組もうと思ったのですか?

奥野:医学連では毎年3月に定期大会を開きます。そこには全国の医学部から学生自治会の代表などが集まり、全国の取り組みや起きている問題などを報告します。実はここ数年、留年問題についての訴えが多くされるようになっていて、今年の大会では、関東のある国立大学医学部から、三年次への進級の際、25名もの大量留年が出ていることが報告されました。ほかにも中四国の国立大学からは、「相対留年制度」で必ず一定の割合で学生が留年する仕組みになっていることから、学生同士が分断され、まとまって取り組む企画の運営などにも影響を与えてしまっているとの報告がされました。それで全国的な調査が必要と考え、アンケートに取り組むことになりました。

─どのような形でアンケート調査を進めていったのですか?

奥野:進級基準に対する医学生の評価、留年に関する不安が医学生にどのような影響を及ぼしているのかなどを明らかにするため、全国の医学生を対象にアンケート調査を行いました。全国の医学部の学生代表者に協力を依頼し、学生自治会が中心となって医学生に実施したアンケートを、郵送またはFAXで回収しました。全国41大学医学部の学生から1365枚のアンケートを回収し、集計、分析を行いました。

─調査から明らかになってきたことはどんなことですか?

奥野:まず、アンケートでは、自身の大学の進級基準について「どの程度納得しているか」を5段階で評価してもらったところ、6割以上の学生が積極的には評価していないことが分かりました(図1)。「どの程度適切であるか」については、比較的適切であると答えた学生は全体の32%に留まりました(図2)。

 また、「どのような時に留年の不安を感じるか」については、常に漠然とした不安を感じているという回答が64%もみられました(図3)。進級基準が曖昧で不明瞭であることに加えて、実際に特定の学年や科目などで不適切と思われる留年があることによって、成績や授業態度に関わらず、「誰でも留年しうる」と多くの医学生が感じている表れだと思います。

─留年に対する不安はどのようなものがありましたか?

奥野:自由記載で回答してもらったところ、「学費が年600万円かかるので、親とは留年したら退学すると約束している(私立大学4年)」というように学費や奨学金の停止などの経済面、「せっかく仲良くなった同じ学年の人と離れて、下の学年になじむのが難しそう。特に資料などは友達にもらうことが多いので、試験情報などの点で置いて行かれそう(国立大学3年)」というような下の学年や同級生との人間関係、他にも学業へのモチベーションに関する不安が多くみられました。

 特に深刻だったのは、「毎日不安で鬱になる。留年したら自殺すると思う(国立大学4年)」といった「自殺」を考えるという回答が見られたことです。将来、人の命を救う医師になろうとする医学生たちが、自ら命を絶つことを考えるという状況の異常さは看過できません。茨城大学の内田千代子氏の研究では、他学部に比べて、医学部の学生の自殺率が高いことが指摘されていますが、今回の調査でも自殺を考える医学生が少なくないことが明らかになりました。

─調査をまとめてみて、全体を通してどのように感じましたか?

奥野:多くの学生が医学教育の評価、特に進級基準について適切だと思っていないこと、留年に対して大きな不安を感じており、日々大きなプレッシャーのなかで学生生活を送っていることが明らかになりました。誰の目にも明らかで公正で納得のできる進級基準に変えていくこと、より教育効果のあるカリキュラムや授業にしていくために、学生と教官が一緒になり努力していくことが必要だと思います。また、現在は留年してしまった学生へのサポート体制もほとんどなく、今後整備していく必要があると思いました。

─今年の日本医学教育学会での発表の反応はどうでしたか?

奥野:ある国立大学の公衆衛生講座の教官から、「非常に大切な調査だと思う。ついに『パンドラの箱』を開けてしまいましたね」といった感想が寄せられました。これまで留年の問題は、個別の学生の問題であるといった見方によって覆い隠されていましたが、実は大きな問題をはらんでいること、しかも触れてはいけない話題だったということを教官の側からも認めた発言ではないかと思います。

─今後の取り組みについて聞かせてください。

奥野:医療崩壊が進み、医学教育・医師養成に対する国民的な期待が広がる中、その期待にこたえる医学教育がいま求められています。

 そのような状況だからこそ全ての医学生を国民の期待に応える医師に育てるという責任を果たせるように、医学教育の在り方を見直す必要があります。今回は中間報告でしたが、さらにアンケートを集め、11月には留年問題に焦点を当て、医学教育の現状と将来を考える交流集会のような企画を予定しています。また、この調査をもとに各学生自治会と協力しながら、カリキュラムの改善や学生同士で協力し合える関係づくりなど各大学単位での取り組み、また、関係省庁(文部科学省や厚生労働省)との交渉を通じて、引き続き医学教育の改善に取り組んでいきたいと思います。

─ありがとうございました

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アンケートのダウンロードは… http://www.igakuren.com/



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