新連載
ぴよぴよ研修医ひろみの笑いと涙の研修日記-04
清貧のクリニックと元気なお年寄り

横濱 弘美  中部クリニック(弘前大学2000年卒)
photo●Hiromi Yokohama

ドクター・ヒロミの研修先、中部クリニックにはやたら元気なお年寄りたちが通ってくる。
そんな彼らのパワーに圧倒されつつ、地域医療と同時に学び始めたのは「人生」かもしれない。
ぴよぴよ診療所研修日記、始まります。



お年寄りたちが気兼ねなく「長生きしたい!」と言える社会って、いいよねぇ……
みなさんいかがおすごしですか? 弘前は朝夕、だいぶ冷え込むようになってきました。医局から眺める岩木山は麓の方まで真っ白。毎朝通勤中に国道に設置している温度計をみていますが、先日ついに2℃! という数字を目撃してしまいました。里に雪が降るのももう間近です。
 今回からはみなさん御待望(?)『ぴよぴよ診療所研修日記』の連載を始めます。私がすでに初期研修も終わり小児科の専門研修を開始したなか、少し時間がたってからのスタートになりましたが、診療所研修中に書きためた内容を小出しにしていく予定です。どれくらい小出しにするかによって後何回書けるのかが決まるわけですが、今のところは未定…私の気のおもむくまま行き当たりばったりの連載が続きますので、なんとかお付き合いください。
 まずは、愉快な診療所研修の話をする前に私が研修していた診療所についてちょっと説明しておきたいと思います。青森市にあるその診療所は中部クリニックという名前で、8年とちょっと前までは中部病院という病院だったそうです。微妙に道路側に傾いて見える病院の建物(築30年弱)をそのまま再利用した、まさに清貧のクリニックです。今は各階をいろんな団体で共同使用しています。県庁や青森市随一の繁華街まで徒歩圏内であるにも関わらず、税金を注ぎ込んだハローワークや立派な鉄塔のNTTドコモとともに近代化に乗り遅れた民家や長屋風のアパート多数が共存する世にも奇妙な眺めの地域に存在します。通院患者さんの多くは中部病院時代から通い続けているベテランさんで、6割強が高齢者というようなクリニックです。
 診療所研修が始まって一番に驚いたことは、やたらに元気な80代・90代が多いことです。病院の内科で研修中にも90代の方は少なからずいましたが、医学の進歩がその方々を生かしているように感じていました。でも、クリニックの80.90代はわけが違う!!「裏庭のブロック塀の下からツタのツルがはえてくるから、気になって掘り返してみたの。ブロック塀の下って60cmくらい掘ると大きい石垣の石みたいなのが積んであるって、知ってた?」なんて、ふつうの顔をして話す84歳の女性が第一の衝撃でした。「そんなことせず、ゆっくり寝ててください」と言いかけて、いくつになっても旺盛な彼女の好奇心が元気の秘訣かな、とふと思いました。
 そしてまたある日、往診先の96歳の女性が言いました。「もういつ死んでもいいやと思ってから20年はすぎたような気がするけど、未だに死にたくないんだよねぇ」と。耳を疑うようなことをサラリと言う、かっこいいおばあさんでした。家族には「わがまま放題です」などといわれながらも大切にされて、あれが人間の円熟の境地かなぁとしみじみ考えました。

 日本人には他の民族にはないくらい『ぽっくり願望』が強いのだそうです。年をとって周りに迷惑をかけるくらいなら、いっそぽっくり死にたいという思いがそれです。今まで診てきた患者さんの多くも、私の家族もみんなぽっくり願望を持っていました。日本では年老いた人の介護をするのは家族の仕事と考えられてきたし、いまもまだ根強くその考えが残っているような気がします。家族に迷惑をかけるくらいなら…と思う親の思いが悲しい限りです。あのおばあちゃんのように「未だ死にたくないんだよねぇ」と堂々と言えて、長生きする人が誰にも気兼ねせず楽しめる社会になっていけばいいのになぁって思います。
 それでは、そろそろさようならです。次回また!


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