[特集]interview
『さらば外務省』著者 天木直人さん

あまきなおとさん
1947年山口県下関市生まれ。1969年京都大学法学部を中退し外務省上級職として入省。内閣安全保障室審議官、在マレーシア、豪州、カナダの日本国大使館公使を経て、2001年2月から2003年8月まで駐レバノン国日本国特命全権大使。小泉首相の対米追随外交を批判して「勇退」を迫られる。著書にベストセラーになった『さらば外務省』(講談社)のほか『マンデラの南ア』(サイマル出版社)などがある。5月には最新刊『さらば小泉純一郎』を上梓。

「事件は現場でおきている」普段なにげなくテレビや新聞をみているだけではなかなか伝わってこないイラクや中東の実際の状況はどうなっているのでしょうか。目に付く報道だけ追っても非戦闘員である多くの人々が犠牲になっていることが分かります。

そうしたなか、政府内から「イラク自衛隊派遣反対」の声を上げ、結果として職を辞しながらも引き続き精力的に声を上げ続けている『さらば外務省』著者・天木直人氏に、「将来、人を救う仕事である医師になる立場で、戦争は相反するものとして反対していかなければいけない」「世界に誇れる憲法を持つ日本が世界に対してどのように働きかけていけば良いのか」との問題意識から昭和大学6年小西潤くんが「イラク自衛隊派遣」「憲法」をテーマにインタビューしました。

 

小西  『さらば外務省』を読んでの感想ですが、外務省のイメージが本当に覆されてしまいました。

天木 外務省のイメージはそれまで良かったですか。

小西 良い悪いより、多くの国との外交はもっと議論を経て決めていくものと思ってはいたのですが、必ずしもそうではなかった。そういうところが驚きでした。

天木 外務省の偉くなっている人々のやっていることはあまりにも国民から見たら怩「かさま揩ナす。私はそうした内情を知りすぎてしまった。最近の外務省の仕事はイラク戦争と拉致問題しかない、これで大騒ぎしているわけです。外務省職員は5000人ぐらいいますが、何をしているというのか。本来あるべき外交の仕事は一杯あるけれど、結局アメリカとの安全保障条約の下でアメリカに従ってやっている外交だけです。本来の仕事をせずにつまらないことばっかりやるわけです。
 非常に残念ですけれど、こうした実態を糾弾したのが『さらば外務省』です。

小西 医学生として自分たちの立場に置き換えて考えていたら、TVドラマの「白い巨塔」をちょっと思い起こさせるような雰囲気ですね。

天木 よく言われますね。キャラクターが里見さんに似てるって、あの人はどういう人なんですか。愚直な人なんですか。

司会 愚直ではないですけど、世渡りうまくないですね。「自分はこう生きたい」っていう部分があって、医局のシステムの中で器用に取り入ってということができない。

天木 結局大きく2つの道があるわけです。
 私は官僚の社会では偉くなれなかったけれど、偉くなるのが目的であってはならないと思うのです。やりたいこと、お医者さんだったら人の生命や貧しい人の救済に全力を傾けないと嘘だと思うのです。だから私は、日本としてあるべき外交をまずやれということを言い続けたのです。役人っていうのは政治家に弱い。自民党中心の政権なので自民党の政治家を喜ばせる外交を優先する、それの繰り返しです。それはおかしいじゃないかと、時々内部で声を上げたんだけれども疎んじられた。

小西 イラクへの自衛隊派兵についても、止めた方がいいという内容の文章を政府に送り続けていた。

天木 そうです。今回のアメリカのイラク攻撃は、初めから中東のためとかイラク人のためということじゃなくて、アメリカの利益というのがはっきりしていて。現在中東諸国はほとんどがアメリカの傀儡政権になっている、アメリカの軍事力を背景にし、アメリカのサポートがなかったら、みんな転覆するわけです。そういう状況でサダム・フセインだけはアメリカに歯向かっていた、こいつをすげ替えて親米政権をつくるというのがイラク戦争の目的であったのです。中東の人たちは「アメリカの言う中東の民主化」は押し付けである、アメリカは圧倒的な軍事力を持っているので抵抗できないけど、あまりにもひどいじゃないかと言っているんです。
 私は日本の中東外交がどうあるべきか、つまり日本はアメリカと違ってもっとニュートラルな立場であるべきで現状はおかしいじゃないかということを言っていたんです。しかし情けないことに、そういうことを本気で言うのは私しかいなかった。30数年も外務省にいて大使にまでなっている連中が一言もアメリカに反対する意見を言わない。イギリスやアメリカの元外交官・大使が50、60人集まって、ブレアやブッシュに「間違っている」今のアメリカの中東政策は「おかしい」って言っている。そんな中で日本の外交官は誰1人として声を上げてない、いかに日本の外交が無かったかっていうことなんです。

戦後外交はウソの積み重ね

司会 医療の場面ではインフォームドコンセント、患者さんと共同事業として医療が成り立っているんです。外交も現地の方々と合意の中でいろんな交流があると思うんですけど、そのあたりの外交のポイントについては。

天木 日本の外交は日本国民と一体となって進めるべきだと思います。NGOなら、例えばこの間人質になった3人のように現地の人たちとの関係で政府にできないこともやれる。日本政府としては現地の政府を無視してできない、そういう難しさはあるんです。
 日本の自民党政権は、外交に関しては一貫して国民を裏切ってきた、その原因はやっぱり安保条約だったと思うのです。日本は戦争に負けた時世界の全ての国と平和条約を結ぶという選択肢もあったけど、戦後世界の冷戦構造に向けた動きの中でもたもたしているとドイツみたいに分断されるということで、アメリカについた。アメリカにとって日本はあまりにも異質な社会で、例えば「神風特攻隊」 とか日本人は何考えているかさっぱり分からない。従ってアメリカの日本支配は直接自分たちで行うのではなく、当時日本が神様扱いしていた天皇を残して天皇制と官僚を使って行った。自民党政治家や官僚と一体になって日本国民の支配を進めた。その結果官僚は国民のためじゃなくてアメリカに言われたことをやる、アメリカの方は向いていても国民の方は向いてなかったわけです。憲法9条にしても、アメリカが恚、産主義の脅威揩ノ対して日本に武器を持たせようとして、条文はそのままに解釈を変えていき、結局安保条約が結ばれた時点で平和憲法が否定されたといってよい。問題は国民にそれを説明せずにごまかしてきたことです。例えば沖縄返還、日本に一応返してもらったけどアメリカにとって非常に重要な戦略基地だから核を搭載した艦船が寄港する。国民に対してはそんなこと説明できなくて「非核3原則」「核を持ち込まない」って言っておきながら、アメリカとはこっそりと密約している。さらに「思いやり」予算など日本の税金使って、どんどん、どんどんアメリカの要求を満たしていった。そういう嘘の外交を積み重ねてきたわけです。国民に公明正大に説明して選択を求めればよいと思うのです。そうしたことを一切やらずイラクへの自衛隊派遣でも「あれは正しいんだ」と嘘ばかり言っている。今のイラクの状況は誰がみてもおかしくなっているけど、小泉さんも今さら「あれは間違いだ」と言えなくなっている。

“イカサマ”人道援助の行方

小西 自衛隊は人道的援助の名目でイラクに行きましたが、それについては。

天木 私は一貫して反対してきました。まず自衛隊が行く必要は全くなかった。小泉さんは最初から別の目的で派遣している、つまりイラクへの介入をアメリカ単独でやっているのではないということを世界に示すためにアメリカから「自衛隊出せ」と言われた。それだけの話なんです。それでは国民に説明がつかないから、人道援助という誰が聞いても反対できないような名目を持ち出してきたわけです。一番安全と選んだサマワでさえ危なくなってイラクは全土で戦争になっている。人道援助って言っているときではなく一番急いでやるべきことは平和を実現すること、平和が来れば世界中が援助するわけです。またこれもずいぶん指摘されていることですが、自衛隊派遣の経費377億円のうち人道援助に関するのは107億円だけ、多くは「警備」に使っている。しかもその107億円は水を作るだけ、NGOで給水している方がはるかに規模も大きければ経費も10分の1以下で済む。自衛隊の水は自分たちが使う程度の量しか作れなくて、結局現地にある既存の給水を日本のタンクローリーが汲んで配っている。あたかも自衛隊がやっているようにカメラマンを連れていって日本のメディアに流して宣伝しているわけです。
 全てが怩「かさま揩ネ人道援助なのです。われわれの税金をそんな形で使うなと、それこそNGOがやった方がはるかにいいわけです。そもそもイラクの人は「軍服を着て武器を持った者が来るのは嫌だ」とはっきりと言っている。サマワだけは歓迎しているとの報道もあるけど、それはつくられたものであってイラク人は「よその軍隊が来るのは嫌だ」と、これが当たり前なわけです。ですから、なぜそこまでして小泉さんが自衛隊を派遣しようとするのか、それはもうひとえにブッシュとの関係だけなんです。

ボランティアはもっと図太く!

司会 人質になった3人もそうですが、「海外で医療をしたい」「そうした困っている人たちの役に立ちたい」という医学生が増えています。そういう若い人たちが海外に出るときのアドバイスはありますか。

天木 この間人質になった3人の自己責任っていうのがずいぶん議論されました。どの国に行くにしても状況がどうなっているか考えていく必要はある。しかしニーズがあってそれを個人で何とかしたいというNGOの役割は常にある。日本の場合はついこの間までNGO―非政府機関を一種の政府に対するアンチテーゼとしてとらえてきた。その点欧米では国民の意識が非常に進んでいて非政治団体が、政府に認められて早くから活発に活動している。日本ではいまだに「NGOというのは何か危険だ」とか「反政府的なことをやるんだ」ということで警戒しているんです。10年ぐらい前から「政府の支援だけじゃできない」とか「むしろNGOと一緒になってやった方がいろんな国のニーズが満たされる」という認識になり援助するようになりました。今はまさに過渡期だと思うんです。
 私は外務省でそうした経過や実態を見てきたので、若い人たちが医療でいろいろな国に行って何かやりたいとか今度の高遠さんみたいな民間の人がリスクを冒したり、身銭を切ったり、ボランティアをするという気持ちは非常に尊いと思いますが、日本の官僚が汗水流さず危険も犯さずに、NGOを監督して予算をばらまいたりしていいとこだけを取っているのを見ると腹が立つ。NGOももっと政府を利用していいと思うのです。もちろん「一切政府からの援助は要らない、自分1人のできる範囲でボランティアでやるんだ」というのであれば、それはそれで1つの考え方です。しかし本当に現地の困っている人たちを助けようと思うのであれば、政府の金なり支援を得てある程度大規模にやらないと馬鹿らしいという図太さを持って欲しい。

小西 最近自己責任論の話ばかり出てきて、なぜ人質事件が起こったのかとか援助のあり方など議論が十分にできてないなあという感じがします。

天木 あれは極めて政治的な動きなんです。例えば冬山で遭難して救援のヘリコプターを飛ばしたりいろいろな迷惑もかけても、決して自己責任を追及しないですよね。政府の政策に反対しなければ別に痛くも痒くもないわけです。しかし自衛隊派遣を「撤退しろ」と言ったとたん圧力がかかるのです。政府が率先して自己責任を持ち出した。しかし政府はそうすることによって間違いを犯したと思います。必ず政府批判があとからでてきます。

いまなお続くアメリカの植民地政策

小西 アメリカがイラクに軍隊を送っている目的というのは、表面的な報道ではイラクを民主化するという話ですが、その点では。

天木 18世紀、19世紀、武力でその国を征服してその国の国民とか財産を自分のものにする、これが植民地政策です。そうした流れで日本もアジアを侵略した。しかしそれが間違いだというのは、第2次大戦が終わった1945年の時点で合意したわけです。ただ1つそれをやめてないのがアメリカなんです。ある数字によるとアメリカは戦後から2000年までの間に40の国の政権をひっくり返したといわれています。何も今回の中東に始まったわけじゃなくて、他の独立した国の政治を自分たちの都合のいい形にしようと内政干渉して、場合によっては軍事介入して変えてきたというのがアメリカなんです。ところがアメリカが圧倒的に強いから、誰もアメリカを罰することができない。中東各国は伝統的に独自の宗教を持っていて独自の社会がある、それを他所の国が変えるということ自体がとんでもない間違いです。
 今回のイラク人捕虜の虐待を見ても、アメリカイズムっていうのは決して崇高なことをやっているんじゃなくて、人権無視がはっきりしている。「主権国家」「平等」というような戦後の国連を中心とした国際社会の考え方と相入れないわけです。

小西 現在の国連や今後の国連のあり方についてどのように捉えていますか。

天木 国連については様々な議論があります。そもそも発足のきっかけが戦勝国の集まりでだから今でも日本とかドイツが敵対国とされ、その辺りの心情的な反発もあったりする。しかし発足時はともかく戦後60年近く経った現在では、全ての国が国連に加盟し、もはや世界で唯一の独立国が集まる国際機関だと私は思います。だから、いかに現在が不完全であってもそれぞれの国の立場をある程度制限しても国連に委ねるという努力をしないと、いつまでたっても国連は育たない、あれは役に立たないと言って排斥するのは間違いだと思うのです。
 その上で軍事の面だけでなく、技術力とか文化面での国際協力も取り組んでいく。残念なのは、日本には固有の世界にアピールできる価値があると思うのですが、戦後あまりにもアメリカに従属してきたので、日本固有の政策を世界に示してこなかった。日本独自の世界に誇れるものは守っていくべきだし、それを世界に発信していくべきだと思います。

小西 日本の誇れるものの1つは、やっぱり憲法だと思います。

天木 私も平和憲法はその1つだと思うのです。あそこまで平和を謳っている憲法は世界にない、他方ではあまりにも理想的だとも言われています。非武装中立というのは非現実的であると憲法を変えようとの動きもあるけれど、平和憲法を変えてしまったらもう普通の国―軍隊を持ち戦争をする、になってしまう。そうすると日本は、本当に世界に誇れるものは何もなくなっていってしまうのではないでしょうか。

平和あればこそなのだから

小西  『さらば外務省』の中で「憲法は時代に合わせて、変えるべき時は変えた方が良いけれども、変え方の問題」という感じで書いてあったと思うのですが。

天木 あの本を書いて1年ぐらい経った今、考え方が少しずつ変わりつつあります。憲法ができた当時、完全に武装解除されて本当の意味で軍隊ゼロになった。それこそ理想的な姿で、武器をなくすことを宣言することに依って他国に脅威を与えず、従って他国から攻められることもないと。しかし、それはあまりにも理想的過ぎるじゃないか、少なくとも自衛隊だけは持つべきで、さらには自衛隊を海外に出そうというようになってきた。憲法の条文はそのままにしながら実体はどんどん離れてくる状況はあまりにも危険である、むしろ憲法は書き換えて平和憲法の趣旨を明確にした方がいいと思ったりもしました。ところがそれを言うと、じゃあどこまで変えるかという議論になっていって、より平和的な方向で憲法を変えることはまずあり得なくて、自民党が言っているような方向で変えていく、歯止めが効かなくなる。そういう意味で私は今すぐに憲法を変えるという議論を急いでやる必要はないという考えに傾きつつあるのです。
 私も含めみんな戦争を知らない世代になってしまっている。戦争がいかに悲惨なものか。平和があって初めて勉強ができて、あるいはボランティア活動ができて、あるいは人を好きになって、そうした日常が全て失われる。

小西 僕たちも、将来人を救う仕事である医者になる立場で、戦争は相反するものとして反対していかなければいけないと考えています。最後に医学生に向けて何かメッセージを。

天木 権力者というものは真実を明かさないし情報公開もしない。新聞の報道の裏側を自分なりに読んで今の世の中の動きをつかんだ上で、さらに疑いの目を持って見て欲しい、そして情報公開を求めていって欲しいと思います。

司会 天木さんの憲法9条に対する立場が1年前と変わったと伺ってうれしく思いました。
天木 人は常に学ばなければならない、柔軟な頭で謙虚に世の中を見ていかないといけないのです。小泉首相のように勉強もしようとせず自分の思い込みでどんどん突っ走るのは最悪ですね。




天木直人さんとの対談を終えて

こんな短期間に医師を成長させる場所はそうそうありません

小西 潤
昭和大学6年

「今政府は、イラク派兵さらに年金問題にしても、アメリカ追従と自らの保身のみを考え、そのための法律づくりにあけくれているように見えます。さらにこのままの流れで憲法まで変えてしまうなら、僕達が社会の中心を担う時代に明るい未来は望めません。今僕達に必要なのは何なのでしょうか。天木先生のお話を聞いて、世の中で起きていることを的確に捉え、メディアに流されず、何が多くの人々に安心と安全をもたらすのかを自ら考えること、が大事だと思いました。

こにしじゅん

部活はバスケ。へたくそではあるけど、バスケをやるのはおもしろいです。趣味はクラシックギター(最近まったく弾いてないですけど)、その他もろもろ。学生最後の夏休み(もしかしたら人生最後?)を有意義に過ごすことが今の目標です。そのなかで将来に向けて、どんな医者になるか考えたいです。



資料
憲法より抜粋
第二章
戦争の放棄

第九条
【戦争放棄、軍備及び
交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第三章
国民の権利及び義務

第二十五条
【生存権、国の生存権
保障義務】
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。



HOME臨床研修病院紹介実習案内・奨学生制度医学生のつどいイベント・情報メディウイング全日本民医連TOP