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民医連医療の記事

「住み慣れた地域で、最後まで安心して」をささえる運動と事業をすすめよう/第5回介護・福祉事業責任者会議をおえて/全日本民医連 事務局次長 林 泰則

 昨年11月、第5回介護・福祉事業責任者会議が開催され、43県連から計191名が参加しました。
 第1日目は、問題提起と補足報告(統括レポート)のあと、横山壽一金沢大学教授の情勢講演(本誌18〜26頁掲載)と指定報告(本誌10〜17頁掲載)、特別講演「自立支援法と障害者福祉」(白沢仁障全協事務局長)が行われ、2日目はシンポジウム、福祉用具事業の分科会が企画されました。会議以降の情勢の新たな動きや課題もふくめ、ポイントを紹介します。
※今回の会議の資料は、全日本民医連ホームページにアップされています。あわせてご参照ください。

I 介護保険をめぐる情勢と各地のたたかい


1.改正介護保険法の矛盾と制度改善を求める運動

 改正介護保険法実施以降、様ざまな矛盾が各地で噴出しています。焦点のひとつは、介護認定と予防給付です。状態と認定結果との著しい乖離、予防給付における軽度者のサービス制限、福祉用具の「貸しはがし」、その結果として病状・病態の悪化や身体的機能の低下、生活継続の支障などの事態が広がっています。
 各地のたたかいとして、自治体に対し、特殊寝台の利用継続の独自助成を求める滋賀・大津市、長野・松本市での取り組みが報告されました。いずれも粘り強い働きかけを通して今年になって助成を実現させています。
 昨秋、厚労省は現場や利用者の声に押され、特殊寝台の利用実態に関する緊急調査を実施し、今年2月に「例外給付の判断方法の運用の見直し」を打ち出しました。この間の運動がつくりだした重要な成果といえるものです。しかし、不十分な内容をふくんでおり、重ねて改善を求めるとともに、すべての自治体が遵守するよう働きかけていくことが必要です。
 大阪からは、社保協と連携しながら、介護保険料の不服審査請求を通して、府下の8割の自治体で独自減免を勝ちとった経験が報告されました。今後、税制改正などによるさらなる負担増が待ち受けています。経済的理由による利用中断や手控え、生活の困難を生まないよう、自治体に対して実効性のある負担軽減策を求める必要があります。
 山梨(甲府)、東京(杉並)からは、地域包括支援センターの厳しい実情とともに、自治体に向けた体制・財政的保障を求める運動について報告がありました。
 利用者・高齢者や現場のリアルな実態や要求に基づき、共同組織や他団体とも広く連携しながら、引き続き制度の改善を行政に迫っていきましょう。

2.医療構造改革、障害者福祉と介護保険
(1)医療費削減の「受け皿」としての介護保険
 問題提起では、具体化されつつある医療構造改革が、医療の枠内にとどまらない、介護・福祉、保健分野をふくめた一体的な改悪であることを述べています。介護保険は医療費適正化(=削減)の受け皿としての位置づけがいっそう強められています。
 当面、都道府県に策定が義務づけられた「地域ケア整備構想」が焦点になります。この中には「療養病床の転換プラン」とともに、その転換先・受け皿として、老健、居宅系サービス、在宅サービス、在宅医療の整備計画が盛り込まれるなど、今後の地域の基盤整備のあり様に直結する内容がふくまれています。
 慢性期の入院医療機能の維持・強化をふくめ、住民本位の計画を策定させる都道府県段階でのたたかいは、今後の事業展開にとっても重要な課題です。
(2)障害者自立支援法との「統合」
 厚労省は、2009年の障害者自立支援法との「統合」に向けて、介護保険の被保険者の範囲の見直し(若年層からの介護保険料の徴収)の検討をすすめています。自立支援法の最大の問題点は、応能負担から応益負担に転換させたことであり、その結果、利用中断など生存権侵害というべき実態が広範に広がっています。特別講演では、障全協の白沢仁事務局長から、「介護保険と障害者の関係者がどう手を握りあい運動できるか、これからの課題にしてほしい」との熱いメッセージと期待が語られました。
 地域の障害者団体と連携し、自立支援法の改善、拙速な「統合」反対の運動を強めていくことが求められます。

II 介護・福祉事業をすすめる基本的視点


1.高齢者、地域をめぐる状況

(1)高齢化、格差化・貧困化の進行
 地域での高齢化が進行する中で、独居、老老世帯、認知症高齢者が確実に増えているとともに、診療報酬などの制度改悪によって、在宅での中重度者も増加しています。昨秋取り組んだ「高齢者生活実態調査」は、社会全体の「格差化・貧困化」の中で、高齢者の生活をめぐる困難がいっそう拡大・深化していることを改めて浮き彫りにしています。
 問題提起では、地域の中で、「生活の場、療養の場を奪われ、『住み慣れた地域に住み続けること』そのものに深刻な困難が生じている」ことを重ねて強調しています。
(2)激変する地域医療・福祉
 そうした中、療養病床削減を柱とした医療・介護の一体的な改悪のもとで、地域の医療・福祉環境が大きく変えられようとしています。ポイントのひとつは、在宅の概念の転換が図られたことです。居宅系サービスも「在宅(自宅以外の在宅)」と位置づけ、医療、介護は「外付け」で提供し、「看取り」もふくめて対応することが強く打ち出されました。それに照応する形で、在宅療養支援診療所を軸とする療養拠点整備、居住系サービス・特定施設の体系整理、介護保険施設の機能の再検討などがすすめられています。
 この流れは、制度上「医療」「介護」「生活」を切り分けた上で、新たな「機能分担と連携」を確立し、総じて、「医療」から、“国にとって安上がり”な「介護」、さらに「生活」に全体をシフトさせる方向です。今般の療養病床の削減・廃止、介護保険の中重度へのシフト、施設での居住費・食費の自己負担化など、その線に沿った具体化です。
 医療費・介護給付費削減先にありきの「上からの」再編・体系化に断固反対するとともに、地域で様ざまなネットワークを広げ、医療、介護・福祉の総合的な提供体制を再構築していく課題に真正面から取り組むことが、いま私たちに求められています。


2.3つの基本視点をつらぬいて

 高齢者の生活実態、制度の動向などをふまえ、問題提起では、改めて介護・福祉事業の3つの基本的な視点を整理しています。
(1)高齢者の生活と人権を守り、事業を守り広げる「たたかいと対応」の視点
(2)地域の要求に応え、医療・保健・福祉を総合的に展開する視点
(3)安心して住み続けられる地域づくり、まちづくりの視

 この視点にたち、「住み慣れた地域で『最後まで安心して』をささえる」をキーワードに、今後の介護・福祉分野での事業と運動を推進していくことを確認しました。

III 「最後まで安心して」をささえる新たな事業課題


  1日目の「統括レポート」では、「最後まで安心して」を具体化する8つのテーマに基づき、各地の取り組みが報告されました。
・在宅生活をささえる拠点づくり
・地域で暮らし続けられる住まいの保障
・医療との連携強化、24時間365日対応
・軽度者をはじめとした生活支援の強化
・介護予防、健康づくりの積極的推進
・施設に求められる役割と基盤整備
・あらゆる場面での相談機能の強化
・自主事業(助け合い事業)の展開


1.在宅生活ささえるサービス拠点づくり

 ひとつは、「介護が必要になっても自宅で生活したい」との願いに応え、在宅の利用者・家族の介護と生活を多面的にささえる取り組みです。

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写真1 ケアセンターもみじ台(北海道・協立いつくしみの会)

 写真1は、北海道・協立いつくしみの会の単独ショート施設「ケアセンターもみじ台」です。協立いつくしみの会は、特養ホーム「かりぷ・あつべつ」を中心とする社会福祉法人ですが、情勢の厳しさが増す中で、「かりぷの後退は福祉の後退」という視点を改めて確認し、「利用者がいま困っていること(=ショートは数ヶ月前から予約が必要で利用が困難)」に正面から応える立場で、単独ショート施設を実現させました。もみじ台地区は古い市営住宅街で高齢化率が高く、低所得層の多い地域です。デイサービス、訪問介護を併設した20床・全室個室のショートステイは、地域からは「暖かいお家」と呼ばれ低所得層も入れる施設として、他事業所からの紹介もふくめ利用が大きく広がっているとの報告でした。
 認知症への対応事業として、認知症デイ(認知症対応型通所介護)が、滋賀、大阪をはじめ各地で広がっています。

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写真2 いまやまの家(福岡・親仁会)

 新たに制度化された小規模多機能居宅介護1)が注目されました。統括レポートでは、熊本・芳和会「よやすの家」、福岡・親仁会「いまやまの家」が紹介されました。前者は宅老所(94年開設)からの移行、後者は新規開設です。2日目のシンポジウムで、福岡「いまやまの家」の報告を受けました(写真2)。利用定員は、登録が20、通い12、泊り4、職員は非常勤ふくめ8名で、昨年8月の開設以降、「認知症の周辺症状が改善」「表情や行動が豊かになった」など、自宅に近い環境で職員や地域とのなじみの関係を築けるという「小規模・多機能」ならではの特徴が発揮されています。採算上の厳しさが指摘されていますが、登録者の確保、利用者の介護度などによって事業性を確保できる事業であり、福岡でもそのような見通しをもって奮闘しています。民医連内では長崎、山形などで開設が予定されていますが、市町村によって対応に差があり、全国的に整備がすすんでいる状況ではありません。この事業を広げ、定着させていくために、報酬をふくめた制度の改善を求めていく必要があります。
 石川、宮崎などで、06年報酬改定で新設された療養通所介護2)の開設準備がすすめられています。


2.高齢者の「住まい」づくり

 様ざまな事情で「自宅で暮らし続けられない」高齢者が増えており、介護や生活の安心を保障する「住まい」づくりが新たな事業課題として浮上しています。強行されようとしている療養病床の削減・廃止への対応としても重要なテーマです。
 「住まい」を考える上で、有料老人ホームや高齢者賃貸住宅3)は現行制度上重要な選択肢となっており、検討・建設に着手するところが増えています。昨年4月から、食事・介護などの提供の実態がある「高齢者アパート」について、有料老人ホームとしての届出が義務づけられた点にも留意が必要です。

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写真3 虹の家おうら(山形・庄内医療生協)

 統括レポートでは、山形・庄内医療生協(まちづくり協同組合)として2ヶ所目となる「虹の家おうら」が紹介されました(写真3)。宿泊可能なデイサービス施設として開設し、居宅介護支援、訪問看護を併設した多機能型の住宅です。5万円台の低額で入居できるとともに、即日の泊まり(ショート)にも柔軟に対応できる環境を整え、地域からたいへん喜ばれているとのことです。あわせて、庄内医療生協の診療所併設型の住宅型有料老人ホーム「三川」(入居一時金なし、家賃3.5万円、食費3.2万円)が紹介され、配食サービスや訪問介護など多機能をそなえた「サポートセンター三川」もふくめ、地域を丸ごとささえる総合的な計画がレポートされました。


3.地域に根ざし、知恵を集めて

 紙幅の事情で統括レポートの内容をすべて紹介できませんが、他にも医療との連携、リハビリ事業、介護予防・健康づくり、助け合い活動など、各地の多彩な取り組みや新たな挑戦が報告されました。
 フロアからは長崎・健友会の「戸町ケアセンター」(介護事業や有料老人ホームと学童保育との多世代共生型施設)、神戸・駒どりの「白川台会館」(地域の文化運動を引き継ぎ、まちづくりの拠点としての住宅・多機能介護施設)、岩手の自治体の補助を受けた「さわやかハウス」(岩手町)など多彩な報告がありました。
 住み慣れた地域で「最後まで安心して」をささえるために、医療との連携をいっそう強化し、地域や共同組織の知恵を集め、民医連の役割を大いに発揮していきましょう。

IV 法人事業部の確立と強化


  介護・福祉分野の課題は量的にも質的にもたいへん増えており、片手間ではすすみません。新たな事業展開や、法的整備、経営・管理、職員の配置や養成などの日常的な事業運営に対応する事業部の役割がいっそう重要になっています。
 2日目のシンポジウムでは、川崎医療生協の事業部の取り組みが報告されました。介護事業部長に就任して以降、事業所に足を運んで現場の実態把握と課題の具体化、介護職員アンケート調査や懇談の実施、専任ケアマネジャーの配置など、ここ2年間の取り組みの経過が報告者自身の悩みや問題意識とともに紹介され、日々苦労を重ねている多くの参加者の共感をよび、参考になる内容となりました。
 責任者の位置づけについては、地域の実態や現場の実情を把握し、法人のトップに直結して方針提起、情報発信ができるポジションの確立と専任配置が必要との重要な指摘もありました。
 地域の要求に応え、医療、介護・福祉事業を総合的にすすめていくために、法人として位置づけを明確にした、機動的な事業部体制の確立、責任者の配置をすすめていきましょう。

おわりに


  責任者会議の感想文では、「『最後まで安心して』というキーワードがすとんと胸におちた」「各地の多彩な取り組みが報告を聞き、こんなことができるんだと心が高ぶる思い」など積極的な声が寄せられました。改めて「地域が何を必要としているのか」を明らかにし、医療もふくめた総合的な展開を図るための戦略と計画が求められています。
 今後は、各地協での事業交流や方針・予算の議論、情報交換などの取り組みが重要です。地協責任者会議の定例開催や個別事業の交流会、研修会など、地協での取り組みをいっそう推進していきましょう。

1)地域密着型サービスとして創設。利用者の状況に合わせて「通い」を基本に「泊まり」「訪問」などのサービスを組み合わせ、日常生活の支援や機能訓練を行う。小・中学校区を単位に市町村が計画に基づいて整備。利用定員は最大25名で、介護報酬は月あたりの包括制。
2)難病や癌末期など在宅の中重度者を対象に、日中の預かり、入浴、食事などを行う。定員は5名以内、訪問看護ステーション併設型が多い。
3)専ら高齢者を賃借人とする賃貸住宅で都道府県に登録する。一定の要件を満たせば有料老人ホームの届出が免除され、特定施設への移行も可能。管轄は国土交通省。