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民医連医療の記事

指定報告2/介護・福祉と歯科の連携/全日本民医連歯科部副部長 歯科医師 江原雅博

はじめに 歯が残ることの大切さ

 

 要介護高齢者の日常における関心事(施設で楽しいこと)について、厚生労働省や各種の調査によるとテレビの視聴、入浴、食事、などが上位を占めており、食が大きな関心事項になっています。

 なぜ、口腔機能の向上が必要なのかというと、摂食機能障害が起こると低栄養・脱水がおき、褥瘡や誤嚥性肺炎などの気道感染が起こりやすくなり、運動機能も低下し、旅行・外食・買い物・孫と遊びたいなどの高齢者の楽しみの喪失につながります。

 兵庫県歯科医師会が2001(平成13)年5月に行った調査によると、80歳で20本の歯が残存している達成者と非達成者別医科平均点数は、達成者のほうが医療費は21%近く少なかった」という報告があります。福島県の調査でも同じような結果が出ており、達成者の受診率は高いが入院の割合は半分以下で、一人あたりの医療費は年間の20%にあたる13万 9000 円少ないとされています。

 日本における20本以上歯を持つ人の割合は、1974年では50歳台で半数を割る状況でしたが、近年では急速に改善し、最新の調査では80歳で20%を確保したとも言われています。国際的には達成している国もある中で、日本は第4グループ「10本以上残存しても、60歳を境に加齢につれて極端に減少する国」とされ、2030〜2040年に達成が予想されています。しかし、この間の医療や福祉・介護の改悪を見ると、この達成予想も相当先に伸びていくことが予想されます(図表1)。

 

図表1

 

口と全身

 

 近年、「口と全身」との科学的解明が進み、歯周病菌と肺炎、心内膜炎、低体重児出産、動脈硬化、糖尿病などの関連が報告されています(図表2)。

 

図表2

 

 特に高齢者の直接死亡原因上位にある肺炎は、「外部からの病原菌等」が原因ではなく、加齢や何らかの疾患による口腔内の変化や不顕性誤嚥等の嚥下障害等により、「口腔内で増殖した肺炎原因菌を肺に誤嚥することで肺炎を発症している」と言われています。

 これらは、口腔ケアを行って口腔内衛生を保つことで原因菌の増殖を抑制し、口腔リハビリを行うことにより誤嚥等の摂食嚥下障害を予防できます。つまり、口腔内状態や摂食機能を回復・改善することにより、全身栄養状況の改善につながります。

 

歯科の関わりで、しっかり噛めるようになりアルブミン値も改善

 

 昨年12月の『民医連新聞』でも紹介された、岡山・玉島歯科診療所の「医科歯科連携のNST口腔ケアで栄養改善」の報告です。

歯科のかかわりで、しっかり噛めるようになりアルブミン値も改善。線維腫を摘出、義歯製作
写真
術前
写真
術後

 対象患者さんは自分の歯で充分な咀嚼ができる人は約1割のみで、残りの約9割が充分な咀嚼をするには義歯が必要な人です。その約半数は、義歯使用上の問題を抱え、うまく噛めない人でした。 60 代の男性は上下無歯顎で、上顎義歯が不安定で外れやすく、咀嚼障害がありました。上顎歯肉部には、これまでの不適合義歯により「ビラビラした歯ぐき(線維腫)」ができていました。この浮動性の歯肉が、義歯の安定性と吸着力を阻害した原因でした。歯科では、不適合義歯を調整し、線維腫の摘出と歯肉の形態修正手術を行いました。その後、新しい義歯を製作しました。その結果、食事介助も円滑になり、摂取量も増えました(写真)。

 このように歯科が加わることで、口腔の問題を解決し、栄養改善できた症例がしばしばあります。しかし、後期高齢者の多い施設では、すでに歯科治療が困難な人も少なくありません。とりわけ義歯作製は、指示に従って口の開閉や噛みしめができないと困難です。高齢者でもADLが高い時に、しっかり噛める治療をする重要性を感じています。

 

口腔ケアの困難性

 

進めようと努力しているのになぜ進みにくいのか?

 (1)在宅歯科訪問診療の評価が実態と異なり、制限が強化され、訪問診療を望む患者等の要望に応えられないこと。(2)施設や居宅においても歯科の医学的口腔ケアに対する評価が低いこと。(3)介護保険では、介護認定における歯科医の主治医の意見書が出せないこと。とりわけ認定調査票における口腔に関する調査項目は、洗顔、整髪、つめきりなど身の回りに関する項目と一緒にされて、口腔清潔などの項目が不十分なことが問題です。介護保険法見直しのために行われた介護予防市町村モデル事業の口腔ケアにおける「口腔アセスメント」と比べてみると格段の差です。

 

口腔ケアを実際に取り組むにあたって

 

 歯科併設でない病院の場合では、看護・介護職種が主体として取り組む必要があります。推進が困難な病院・施設管理者に対するアプローチは、(1)少人数の口腔ケア・スタディグループを結成し、(2)病棟師長→総師長→院長・管理者に対し「口腔ケアの科学的根拠・効果・推進方法・利益」を文書として訴えていく、(3)そして、管理者自身は外から評価を得るため、学会・研究発表会など「従事者の積極的な提案の行える機会」をつくることが必要です。

 

おわりに

 

私たち歯科が現場で感じていること

 ほとんどの施設や在宅で、口腔清掃が放置されているか、効果が上がるほどされていません。一見自立しているような高齢者でも、適切な水準のブラッシングが実現できている人はほとんどいません。歯科治療をして咀嚼機能を改善させる必要があります。

 また、施設入所では食事の摂取能力が低下する事例があり、歯科訪問だけの口腔ケア単独では大きな成果を生みにくく、やはり日常の食事の場面や口腔ケアの場面でかかわる人びとが協力して意識的に口腔機能の向上を取り組むことが重要です。