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連載 安全・安心の医療をもとめて(55)
宮城・長町病院

回復期リハビリテーション病棟での転倒・骨折事故予防
最終回 転倒と身体抑制・精神神経系薬剤との関係
(水尻強志リハビリテーション科医師)

 第三回医療安全交流集会(三月三〜四日・福岡)の分科会「転倒転落事故の予防」で基調講演した、宮城・長町病院院長、リハビリテーション科医師・水尻強志さんの寄稿の三回目です。

転倒と身体抑制

 身体抑制は、関節拘縮や筋力低下などの身体的弊害、精神的苦痛やせん妄の惹起(じゃっき)などの精神的弊害をもたらし、本来のケアにおいて追求されるべき高齢者の機能回復という目標と、正反対の結果を招くおそれがあります。また、看護・介護スタッフの士気の低下を招き、病院や施設への社会的不信を引き起こします。
 ペンシルバニア大学のEvansらによる「老人抑制の神話」(一九九〇年)という論文には、転倒と身体抑制との関係に関し次のような記載があります。
 「『老人は転倒しやすく、転倒すると大きなけがになってしまうので、拘束するべきである』という神話がある。しかし、文献研究によると、実際は拘束が実施された時に転倒に伴う外傷が増えている」。
表  Evansらは、ナーシングホームにおける抑制を減少させるための介入研究を行っています(一九九七年)。各施設を、抑制に関する教育を行った群(教育群)、教育に加え相談に対応した群(教育+相談群)、コントロール群の三群に無作為に割り付け、比較を行っています。
 結果を表(右上)に示します。抑制率は、コントロール群では四〇%台で変化がありませんでしたが、教育+相談群は三二%から一四%に低下しました。ロジスティック回帰分析を用いると、コントロール群は教育+相談群と比べ、オッズ比で四・七倍(二・四〜九・三倍)抑制使用率が高いという結果となりました。介入後の転倒率は、コントロール群でむしろ高く、重大事故は教育+相談群では生じませんでした。以上のことはスタッフ数や抗精神病薬の使用増加なしに達成されました。

身体抑制の状況

 当院でも、身体抑制をできる限り行わない方針にしています。実際、狭義の身体抑制である抑制帯、ミトン、つなぎ服、車イス安全ベルトの使用率は病棟全体の一〇%台前半にとどまっています。広義の抑制である四点柵、センサーマット、離院ペンダント、監視カメラを含め、ご家族へ説明を十分行い、同意書をいただいてから実施しています。さらに週に一回定期的にカンファレンスを行い、代替的方法がないかどうかを検討しています。
 一方、「身体抑制ゼロ」という表現には違和感を覚えます。欧米の論文をみても、抑制の減少、最小化という表現が用いられています。離床を促すための一時的手段として車イス安全ベルト使用が必要であれば、ためらわずに実施しています。

転倒と精神神経系薬剤

 精神神経系薬剤使用により、転倒の危険性が増加します。Cambellら(一九九六年)は、睡眠薬を含む向精神病薬漸減(プラセボ使用)と運動プログラムの組み合わせについて、ランダム化比較試験を行いました。向精神病薬漸減のハザード比は〇・三四(〇・一六〜〇・七四)となり、有意に転倒を減少させています。
 また、Leipzigら(一九九九年)は、高齢者における薬物と転倒に関するメタアナリシスを報告しました。精神神経用薬使用のオッズ比は、一・七三(一・五二〜一・九七)と有意に転倒と関係しています。一方、精神科入院患者では、向精神病薬使用のオッズ比は〇・四一(〇・二一〜〇・八二)となり、むしろ減少しています。
 当院では、精神神経薬剤使用が転倒発生に悪影響をおよぼすと考え、入院時にできる限り睡眠剤などを使用しないことを説明しています。ただし、精神科疾患がある方では、必要に応じて精神科医に相談しながら精神神経用薬剤を使用しています。

安全性と活動性の両立を

 回復期リハビリテーション病棟では、安全性と活動性の両立が何よりも優先します。そのためにも、個々のスタッフの専門性向上と同時に、カンファレンスを励行し、チーム全体の意思統一をはかることが何よりも重要です。
 三回にわたり、回復期リハビリテーション病棟での転倒・骨折事故予防のお話をいたしました。なんらかの参考になればと思います。
 これで連載を終了します。

 

 

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