民医連新聞

2005年1月3日

盗塁の数だけ車イスを贈り続けたい インタビュー 阪神・赤星憲広選手

 盗塁一個につき車イス一台を施設や病院に贈っているプロ野球選手がいます。阪神タイガースの赤星憲広選手(28)。一七〇㌢の小柄ながら自慢の俊 足を生かし、〇四年は自己最多の六四盗塁をマーク。セリーグ盗塁王にも輝きました。一一月三〇日、車イス贈呈式が阪神甲子園球場の室内練習場で行われまし た。人工芝の緑に、赤の車イス六四台と黄色のリクライニング仕様の一台が映えます。応募総数三五〇件の中から、抽選で選ばれた全国の病院、施設に贈られま した。赤い彗星、赤星選手に大阪・西淀病院看護師の林純子さんがインタビューしました。
(鐙(あぶみ) 史朗記者/写真・豆塚 猛)

 はじめられたきっかけは?
赤星 子どものころから福祉に興味がありましたし、プロ野球選手になって社会に「何かしたい」と思っていました。
 きっかけは二つあります。ホームページに、「走っている姿を見て勇気づけられます」という、足の不自由なファンや障害を持ったファンからのメッセージが たくさん寄せられていることがひとつです。
 もう一つは、僕がプロに入った一年目の四月、東京遠征中に、ある家族から「ファンです、がんばってください」と声をかけていただきました。プロになった ばかりで、東京に僕を応援してくれる人がいることがすごくうれしかったんです。その家族と手紙をやりとりするようになりました。その家族には、僕と同じ二 〇代の娘さんがいました。翌年、彼女が骨肉腫になりました。「足を切断しないと命が危ない」と医師にいわれても、彼女は踏み切れずにいたんです。ちょうど 僕が右すねを骨折して入院し、リハビリをしている時期と重なりました。僕が復帰したときに、彼女が「赤星さんはがんばって復帰した」と、足の切断を決めた んです。それから車イス生活になって…。残念なことに、今年一月に亡くなりました。
 そんな経過で、「できることはないか」と考えました。盗塁は僕の一番の武器ですし、「盗塁の数だけ車イスを贈ろう」と、〇三年からはじめています。

 病院や施設からの反応は?
赤星 初めての年は、四一台を贈りました。病院や施設から、お礼のメールやハガキをたくさんもらいまし た。「取り合いになるほど人気です」とか「何にも興味を示さず、引きこもっていた子どもが、阪神戦を見るようになった。赤星さんを応援していますよ」と喜 んでいただいて、「やってよかった」と思いました。車イスが足りない施設や病院もたくさんあるんですね。「たくさん贈れるようにもっと走らなくては」と、 思いました。盗塁を決めたときに「よしこれで車イス一台だ」と思うし、すごくやりがいを感じています。

 赤い車イスですよね。
赤星 自分の名前の〝赤〟ですし、シートも全部赤にしました。リクライニングの特製車イスだけは、タイ ガースカラーでいこうと決めて、シートを黄色に、ほかは黒にしました。サインを入れるのと背番号五三のステッカーを貼るのも、僕のこだわりです。車イスは 一台五~六万円ですが、すべて僕のポケットマネーから出しています。

 チャリティーショップもされてますよね。
赤星 はい、ホームページで。新潟の被災地にも一〇〇万円の義援金を贈ったのですが、その一部はこの収益金から贈りました。

 赤星さんの活動が、ほかの選手につながっていくと思うのですが。
赤星 僕はマスコミにとりあげていただいて目立っていますが、他にもいろいろとボランティアしている選手は多数います。若い選手もどんどんやってもらえれば、と思うんです。「プロ野球選手はこんなこともしているんだ」と、喜んでもらえると思います。

 私が勤める病院の入院患者さんには、阪神ファンがたくさんいて、選手の活躍がとても励みになってます。
赤星 「病気で長期入院をしなければならないのですが、赤星さんのがんばっている姿を見て、私もがんばろうと思います」「赤星さんに勇気をもらっています」などの言葉をたくさんいただきます。選手としてうれしいです。
 施設や病院で元気のない方が阪神戦を見て喜んで、元気を出してくれると思うと…。僕らは「もっと夢を与えたい」、「もっと喜んでもらいたい」という思いでいます。

 次の福祉活動として考えていることはありますか?
赤星 まず一番身近な甲子園球場に、車イスの方とか体の不自由な方たちが観戦に来られる環境をつくるこ とかな、と思っています。甲子園球場はバリアフリー化されていません。身障者用のトイレもないのです。すぐにもできるところから改善し、今後、甲子園球場 を改修するときには、バリアフリー化をお願いしたいと思っています。昨年の契約更改の時にそのことを要望したのですが、今年もその話をしようと思っていま す。

 今後の夢は?
赤星 僕がプロ野球選手として、あと何年やれるかわかりませんが、三、四個しか盗塁ができなくなっても、引退するまで車イスを贈り続けたいと思っています。一つでも多く贈れるようにがんばりたいです。

 医療従事者にメッセージを。
赤星 僕の想像がつかないぐらい、相手に気持ちのケアとか心配りとか、たくさん苦労があると思います。 僕も障害のある方と話す機会がいろいろあるのですが、どんな言葉をかけてあげたらいいのか、わからないことがあります。「僕もがんばるから、あなたもがん ばってください」とか、「テレビ見て応援してください」ぐらいしか言えないのです。みなさんの力は、すごく大事だと思います。がんばってほしいと思いま す。

 今日は、お忙しいところありがとうございました。

(民医連新聞 第1347号 2005年1月3日)

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