民医連新聞

2005年1月17日

白血病の子どもに薬を イラク医療支援調査 アンマンレポート<上>

 昨年一二月六~一一日、イラクへの医療支援を調査するため、全日本民医連の大河原貞人次長が国際ボランティアセンター(JVC)の佐藤真紀さんに 同行し、イラクの隣国、ヨルダンの首都アンマンに飛びました。現地滞在は三日間、支援の窓口になっているJVCが諸国のボランティアとも連携し、国際的な NGOと同等の活動を展開し、信頼を得ていることを知り、医薬品の買い付けの取引現場にも立ち会い、ルートの確かさを確認しました。また、ヨルダン政府が 行っているイラクの子どもの医療支援プロジェクトや難民キャンプの様子も目の当たりにしました。同次長のレポートです。

[1日目]

 前日夜にアンマン入り。翌朝、「アラブの子供となかよくする会」の西村陽子さんと合流しました。最初の行き先は ヨルダン王立・キングフセイン癌センターです。湾岸戦争後、イラクの子どもたちに白血病や小児ガンが激増したため、このセンターが無料で受け入れ、治療し ています(イラク中から患者が殺到するため「イラクの病院から紹介→同国保健省が認可→同センター」と受け入れ方が決まっていた)。
 この援助は九七年、ヨルダン王女が国内の富裕層に募金を呼びかけてスタート。王室や米国俳優のポール・ニューマンは独自の基金も設立。〇三年から、政府 が一六人、ポール・ニューマンが一四人、王室が四人、自費が一四人の計四八人の治療を続け(うち三人が死亡)、家族の生活も援助しています。

隣国は無料で医療支援

 センターに足を踏み入れたとたん、前日にイラクから治療で来ているサルマちゃん(10)のお母さんに出会いまし た。彼女は「バグダッドを脱出するバスが強盗(アリババ)にあい、所持金すべてを失ったの」と、待合室の大勢の人の目も気にせず大声で怒り、イラクの不安 定さを訴えました。私たちは彼女に当面の生活費をカンパし、励ましました。
 小児科の責任者・ファリス医師からは治療内容について聴きました。
 治療は、治る見込みのある子に骨髄移植や抗ガン剤投与など一クールを一~三カ月で行っています。再発の恐れもあるので、三年間継続する予定です。医療スタッフには医師の他、SW、心理士、看護師集団なども関わっていました。
 また、これまでにイラク人医師一三人と看護師一〇人を受け入れ、研修を行いました。普段の研修は三日間ですが、秋から三人の医師を三年間の長期で受け入 れました(修了後はヨルダンの医師免許も取得になる)。イラクの医師との相談機能も持っていました。しかし、医薬品を送ることは危険なため休止していまし た。また、世界各地から一〇〇~二〇〇人の医師が定期的に訪れ、カンファレンスをしているそうです。
 一番の悩みは、お金集めだそうです。各基金は底をつき、「財政的にもう続かない。無料の治療だと思っている患者からお金を取らなければいけない」と、センター広報責任者のルーラ女史は語りました。
 私たちは日本の戦争加担政策にあらためて怒りを覚えました。「イラクへの自衛隊派遣費の一〇〇分の一でもこういう人道医療支援にまわせば、国際貢献として評価されるのに」と。

配送ルートの確かさを確認

 夜はバクダッドに白血病の治療薬を送っている「アラブの子供となかよくする会」に同行し、薬の手配を担当する薬 局経営者のAさんと運送を担当する運送会社経営者のBさんに会いました。二人はJVCや「なかよくする会」の協力者です。二人とも商売人ですが、危険を承 知で手助けを続けてくれています。これまでの実績と人柄を知り、信頼できることが分かりました。
 また、Aさんの事務所ではキングフセイン癌センターに研修に来ているイラク人医師・イサさんと、急きょ懇談できました。同医師は「戦争が終わって、みん な良くなると考えていたが、なぜこういう風になったか分からない」と心を痛めていました。
 二日、三日目に行った、イラク国境ルウエイシェビットの難民キャンプの様子と、国連難民弁務官事務所での懇談内容は次号で紹介します。

白血病の治療に来た家族は…

 また、基金で治療を受けている二組の家族にお会いしました。
 五歳九カ月のアハマド君は父親のサムラさん(45)と二人でバクダッドから来ました。戦争終了後に白血病と診断され、イラクで数カ月治療しましたが薬が なく、病院同士の交渉でヨルダンへ。兄弟と、IOM(国連)の援助で近くのアパートを借りました。母親と二人の娘は、治安が悪いバクダッドを出て、実家に 避難したそうです。
 「アメリカが憎い。侵略しなければこういう事態にならなかった。それはイラク人みんなの思い」と、お父さんは話しました。
 イブラヒムさん(43)はバスラから、白血病で入院治療中の妻(35)につきそって来ました。ポール・ニューマン基金で、娘ファティマちゃん(3っ)と アパート暮らしです。妊娠中に白血病がわかった妻は、五〇〇㌘の双子を早産しました。
 現在、生後八カ月の赤ちゃんたちは、ヨルダン人のボランティアが育ててくれていますが、お父さんには赤ちゃんたちに会いに行くタクシー代の捻出もままなりません。

(民医連新聞 第1348号 2005年1月17日)

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