民医連新聞

2005年2月7日

あなたの職場におジャマしまーす(10) 富山 市江やすらぎの郷 小規模だからこそ1人ひとりを大切に

高齢者介護は、大きな施設での集団的ケアに替わり、少人数ケアが注目されています。こぢんまりした一軒家でデイサービスをする「市江やすらぎの 郷」もその一つ。厚生労働省が打ち出した「地域分散型サテライトケア」を、自治体に予算をつけさせて先駆け的に実現しました。住み慣れた地域で、日常生活 の延長線上で一人ひとりに合わせた介護サービスを提供しています。周囲に田畑が広がり、雪をいただく立山連峰を望む富山市水橋地区の事業所を訪ねました。 (荒井正和記者)

 「おはようございます」――靴を脱ぎ、部屋に上がると、居間のテーブルを囲んで、利用者さんが話していました。座っていたのは男性一人、女性六人です。
 職員は三人。介護福祉士の加藤まゆみさん、相談員の林佳子さん、ヘルパーの中島道子さんです。
 「今年の柿はやわらかくて」と利用者さん。加藤さんは、「あっ、かたい柿の方がお好きですか」と受けます。昨日は柿を取りに外出。その場で皮をむいて食べたのだそうです。
 柿の話題で盛り上がり、加藤さんは「まだ木にたくさん成っていますから、好きなだけ召し上がって!」と、笑わせました。利用者さんが一日楽しく過ごせるよう、気を配りますす。
 同事業所のデイサービスにはプログラムはありません。昼食のために米をといだり、おかずを取り分けたり、茶碗や箸を片づけたり、生活の中で普通にする動 きをリハビリにしていました。利用者さんは「どうぞ」と記者にもコーヒーを入れてくれました。
 屋内だけに限りません。柿をとりたくなったら庭に出たり、買い物に行きたくなったら、近くのショッピングセンターにも出かけます。一人ひとりの希望がプログラムを組み立てていくかのよう。
 地域の人たちとの交流も自然体です。季節の花や野菜などを届けてくれたり、大正琴の演奏に来てくれたり。「家族の介護の参考にしたいから、中を見せて」と訪ねて来ることもあります。

 とやま虹の会では、水橋地区の中でも高齢者の多いこの地域にデイサービス施設をつくりたいと考えていました。老健レインボーへ送迎すると、遠い人では一時間を車にゆられるからです。大規模ケアも問題になっていました。
 そんな時、厚生労働省が出した「地域分散型サテライトケア」を知りました。地域の民家などを活用して、小規模で多機能なサービスを提供するというもの。 しかし、国は予算をつけません。そこで同会も加わる「福祉をよくする会・介護保険事業計画策定懇話会」は富山市と交渉。「小規模ケア施設事業への助成」を 求めました。その結果、市は二〇〇三年度、五カ所の補助を決め、同事業所は第一号となりました。

 市江やすらぎの郷の建物は納屋を改装したものです。その前で、納屋を貸してくれた斎藤家の主婦、真子さんに会い ました。「活用してもらい、とってもうれしい。私も義父の介護を長くしていましたから」と。斎藤さんは地域の民生委員の会長をしています。「虹の会の職員 は地域のためにようやる。いろいろな介護施設を見ていますが、全国のどこより、ここは良い」と自慢しました。

 同事業所の利用者さんは平均年齢八二歳。七割が要支援、介護度1の軽度要介護者です。介護保険「見直し」で、サービスが受けられなくなるのでは? と、不安を訴えます。
 とやま虹の会は老健や特養を運営する中で、住民の介護福祉に関するニーズを行政に出し、ねばり強く話し合ってきました。そして、生活困窮者も積極的に受け入れてきました。「福祉をよくする会」の中心をも担っています。
 「この施設をつくれたのもそのおかげ。自治体は国の予算削減にさらされてはいるけれど、福祉をよくしたいという思いは私たちと一致しています。事業所が できて、住民ともより身近に結びついたし、自治体や諸団体とも手を携えて、厚労省の『見直し』をくいとめる道を開きたい」と、加藤さんは決意しています。

(民医連新聞 第1349号 2005年2月7日)

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