民医連新聞

2005年2月7日

政府の介護保険見直し案 新たな困難生む 全日本民医連、2つの介護調査から

 介護保険の改定法案が二月八日、閣議決定され、通常国会に上程されました。二〇〇〇年に施行後、初めての制度見直しは、軽度者の給付抑制や 施設での居住費・食費を自己負担にする、など利用者に大きな打撃を与える内容です。全日本民医連は同日、「国民不在、『財政の論理』を優先させた給付抑 制・負担増の改定案に反対する~憲法25条にもとづき、高齢者の生存権を保障する介護保障制度の確立を強く求める~」との会長声明を発表しました。またこ のほどまとめた「軽度者への影響」と「施設の自己負担に関するアンケート」の二つの調査結果を発表して、二月一〇日に厚生労働省と交渉、介護保険の改善に 向けた運動をよびかけています。

「軽度者の影響調査」でわかったこと

 二〇〇四年七月にケアプランを作成した利用者のうち、要支援、要介護1の人の現状について、担当ケアマネジャーが回答。六〇六三件の情報が寄せられました。

 七五歳以上の後期高齢者が全体の四分の三(七四・三%)に達しています。家族構成は、四割が独居、老老世帯は二割。介護者については、四割が「介護者なし」。また、「介護者あり」という回答であっても、その七割が介護者一人というもの。

 日常生活の自立度は、四割強が「介助がないと外出できない」人たちです。

 家族構成や経済状況など、様ざまな生活条件をかかえる多くの軽度者やその家族が、介護サービスを利用することによって、在宅での生活を続けられていることを、今回の調査結果は語っています。

 約七割の人が、訪問系のサービスを利用。掃除や買い物、洗濯などの家事援助、「精神的ささえ・生きがい」などの他に、「転倒予防」「認知(痴呆)症状の悪化防止」という、予防にかかわる援助も行われていました。また、介護者の負担軽減になっていることも見逃せません。

介護サービスが制限されれば軽度者の在宅生活はなりたたない

 今回の見直しの柱の一つ「軽度者に対する給付の見直し」は、今までの介護サービスの利用や内容を制限し、新たに創設する介護予防(「新予防給付」)へと振り替える、という内容です。

 「要介護状態にならずに、元気で暮らしたい」というのは、多くの人の願い。そのためにも介護予防活動は、積極的 にとりくまれるべきです。しかし、今使っている介護サービスの利用や内容を新たに制限して行うことには賛成できません。調査が示すように、軽度者の在宅生 活は、介護サービスなしには維持できないからです。「介護サービスが制限されれば、在宅での生活に懸念がある」と回答されたケースは、九割以上です。 QOLやADLの低下、病状悪化などが多く指摘されています。

 また、訪問介護などの既存サービスを「予防を重視した内容に変えて提供する」と説明されている「新予防給付」に 関して。新しくつくるという「予防訪問介護」一つとってみても、いま行われている「家事援助」を内容ごとに細分化・標準化する方向で、介護報酬も低く押さ える(二分の一から三分の一という)といわれています。「細分化・標準化」のイメージは明らかではありませんが、問題は新予防給付の対象とされている層で す。「痴呆自立度」で「正常」「Ⅰ」の人が該当し、調査のケースの八割近い利用者にあてはまります。

 利用者がいままでどおりの生活を続けられるのか? また、サービスの質が保障されるのか? 非常に不安です。

「施設の自己負担に関するアンケート調査」から

 一二の特別養護老人ホームと、二四の老人保健施設から「施設の自己負担に関するアンケート」が寄せられました。

 特養の入所者は、七割が非課税世帯、二割が利用料の減免を、七割が食事の減免を受けていました。老健でも、三割が非課税世帯、食事の減免を受けているのは四割です。

 この調査からは、施設の居住費・利用料や食費の減免を受けながら、入所を継続している利用者の実態が明らかになりました。そんなところに新たな居住費、食費の負担が加われば、入所そのものが困難になります。

居住費・食費が自己負担になれば低所得者は施設入所できない

 食費が自己負担化されると、政府モデル(要介護5)で、個室で月一三万四〇〇〇円(利用料含む)、多床室でも八 万七〇〇〇円(同)になります。これは約三万円もの負担増です。保険料区分「新第四段階」は、本人非課税の層ですが、これだけの負担ができないと、施設入 所ができません。

 「国民年金が月四万円の時代に、介護保険施設には厚生年金の受給者しか入れなくなる」「入所者のほとんどが自分 の年金額、またはそれに家族が資金援助して費用を払っている。居住費や食費が全額自己負担になれば、ほぼ全員が入居の継続が困難になる」。入所者や家族か ら聞いた強い不安の声を施設職員は寄せています。


 

「財政の論理」優先では介護保険はよくならない

  厚労省は、介護保険見直しの基本視点を、保険財政からみた「制度の持続可能性」の確保を目的、と掲げています。「財政の論理」優先で給付抑制・負 担増の方向への見直しは、特養入所待ち三四万人、費用負担が重すぎて必要な介護も受けられないなどの、現在の介護保険の矛盾を解決できません。

 軽度者の給付制限や、「新予防給付」導入は、低所得者、独居、老老世帯など、困難層の介護サービス利用を今以上に難しくし、在宅生活を続けられなくなる人さえ生みます。結果的に介護費用増大につながり、「介護予防で給付費を押さえる」との政府の意向にも矛盾します。

 施設の居住費、食費の自己負担化は、低所得者の施設入所を排除します。制度の谷間に落ち込み、制度から排除される高齢者など、あらたな困難層を相当規模で生み出しかねません。毎月の年金額より多い自己負担を課す制度は「公的な介護保険」とは呼べません。

 調査のまとめで、全日本民医連は次のように要求しています。

軽度者の給付の見直しと「新予防給付」について

(1)軽度者への介護サービスの制限はやめ、現在の生活を継続できる介護サービスの保障を

(2)予防給付は、軽度者のみ対象の「新予防給付」でなく、現行の介護保険サービスに加え、充実させる内容で制度化すること

(3)予防給付の実施には、利用者の生活実態や意向の尊重を

(4)地域支援事業は、介護保険でなく、公費の市町村事業に

施設給付の見直しについて

(1)施設(ショート含む)の居住費、食費の自己負担化をやめること

(2)通所サービスでの食費の自己負担化をやめること

(3)施設、通所以外でも、居住費、食費の自己負担化を行わないこと


 

 “利用者さんの実情知って”
介護職、ケアマネら厚労省に要請

 全日本民医連は、二月一〇日、厚生労働省と交渉を行いました。今回の介護保険の「見直し」案に対し、二つの介護調査結果も携え、利用者の実態に沿った形で見直すよう求める内容です。全日本民医連は一五人、厚生労働省からは三人が出席しました。

 このうち、在宅介護や介護施設からかけつけたのは一〇人の職員です。「四一人の状態調査を行った。軽度者の介護 給付が外されれば在宅生活は維持できない、今の見直しでは、かえってダメ」、「ヘルパー支援が自立を妨げる、との厚労省の見解に仰天。軽度者には障害を持 つ人が多く、家事援助のニーズは大きい」「入居費や食費が課せられれば、低所得者が施設におれず、行き場もなくなる」現場の実態や利用者の声をつぎつぎと 訴えました。

 最後に、全日本民医連の林泰則次長は「誰にとっての見直しなのかを再度考えてほしい」と述べ、あわせて、今回の 見直し法案が、国民の声を集めることはおろか、内容も示さず、国会に上程された問題を指摘。パブリックコメントや公聴会など、現場や国民の声を聴く努力を 求めました。

(民医連新聞 第1350号 2005年2月21日)

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