民医連新聞

2003年3月1日

見解「『医療事故』、『事件』と私たち民医連の立場」への感想・意見をひきつづき識者に聞きます

私の意見<3>見解 「『医療事故』『事件』と民医連の立場」に

東洋大学教授 片平冽彦さん

“何重もの防護機構が必要”に同感“倫理性”を第一において

 田中まゆみさんの著作『ハーバードの医師づくり』を読んで強く思ったのは、「医療の無謬性・完壁主義」を前提に していては医療事故の問題は解決しない、「医療事故は起きるものだ」という立場で対策を考えるべきだ、ということです。『薬害スモン』の著者の一人でウイ ルス学者の故・甲野禮作さんは、「戦は錯誤の連続で、ミスの少ないほうが勝つにすぎない」という言葉を引用しています。医療の現場も、とりわけ救急外来の ようなところは、いわば戦場のようなものです。ミスは必ず起きると思わなければいけません。
 医療事故をゼロにすることが理想ですが、現実問題として、小さなミスも含めていかにミスの数を減らすか、そして重大事故にならないようにするか。「見 解」の?にある「何重もの安全防御機構をつくる」ことが重要だと思います。人間はいろいろな場面でミスをおかします。だから一人のミスが事故につながらな い「フェールセーフ」が大事です。労働安全の標語に「不注意でも安全な職場」というのがあります。「不注意でも安全な医療」が百パーセントは望めなくて も、「重大な事故につながらない医療」は絶対に必要でしょう。

先行事例を教訓に

 「薬害」の研究に携わった経験では、先行事例は必ず貴重な教訓を残しています。それを生かせば、次の発生や拡大を防げるはずです。薬害と医療事故は同じ ではありませんが、ともに客観的に見れば「防ぐ力」と「起こす力」の拮抗の破綻で発生するといえます。「起こす力」が上回ったとき起きる。「起こす力」に は、積極的に推進ないし促進する強い力、あるいはそれほどの力ではないが傾ける力があると思います。「防ぐ力」も同様に直接的に阻止する力や、間接的に妨 げたり抑制する力といったものがあると思うので、そうした観点で分析することが必要です。
 医療事故は大小種しゅの要因で起きるのであって、一個人の「不注意」だけで起きるのではない。「見解」の「だれが起こしたかだけでなく、なぜ起きたのかを多角的に分析する」ことに同感です。
 山内桂子・隆久夫妻の『医療事故』では、「現場は忙しすぎないか」と、過重・過密労働の問題を取り上げています。私はさらに、その背景にある「低医療費政策」と「社会保障切りつめ・切り捨て政策」を見る必要があると思っています。

倫理を第一義に

 川崎と京都の問題は、性格が違いますね。倫理の問題です。私はいま埼玉協同病院の倫理委員なので、この問題についても考えています。弁護士の中野麻美さ んが「死に至る過程を人間的に生きる権利」のことを言い、「人間らしく死ぬ権利」は「医療人の視点では?」というような指摘をしています。実は私も喘息に なった経験があり、死ぬほどの苦しい思いをしました。ですが、その発作の中で「死なせてほしい」とは決して思いませんでした。医療人には、患者が死に直面 した場でも「最期までがんばって生きること」を支援してほしいと思います。
 もう一つ、事故・事件を防ぐ責任は医療従事者にあるけれど、患者やその家族の方も医療を理解し、発言し行動することが必要です。これが患者自身を守るこ とになると思います。私も病院に入院したときに心がけたのですよ。「うるさい患者」と思われるかも知れないけれど、お互いを守ることになると思います。た とえば点滴について、患者への説明が不足しているように感じました。施行者は説明しながら考えるし、患者から質問があれば点検するでしょう。
 医療の現場に、患者オンブズマンのような存在が必要だと思います。センんでいる不安全なものを見つけ、未然に防ぐしくみが必要でしょう。「見解」の立場で倫理性を第一において、科学性を第二にして、とりくんでほしい。

薬害つづく可能性高い

 「薬害」はいまだに連綿と繰り返されています。「起こす力」が極めて強いのです。「安全性軽視の資本の論理」があるからです。私自身がスモンなど薬害の 社会的原因を解明する研究をつづけるなかで、幾度となく抵抗にあい、強く思ったことです。国は「薬害再発防止」とは言っても「薬害を根絶する」と言わな い。そして一時しのぎの対策しか取っていない。これまでもそうでしたが、企業の医薬品の開発・販売の支援には熱心でも、被害者の救済と薬害根絶には不熱心 である。昨年の国会で、薬事行政の中核的業務を独立行政法人に委ねる法律が通されました。薬事行政が新薬の早期承認の方に力を注ぎ、「アクセルばかり踏ん で、ブレーキが効かない」状態になる恐れがあります。イレッサの問題はまさにその象徴です。
 民医連では、薬害・副作用のとりくみは薬剤師が中心になっていますね。医師や看護師の方にも積極的にとりくんでもらいたいと思います。薬害は根が深く、今後も続く可能性が高く、加害者にさせられる恐れも強いですから。

(民医連新聞 第1302号 2003年3月1日)

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