民医連新聞

2005年4月4日

医療の「安全文化」めざして 第2回医療安全交流集会開く

 第二回医療安全交流集会を三月一一~一二日神戸で開き、三七一人が参加しました。第一回の集会以降の活動を交流し、対策を学びあうとともに、「後追いの安全対策」から「予防の安全対策」に転換する、大きな飛躍台にすることが目的でした。
 肥田泰会長があいさつ。第二回評議員会方針にふれ、「看護師の配置不足と過酷な労働が深刻化し、医療の安全も脅かしている。これは医療界全体の問題であ り、国民的な課題に押し上げるために、秋にも第二のナースウエーブを展開したい。医労連とも協議している」と語りました。

民主的集団医療を発展させよう

 問題提起を五十嵐修理事が報告しました。要旨は、医療事故の背景に患者の高齢化・重症化、在院日数の短縮、看護現場の困難などがあること。民医連は警鐘 的事例の検討から、安全情報を発信し、「相互点検・学習運動」をすすめ、顧問弁護士、リスクマネージャーの交流会を開き、各地協・県連・事業所でのとりく みをすすめたこと。医療事故を取り扱う第三者機関について、「防止」と「被害者救済」を軸にすることを要望していること。国は事故等の報告を義務づける一 方、処分の厳罰化も打ち出していること。こうした状況のもと、民主的集団医療をさらに充実させ、患者の人権を守るとりくみを発展させ、安全・安心・信頼の 医療(福祉)を前進させようというもの(詳細はホームページを参照)。
 二県連、一地協、一事業所からの指定報告と、注射事故の相互点検で四題の報告がありました。分科会は四つで、講演、体験実習、参加者との討論などでした(別記)。

「人間」を考えた安全策とは

 二つの講演は、エラーやミスの防止を、人間工学や心理学の知見から考えたもの。講師はそれぞれ、航空機事故と鉄道事故の解明・防止に実践的に関わり、医療事故の研究もすすめている方がたでした。
 日本ヒューマンファクター研究所長の黒田勲さんは、事故防止の基本的な考え方を解説。「リスクマネージャーの忙しさがリスクを招きそうな」医療現場で、 安全文化を築くための提言として、「意識せずとも、自然に安全行動をしているような作業環境と雰囲気づくり」を強調しました。また「医療事故には被害者は 二人いる。患者と医療関係者である」とのべ、無(む)謬(びゅう)主義にこだわって失敗者を排除するような組織風土から脱却することが大切、とのべまし た。
 ナイトセッションは芳賀繁立教大学教授の講演でした。

コミュニケーションが課題に

 二日目は一〇人程度の分散会で意見交換しました。介護関係職員からは「家族にもリスクを説明し、理解を得ることが大切」「患者・利用者の苦情を説明や謝 罪だけでなく、職員教育の場にする」。医師からは「同じ医局にいても専門科を越えて討論することが難しい」との声、弁護士から「明確な基準が定まらない事 案も多い。十分な論議が必要」との意見も。他職種からは「医師とのコミュニケーションを良くするにはどうしたら?」という悩みや、「薬剤師の参加が役立っ た」との経験が出され、率直に意見が交されました。

第1分科会 胃チューブ管理  誤挿入による重大事故を防げ

 宮城・長町病院の水尻強志医師、愛媛・新居浜協立病院の山岡伸三医師が報告し、コメンテーターには東北大学病院のゼネラルリスクマネージャー・庄子由美さんを招きました。
 水尻医師は、胃チューブ誤挿入事故に関する国内外の文献を集め、紹介。この症例研究は日本ですすんでおらず、危険性もあまり知られていません。欧米の文 献からは、気管内への誤留置が稀ではないこと、気管内挿管や気管切開、意識や認知機能に障害があるケースに危険性が高いことが報告されています。水尻医師 は、重症患者の確認には胸部X線を使うよう繰り返し呼びかけました。
 また次のような対策を提案しました。①重症患者の場合、X線での確認を考慮する、②比較的軽症の患者では、空気音聴取+胃液吸引といった確認法に加え、注入時の対策を強化する、③長期栄養管理を行う場合には、胃ろうを第一選択肢にする。
 山岡医師は、新居浜協立病院で起こった胃チューブ事故の教訓と、再発防止のとりくみ内容を報告。参加者からも質問があいつぎ、熱心な討論が行われました。

第2分科会 転倒転落  骨折しない床材も紹介

 基調講演は国立長寿医療センターの長屋政博さん。転倒する場面をビデオで示し、どのような人が、いつ、どのくらい転倒し、骨折はどこに起きるか、大腿部 骨折した場合に医療・介護費用はどのくらいか、調査に基づいたデータで報告しました。また転倒予防プログラムの実際と成果を図で解説。ヒッププロテクター は装着していれば効果はあるが、高齢者には着けにくく敬遠されることから、転んでも安全な床材が有効とのことでした。また「運動療法を主体にしたリハビリ では転倒予防は難しく、総合的な対策が必要」とまとめました。
 高知市健康づくり課・吉永智子さんが「いきいき百歳体操の開発と普及」で、高知版の筋力トレーニングの効果と課題を報告。はる設計の浦田俊徳さんが「転 んでも骨折しにくい床材」を紹介、鹿児島生協病院の堀之内ルミさんが「急性期一般病院での転倒・転落の対策のまとめ」を報告。患者さんや家族の思いもカン ファレンスに反映している経験でした。転倒予防に役立つ介護用品の展示もありました。

第3分科会 警鐘的事例  バリアント・ツリーで検討

 集約した五三例の概要説明の後、数例について経過表を示し、参加者を交え意見交換しました。この経過表は「バリアント・ツリー・シート」と呼ばれ、横軸 には「患者の状態」「当事者の行動(たとえば看護師)」「他のスタッフの行動」などを配置し、縦軸には下から時間経過を記入したものです。事故発生に至る までの経過を順に記入することで、原因などを明確にするのに役立ちます。日本ヒューマンファクター研究所が推奨しています。
 事例検討では「漏れると危険な点滴を夜間に実施することの是非」「急性アルコール中毒で受診した患者が、合併症の検査を拒否した場合、緊急の場面で家族 に事情をどう説明するか」「点滴ルートの清潔保持については、耳原の経験をしっかり学ぶ必要がある」「栄養管理チーム(NST)の活動によって点滴を見直 し、リスクを減らすことが可能」「戦略的エラー対策の第一ステップは、危険を伴う処置そのものを減らすこと」など、重要な意見交換がされました。

第4分科会 CRM体験実習  チームでの事故防止めざして

 六人で一チームを構成し、一三チーム七八人が参加しました。
 「皆さんの意識を変えます」と、日本ヒューマンファクター研究所の桑野偕(とも)紀(き)さんが講演。対人関係に焦点を当てたCRM(クルー・リソース・マネジメント)が、安全で質の高いチーム医療を提供する手法であると紹介しました。
 まずは、五分間で送り手が複雑な図形を言葉で説明し、受け手に描いてもらう実習をしました。参加者は言語によるコミュニケーションの難しさを体験しました。
 グループワークでは、ミス事例を「M―SHEL」手法で分析し、各項目において原因と対策を話し合いました。と、同時にビデオに記録された作業の様子を振り返り、チーム作りを学びました。
 短時間でしたが、参加者は「明日から相手に分かりやすいコミュニケーションを心がけたい」などと積極的な感想を寄せました。

(民医連新聞 第1353号 2005年4月4日)

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