健康の豆知識

2008年6月1日

(得)けんこう教室/「食中毒」予防は大丈夫?/菌を付けない、増やさない、殺すが基本

折田圭大 宮崎生協病院消化器内科

 食中毒とは、有毒な微生物や化学物質を含む飲食物を食べた結果起こる健康障害のことをいい ます。多くは急性の胃腸障害(嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの症状)を起こします。(1)細菌性食中毒、(2)ウイルス性食中毒(冬期に多いノロウイル ス、ロタウイルスなど)、(3)化学性食中毒、(4)自然毒食中毒(フグ、トリカブト、毒キノコなど)、その他に大別されます。

kenkou_2008_06_01 厚労省の統計から2006年の食中毒発生状況(表)をみると、病因別ではノロウイルスとカンピロバクター、サルモネラ属菌によるものが多くなっています。

「細菌性食中毒」の主な原因菌

 今回は、梅雨時から夏にかけて多い「細菌性食中毒」を中心にお話しします。

 カンピロバクターは、食肉やその加工品で感染します。鶏肉の汚染率が高いため、加熱不十分な鶏肉などがこの食中毒の原因となります。口に入れてから発症するまでの時間は2~7日間です。

 サルモネラ菌は、牛・豚・鶏などの食肉・卵類から感染します。特に鶏卵を原料とする加熱不十分な食品が原因となることが多く、発症までの時間は8~48時間です。

 腸炎ビブリオは、海洋性細菌で夏場に海水の温度が 20℃以上になると急速に増殖し、魚介類に付着して運ばれます。魚介類の加工や流通販売、調理の各段階で、不衛生な取り扱いをすると菌が増殖し、それをそ のまま食べた人が食中毒になります。また、生の魚介類を調理した後の包丁やまな板などの調理器具や手指を介して、他の食品が汚染され(二次感染)、食中毒 が発生する場合もあります。発症までの時間は12時間前後です。

 大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在しほとんどのものは無害ですが、いくつかのものは下痢などの消化器症状や合併症を起こすことがあります(病原性大腸菌)。

 毒素をつくり出血をともなう腸炎や、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす腸管出血性大腸菌とよばれるものの代表が、みなさんもご存じの「病原性大腸菌O157」で、そのほかに「O26」や「O11」などが知られています。

 腸管出血性大腸菌の感染では、まったく症状がないものから、頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし、時には死に至るものまで幅があります。

 しかし多くの場合、おおよそ3~8日の潜伏期をおいて頻回の水様便で発病します。さらに激 しい腹痛を伴い、まもなく著しい血便となることがあります。これが出血性大腸炎です。発熱はあっても、多くは一過性ですが、症状のある方の6~7%の人が 下痢などの初期症状の数日から2週間以内(多くは5~7日後)にHUSや脳症などの重症合併症を発症するといわれています。激しい腹痛と血便がある場合に は、とくに注意が必要です。

 その他、食品の中で増えた細菌がつくった毒素が原因で起こる、毒素型の細菌性食中毒もあります。黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌による食中毒は毒素型で、感染型に比べ短い時間で発症します。

安静と水分補給を十分に

 下痢の治療の基本は、安静、水分補給、消化しやすい食事などです。一番の心配は脱水ですが、口から十分に飲めるなら市販のスポーツドリンクやアイソトニック飲料がいいでしょう。

 発熱、下痢のため倦怠感が強い場合は点滴が必要になるため、すぐに医療機関にかかりましょう。

 市販の下痢止めは細菌やウイルス、あるいは毒素を体外に排出しにくくする可能性があるので 安易に使わないようにしましょう。また血便、粘液便や粘血便は重症の可能性がありますので、必ず受診してください。とくに小児や高齢者では、病状が急速に 進み重症化しやすいため、早めに医師の診察を受けましょう。

食中毒を防ぐには

 家庭でできる食中毒予防のポイント(下項)です。食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」です。「6つのポイント」はこの三原則からなっています。

 これらのポイントをきちんとおさえ、家庭から食中毒をなくしましょう。


家庭でできる食中毒予防6つのポイント

【ポイント1】 食品の購入

■肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮な物を購入する
 肉や魚などの水分がもれないようにビニール袋などにそれぞれ分けて持ち帰る

■冷蔵や冷凍が必要な食品は最後に買い、すぐ持ち帰る

【ポイント2】 家庭での保存

■冷蔵や冷凍の必要な食品は、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる

■冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎに注意。めやすは7割程度

■冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下に維持することがめやす。細菌の多くは-15℃では増殖が停止するが、死ぬわけではない。早めに使いきること

■肉や魚は、冷蔵庫の他の食品に肉汁がかからないようにする

■肉、魚、卵などは、取り扱う前と後に必ず手指を洗う。せっけんを使い、流水で十分に洗い流すことが大切

■食品を流し台の下に保存する場合は、水漏れなどに注意。また、直接床に置かない

【ポイント3】 下準備

■台所は整理整頓し、清潔に。ふきんなどは乾いて清潔なものを

■井戸水は、水質に十分注意

■手を洗う。生の肉、魚、卵を取り扱った後や、途中で動物に触ったり、トイレに行ったり、おむつを交換したり、鼻をかんだりした後の手洗いも大切

■肉や魚などの汁が、生で食べる物にかからないようにする

■生の肉や魚を切った後の包丁やまな板で、果物や野菜など生で食べる食品を切らないこと。洗って熱湯をかけたあと使う。包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にあると安全

■ラップしてある野菜やカット野菜もよく洗う

■冷凍食品は室温で解凍すると、食中毒菌が増える場合がある。解凍は冷蔵庫の中や電子レンジで。水を使う場合は、気密性の容器に入れ、流水を使う

■解凍は料理に使う分だけにし、解凍したらすぐ調理する。冷凍や解凍を繰り返さない

■包丁、食器、まな板、ふきん、たわし、スポンジなどは、使った後すぐ洗剤と流水で良く洗う

【ポイント4】 調理

■加熱して調理する食品は十分に加熱を。中心部の温度が75℃で1分間以上加熱すれば、食中毒菌がいても殺せる

■電子レンジを使う場合は、レンジ用の容器を使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜること

【ポイント5】 食事

■清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつける

■温かく食べる料理は常に温かく、冷やして食べる料理は常に冷たく。温かい料理は65℃以上、冷たい料理は10℃以下がめやす

■調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置してはいけない。例えば、O157は室温でも15~20分で2倍に増える

【ポイント6】 残った食品

■残った食品は早く冷えるように浅い容器に小分けして冷蔵庫へ

■時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てる

■残った食品を温め直す時も十分に加熱を。味噌汁やスープなどは沸騰するまで加熱する

■ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てる

いつでも元気2008年6月号

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