健康の豆知識

2008年7月1日

(得)けんこう教室/「熱中症」は予防できます/日ごろから汗をかき、水分補給をしっかり

池田信明 大阪・耳原鳳病院神経内科

 毎年夏になると、熱中症が話題になります。「熱中症で倒れる人が相次ぎ、埼玉など6都府県で11人が死亡。気温が高かった東京、埼玉、群馬、岐阜の各都県と名古屋市だけで約350人が病院に搬送された」。これは、2007年8月17日、朝日新聞朝刊の記事です。

体温調節ができなくなって

 熱中症は暑熱障害ともよばれますが、日常生活での熱ストレスが原因であり、正しい知識と対処があれば防げる病気です。「熱中症」予防にむけた、地域をあげたとりくみが必要です。

kenkou_2008_07_01  死亡統計によると、年によって違いはありますが、熱中症による死亡は年200~500人にのぼります。熱中症がきっかけでおこる、脱水による尿路感染や脳 梗塞(こうそく)・心筋梗塞の死亡も入れれば、もっと大きな数になるでしょう。身近で、時に死にいたる危険な病気なのです。

 人間は恒温動物です。体温を36~37℃の間に保つために、暑いときには皮膚の血流量を増 やして外気へ熱を放散したり、汗をかき、その気化熱によって体を冷やしたりしています。しかし、そのしくみが追いつかず体温調節ができなくなると、体内の 水分や塩分の不足(脱水)がおこり、体温が上昇してしまいます。これが熱中症です。

27℃を超えると室内でも

 熱中症では、表のような症状がおこります。まず多量の発汗。発汗によって塩分が不足し、痛 みをともなう筋肉のけいれんがおきる(こむら返りなど)。脱水の症状として、のどの渇き、尿量の減少、体温上昇または皮膚の乾燥。また脳の血流が悪くなり 全身の機能失調から、めまいや吐き気、嘔吐(おうと)、全身の倦(けん)怠感、脱力感、意識消失、意識障害、全身のけいれんなどがおきます。

kenkou_2008_07_02 気温が27℃を超えると、湿度の高さや日射しの強さの条件が加わって熱中症の発症が増えます。また、体が暑さに慣れるには3~4日かかるとされており、たとえば梅雨の合間に突然気温が上昇した日や、梅雨明けの蒸し暑い日にリスクが高くなります(左図)。

 また、最近では生産現場やスポーツの場面だけではなく、日常生活でも「散歩中、海、自転車乗車中、バス停でのバス待ちなどの屋外」や、「室内で家事、飲酒、店番などでも発症」していると、環境省「熱中症保健指導マニュアル」も指摘しています。

 年齢別では、すべての年齢で発症しています。高齢者は発汗などの体温調節機能が落ちています。さらに暑さの感覚が鈍く、のどの渇きを感じにくいなど、とくに注意する必要があります。

 高温(多湿)の環境にいた人が、発熱、多量の発汗(逆にまったく汗をかかない)、頭痛、め まいや吐き気、失神症状をおこせば熱中症の可能性が高い。すぐに涼しい場所に移し、体を冷やし、水分を補給しましょう。それでも改善がみられず、自力で水 分がとれなかったり、意識がもうろうとしている場合は、医療機関を受診する必要があります。

涼しい施設への避難も考えて

 予防として暑さに強くなるためには、体温調節機能を高める必要があります。日ごろから適度な運動をして汗をかくことが、汗腺機能を維持するのに効果があるとされています。

 水分をこまめに補給しましょう。毎日体重を測定し、急激に減っていないかチェックしてくだ さい。日本体育協会も「体重の3%の水分が失われると、運動能力や体温調節機能が低下します。運動による体重減少が2%を超えないように水分補給を」とよ びかけています。補給する水分は水か麦茶がいいでしょう。汗を多量にかいた時は0・1~0・2%の塩分を含んだ水、スポーツドリンクを飲んでください。

 また、高温の環境をなるべく避け、熱が発散しやすく風通しがよい服装を心がけましょう。室 温が28℃を超えないようにクーラーを上手に利用しましょう。日中の暑い時は、スーパーや図書館などの涼しい施設に避難することも生活の知恵です。運動は 24℃を超えれば常に熱中症の危険があります。給水対策を意識しておこない、31℃を超えた時は避けるようにしましょう。

 厚生労働省は、暑さ指数を示す、WBGT(湿球黒球温度)を測定することを推奨しています。日本体育協会はそれにもとづく運動指針を出しています。療養環境の測定や共同組織の行事での事故防止のために活用が望まれます。

室温30℃以上の家が72%も

 大阪民医連は2004年から「熱中症予防のための緊急調査(在宅療養者訪問行動)」を毎年おこなっています。2007年も475人の調査をおこないました

 寒暖計がある家庭はほとんどありません。クーラーのない家が16%、クーラーがあっても2時間未満しか使用していない家が33%でした。室温が30℃以上になっている家が72%もありました。

 とくに、経済的困難を抱える人、認知症で独居の人が高温環境にうまく対処できていませんでした。熱中症のリスクは社会的弱者に厳しく襲いかかっています。社会的支援が必要です。

 地域から熱中症死亡事例を出さないように知識を広めましょう。熱中症の危険が高い、梅雨の 合間の急に暑くなった日、梅雨明けの蒸し暑い日などに、職員と共同組織が力をあわせて訪問活動ができればすばらしいと思います。また共同組織の行事で熱中 症患者を出すことのないよう、万全の対策をしましょう。

いつでも元気2008年7月号

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