健康の豆知識

2008年12月1日

(得)けんこう教室/トンズランス菌白癬とは?/柔道部員に流行っている皮膚病

真家興隆 山形・鶴岡協立病院皮膚科

 みなさんは「トンズランス菌白癬(はくせん)」という病気を聞いたことがありますか。いま日本中で、とくに柔道部員に流行っている皮膚病です。

トンズランス菌白癬とは?

 ここ数年で広がった病気なので、まだ知らない人も多いでしょう。今回は、この病気について解説しましょう。

kenkou_2008_12_01  まず「トンズランス菌」ですが、これは中南米原産のカビの一種です(注)。菌の名前の由来は、キリスト教の聖職者が頭のてっぺんを丸く剃(そ)る習慣「ト ンスーラ(tonsure)」からきています。このカビに感染すると、ちょうどトンスーラのように頭がハゲることが多いからです。

 次に「白癬」ですが、足白癬(俗にミズムシ)、股部(こぶ)白癬(同じくインキン)など、カビによっておこる病気のことです。

 日本での白癬の原因菌は、だいたいが「猩紅色(しょうこうしょく)菌」と「メンタグロフィテス菌」でしたが、そこにトンズランス菌が外国から入ってきて、猛威をふるっているというわけです。

肌と肌の接触、抜け毛で感染

 この病気は1995年頃、アメリカ遠征したレスリング選手が、対戦相手との接触感染で国内に持ち込みました。それ以来、肌と肌の触れる格闘技スポーツ(柔道、相撲、レスリングなど)を通じて、国内に広く蔓延しています。

 とくに2001年頃からは、柔道選手のあいだで爆発的に患者が増えています。柔道はほかのスポーツに比べて部員が多く、交流試合も活発で、感染の機会が多いからです。

 おそらく現在、日本の中学校や高校の柔道部で、「この数年間トンズランス菌白癬にかかった部員が一人もいない」という学校は皆無でしょう。

 またこの菌は、肌と肌の接触のほか、菌がついた抜け毛に触れることによっても感染します。そのため柔道部員のみならず、その家族にも患者が広がっているのが実態です。

症状はさまざま、皮膚科で検査を

 トンズランス菌白癬で一番目立つのは、頭部の脱毛です(写真(1)、(2))。このとき頭皮は、赤くなる、腫れる、化膿する、かさぶたができるなどし、切れ毛もみられます。しかし、ハゲがなく、単なるフケ症のように見える場合もあります。

 その他、やや盛りあがった紅い局面(写真(3))ができたり、少し赤くなって皮膚の表層がはがれる程度の発疹(写真(4))など、皮膚の症状はさまざまです。

 柔道部員やその家族で、かゆい発疹や、いままでとは違った症状が多少でもあったら、この病気を疑い、まず皮膚科を受診し、菌の検査を受けることが大切です。

 皮膚科でおこなう診断は、通常のミズムシとほぼ同じです。病変部のはがれた皮膚や毛を顕微鏡で調べて、カビの存在を確認、さらに菌培養でトンズランス菌とわかれば診断が確定します。

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治療は塗り薬をていねいに

 基本的には外用薬で治療します。軽症の場合は1カ月ほどていねいに塗っていれば治ります。ただし脱毛をともなう場合は、菌が毛根深く侵入しているので外用薬だけでは治りません。塗り薬と併用して内服薬(抗真菌薬)を4~6週間、飲み続けることが必要です。

 現在、日本の柔道部員は常に、トンズランス菌感染の危険にさらされています。また、この菌に感染しても、かゆみがさほど強くないときには放置されてしまう可能性があります。本人が気づかないうちに保菌者となり、ほかの人にうつしていることも多いようです。

清潔な環境づくりで感染予防を

 柔道などをしている人は練習や試合のあと、なるべく早めに入浴し、抗カビ剤入りシャンプー(商品名「コラージュフルフル」)で洗髪することがおすすめです。稽古着やタオルは複数枚用意し、毎回、洗濯した清潔なものを使いましょう。

 家庭では、とくに寝室や脱衣所の掃除を入念におこない、抜け毛をとり除くよう心がけてください。

 また、柔道場は毎日、掃除機をかけることが大切です。柔道部担当の先生は、定期的に「肌のチェック」をするよう部員に指導しましょう。万一、本症にかかった生徒が出た場合は、治るまで組み手練習や対外試合を休ませてください。

 これらのことに注意して、トンズランス菌の感染を予防しましょう。

 (注)正確には「トンズランス菌」は、以前から日本にもいました。しかし、現在流行している菌は在来菌と分子型が異なる、別種であることが金沢医科大・望月隆教授らによって確認されています。

いつでも元気2008年12月号

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