健康の豆知識

2009年1月1日

(得)けんこう教室/歯周病の組織再生治療/08年から保険がきくようになった新技術

小崎 哲 岡山・水島歯科診療所

 健康保険で受けられる医療を狭めようとする動きがあります。とくに歯科では、新しい治療法 が健康保険の適用になることはないといわれてきました。しかし、署名活動や集会などで大変盛りあがっている「保険で良い歯科医療を」の運動により、08年 度の診療報酬改定で、いくつかの新しい技術が、健康保険で受けられることになりました。

 その一つが、今回紹介するGTR法(Guided tissue regeneration歯周組織再生誘導法)と呼ばれる治療法です。

歯周病とは

kenkou_2009_01_01 歯を失う原因の代表的なものに虫歯と歯周病があります。虫歯は、「歯そのもの」の病気ですが、歯周病は、「歯を支える歯周組織(図1)」に起こる炎症性疾患で、口の中の細菌が原因で起きます。

 歯周組織とは、歯肉(歯ぐき)、歯槽(そう)骨(歯を支える骨)、セメント質(歯槽骨の中に入っている歯根を覆う硬い組織)、歯根膜(歯槽骨とセメント質をつなぐ強い線維)から成り立っています。

 歯と歯ぐきにくっついている歯垢(こう)(プラーク)は、いわば細菌のかたまりです。プ ラークを付着したままにしておくと、歯周組織を徐々に壊していきます。やがて、歯と歯ぐきの間のすきまに「歯周ポケット」(注)ができ、歯を支える歯槽骨 が減って、ついには歯がグラグラして抜け落ちます。

 歯周病にならないためには、歯垢が付着しないようにすることが何よりも大切です。歯垢を除去することをプラークコントロールといいます。プラークコントロールには、一般的に家庭での歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシなどを使った方法があります。

 また、歯石は歯垢が硬くなったもので、歯面に強く付着しています。歯石は歯ブラシだけでは取り除くことはできないので、歯科医院でスケーラーという器具を使って歯石を除去します。

 歯周病が進行して歯周組織の破壊がすすむと、歯周ポケットが深くなり、スケーラーによる除去が困難になります。そこで歯周病が進行した場合には、歯周外科手術が必要になります。

必要な組織のみを再生

 歯周外科手術とは、歯肉を切開して、目で直接確認しながら歯石やプラークを取り除く手術で す。手術後、歯周組織が完全に元どおりになることが理想ですが、実際には歯槽骨、セメント質、歯根膜は再生されることはありません。病気の組織を取り除い た後は、歯肉が入り込んだ状態となります。

 歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜は、それぞれ再生スピードが異なり、歯肉が一番早く再生するからです。その結果、他の組織の再生が追いつかず、失われた組織を歯肉が補う形になるのです。

 GTR法は、この歯周組織の再生スピードの違いに着目して考え出されました。GTR法は 「創傷治癒の場において、不要な組織の侵入を排除し、必要な組織のみを再生させる技術」と定義されています。つまり、歯肉が入り込まないようにして、歯槽 骨、セメント質、歯根膜の再生を待つわけです。

歯肉が入りこまないよう

 手術の方法は局所麻酔をしたあと、歯肉を切開して、歯根面に付着した沈着物を徹底的に除去します。その後、歯槽骨やセメント質、歯根膜の傷んだところを取り除き、そこに歯肉が入り込まないように「メンブレン」とよばれるテフロン膜を設置し、縫合します(図2)。

 約1週間の期間をおいて、抜糸をします。その後メンブレンの下で、歯根膜、歯槽骨などの組織がゆっくり再生してくるので、新しい組織が満たされるまで治癒期間を待ちます。

 4~8週後に、再度麻酔をしてメンブレンを除去します。新たに再生された歯周組織は、初めのうちは未熟な組織ですが、時間の経過とともに成熟していきます。

 テフロン膜の場合、膜の設置と膜の除去のための手術が2回必要になりますが、手術が1回ですむ吸収性の膜も開発され、使用されるようになっています。

 今回、健康保険の適応となったのは、非吸収性(テフロン膜)、吸収性の2種類の膜を使った手術法ですが、歯周病の状態によってその使い分けがされています。

 また最近では、歯槽骨、セメント質、歯根膜のうち、必要なところにだけ働いて、直接再生を促す方法も開発されています(商品名「エムドゲイン」)。

 これは、豚の歯胚(幼弱な歯)から抽出されるタンパク質で、子どものころ、歯が生えてくる ときに重要な働きをするたんぱく質の一種であるエナメル基質由来タンパク(Enamel Matrix Derivative)です。ただし、この使用については保険適応されていません。

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定期的な受診が大切

 機能的な歯周組織として元どおりになるには、数カ月から1年程度かかります。その間に歯周病の原因であるプラークや歯石が着くと、回復しつつある歯周組織が感染したり、歯周病が再発することもあります。

 ですから、治療が終わったとしても家庭での適切なプラークコントロールと、定期的な専門家によるプラークコントロール(メンテナンス治療)が必要です。

 イラスト・いわまみどり

 (注)歯周ポケット…歯周病になって、歯根と歯肉の間にできた裂け目のこと。歯周病がすすむと、徐々に深くなっていく。

いつでも元気2009年1月号

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