健康の豆知識

2009年2月1日

(得)けんこう教室/花粉症/早めに受診し、症状のコントロールを

今石寛昭 北海道・勤医協札幌西区病院耳鼻咽喉科

 現在、花粉症に悩まされる日本人は国民全体の2割近くにも上るといわれており、近年患者数は増加傾向にあります。

症状はさまざま

 人間には、細菌やウイルスをはじめ外からの有害な異物から体を守るために、「免疫」という 働きがあります。本来、体を守るために備わっているこの免疫システムが、過剰に働いたり変調をきたしたりして、有害ではない異物に反応してしまう結果生じ る現象を「アレルギー」といいます。原因となる異物が花粉の場合、とくに「花粉症」といっています。

 何らかのアレルギー疾患を持っている人が家族の中にいる場合、花粉症になりやすい傾向があ るようです。また大気汚染や生活環境、衛生環境の変化などとの関連も指摘されています。これらのことからも花粉症は、遺伝的要因と環境要因が絡み合って発 症するといえます。しかし現在のところ、その全容は明らかになっていません。

 花粉症の症状としては、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりの三大症状だけでなく、かゆみ、涙、充血など目の症状をともなう場合が多く、そのほかにノドや皮膚のかゆみなどもあります。

 さらに、シラカバやハンノキの花粉症の人が果物や野菜を食べると、口の中がかゆくなったり腫れたりする、「口腔アレルギー症候群」という症状もあります。

飛散量増加に温暖化も影響

 わが国で最も患者数が多いのは「スギ花粉症」です。ほかにもスギ花粉と共通抗原性をもったヒノキ、初夏にはイネ科のカモガヤやオオアワガエリ、初秋にはキク科のブタクサやヨモギなど、現在では約60種類の植物が花粉症の原因として見つかっています。

 スギのような、風によって花粉を運ぶ植物(風媒花)は、虫などが花粉を運ぶ植物(虫媒花)よりも多量の花粉をつくります。花粉が遠くまで運ばれるので、山林から離れた都会でも、患者は重い症状を起こしやすいと考えられています。

 スギ花粉の飛散量は年によって大きく変動します。しかし近年、戦後に植えられたスギが成長し、花粉生産能力が高い状態になっています。また温暖化の影響により、花粉が多く産生されるようになってきているともいわれています。

 海外との比較では、世界的に統一した基準での花粉症の調査がないため、正確な数字は不明です。

 ただ、さまざまな報告から、いわゆる先進国では約10~20%程度の発症率と推測されています。また原因として、日本ではスギが有名ですが、アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科、北欧ではカバノキ科のシラカバと、地域や国によってもさまざまです。

診断と治療

 花粉症は、花粉飛散時期の症状の有無や血液検査などでアレルギー反応を調べて診断します。さらに耳鼻咽喉科では、鼻粘膜を直接みたり、白血球の一種である好酸球という鼻汁中の細胞数を測定し、花粉症かどうか判定します。アレルギー反応があれば、好酸球の値は上昇します。

kenkou_2009_02_01 花粉症の治療は大きく分けると、症状を軽減する対症療法と、根本的に治す根治療法の二つがあります。

 対症療法には「薬物療法」や「手術療法」などがあり、根治療法としては「減感作(げんかんさ)療法」などがあげられます。

■薬物療法

 薬物療法には、点眼薬や点鼻薬をさす「局所療法」と、内服薬などを飲む「全身療法」があります。症状の種類や程度に応じて使い分けます。

 花粉症の症状が出はじめた早い段階では、まだ鼻の粘膜に炎症が進んでいません。したがって、流行する2週間くらい前を目安に治療を開始すると、粘膜の炎症の進行をおさえて、重症化を防ぐことができるといわれています。

■手術療法

 外来でもおこなえる手術として、最近では「レーザー手術(鼻腔粘膜焼灼(しょうしゃく)術)」が普及してきました。これは局所麻酔をし、鼻粘膜の表層を焼灼変性させる10~20分の手術です。粘膜反応の低下や鼻症状の軽症化が期待されます。

 ただし、効果の持続は数カ月から長くて二年程度のことが多く、さらに個人差も大きいことから、治療にあたっては医師とよく相談しましょう。

■減感作療法

 「減感作療法」は、抗原特異的免疫療法ともよばれ、花粉の抽出液を最初は濃度を薄くしたものを注射し、その後少しずつ濃度を上げていき、身体を花粉に慣らすようにさせる方法です。

 2年以上続けた患者さんの約6割が、治療終了後も効果が持続しています。ただ、この治療ができる医療機関があまり多くないことが難点です。

 いまのところ、完治可能な唯一の方法なのですが、完治する率は必ずしも高くありません。また副作用の問題や治療に長い期間がかかるため、より簡便で効果の高い治療法の研究が進められています。

自分でできる対策は

 自分自身でできる対策としては、まず原因である花粉を少しでも体の中に入れないようにすることが大切です。

 花粉情報に注意し、花粉の飛散が多いときには外出は避けるようにしましょう。外出する場合には、花粉のつきやすいけばけばしたコートを着ることは避けましょう。また外出時に、花粉症用のマスクやめがねをすることで、侵入する花粉量を減らせるといわれています。

 外出から帰ってきたら、すぐに顔を洗い、うがいをすることをお勧めします。まったく症状を なくすことは不可能ですが、少しでも症状を軽くすることは可能です。鼻粘膜の状態をよくするためにも、悪化の原因であるストレス、睡眠不足、喫煙、お酒の 飲みすぎなどを控えることも大切です。

 現在のところ確実な根本治療がなく、ほとんど対症療法に頼っている状況ですが、症状をコントロールすることは可能です。花粉症の季節が来たかな…と思ったら、早めに受診されることをお勧めします。

 イラスト・井上ひいろ

いつでも元気2009年2月号

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