健康の豆知識

2009年5月1日

(得)けんこう教室/肩こり/自分でできる運動療法が一番です

秋山典彦 神奈川・川崎協同病院整形外科

 肩こりや首のうしろの痛みに悩んでいる人は非常に多く、症状別にみた厚生労働省国民生活基礎調査(2004年)によると、肩こりの訴えは女性で第1位、男性でも第2位です。

 「肩こり」は症状の名称であり、診断名ではありません。首のうしろから肩、背中の上半分くらいの筋肉の緊張が増して、不快感、違和感、痛みなどを感じる状態のことです。本人は筋肉が硬くなったり押すと痛かったりしますが、外から見てわかる症状が少ないのが特徴です。

筋肉の疲労と緊張で

kenkou_2009_05_01 図1は、肩こりに関係する筋肉です。

 首は頭と胴体をつなぐ重要な部分ですが、外からの攻撃に対して防御する組織が少なく、不安定な部位です。頭蓋骨につながる頚椎(けいつい)は、骨、関節だけでなく脊(せき)椎(背骨)を支える筋肉によっても支えられています。

 肩甲骨は脊椎と直接の連結はなく、筋肉でつりあげられています。肩の関節は肩甲骨と上腕骨でできていて、ひじ、手指とつながっています。ひじや手指を使うとき、肩や肩甲骨は大きな運動をするわけではありませんが、関節を一定の位置で保つ必要があります。

 筋肉は、負担の多い使い方をすると疲労し、緊張が高まります。筋肉が緊張した状態が続くと筋肉の血液循環に影響し、はった感じ、こった感じや痛みという、不快な症状になってきます。

kenkou_2009_05_02 たとえばパソコン作業などでは、頚椎・肩甲骨の周りの筋肉は、脊椎を一定の姿勢に保ち、肩・腕の位置も一定に保たなければなりません。これを長時間続けると筋肉は疲労し、緊張が強まります(図2)。

環境や精神的要因も影響

 精神的緊張や、寒冷、喫煙などは、こった部分の血液の循環に悪影響を及ぼします。肩こりが続くと自己防衛反応として、自律神経に影響し、血液の循環をさらに悪化させ、症状を増大させます。頑固な肩こりが続くと精神的な不安感も加わり、悪循環となってきます。

 いままで発表された論文でも、次のような場合に肩こりが起こりやすいことが報告されています。

 ▽精神的ストレスがある。▽同じ作業をしていても、自覚的に「労働が大変だ」と感じてい る。▽単調作業を繰り返す職場や眼を酷使する職場である。▽同じ作業でも1回の作業時間が長い、などです。肩こりは身体的因子と環境的因子と精神的因子が 互いに悪影響をあたえて発生すると考えられています。

肩こり以外の症状は?

 肩こりは、頚椎・肩・胸椎の病気が原因で発症するほか、内科的病気が原因の場合もありますので、肩こり以外の症状の有無が診断上、重要です。

 首が動かしにくくなったり、首を動かすと疼痛(とうつう)や手の痺(しび)れ、感覚障害があったり、手足の運動障害が起きたりするときは、頚椎など脊椎からくる病気が関連している可能性があります。特別な治療が必要なこともあり、整形外科への受診をすすめます。

 肩がふつうに動かせなかったり動かす方向によってひどく痛んだりするときは肩関節からの肩こりと考えられ、この場合も整形外科の受診をすすめます。

 眼や歯、あるいは心臓、肺の病気で肩こりが起きることもあり、その場合はそれぞれ専門の医師に診てもらう必要があります。

おすすめは「肩こり体操」

 肩こりの治療は、肩こりが起きるしくみを正しく理解し、筋肉の緊張を改善する運動療法を中心に始めます。同時に、症状が出る原因となった環境因子や、精神的因子の改善も重要です。

 机やいすの高さ、パソコンの位置、照明、1回の作業時間の長さ、職場での人間関係など、職場環境の検討も必要です。精神的ストレスは、本人が思い当たる面があれば改善し、気づかないときは精神科医などのカウンセリングを受けるとよいでしょう。

 運動療法では、悪い姿勢を改善するため、腹筋・背筋の筋力アップや、体力向上のための運動習慣が必要です。私たちがとくにすすめているのが「肩こり体操」です(図3)。

 「肩こり体操」のねらいは、脊椎につりあげられて疲労し、緊張した肩甲骨周囲の筋肉をゆっ くり大きく動かすことで筋肉の緊張をほぐし、血液循環を改善することです。入浴後などに1つの体操を10回ずつ2セット(合計20回)おこないます。症状 に合わせてさらに頚椎の運動なども加えることがあります。

 いずれにしても痛みのない範囲でゆっくり楽しく体操することです。体操を続けた患者さんの75%は、症状が改善しています。

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ほとんどは運動療法だけで充分

 針灸、電気、牽(けん)引などの治療法もありますが、肩こりは自覚的な症状であり、環境や精神的な要因も大きく、症状は日々変化します。一つひとつの治療法の有効性の評価はむずかしく、とくにすすめるものはありません。

 私は、肩こりがときどき起きる程度では特別な病気の可能性はほとんどなく、自分でできる運動療法以外の治療は不要だと考えています。

 運動療法を続けながら環境を整備し、精神的要因を改善して、ときどき起こる肩こりとうまくつきあっていくことが重要だと考えています。

 イラスト・井上ひいろ

いつでも元気2009年5月号

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