健康の豆知識

2009年6月1日

(得)けんこう教室/下肢静脈瘤/こんな症状はありませんか?

山岡伊智子 宮崎生協病院外科

 足の血管(静脈)が太くこぶのように膨らんで、皮膚の表面に浮き出るものを「下肢(かし)静脈瘤(じょうみゃくりゅう)」といいます。いますぐ命にかかわることはありませんが、進行すると生活に支障をきたす場合があります。

症状はさまざま

 ▽足がむくむ、だるい、重い、疲れる
 ▽足の血管がこぶのように浮き出る
 ▽就寝中に足の筋肉がつる(こむら返り)、ほてる
 ▽足のかゆみ、治りにくい湿疹
 ▽足の皮膚の黒ずみ(色素沈着)、潰瘍(かいよう)

 このように症状はさまざまです。また、足の静脈に血液がたまって起こるため、症状は朝より夜の方が強くあらわれます。

kenkou_2009_06_01静脈の弁が壊れて

 血管には「動脈」と「静脈」があります。心臓から出た血液は、心臓のポンプ作用(血圧)により動脈を通って体の隅々までいきわたります。そして、血液はまた静脈を通って心臓に戻ってきます。

 血液が心臓に戻るとき、足の静脈では、筋肉の収縮が血液を下から上へ押し上げるポンプの役 割をしています。血液には重力がかかるため、立って生活する人間の場合、血液は重みで下に戻ろうとします。これをくい止めるのが、静脈の内側にあるハの字 型をした「弁」です。逆流しないように一方通行の流れをつくる大きな役割を果たしています(図1)。

 足には深いところを走る「深部静脈」と皮膚表面近くを走る「表在静脈」があり、深部静脈と表在静脈は「交通枝」でつながっています(図2)。

 多くの静脈瘤は、表在静脈の弁が何らかの原因で壊れるために発生します。弁が正常に働かなくなり、心臓に戻るべき血液が深部静脈から表在静脈の方へ逆流し、足の下の方に溜まっていきます。その結果、静脈が拡張して静脈瘤が発生します(図3)。

kenkou_2009_06_02

女性に多く、加齢で増加

 この病気になりやすいのは、次のような人です。

▽性別 成人女性の15~20%と、女性に多い。男性はその3分の1程度

▽年齢 加齢とともに増加。30歳以上で60%の人にみられたという報告も

▽遺伝 親や姉妹に静脈瘤のある人

▽妊娠 妊娠・分娩後。とくに2度目以降の妊娠

▽仕事 長時間の立ち仕事をする人

診断法

 診断はまず、足を見たり触ったりして(視診・触診)、静脈の拡張の度合いや皮膚の色調、潰瘍の有無などをみます。

 簡単な方法としては、仰向けに寝た状態で太ももをゴムバンド(駆血帯)でしめた後、ゆっくり立ってもらい、ゴムバンドを外します。逆流があれば一気に静脈が拡張します。さらに詳しく調べるには、次のような検査をおこないます。

(1)ドプラ血流計をつかった検査

 皮膚の上から超音波をあて、血液の流れる音の大きさや長さを聞き、血液の逆流の有無を調べる検査です。簡単で、痛みがないのが特徴です。

(2)超音波(カラードプラ)検査

 超音波をあてて、血管のなかを観察します。血液の流れる方向や速度、血管の大きさ、逆流の有無を画面上で確認します。これも簡単で、痛みのない検査です。

(3)下肢静脈造影(レントゲン検査)

 足の甲の静脈から造影剤を注射して、静脈を写しだす検査です。下肢の静脈を正確にみることができます。

治療法は

 治療としては、弁の働きが悪くなった表在静脈を、しばったり切り離したりします。血液は表在静脈よりずっと太い深部静脈を流れるため、血液循環に影響を及ぼすことはありません。

(1)硬化療法

 症状が軽い人におこないます。静脈瘤に細い針を刺し、静脈の内側の壁と壁を癒着させる接着剤のような、硬化剤という薬剤を注入します。外来で治療ができ、施術時間も5~10分ほどですみますが、色素沈着を起こしたり、20~30%の人に再発が認められることが欠点です。

(2)高位結紮(けっさつ)術(+硬化療法)

 弁不全をおこしている静脈と深部静脈の合流部をしばったうえで、切り離してしまう治療法です。局所麻酔でおこない、小さな手術跡ができます。硬化療法との併用で、確実性が増します。

(3)ストリッピング手術(静脈抜去手術)

 一〇〇年前からおこなわれている手術で、弁不全をおこしている静脈を引き抜きます。再発率が低いことが利点ですが、全身や下半身の麻酔が必要なこと、静脈のまわりの神経にダメージを与え、痛みなどの神経障害が残ることがあります。

(4)血管内レーザー治療

 静脈瘤のある血管に「レーザーファイバー」という器具を挿入し、血管の内側からレーザーを照射、血管を焼いてふさぎます。傷口が小さく、出血や痛みも少なくてすみますが、健康保険が適応されていないことが欠点です。

日常生活でできる「進行の防止」

 ▽長時間の連続した立ち仕事は避けましょう。1時間に5分程度は足を高くして休息をとりましょう。休息がとれなければ、足踏みや歩行をすると、筋肉のポンプ作用で血液の流れがよくなります。

 ▽夜寝るときは、クッションなどで足を高めにして休みましょう。

 ▽体重のコントロールで、症状が改善することがあります。適正体重の維持に心がけましょう。

 ▽医療用の弾性ストッキングで、足に適度な圧力を与えて余分な血液がたまることを予防し、深部静脈への流れを助けます。ただこの方法は、あくまでも進行防止・現状維持が目的で、下肢静脈瘤そのものが治るわけではありません。

 下肢静脈瘤の心当たりがある方は、ぜひ医師にご相談ください。

 イラスト・井上ひいろ

いつでも元気2009年6月号

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