いつでも元気

2010年8月1日

(得)けんこう教室/防げる「熱中症」/地域での見守り活動も必要

池田信明 大阪・耳原鳳クリニック 神経内科

熱中症─死に至る、でも救える

 熱中症について、環境省の熱中症環境保健マニュアル2009(以下「マニュアル」)は、以下のようにまとめています。
 「高温環境下で、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして、発症する障害の総称です。死に至る可能 性のある病態です。予防法を知っていれば防ぐことができます。応急処置を知っていれば救命できます」
 熱中症は、高温環境下でのスポーツや作業の際のみに起こる病気ではありません。家の中や車内でも起こります。

28℃以上は「厳重警戒」

 2007年に、日本生気象学会は「日常生活における熱中症予防指針」Ver.1(以下「指針」)を発表しています(表1)。この指針では、人体の熱の出入り(熱収支)に影響の大きい湿度、輻射熱(放射熱)、気温の3つをとり入れた「暑さ指数」を示すWBGT(湿球黒球温度)を基準の指標としています。
 WBGTを計るには、専用のWBGT計も発売されているので、夏季にスポーツ活動などを企画する場合には活用しましょう。インターネットの「環境省熱中 症予防情報サイト」では、毎日WBGTの情報を載せています。
 一般家庭でのWBGTの測定は困難なため、寒暖計で代用することになります。高齢者は安静状態でも熱中症になる危険性が高いため、とくに注意が必要で す。「厳重警戒」にあたるWBGT28℃以上は、気温28~29℃にあたります。

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訪問調査からわかったこと

 寒暖計がないお宅も意外に少なくありません。隣近所の「あの人がどんな室温で暮らしているか」と思いを馳せ、室温を計るために訪問することは、民医連、共同組織のとりくみとして大切です。
 大阪民医連では、地域から熱中症患者を出さないために、04年から、毎年7月末から8月初旬にかけて加盟している病院や診療所の患者さん宅の訪問をしています。
 09年は510軒訪問したのですが、そのうち、室温30℃以上の家が310軒ありました。クーラーのない家も。09年8月4日の調査事例を紹介すると・・・

■事例1 78 歳女性・独居、要介護2、 ケアプラン利用者、住民税非課税世帯(午後2時・室温 34℃)軽い認知症あり。本人は6 月だと思っているため、34℃もあるのに「暑くない」といい、クーラーはあるが、つけようとしない。高齢、認知症、独居で生活の維持がむずかしくなってい る。日常的に見守りが必要だが、ヘルパーの訪問は限られている。必要なケアが受けられるように区分支給限度額の引き上げが必要。
■事例2 90 歳女性・日中独居、介護度4、住民税非課税世帯(午後4時・室温 33℃)経済的に苦しいためクーラーがつけられず、設置する場所もない。日よけのため、家のなかでパラソルをさしている。かなり老朽化した住宅で、風通し が悪く雨漏りもする。認知症も進み、暑さもわからなくなってきている。
■事例3 81 歳男性・独居、介護保険未申請(午後2時30分・室温 33℃)軽度の認知症があり、33℃もあるのに「暑くない」といわれる。冷蔵庫は炭酸ジュースでいっぱい、食材はキムチが入っているだけ。炊飯器には腐っ たご飯が入っているが「まだ食べられる」という。ワンルームマンションで、近所付き合いはまったくない。電話もないので、安否確認がしにくく不安。
 ─注意が必要なのは、貧困、体の不自由、認知症です。社会的支援が必要です。

ためらわず水分と塩分の補給を

kenkou_2010_08_02  気温が28℃になったら要注意です。風通しのよい服装を心がけ、直射日光を避けましょう。室内ではエアコンを上手に利用することがポイントですが、経済的 に困難で買えない、電気代を節約したい、エアコンの風が嫌いなどの理由で、エアコンを利用しない(できない)人が多いのも現状です。
 積極的な水分補給が大切なのはいうまでもありません。「指針」では、表2のように水分摂取をすすめています。カフェインを含むお茶やアルコールは、排尿 を促進し、かえって水分不足を招きやすくなります。カフェインを含まない麦茶やスポーツ飲料などがおすすめです。
 また、日本人は一般的に塩分をとりすぎているため、減塩が呼びかけられています。厚生労働省の「健康日本21」では、塩分摂取を一日10グラム未満にす ることを目標にしています(高血圧治療のガイドラインでは塩分摂取量6グラム以下を推奨)。
 しかし発汗の多いときは、汗とともに塩分も体の外に出ていきますので、塩分補給をためらってはいけません。こむら返りの頻度がふえる、たちくらみ・ふら つきなどは、熱中症の初期症状です。脱水、塩分の欠乏からくる症状ですので補給してください。「大量の発汗があった場合には汗で失われた塩分も適切に補え る経口補水液やスポーツドリンクなどが最適です。食塩水(水1リットルに1~2グラムの食塩)も有効です」(「マニュアル」より)

 熱中症は適切な知識と対処で防げます。経済的困窮者、介護の必要な方などへの国や自治体の積極的なとりくみが望まれます。地域での見守り活動も必要です。

■環境省熱中症予防情報サイト
http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/

いつでも元気2010年8月号

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