民医連新聞

2005年5月16日

東京で何が?

 東京では、石原慎太郎知事の五年間で、医療・福祉制度の変質が始まっています。「都立病院改革」と称して、一六の都立病院を統合・公社化・民営化 し、半減させる計画が進行中です。病院の「株式会社化」に道を開き、地域医療の一角が崩れます。住民からは「救急医療や小児、障害者医療がまっ先に犠牲に なる」と反対運動が起きています。東京都が、この五年間に行った「福祉切り捨て」は八六五億円。冷たい国政と都政のもと、暮らしの困難が増幅しています。 (鐙(あぶみ) 史朗記者/小林裕子記者)

都立病院リストラ

 すでに都立母子保健院が廃止、一病院が公社委託ずみ、いま二病院の公社化がすすんでいます。東京都が引き続き運営するのは八病院にしてしまう計画です。
 これは〇一年に策定された「都立病院改革マスタープラン」による約一〇年にわたる事業です。ベースにある考えは「機能分化・重点化・効率化」。行政直営 から撤退し、残す病院には、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を導入します。
 PFIとは民間の資金やノウハウを公共施設の設計・建設・運営に導入するもので、二~三〇年の契約期間にわたり契約会社に資金返済と配当を続けなければ なりません。すでに多摩広域基幹病院七五〇床、小児総合医療センター六〇〇床について導入を決定、駒込病院八〇〇床、松沢病院八九〇床が検討中という急ぎ ようです。病院事業にこれほど大規模に導入されるのも全国で初めてです。
 都議会では日本共産党の都議が、「PFIの進行状況は都民にほとんど知らされないままだ。ゼネコンなどは八〇〇億円のビジネスチャンスと色めき立ってい る。企業の利益を生み出すことが運営の中心になれば、都立病院の役割が後退する。イギリスでは、PFIで医師・看護師の削減や医療水準の低下が問題になっ ている」と指摘。この件を調査した中井健二さん(同党議員団事務局)は、「民間企業が病院経営のノウハウを知るにはPFIで長期契約にする必要がある、と いう財界人の話を紹介しました。また、都立病院をはじめ自治体のPFIは、病院経営への株式会社参入の準備と位置づけられていると述べました。

地域から猛反対が

 計画に対し住民たちが反対し、七地域で「都立病院を守る会」を結成しました。それが「東京の保健・衛生・医療の充実を求める連絡会」にまとまりました。
 三つの小児病院(清瀬・八王子・梅ヶ丘)を廃止し小児医療センターに統合する計画は、〇七年度開設が当面〇九年度まで延期に。老人医療センターと豊島病 院を統合し民営化する計画も二年間延期されています。
 公立病院は、小児、精神科、障害者医療などの採算性は低いけれど、社会的に必要な分野を担っています。都立病院はこれらの分野で優れた経験を蓄積してき ました。住民の「連絡会」は、「東京都の計画が実施されれば医療が経営や効率優先に変わってしまう」と懸念を表明しています。また、東京都が都立病院に対 する繰出金を年ごとに減らしてきたことも問題視しています。

“福祉カット”直撃

 「二月に受け取った年金から、初めて税金が引かれました」と話すのは、東京・荒川区に住む小関勝明さん (69)。今年から老年者控除が廃止され、公的年金控除が縮小したためです。影響を受ける年金受給者は全国で約三〇〇〇万人。〇六年度からは、住民税に連 動し、国民健康保険料(税)、介護保険料なども負担が増えます。
 「それだけじゃない。東京都ではシルバーパス、都営住宅の家賃にも影響します。困る人がたくさんでます」と小関さん。柳原腎クリニックで週三回の透析を 受けながら、「荒川・生活と健康を守る会」の常任理事として、様ざまな生活相談に対応しての言葉です。
 「国の政治が悪いところに、東京都は追い打ちをかけた。一〇〇項目も補助金を削ったが、その大部分が暮らし関係でしょ。臨海開発で二兆円も使い、さらに 一兆円つぎ込むという、ムダづかいもひどい」。小関さんと都民の負担増を試算してみました。

生活困難が増えている

 「守る会」に寄せられる相談は増えています。丸山秀子事務局長は、「生活保護受給者も増えています。荒川区はか つて自殺者を出したほど福祉行政がひどいところ。保護率は一時半減しましたが、この二〇年で元に戻ってしまいました。心身の病気、失業、倒産、多重債務、 手持ち金が尽きたなど、深刻なケースが増えてきたためです」と話しました。
 住宅問題も切実。会が毎月ひらく「暮らしの相談会」には、「公団の家賃が払えなくなった。都営住宅に入りたい」という相談が増えています。丸山さんは 「年金が年五〇~六〇万円でも、無料か安い住宅があればなんとか生きていける。まさに住まいは人権です」。
 小関さんも「石原都政は、新しい都営住宅を一戸も建てなかった。応募者が多くて、なかなか入れないのに。無料減免も廃止した。家賃を三カ月分滞納すると退去を迫る」。
 「知恵を集めて相談者といっしょに解決することが喜び」という二人は、東京で「取り戻したい福祉」の筆頭に都営住宅と医療費助成をあげました。

患者・医療者の声

都立病院を存続させて

 東京民医連の小豆沢病院から豊島病院を紹介され、現在も通院中です。
 豊島病院の利用者として黙っておられず、都議会の各会派へ要請にまわりました。民営化で一番心配なことは、小児救急など、経営優先ではできない医療が削られることです。
 都立病院はいま一部の病室を除いて差額ベット料を取っていません。入院の時の保証金もいらず、氷やお湯がほしいときは、食堂へ行けば無料でもらえます。 民間病院だったらこれら全部有料になってしまうのでは? 患者負担が増えたら、私たちのような年金生活者は、安心して入院もできません。
 私たちは毎月のように、最寄り駅で「存続」を訴えています。「がんばって」と励まされたり、「父が入院している。今は少ない費用ですむが、もし民営に なったら他の病院を探さないといけないだろうか」と真剣に話す人もいます。

医療連携が壊れてしまう

 当院近くの老人医療センターと豊島病院が「統合・民営化」の対象にされています。二つとも伝統ある医療機関で す。難病や緊急性のある医療、いわゆる不採算分野を担い、SARS発生時などでは行政上の役割を期待されています。地域の民間病院や開業医は、これらと連 携することで安心して日常の医療ができ、助かっています。
 老人医療センターは一〇〇年の歴史をもち、併設の老人総合研究所とともに様ざまな研究で成果を上げています。介護予防や高齢者医療の分野では世界的に知られています。
 医師会内でも、民営化が打ち出された時から、問題になっています。「民営化されたら、これまでの連携が崩れ、患者の奪い合いや競合で、医療が荒れてしま う」という声が出ています。また併設されていた看護学校はすでに閉鎖され新卒看護師の採用に大きな打撃となっています。

(民医連新聞 第1356号 2005年5月16日)

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