民医連新聞

2005年6月6日

医療倫理のはなし 実践編

児童虐待を疑うケースに遭遇したら―
長野・松本協立病院

 子どもへの虐待件数が増えています。五年前に施行された「児童虐待の防止に関する法律」(虐待防止法)では、「子どもの虐待を発見しやすい医療機関は、 早期発見に努める義務がある(第5条)」とされています。では、日常診療で虐待もしくはその疑いがあるケースに遭遇した時、適切な対応ができるだろう か…。松本協立病院の医療倫理委員会では、児童虐待対応マニュアルを作っています。三村功・同院事務長にききました。

 松本協立病院の倫理委員会は二〇〇三年にできました。ターミナルケアのあり方、新しい技術の導入に伴って倫理的な判断が必要なケースが発生するなど、必 要性の強まりと、医療機能評価の受審で実現したものです。
 実際の事例検討の他に、終末期医療、輸血拒否者「エホバの証人」の診療、セクハラ防止及び対策規定(職員のセクハラ被害者の相談員設定)など、ガイドラ インづくりにもとりくんできました。二〇〇四年五月にできた児童虐待対応マニュアルはそのひとつです。

現場でも対応に迷って

 マニュアルづくりのきっかけになったのは、当院の小児科でも該当する事例が増え、対応に迷うことが多くなりはじ めたことです。診察医や医療スタッフが迷わず適切に対応できるよう、通告に関するガイドラインが必要でした。また、小児科医の一人が松本市内の児童虐待 ネットワークの地域連絡員になっていることも力になりました。
 作成の段階で議論になったのは、「虐待かどうかの、実際の判断基準は?」、「該当するケースに遭遇した時、連絡先などの流れが分かるように」などの点でした。
 参考にしたのは下の資料です。
 マニュアルは「虐待の定義」、「発見」、「通告」とまとめ、診察に当たった医師の対応マニュアルは、左のようなフローチャートにして整備しました。

 なお、このマニュアル完成後、二〇〇四年一〇月に法改正がありました。「通告義務は守秘義務に優先。虐待を発見した者は児童相談所に通告する義務がある」と、報告が義務付けられました(児童虐待防止法第6条第1項、児童福祉法第25条)」。
 この施行にあたっては、全職員学習会を開いて、内容と対応の確認を行いました。講師は外部倫理委員でもある、顧問弁護士に依頼しました。

 当院の倫理委員会は、活動を始めたころは、委員会内での学習・文書の検討が中心でした。同じ言葉でも法曹界と医 療界とでは意味がちがっていたり、医療関係者以外の方の医療に対する意識など、「医療界の常識」が、世間の常識と違うかもしれない…と、気づかせられる場 になっています。
 今後は患者さんの自己決定権や医療事故・過誤などについて、検討していく予定です。

病 床 数 177床
委員会設置 2003年8月
委員構成 委員長(副院長)、院内委員(院長、総看護師長、病棟看護師長、事務長)/院外委員(院外理事、顧問弁護士)
検討事項 終末期医療に関する病院ガイドライン、輸血拒否者「エホバの証人」診療ガイドライン、児童虐待対応マニュアル、セクハラ防止及び対策規定(職員のセクハラ被害者の相談員設定)を作成、現在、IT関連の守秘義務や同意書について法的な考え方を含めて検討中。
開  催 2カ月に1度

参考資料

・児童虐待の早期発見と防止マニュアル…医師のために(日本医師会雑誌)
・愛知県児童相談センターWEB(医療機関用子どもの虐待対応マニュアル第3章)
http://www.pref.aichi.jp/jiso/annai/manyu/iryou/manyu_iryou_indx.html
・児童虐待防止地域連絡員候補者の推薦依頼について(平成14年6月松本市医師会資料)

(民医連新聞 第1357号 2005年6月6日)

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